第196話 ボーナス屋、また魔王モドキを倒す
――エオカイド遺跡 地下100階(最下層)――
「……おい!」
ロルフはブラスを睨みながら口を開いた。
「今まで何やってたんだよ!母さんは…母さんは死ぬまであんたが迎えに来るのを待ってたんだぞ!!」
「………」
ブラスは黙って聞くことしか出来なかった。
目の前で自分を非難する少年が亡き娘の忘れ形見であると理解して以降、ブラスからはロルフに対する敵意…は元から無いが、警戒心や戦意がほとんど消失していた。
(アリシア……)
一人娘が既に亡くなっていることは知っていたブラスだが、孫の口から改めて伝えられ、顔には出さないがその衝撃は大きかった。
同時に、今の今まで心の奥に隠していた罪悪感が遮るものが崩れて一気に流れ込んできた。
(最後まで待っていたのか…)
頭の中に娘との記憶が蘇ってくる。
そして溢れてくる、後悔。
ブラスの中で、光の闇が混沌となって渦巻き始めた。
「お祖母ちゃんだって、滅茶苦茶怒ってるんだぞ!!」
「………何?」
混沌は止まった。
(――――アリアドナ…いや、それは無い。死んだ筈…)
「あんたを半殺しにして連れて来いって言ってた!!ホントに怖かったんだからな!!」
(アリアドナだ。生きてたのか。)
ブラスは心の中で断言した。
そして、詳細は不明だが、死んで葬式までした筈の自分の妻がこの世界で生きていると理解した。
(おそらくは、ケルトの冥府神か…もしや最高神か…?)
「おい!聞いてるのかよ!?」
「…聞いている。アリアドナは生きているのか?」
「そうだよ!一度死んだらしいけど、今は生きてるよ!!さっきまで病気で寝込んでたけど…」
「そうか……」
「何笑ってるんだ!?こっちは真面目に話してるんだぞ!!」
(…笑ってる?)
ロルフに怒鳴られ、ブラスはそこで初めて自分の顔が笑みを浮かべていることに気付いた。
妻子を失って以降、一度も笑った事の無かったブラスはその事に自分で驚いた。
そして、ブラスは足を動かしロルフに近付いていた。
「く、来るんじゃねえ!!」
近付いてくる祖父を拒絶するように叫ぶ孫だが、彼自身は剣も抜かず、後ろに下がろうとはしなかった。
(お…お祖父ちゃん……!)
ロルフは期待していたのだ。
敵で悪党であるとしても、母親の期待と信頼を裏切ったとしても、ロルフにとってはずっと会えるのを待ち望んでいた祖父なのだ。
だから最後に1度だけ、もう1度だけ信じたいと思っていたのだ。
「………」
「く、来るなよ…!」
ブラスは無言のまま右手をロルフに向かって伸ばす。
そして、ブラスの手がロルフの頭に触れ――――
『ゴケゴケ!!ゴケゴケ~!!(おらおら!!レバーラッシュ!!)』
『『『ゴケゴケェ~!!』』』
「「!?」」
俺達は誰にも止められない!
テンションが上がりすぎて暴走族と化していた超コッコ団(新名称募集中)の一部が、ロルフもブラスも関係なく突っ込んで轢いた。
2人揃って隙だらけ、防御穴だらけだったロルフとブラスは一緒に宙を舞った。
不良系のレバーくん率いるレバー特攻隊の犯罪の決定的瞬間だった。
『ゴケッ!!(ヤベエ!!)』
『『『ゴケェ~!!(逃げろ~!!)』』』
レバー特攻隊は逃亡を開始した。
轢き逃げ確定、彼らには後に厳しい罰が待っているのだった。
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ロルフ~~~!!
折角感動的なルートに入りそうだったのに、暴走鶏に台無しにされたよ!
あ!でも、ロルフはブラスが身を呈して守ったみたいだ。
ロルフの奴、なんか泣きながらブラスに抱きついてるな。
結果オーライか?
「あとはアンナちゃんだけど…」
俺は最後の戦場に目を向けた。
だがそこは、恐怖の光景だった。
「この小娘があああああああああああ!!私のブラス様に色目向けるなああああああああああああああああ!!」
「だから違うって言ってるでしょおおおおおおおお!!あなたこそ、勇者様にそのむ…胸を見せつけないでください!!」
何があった…!?
敵の美女はともかく、アンナちゃんが今まで見せたことのない形相を見せている。
女の子って怖い!!
「…リセット!」
「イヤン!?」
「勇者様!?」
アンナちゃん、ゴメン!
頑張っているのは分かるけど、これ以上は見るに耐えられないんだ。
年増好きの敵さんもごめんなさい。
あと、不倫はダメだ。
ブラスの奥さんを敵に回したら………多分、死ぬ。
――――ピロロ~ン♪
ん?
また、何かの速報か?
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『『創世の蛇』の《盟主》、動く!』
『創世の蛇』の7柱の《盟主》の内、『魔神』バロールと『無限神』ウロボロスがルーヴェルトに送った配下の全滅を配下を通して確認し、『ダグザの魔釜』の封印解除、正確には『魔釜』の中身の解放の為に実力行使に出る。
フィンジアス王国に拘束されているアイアス、ファリアス帝国に拘束されているダニール、ゴリアス国に拘束されているその他大勢(エレインは除く)等、加護(呪い)を与えている者を強制魔王化させ聖都に転移させようとしている。
強制魔王化させた配下の力により、強引に『魔釜』の封印を解除しようとしている模様。
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え、マジで!?
ここにきて、ラスボスが動き出した!?
「グアアアアアアアアアアアアアア!!!???」
あ、ポーレットの様子が…!?
全身から魔王オーラ(?)が噴き出してきた”?
「グッ……!これは……!?」
「お、おい!どうしたんだよ!?」
「…離れろ!!」
「うわっ!?」
あ、ブラスの様子が…!?
魔王化が始まった…!!?
ダッダッダッダ―――ン!ダッダッダ・・・・・・
…なんか、何処からともなく変なBGMが聞こえてきた。
誰だ、空気を読まない奴は!?
いや!
それより今は、魔王化を止めないと!
「『グアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!???』」
「うおりゃ!!」
「『ガ!?』」
ポーレットにクラウ・ソラスを深く刺す。
傍から見たら、俺がコイツに止めを刺しているように見えるだろうが殺してはいない。
「《勇者之超神聖解呪》!!」
「『グアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』」
解呪と浄化の両方の効果を持つ技を容赦なくブチ込んだ。
そして開いた方の手にブリューナクを持ち、離れた場所にいるブラスに向かって同じ技を放つ。
「《勇者之超神聖解呪》(ブリューナクver)!!」
「グッ……!!」
「お祖父ちゃん!?」
ブラスは俺が何をしようとしているのか察したのか、自分からブリューナクの光りに当たりに来た。
というかロルフ、お前、ブラスに対する親密度が何時の間にか急上昇してないか?
『ギャアアアアアアアアアアアア!!!!』
『オオオオオオオオオオオオオオ!!!!』
ブラスとポーレットの中から何かが出てきた。
ブラスから出てきたのはヤギ頭の悪魔、ポーレットの中から出てきたのは…蛇か?
エレインの時と同じだな。
『ギャアアアアアアアアアア!!聖ナル力メエエエエエエエ!!!!』
【名前】『嫉妬の王』レヴィアタン・アルターエゴ
【年齢】???? 【種族】悪魔
【職業】魔王 【クラス】魔王の分身
【属性】無(全属性)
【魔力】5,000,000/5,000,000
【状態】半実体化中
【能力】魔王之魔法(Lv4) 魔王之武術(Lv4) 嫉妬之力(Lv5) 強制融合 霊体化
【加護・補正】物理耐性(Lv4) 魔法耐性(Lv5) 精神耐性(Lv5) 全属性耐性(Lv5) 全状態異常無効化 完全詠唱破棄 嫉妬の王 深淵の獣 魔王の分身 災厄 無限神ウロボロスの加護
【BP】-9999(MAX)
『オオオオオオオオオオ………!!!】
【名前】『怠惰の王』ベルフェゴール・レムナント
【年齢】???? 【種族】悪魔
【職業】魔王 【クラス】滅んだ魔王の残滓
【属性】闇 土 火 水 風 木 空
【魔力】5,990,000/5,990,000
【状態】半実体化中
【能力】魔王之魔法(Lv4) 魔王之武術(Lv4) 怠惰之力(Lv5) 黒キ闇ノ焔 憑依 大減衰
【加護・補正】物理耐性(Lv5) 魔法耐性(Lv4) 精神耐性(Lv5) 闇属性無効化 土属性耐性(Lv5) 火属性耐性(Lv4) 水属性耐性(Lv4) 風属性耐性(Lv4) 木属性耐性(Lv4) 空属性耐性(Lv4) 怠惰の王 自己崩壊 魔王の残滓 魔王の執念 女性不信 災厄
【BP】-9999(MAX)
蛇の頭とヤギの頭が俺に向かって襲いかかってきた。
動物の真っ黒い生首って、普通にホラーだな。
『オオオオオオオオオオオオ!!!』
『体ヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヨコセエエエエエエエエエエエエエエエ!!!』
魔王の威厳ゼロ%…。
動き方がスーパー○チュラルだな。
口から入ってきそうだ。
「勇者様!危ない!!」
「ああ、大丈夫だよアンナちゃん!」
アンナちゃんは俺がピンチだと思って魔法を放とうとしていた。
けど大丈夫。
俺にとってこの状況はピンチじゃないんだ。
俺にはダブル魔王モドキを一発で排除できる最強の呪文があるからな!
俺は凛とした面持ちで、ダブル魔王モドキに必殺の呪文を叫んでやった!
「――――喰え!!コッコくん!!」
『ゴケェ~!!』
最強の呪文だ!!