第171話 ボーナス屋、お土産を渡す
――ファル村 酒場『南の皇帝』――
アンナちゃんと再会した後、俺は村に新しくできた酒場に来ていた。
以前から大魔王に脅迫されていた酒場が俺が居ない間にできた訳だが、この店名はどういう意味があるんだ?
前から思ってたけど、この世界のネーミングセンスは時々おかしい時があるよな。
まあそれはさておき、今は久しぶりに――といっても10日ぶりだが――再会した俺とアンナちゃんは酒場で乾杯をしていた。
すると、噂を聞き付けたチビッ子達も何所からともなく集まってきた。
「勇者の兄ちゃん、お帰り~!!」
「ホントにお兄ちゃんが帰ってきたんだ!!」
「お、お帰りなさい!!」
「ジュース奢って!」
「うわ~い♪」
チビッ子達は一斉に俺に飛び付いて来た。
マイカを先頭に、村でよく遊び相手をしていたチビッ子達が子犬みたいに俺に飛びついてきて、昼間でも比較的ゴツい男衆の多い酒場はあっというまに保育園みたいな空気に包まれた。
俺はチビッ子達にジュースを奢り、早速日本からのお土産を配っていった。
「ほら、チビッ子にはお菓子だぞ!」
「「「わ~い♪」」」
予想通り、チビッ子達は大喜びだ。
この世界には基本的にお菓子の種類が少ない上に、その多くが贅沢品で富裕層のみが食べる庶民には高嶺の存在に近かった。
しかもその菓子自体も砂糖菓子やジャム、飴といったものばかりで、クッキーやケーキは1つも存在しなかった。
そのせいだろうか、前に俺が作ったクレープやクッキーを作ってあげたら貴族出身者にも大好評だった。
今のファル村なら砂糖も自力で生産できるし、牛乳や卵も毎日大量に手に入る事ができるから各家でお菓子作りが盛んになっている。
さっきも外でお菓子を露店で売っている村人もいて、冒険者だけでなく貴族らしき人達も買っている光景を見かけた。
だけど、いくら砂糖や卵などが手に入っても、今のこの村で作れる菓子の種類は高が知れているし、絶対に作れない地球では定番中の菓子がある。
そう、チョコレートである。
この世界にも原料のカカオが存在するのは確認済みだが、流石にそこからチョコレートを作るまでの過程は殆ど知らなかったから製作することが出来なかった。
何より、カカオがある場所に行くには色々問題があった。
だけど俺はこの世界にもチョコレートの素晴らしさを伝えたいと思い、チビッ子達へのお土産にはチョコ菓子類にした。
そしてその選択は間違っていなかった。
「美味しい!」
「ちょっと苦いけど、甘くて美味しい!」
「もっと!もっとチョコ!」
チビッ子達は一瞬でチョコレートの虜になった。
「ポッ〇ー」も「コ〇ラのマーチ」、「タケ〇コの里」、「キ〇コの山」も例外なく大好評だった。
やっぱ、下手なご当地土産よりもロングセラーなお菓子の方にして正解だったな。
「美味しいです♡」
アンナちゃんにも喜んでもらえたけど、日本じゃ何所でも買える大量生産品だという事はしばらく秘密にしておこう。
金は沢山あるし、今度、ブランドのチョコを買ってこよう。
「そうそう、アンナちゃんには別のお土産があるんだ!」
「私に・・・ですか?」
俺はモールで買ったネックレスを渡した。
綺麗な包装にも驚いていたアンナちゃんは恐る恐る包装を解いて箱を開け、中に入っていたネックレスを見て目を輝かせた。
「あ、ありがとうございます!一生の宝物にします!」
滅茶苦茶喜んでもらえた♪
アンナちゃんは早速ネックレスを首にかけてくれた。
良く似合っている、という言葉に尽きた。
マイカ達も「綺麗!」「素敵!」と連呼し、周りからも真昼間から酔った冒険者のオッサン達が「ヒュ~ヒュ~♪」と口笛を吹き始めた。
そこのアル中共、茶化すな!
「―――ゴホン!それで、ヒューゴ達は帝都にいるのか?」
「あ、いえ、3人は・・・」
ちょっと口を濁しかけたアンナちゃんから話を聞くと、どうやらヒューゴ達は現在、帝国内にはいないらしい。
順を追って訊くと、まず最初にロルフがコッコ団のクリスピーくんに乗って大陸の最北部、ミストラル王国に向かったそうだ。
以前から父親を捜しに行くと言っていたのを聞いていたが、俺が居ない間に出発したようだ。
だけどその後、ミストラル王国に対してクラン帝国とアルバン帝国が宣戦布告して戦争が勃発―――と思ったら、3ヶ国とも何者かによって陥落してしまったらしい。
調べてみたら、犯人は大魔王どもだった。
そしてロルフが危ないと思ったヒューゴ達3人はロルフの後を追って帝都を発ったらしい。
コッコ団を連れていなかったらしいから、多分、ケビンの魔法で転移したんだろう。
《転移魔法》は基本的には知らない場所、行った事のない場所には転移できないが、チート魔術師となったケビンは知ってる人の場所になら、例えそこが知らない場所でも転移できるようになったのだ。
もう1週間前の話らしいが、定期的に《念話》で連絡しておるので心配はないようだが。
問題があるとすれば、話を聞きつけたバカ皇帝が後を追おうとして騒ぎを起こした位だそうだ。
『北の国と外交してくる!』
『却下です!』
今もバカ皇帝と宰相の戦いが繰り広げられているらしい。
北の3ヶ国にについては、どうやら君主不在の状態であるのは間違いないらしく、隣接する各国も連絡を取り合って今後の行動を決めようとしているらしい。
「他には何か変わった事はなかったか?」
「そうですね・・・。」
その他に俺がいない間にあった出来事について聞いていくと、例のクーデター事件の功労者に対して褒章の授与が行われたそうだ。
俺達を陰からバックアップしてくれていた領主のオッサンは出世した伯爵から侯爵になり、魔法具職人のエルナさんは帝国初の女性貴族になったそうだ。
チームバカ皇子も身分に関係なく、勲章を貰ったり、爵位を与えられたり、領地を与えられたりと、出会ったばかりの頃には想像も出来ないほどの大出世を果たしたそうだ。
村長の地獄訓練が報われたと喜んでいるらしい。
逆に捕まったクーデターを起こした連中は爵位と領地は勿論のこと、全財産も被害者達への賠償として没収され、未開地での強制労働の刑になったらしい。
結果的に死刑になった者がいないから甘いという意見も出ているらしいが、送られる未開地というのが随分とデンジャラスな魔獣の巣窟で、生息する魔獣のレベルは平均でAランク、未確認だがSSSランクの災害級の魔獣も生息しているとの噂がある場所だそうだ。
つまり、捕まった連中はそんな魔獣達の相手に生き延びながら開発をしていく事になり、ある意味では死刑よりも厳しい罰なのだった。
しかも連中の一部は俺の能力でペナルティが課せられているから難易度は更に上がるということだ。
そしてそれはフィンジアス王国の方も似たようなものらしく、ステラちゃんのバカ伯父も地獄に放り込まれることが決定したらしい。
「まあ、自業自得だから仕方ないよな。」
「そうですね。」
「そういえば、ダニールに唆されてバカ皇子を暗殺しようとしたあの2人はどうなったんだ?」
「それは――――」
クーデター事件とは別に、『創世の蛇』のダニールに唆された2人の皇子の処分も決定したらしい。
唆されたとはいえ、皇族の暗殺を謀るのは例え皇族でも裁かれるべき重罪だとして、ブリッツとエーベルは当然の如く皇位継承権を永久剥奪、今まで行っていた仕事の引継ぎをした後に宮殿を追放、
「辺境で農地開拓20年の刑」か、「中位級以上の竜種の100体討伐の刑」のどちらかを選んで果たすまでは戻ってくるな、ということになったらしい。
あの2人にはボーナスは交換してないので、実質、勘当も同然の処罰というわけだ。
あの親バカ皇帝にしては随分と厳しい罰を与えたものだ。
まあ、俺には関係ないけど。
「―――ふう、じゃあ、他の人達にもお土産を配って回ろうかな!」
「私も手伝います!」
「僕も!」
「私も!」
1杯飲み終えた俺は、アンネちゃん達と一緒に他の村人達にもお土産を配っていった。
村人達と言っても家単位に配っているからそれほど時間はかからなかった。
お土産の中身はチビッ子達と同じ菓子類の他、とあるツテで買った酒類や化粧品類等だ。
安いハンドミラーもあげたら奥さん達に大いに喜ばれた。
鍛冶屋の爺さんには、とあるツテで買った日本刀をあげたら大興奮していた。
普段造っている剣とは異なる意匠、というか生まれて初めて見る武器に好奇心が刺激されたようだ。
今はアールと一緒に創作活動に熱中しているだろう。
「ふう、これで全部だな。」
村長の家にもお土産を渡しに行ったけど、生憎村長は今朝から留守だった。
大方、毎度お馴染みのブートキャンプでもしに行っているんだろう。
「じゃあ、俺はこれから帝都に行くかな。アンナちゃんはどうする?」
「すみません。私はこれから教会での仕事があるので。」
そういえば皇女になる前のアンナちゃんの本職はシスターだったけど、まだ続けているのか。
「じゃあ、いったんここでお別れだな。」
「「え~~~!?」」
チビッ子達は俺について来たそうだったが、そこはアンナちゃんが説得してくれた。
そして俺は村を後にし、帝都へ転移した。
--------------------------
――ファリアス帝国 帝都タラ ファリアス宮殿――
「ヤッホ~!久しぶり、ロビンくん!」
「シロウ殿!!」
宮殿に到着し、俺はまず最初にロビンくんの所に顔を出した。
ロビンくんは正式に皇子として認められて以降、元々頭脳明晰だったこともあって政治に携わるようになっていた。
しかも第二皇子が継承権を失った現在、皇子の中ではバカ皇子について2番目の継承権を持つ事になる。
そのせいなんだろうな。
なんか、さっきから周りにロビンくんに取り入ろうとする輩の姿がチラホラしている。
クーデター派がいなくなっても国家の中枢は魔窟のようだな。
「今日帰ってきたんですか?」
「ああ!あと、これはお土産♪」
俺はロビンくんにもお土産を渡した。
ロビンくんへのお土産は時計だ。
今更だが、この世界にはまだ機械仕掛けの時計は開発されていない。
時計らしいものと言えば日時計が一般的で、他には砂時計や水時計しかない。
実際、俺がお土産に買ったアナログの腕時計を見たロビンくんは目を丸くして驚いていた。
使い方もすぐに覚えたし、喜んでもらえて何よりだ。
「そういえば、エルナさんは今何所にいるか知ってる?」
「シュナイダー準男爵でしたら、今は購入したばかりの帝都の屋敷に籠って研究に打ち込んでいるそうです。」
「爵位があってもエルナさんはエルさんか。」
ちなみに、エルナさんには各所から勧誘が来ているそうだが、過去の出来事もあって今のところは全部門前払いしているらしい。
まあ、当然だろうな。
散々帝都で嫌な目に遭ったんだから、そう易々と美味い話に乗ろうとは考えないだろう。
なんて思っていると、ロビンくんは急に話題を変えてきた。
「――――それでシロウ殿、実は報告したい話があります。
「報告?」
何だろう。
ロビンくんの真面目な表情からして、凄く重要な話のようだ。
まさか、またどっかの国で大事件が起きたのか?
「ええ、実は―――――」
そして、俺は次の瞬間、ロビンくんの言葉に息を飲んだ。
「――――最後の『四至宝』、『ダグザの魔釜』の封印場所が判明しました。」
感想、ご意見をお待ちしております。
評価もしてくれると嬉しいです。