第174話 ロルフ、父を殴りに500里 後編
ロルフの放った重力砲はドラゴンの巨躯に直撃し、ドラゴンは後方に吹っ飛んだ。
「よし!命中!」
外に出て巨大なドラゴンを確認した後、ロルフは村人達に避難するように指示を出し、単独でドラゴンの討伐を始めた。
ヒューゴやケビンほどチートではないが、ロルフも多くの魔獣との戦いで経験を積み、上位竜であるファイヤー・ドレイクも1人で討伐できるまでになっていた。
今回山から下りてきたドラゴンもまた、分類上では上位竜、つまりロルフ1人でも討伐は不可能ではなかったのだ。
「おお!魔獣が吹っ飛んだだ!」
「鍛冶師さんは冒険者さまだっただか!」
村人達はドラゴンの恐怖も忘れてはしゃぎ出していた。
一部、酒が入ってる人もいたが。
『グオオオオオオオオ!!』
(――――《加重》×10!!)
『グォン!?』
(――――《グラビティ》!!)
『グォォォォォォォォォ!!??』
怒って突進してくるドラゴンだが、ロルフのにより地面に沈んだ。
総合的に見ればロルフはそんなにチートじゃないが、《補助魔法》だけはドチートだったので、《加重》の効果は桁違いだった。
『グオオオオオオオオ!!!』
ドラゴンは灼熱のブレスを放った。
「自分がくらえ!」
ロルフは《火術》でブレスを逆流させドラゴンの体内に全部流し込み爆発させた。
『グオガアアアアアアアアアアアア・・・・・・!!??』
「おお!予想以上に効いてるな?」
ロルフはまだ知らないが、実はこのドラゴン、火を吐く割に火属性に対する耐性が低いのだ。
吐いた火も魔力を発火させたものに過ぎず、鋼よりも強固な鱗に覆われた外皮ならともかく、体内は火に対して他の竜種の平均程度の耐性しかないのだ。
「よし、今だ!」
ロルフは剣を抜いた。
士郎が日本に帰った直後に、ファル村のチートを結集して製作したチート剣。
ジャンがオリハルコンや某龍王の鱗等を合成して作った『幻想的な大極の金属』を材料に、ファル村のチート鍛冶師の《鍛冶術(Lv5)》とケビンの《錬金術(Lv5)》、ジャンの《彫金術(Lv4)》やロルフ《補助魔法(Lv5)》をフルに使って作った結果が、ロルフが持つ『黄昏に煌く聖剣』だった。
ちなみに、この時一緒に作られた武器に、ジャンの『暁に輝く聖斧』とケビンの『頂之神龍剣』がある。
「――――煌け!!」
――――カァァァァァァァァァ!!
ロルフの声に反応し、『黄昏に煌く聖剣』は神々しい光を放ち始めた。
そして刀身から白い光と紅い炎、そして黄色く輝く土のような大量の粒子が溢れ出し、それらは1つに融合して聖剣をドラゴンと引けを取らない大きさの剣に変えた。
「行け!《黄昏色の滅龍一閃》!!」
ロルフは聖剣をドラゴンに向かって振るった。
聖剣から夕焼け色の光が放たれ、その光の先端は龍の咢のように変形してドラゴンに襲い掛かった。
『グオオオオオァァァァァァァァァァ!!!』
体重がとんでもなく増大しているドラゴンは回避する事ができず、その光に心臓を貫かれた。
実はこのドラゴン、《物理耐性(Lv5)》という超頑丈な体の持ち主なのだが、魔法攻撃に対する耐性はレベル1しかなかった。
今までは生来の強い魔力の大半――数値で言うと50万~70万――を全身に覆うことで敵の魔法攻撃を防いできたが、ロルフの魔力は200万、このドラゴンが今まで相手にした何よりも桁違いな魔力であり、その強大な魔力が込められた聖剣の一閃はドラゴンの魔力防御を容易く破ったのだ。
「終わりだ!」
『グアッ―――――――』
ドラゴンの心臓を貫いた光は最後にドラゴンの首を切り落とし、ドラゴンは完全に息絶えた。
500年もの間、ダーナ大陸北東部に置いて恐怖の代名詞ともなった“天災”、『地を喰い尽くす暴食の覇王』は目覚めてから小一時間も経たない内に呆気なくその伝説に幕を下ろしたのだった。
「よっし!!」
「おおおおおお!!勇者様だ!!鍛冶師様は勇者様だっただあ~~~!!」
「奇跡だあ~~~!!あんなおっかねえ魔獣が死んだだ~~~!!」
「宴じゃあ~~~!!村の恩人様に感謝じゃあ~~~!!」
ドラゴンが死ぬところは村人全員が目にしており、村人達はロルフを勇者だと勘違いし始めた。
そこそこチートを所持しているので、あながち間違ってはいないとも言えるが。
「嘘でしょ!?あれってどう見ても上位竜よ!?何で1人で倒せるの!?彼は何者なの!?」
一方、常識のあるお姫様は、目の前で起きたお伽噺のような出来事に混乱し始めていた。
本来、下位のドラゴンを討伐するのにも複数人で行うのが一般常識のダーナ大陸に置いて、下位竜など瞬殺してしまうような上位竜を単独討伐するロルフは非常識な存在なのだ。
もっとも、最近は上位竜を一対一で討伐できる人間が日に日に急増しているのだが。
「さてと、貴重な素材の回収を始めるかな?」
マルグリットが混乱している事など微塵も気付いていないロルフは、倒したばかりのドラゴンの回収を始めようとしていた。
「「無事か、ロルフ!?」」
「大丈夫ですか!?」
『キュウッ!』
「うわっ!!」
そこに完全武装してヒューゴ達が転移してきた。
「お前ら、何で・・・?」
どうしてヒューゴ達が来たのか分からないロルフは、ただキョトンとしつつ「加勢なら遅すぎだろ?」と心の中で呟いたのだった。
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ドラゴンを討伐した日から1夜が明けた。
あの後、ヒューゴ達からミストラル王国が陥落した事を知ったロルフだが、それでも行くことを止めなかった。
余談だが、突然現れたヒューゴ達にビックリしている村人達にロルフが簡単に(ファリアス帝国の皇子だと)紹介すると一斉に土下座した。
『『『ヘヘェ~~~~~!!』』』
権力に弱い村だった。
尚、村人達はロルフを「天才少年鍛冶師」から「冒険者」、「勇者」ときて最終的に「帝国皇子の近衛騎士」と勘違いしたのだった。
それは兎も角、ヒューゴ達と合流したロルフは一晩村に泊まり、次の朝は一宿一飯の恩義を返す為に早く起きて村の開拓の手伝いをした。
魔法をフルに利用して山林を切り拓き、猛獣や魔獣が村に近付かないように村の周りに堀を造り、村の中を通る街道も平らに整地し、本来なら10年以上は掛かる筈の開拓を小一時間ほどで終わらせたのだった。
「この種も使ってくれ。」
「何から何までありがとうございますだ~。」
最後にファル村でも育てている一部の作物の種も(説明書付き)分け、村人達は彼らに感謝感激するのだが、これは幾らなんでも貰いすぎて悪いと、村人達は昨日の分のお礼も含めて銀貨が入った布袋と、この辺りで採れる香辛料の実を入れた布袋を渡した。
そして村人全員が見送る中、ロルフ達は村を出発したのだった。
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――アナム国 南北街道――
開拓村を出発したロルフ達、ヒューゴ達はクリスピーの分身に乗り、一緒に街道を北に進んで昼前には国境を越えてアナム国に入っていた。
「う・・・何だか一気に寒くなってきたな?」
「防寒の魔法かけるね!」
大陸最北部ということもあり、季節は日本で言えば秋にも拘らず空気がかなり冷たくなっていた。
防寒用の魔法があるのですぐ寒さは感じなくなったが、秋とは思えない周囲の景色を前にすると気分が寒くなるような錯覚を覚えた。
『―――ちょっと平民!ここはドコですの!?私をココに閉じ込めてどうする気ですの!?』
そんな中、ロルフが腰に下げていたドラゴンの皮でできた魔法の収納袋(ケビン作)からマルグリットの声が聞こえてきた。
当初、マルグリットはケビンの転移で帝都タラに運ぶ予定だったが、「ファリアスに売り渡す気ですのね!?」など文句を言い始め、面倒臭くなったロルフは収納袋に仕舞ってそのまま連れて来たのだ。
一通りの事情は《念話》で帝都にも知らせてはあるが、一歩間違えれば一国の皇女を拉致した大罪人にされかねない行動であった。
「文句を言ったのはそっちだろ!ちゃんと食事の時は出すから、そこで大人しくしてろ!!」
『生意気ですわ!小さいクセに!』
「んだとお!!」
『野蛮人がキレましたわ♪』
こんな問答が数時間も続いた。
途中、アナム国の首都で休憩する時も同様の口げんかが繰り広げられたが、ヒューゴ達は面倒臭いのか面白いのか、一切止めなかった。
一時はアナム国にマルグリットを渡そうかとも考えたが、これにはマルグリットも顔を真っ青になって
「それだけは!」「わたくしもお供させてください!」と懇願してきた。
流石に、自分の国が宣戦布告した国の同盟国に引き渡されるのには身の危険を感じたようである。
もっとも、その宣戦布告した国に彼らは向かっているのだが。
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――ミストラル王国 フローライト子爵領『ハロン』――
国境を越えていよいよミストラル王国入りした一行だが、ここで大きく足止めを受けてしまった。
「領主様の命により、ここより先は通行止めである!!」
「「「えええええ!!」」」
謎の王都陥落事件は国内全域に伝わっており、ロルフ達が訪れた王国南部の一角を収める領主は王都方面への通行を制限していたのだ。
仕方なく、その日はハロンの街で宿を取って一泊したが、翌日も通行止めが解除される事は無かった。
「何日待たされるんだよ!?」
「領主に直談判するか?」
ヒューゴは何となく呟いただけだったが、すぐに実行された。
ヒューゴ達がファリアス皇族の証を持っていたことが幸いし、一行はすぐに領主と面会して通行許可を得ることができた。
途中、ご当地魔獣との戦闘が何度かあり、気付けばミストラル王国に来て3日が経過した。
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――ミストラル王国 ジェダイト公爵領『ジェイド』――
『ゴケェ~~~!』
「やっと着いた~!」
ロルフ達一行は王都ミスティの1つ隣のジェダイト公爵領に到着した。
ここまで来ると辺りはすっかり雪景色だった。
家も道も雪で真っ白に染まり、まるで別世界のようだった。
不思議な事に、ミストラル王国でもある緯度を境に環境は一変し一年中冬の気候に変わる。
地元の人間達はこの不思議な現象を、「氷の大精霊の仕業」、「最北の地は冬の神の住処」と呼んでいるが事実はまだ明らかにされていない。
「凄い・・・!綺麗な街だね。」
「ああ。」
「スッゲェ!」
ファリアス帝国の、それもファル村やヴァールがある南部一帯ではまず見ることのできない景色にヒューゴ達は心を奪われそうになった。
一方、ロルフはジェイドの街を見渡しながら、幼い頃の記憶を思いだし始めていた。
(そうだ。俺はこの街に住んでいた事がある・・・!)
蘇るのは、左手を温かい手に握られながら街を歩いた記憶。
そして時々、いつもは空いた右手を知らない誰かに優しく握ってもらった記憶も蘇ってきた。
(あれは誰の手だったんだ・・・?)
「ロルフ!危ねえ!!」
「横!!」
「え?」
ヒューゴとジャンの慌てた声が聞こえた。
『ヒヒィィィン!!』
直後、道の中央を通っていた馬車がロルフに衝突しそうになった。
『ゴケッ!!』
「クリスピー!?」
が、間一髪でクリスピーがロルフの襟を加えて道の端に移動して無傷で済んだ。
周りでは悲鳴を出しそうになった通行人達が安堵の息をこぼした。
「――――君!大丈夫かね!?」
「旦那様!」
そして危うくぶつかりそうになった馬車の中から1人の貴族らしき男性が従者の制止を振り切って降りてきてロルフに駆け寄った。
男性はロルフに怪我が無いのを確認するとホッと安堵の息を零す。
だが次の瞬間、貴族の男性はロルフの顔を見て目を丸くする。
「まさか!ロルフ!?」
「え?」
「「「―――――!!」」」
『ゴケ?』
名乗ってもいないのにロルフの名を呼ぶ貴族の男性、この男は一体何者だろうか?
そしてこの日から3日後、事態は更に大きく動き出す。
一体何者っ?
そんなの、言わなくてもわかりますよね♪
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