第184話 ボーナス屋、エオカイド遺跡を進む1
あけましておめでとうございます!
本年最初の更新です。
――エオカイド遺跡 地下7階――
「《邪を退ける神剣の浄化》!!」
『『『ギャァァァァァァァ!!!』』』
この遺跡の中はアンデット系の巣窟だった。
最初の幽霊騎士団の後は、骸骨騎馬隊、腐ってないゾンビ軍団、世界の妖怪軍団と続いた。
全部浄化したけど。
「俺らの出番、全然ないな。」
「楽でいいだろ?」
「そうだけどさ…」
「進め~!」
『ゴケェ!』
ヒューゴ達は後ろで何か言ってるが今は無視だ。
俺達は超コッコ団(一応仮称)に乗って、遺跡の中を爆進していった。
「……。」
「ロルフ?」
そんな中、ロルフを乗せたクリスピーくんが速度を上げて俺とコッコくんを追い越そうとしていた。
クリスピーくんは相変わらず眠そうな顔をしていたが、ロルフは何処か焦っているような表情をしていた。
何を考えてるんだ?
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――エオカイド遺跡 地下18階――
俺達はあっという間に18階まで進んだ。
出てくる敵の全てがアンデット系だったから、俺はクラウ・ソラスを前に突き出しているだけだったので特に怪我も疲労も無い。
消費した魔力もすぐに回復するしな。
「勇者様!何かが来ます!」
何時の間にか俺の横にいたアンナちゃんが指差した先には、巨大な何かの影があった。
『シャァァァァァァァァァァァァ!!!』
「巨大猫?イタチ?」
イタチっぽいデカい猫がいた。
いや、猫っぽい巨大イタチか?
【神聖なるジャコウネコ】
【分類】哺乳類型魔獣
【属性】光 土
【魔力】490,000/490,000
【ランク】A++
【状態】空腹
【用途】防具の素材、生きた発酵樽
【詳細】聖なる場所に棲息する不思議な猫。
雑食で特殊な消化器官を持ち、食べた物を体内で特殊発酵させて排泄する。
基本的に植物類なら聖なる高級食材や高級薬の素材、動物類な骨が聖なる魔石、ら鉱物なら聖なる鉱石になって排泄されるが、例外も存在する。
とにかく食欲が旺盛で、悪魔も幽霊も食べてしまうので、出会ったら逃げるのが賢明である。
弱点は髭、髭を切られると一時的に体内のエネルギーの流れが乱れ、その影響で真面に身動きが取れなくなってしまう。
ちょっと変わった魔獣みたいだな。
ジャコウネコって、どっかで聞いたことがある名前だな?
…コーヒー?
「勇者様、ここは私が!」
「あ、アンナちゃん!?」
アンナちゃんとアンナちゃんを乗せたテリヤキちゃんが前に出た。
『シャァァァァ!!』
聖なるジャコウネコの聖なるひっかく攻撃!
テリヤキちゃんは華麗にかわした!
「《真空波》!!」
『ニャアッ!?』
アンナちゃんは絶妙なタイミングで風魔法を放つ!
聖なるジャコウネコの聖なるお髭が切れた!
『ニャゴォォォォォォォ!?』
聖なるジャコウネコは混乱し始めた。
「ゲッ!あの魔獣、脱糞してるぞ!!」
「臭!!」
混乱した聖なるジャコウネコはウ〇コを漏らし始めた!
臭い!
とにかく臭い!!
聖なるウ〇コかもしれないけど、臭い!!
『ニャニャニャァシャァァァァァァ!!』
「アンナちゃん、これ以上臭くなる前に…!!」
「は、はい!《空気破壊》!!」
『シャァッ……!(ガク)』
聖なるジャコウネコは酸欠で気絶した。
聖なるジャコウネコを倒した!
だけど周りはウ〇コ地獄だ!
あまりの臭いに、俺達は両手で鼻を塞いだ。
「臭い!!」
『ゴケェ!!(臭い!!)』
まさか、魔獣が戦闘中に脱糞するとは思わなかった。
ここが屋外じゃなく、地下迷宮だから尚更臭い!
俺は《洗浄》と《脱臭》でこの地獄を洗い流した。
「ふう、死ぬかと思った…。」
『ゴケェ…。』
あまり考えたくないけど、この先にはコレの同類が他にもうようよしてないよな?
「おい!ロルフがいないぞ!!」
「「え!?」」
ヒューゴの声に、俺達は慌てて辺りを見渡す。
すると、さっきまで俺の近くにいたロルフとクリスピーくんの姿が無くなっていた。
あれ?
どっかで逸れたのか?
――――ピロロ~ン♪
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『ロルフ&クリスピー、地下19階にて遺跡の守護獣に遭遇』
仲間達から勝手に抜けて先に進んだロルフ及びクリスピーはエオカイド遺跡地下19階に入り、そこで遺跡内に5体いる守護獣の1体、『黄金に輝く豊穣の大地』と遭遇した。
この守護獣は、先に遺跡に侵入したブラス=アレハンドロにより精神干渉を受けており、後から侵入した者を見境なく襲う様にされ、更に戦闘力を2割ほど上昇させられている。
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おいおい!
ロルフの奴、何先走ってるんだよ!?
「マズイぞ!ロルフとクリスピーくんが先に下の階層に進んで強い敵と遭遇した!」
「はあ!?」
「何だって!?」
「大変だ!!」
『ゴケェ!(勇者様!)』
「勇者様!」
ヒューゴ達もロルフの単独…独断行動に驚愕し、急いで追いかけようとする。
超コッコ団(仮称)も同じくだ。
さっきから様子が可笑しいとは思ってたけど、ロルフの奴、やっぱ祖父さんの事で冷静じゃなくなっているみたいだな。
もっと見ておくんだった。
「ロルフを追うぞ!(ついでにクリスピーくんも!)」
俺達は急いで次の階層へ続く階段を目指して直進した。
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――ロルフの回想――
ロルフは母親が生きていた頃のことを思い出していた。
「お母さん?」
「何、ロルフ?」
当時7歳になったばかりのロルフは、夕飯を作っている母親のアリシアに純粋な質問をした。
「僕のお父さんって、どんな人?」
「あら?ロルフは覚えてないの?」
「?」
ロルフは首を横に傾げた。
父親の記憶が曖昧だった当時のロルフは、自分が父親と一緒に居たことがあるとは知らなかったのだ。
「ロルフと一緒で、凄く優しい人よ。ちょっと頼りない時もあるけどね。」
「お父さんは僕のこと、好きなのかな?」
それは、そばに父親がいない子供の当然の疑問だった。
「もちろん大好きよ。お母さんも負けないくらい、ロルフのことが好きよ。」
「お祖母ちゃんも?」
「そうよ。」
まだ祖母の顔をハッキリと覚えていた当時のロルフは目を輝かせながら喜んだ。
「お祖父ちゃんも?」
「え?」
予想外の質問だったのか、アリシアは思わず持っていた包丁を落としかけた。
ロルフの祖父、それはどちらの方もある意味では禁忌だった。
父方の祖父、つまりジェダイト公爵の父親はミストラル王国の先代国王であり、その事は無闇に口に出すことが出来ない。
そして母方の祖父、アリシアの父親は別の意味で口には出せなかった。
「お母さんのお父さんも、僕のことが好きなのかな?」
「……。」
アリシアは、どう答えていいのか分からなかった。
彼女がこの世界に召喚されて20年以上の時が経った。
彼女も元の世界に戻る方法を調べたが、“召喚”に関する情報はあっても“送還”に関する情報はまったくと言っていいほど無かった。
自力での帰還はほぼ絶望的。
だが、アリシアは希望を捨てていなかった。
いつか、愛する息子に自分の故郷を見せてあげたい。
生まれ育った実家で家族全員で暮らしたい、と願っていたのだ。
『きっと、お父さんが迎えに来てくれるわ。』
召喚されたばかりの頃、母から言われた言葉をアリシアは今も信じていた。
アリシアの父は魔術師で刑事だった。
元は貴族の末裔であるアリシアの父は、若い頃に先祖の遺産から魔法を独学で学び、後に自称『通りすがりの賢者』に弟子入りをした天才魔術師だった。
表では地元警察の優秀な刑事だったが、裏の顔があることを当時のアリシアはなんとなく察していた。
アリシアの両親は正式には入籍していなかった。(なのにアリシアの母は何故か父の姓を名乗っている。)
だが、それでも幸せだったのをアリシアはしっかりと覚えていた。
「…勿論よ。ロルフのお祖父ちゃんは、いつか必ずお母さんやロルフを迎えに来てくれるわ。」
「迎え?」
ロルフはまた首を傾げる。
「そうよ。お祖父ちゃんは凄く遠いところでお仕事しているの。だけど、いつか必ずお母さんやロルフ、お祖母ちゃんを迎えに来てくれるのよ。きっと、その時が来たらお祖父ちゃんはロルフのことを笑って抱いてくれるわよ。」
「本当?」
「ええ、だからロルフも良い子でいましょうね。」
「うん!」
この時のロルフは、母の言葉を微塵も疑わずに信じていた。
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――――迎えになんか来なかったじゃないか!!母さん!!