第177話 ボーナス屋、治療する
双子執事さんの説明が終わった。
ロルフのお父さんとお母さんの悲恋物語・・・。
聞いた感じ、国益を優先した国王、つまりロルフの伯父が元凶で、ロルフの父さんはむしろ被害者だよな?
けど、ロルフにしてみれば母親以外の女性と結婚して今も一緒に暮らしているの事とかが許せないんだろうな。
そこは俺が口出ししない方がいいのかもしれないな。
ヒューゴ達も同じことを考えているのかもしれない。
「ロルフ!!」
「五月蠅い!五月蠅い!五月蠅い五月蠅い!五月蠅いぃぃぃぃ!!」
ロルフは顔を真っ赤にしながら叫んでいる。
おい、何空気読んでるかのように重低音なBGMを流してるんだ、そこ!
「どんなに言いつくろったって、あんたが母さんを追い詰めたんだよ!!あんたが俺と母さんより家を選んだから、だから・・・!!」
ロルフの眼から大粒の涙が零れ始めた。
って、だからBGMをやめろ!!
「―――ロルフ!!」
オッサンこと、ロルフの父さんがロルフを抱きしめた。
「は、放せ!放せよ!!」
「・・・もう放さない。私はロルフの父であり、アリシアの夫だ。例え何年も拒絶されたとしても、この意志だけは一生変わらない。」
「そんなの、信じ・・・るかよ・・・!!」
ロルフの奴、揺れてるな。
そしてBGMがまた変わった。
使用人ズ、絶対楽しんでやがるな。
「そして約束する。今後はアリシアの分も、いや、アリシアの何倍、何十倍もお前を愛すると。」
「う・・ううぅ・・・・」
後一押しだな。
あ、コッコくんが何時の間にかクリスピーくんと一緒に寝ている。
「ロルフ、私を父にしてくれてありがとう。本当に、大きくなったな。」
「うぅ・・・ぁぁぁ・・・うあああああああああああああん!!」
ロルフは親に抱きしめられながら泣き崩れた。
そして部屋には明るいBGMが・・・・おい!!
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――ジェダイト公爵邸内 医療棟――
あれから小一時間ほどロルフは泣き続け、泣き止んだ後は俺達に温かい視線を送られて真っ赤になった顔をさらに真っ赤に染めた。
そして現在、俺は公爵邸の敷地内にある大病院に来ていた。
主に公爵家お抱えの医療チームが働く場所で、大勢の使用人達の健康管理も行っているようだ。
つくづく、ヴァールの領主のオッサンとは領主の格が違うな。
「―――こちらの病室でございます。」
双子執事とは別の、熟練白髪執事さんに案内され、俺達はロルフのお祖母さんがいる病室にやってきた。
扉を開けると、中はヨーロッパの高級病室みたいな豪華な部屋だった。
流石王族、病室まで豪華な造りにしていやがる。
「この方が、アリシア様の母君のアリアドナ殿でございます。」
「・・・・ロルフ。」
「・・・うん。」
そのベッドで眠っていたのは初老を迎えた位の綺麗な金髪の女性だった。
少しやつれているが、顔にはしっかりと生気が見える。
ロルフは父親に背中を押されながら、(面識があるかは不明だが)祖母と対面していた。
「(・・・あのオバサンがロルフの祖母さんか。)」
「(結構若いんだな。)」
「(兄さん、少し声が大きいよ!)」
「(ケビン、お前もな。)」
ヒューゴ達はロルフのお祖母さんに興味津々だった。
こっちの祖母さん基準はよく分からないが、ロルフのお祖母さんは若い部類に入るようだ。
ああ、言い忘れたけど、コッコくんとクリスピーくんはあのまま放置した。
起こしたら悪いからな♪
「・・・この人、俺知ってる。」
「――――!そうか、最後に会ったのはまだ物心がつく前だったから、覚えていないと思っていたが・・・そうか。」
どうやらロルフは自分のお祖母さんの顔を覚えていたようだ。
しかし、本当に静かに眠っているよな。
これが『永眠病』って病気・・・普通の昏睡状態とは違うのか?
「(シロウさん、僕達の魔法で治せないかな?)」
「(そうだな。まずは状態を確認しないとな。)ロルフ、お祖母さん状態を《ステータス》で確認してみないか?もしかしたら、俺達の力で治せるかもしれないし!」
「あ・・・!分かった!視てみる!」
俺に言われて治療の可能性に気付いたロルフは、慌てながら静かに眠り続けるお祖母さんに《ステータス》を使った。
隣にいるロルフのお父さんは、何をしているのか分からずポカンと棒立ちしていたが、俺達は無視してロルフの周りに集まった。
【名前】アリアドナ=T=C=デ・アレハンドロ
【年齢】58 【種族】人間
【職業】メイド 【クラス】眠れる熟女
【属性】メイン:光 水 サブ:火 風 土 木 雷 氷
【魔力】2,017,000/2,017,000
【状態】神気中毒(大) 静寂なる眠り(大)
【能力】攻撃魔法(Lv3) 防御魔法(Lv3) 補助魔法(Lv4) 特殊魔法(Lv4) 属性術(Lv3) 体術(Lv4) 弓術(Lv3) 投擲(Lv3) 錬金術(Lv3) 浄化 鑑定
【加護・補正】物理耐性(Lv2) 魔法耐性(Lv3) 精神耐性(Lv3) 光属性耐性(Lv3) 水属性耐性(Lv3) 火属性耐性(Lv1) 風属性耐性(Lv1) 土属性耐性(Lv1) 木属性耐性(Lv1) 雷属性耐性(Lv1) 氷属性耐性(Lv1) 全状態異常耐性(Lv3) 待ち続ける者 真実の愛 成長補正 強制不老 神気汚染 女神アウロラの加護
なんか妙にスペックが高過ぎないか?
魔力だけみてもこの世界じゃチートだし、能力も全体的に天才クラスだ。
村長達以外にもこれほどの人がいたとはな。
それと名前が長・・・い?
「・・・アレハンドロ?」
はて?
この姓、前にもどこかで聞いたことがあるような・・・?
何所だったかな?
「・・・あ!」
「どうしたんだ?」
「い、いや、何でもない。」
「?」
気付いてしまった。
記憶を辿ったら気付いてしまった。
そうだ、“あの男”と同じ姓だ。
これは偶然か?
いや、同じ姓なんて幾らでもいるだろうし、只の偶然なのかもしれない。
俺と同じ姓の人だって、日本には何人もいるし、この世界は地球でいう処のヨーロッパ系だし、同じ姓の人がいても不思議じゃない。
少なくとも、今は勝手に決めつけない方が無難・・・だな。
今はそれよりも病気の方だ。
「――――「神気中毒」と「静寂なる眠り」?」
「聞いたことの無い病気だな。シロウは知ってるか?」
「全然。今調べる。」
俺はお婆さんの状態について、毎度お馴染みの《摩訶不思議な情報屋》で検索してみた。
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『検索:神気中毒、静寂なる眠り』
『神気中毒』
人体に有害なレベルの高濃度の神気に当てられた為に起きた中毒症状。
それにより永い眠りに陥る。
神気は神――正確には神格を持つ存在――が放つ力であり、本来は神が人の世に降りる事は滅多に無く、さらには神気中毒及び神気汚染を及ぼすほどの神気を持つ高位の神自体少ない為、この症状に陥る人間が現れる事自体滅多に存在しない。
『静寂なる眠り』
神気中毒が重度の場合に現れる症状。
肉体の時が完全に停止し、何年が経過しても肉体は滅びない。
多くの場合、この症状の元凶となる神は『冬』、『時』、『闇』の何れかの神格を持つ女神である。
治療法は体内に在留している神気を取り除くか、元凶となっている神を討滅、または神自身に治療させるなどがある。
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犯人は女神だ!
そういえば、ミストラル王国は神と縁のある国だとかって話を聞いた事があったな。
『冬の女神』だったか?
それとも関係がありそうだ。
「―――取り敢えず、治療法は分かったな。俺の魔法で何とかなりそうだ。」
「本当か!?」
「ああ、この数日間、(生き残るために)そっち系の魔法の腕も上げたからな。」
骨折も出血も毒も、自分の治療は自分でやらなければならなかったあの地獄の日々・・・・。
その成果が試す時なのだ!
「シロウ、頼む!」
「任せとけ♪《超完全回復》!!」
俺は眠れる熟・・・じゃなくて、ロルフのお祖母さんに《回復魔法》を使った。
神々しい光が部屋一杯に広がって、その光の多くが対象であるロルフのお祖母さんに吸収されていった。
「ん・・・・・・」
「「「!!??」」」
「お!効いたみたいだな?」
魔法の光が収まると、さっきまで人形のように微塵も動かなかったロルフのお祖母さんの目蓋が動き始め、口から声が漏れ始めた。
よく見ると手や足も動き始めている。
そして、ゆっくりと閉じていた瞳が開き始めた。
「・・・・・・。」
「おお!!旦那様、アリアドナ殿が!!」
「義母上!!」
ロルフのお父さんと熟練白髪執事さんは大声を上げてロルフのお祖母さんに呼びかけた。
寝惚けているのか、ロルフのお祖母さんは暫く周囲を見渡し、最後にロルフに視線を向けると優しく微笑んだ。
「・・・ロルフね?」
「・・・お祖母ちゃん!!」
「どうやら、私は随分と長く眠っていたみたいね。目が覚めたら初孫がこんなに大きくなってるなんて、まるでお伽噺みたい・・・。」
「アリアドナ殿、私が解りますか!?」
「義母上!私は!?」
「ええ、少し老けていますけど分かります。執事長のグスタフさんに、私の許しも無く一人娘に手を出した挙句、駆け落ちする度胸が皆無で別の女性と政略結婚をし、既に苦労している愛娘と幼かったこの世のものとは思えないほど可愛かった初孫に「ゴメン」や「命で償います」では済まされないほどの多大な苦労をさせ、今も初孫を目が真っ赤になるくらい泣かせやがった、名ばかり王族兼大貴族の、この世界で最も一度死ねばいいヘタレボケナス公爵閣のループレヒト閣下ですよね?」
「そうでございます(笑)」
「申し訳ありません!!!!!」
ロルフのお父さんは文字通り頭を床に減り込ませるほどの土下座をした。
ロルフのお祖母さん、目が覚めたばかりなのに物凄い怒りのオーラを纏っているよ。
俺も怖くなってきた。
「・・・ロルフの祖母さん、なんか凄いな?」
「僕のママよりも怖そう・・・。」
「睨んだだけで魔獣を殺しそうだな。」
ヒューゴ達も、ロルフのお祖母さんの迫力にビビっていた。
無理もない。
大魔王の恐怖に耐え抜いた俺でさえ怖いんだから。
「お祖母ちゃん・・・!」
そんな中、ロルフは久しぶりに再会した自分の祖母に抱きついた。
ロルフの奴って、実はお婆ちゃん子?
なんて考えていると、俺の耳に聞き慣れた音が聞こえてきた。
――――ピロロ~ン♪
ん?
ここで速報か?
「―――――な!!」
その速報に、俺は思わず声を上げて驚愕した。
「死にたくなかったら夕食の材料を今すぐ買ってきてくださいます?閣下?」
「ハイィィィィィィィ!!!!!!」
姑サイキョーだな。
ロルフパパは姑に逆らえない!
さて、ここでクイズです。
『冬の女神』とは何者でしょうか?
(検索すればすぐに分かると思いますが♪)