第170話 ボーナス屋、異世界に戻る
――名古屋市 児童養護施設『紡ぐ者達の家』――
さて、今の状況を確認してみよう。
現在、俺は我が家の食堂で夕飯を食べている。
今夜はみんなが大好きなカレーだ。
だが、俺の握ったスプーンはさっきからほとんど動いていない。
何故なら、俺の目の前には普段ならここに居るわけがない人物達がいたからだ。
チーム佐原だ。
「ううぅ……真面な食事だ……!」
「美味しいよう~~~!」
「うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!」
涙や鼻水を流しながらカレーを食べるチーム佐原。
話を聞くと、こいつらは昨日からまともな食事をしていないらしい。
「親父が逮捕されて……家が抵当に……。母さんが俺を捨てて……愛人と駆け落ちして……」
「夜のバイトがバレ……クビに……パパがリストラ……」
「家族がみんな……火事で入院……。近所から賠償金請求された……」
「……捨て子だった。家、追い出された」
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といった事情らしい。
ペナルティ、効果強烈すぎるぞ!!
余談だが、こいつらの仲間の1人、前に買い物している時に絡んできた詐欺師見習いの奴はこの中には居ない。
どうやら、つるんでいたヤクザと一緒に詐欺罪で警察に捕まったようだ。
未成年だから名前は公表されないから知らなかったな。
まあ、自業自得だな。
というか、ペナルティの影響がヤクザ達にまで巻き込んじゃったのか。
まさかと思うが、お世話になる警察や検察、弁護士も巻き込んだりしないよな?
って、その理屈だと俺達もヤバいんじゃ!?
リセット!一時的にでもリセットォォォォォォォォ!!
――――ピロロ~ン!
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『名古屋の某警察署にに隕石墜落、炎上!』
愛知県警〇☓警察署に隕石が落下し、直撃を受けた警察車両が炎上、火は警察署に燃え移り多くの警察関係者に被害が広がっている。
また、署内の留置所も隕石落下の衝撃で半壊し、留置されていた容疑者達の多くが重傷を負っている。
火の手は一向に収まる様子はない。
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マジでリセット!!
隕石がこっちにも落ちちゃう!!
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――翌日――
あいつら、結局ここに住み着きやがった。
園長先生が「行く所がないならここに住みなさい。」と言ったのが決定打になったのだ。
とりあえず、《悪因悪果(ペナルティ)》はどうにかできて《因果応報(ペナルティ)》に変更することができた。
やってみればできるもんだな。
それはさておき、今朝は俺の出発の日だ!
「じゃあ、行ってくる!何かあったらダブルくんに言ってくれ!」
「シロ兄、あんまり無茶すんなよな!」
「調子に乗って自滅とかするんじゃないわよ?」
「……勇者(笑)」
「……七海、お前は今、何を想像してるんだ?」
「~♪」
見送りは渉と唯花、七海の3人だ。
つまり俺の事情を知っている人間だけということだ。
あれだけ有り得ないイベントが連続しているというのに、ココのみんなは誰も真実に至ってはいないようで何よりだ。
園長先生は微妙に怪しいけど。
「――――出発だ!」
俺はクラウ・ソラスを出して地面に突き刺す。
すると地面に人1人分が入る光のサークルが出現し、俺はその光に包まれながら異世界へと転送されていった。
「じゃあな~~~!」
「ついでだから、DT卒業してきなさ~い♪」
「余計なお世話だ!!」
「え!それでいいの、ユイ姉!?」
最後にどうでもいい声援を受けながら俺は日本を発った。
さあて、久しぶりの異世界はどうなってるかな~?
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――ファリアス帝国 ファル村――
移動は3秒と掛からなかった。
視界が真っ白になった後、銀洸や銀耀の兄弟の話とかで何度か聞いたことのある“狭間”らしき不思議空間を一瞬だけ目にした直後、俺は再び異世界の大地に立っていた。
立っていた……んだけど。
「……ここ、ドコ?」
俺は思わずそう呟くしかなかった。
俺はファル村に転移したつもりだけど、そこは俺の知るファル村じゃなかった。
「……町、だよな?」
そこは嘗ての寂れた農村じゃなかった。
建物が倍以上に増え、道を歩く人は明らかに数百人、もしかしたら1000人を越えているかもしれない。
見覚えのない商人が露店を開いたり、何時の間にかできた建物で店を開いたりしていた。
俺は呆然としながら道を歩きながら、毎度お馴染みの情報屋さんでこの現状について調べた。
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『検索:ファル村の現状』
大羽士郎の日本への帰還後、今後のファル村の事について関係者、村長、領主、フライハイト商会、冒険者ギルド、アマデウス帝国中央学院(以後、学院)、皇帝ら集まって協議が行われた。
協議の理由となったのは村地下にある古代遺跡、迷宮の存在。
『四至宝』戴冠石の発見後も遺跡は力を失わず、遺跡内には多くの魔獣や精霊が徘徊し、不思議な事に宝物の多くが回収されたのにも拘らず、遺跡内各所には多くの宝箱が出現し、中から貴重なアイテムが発見されている。
この事から、遺跡の管理も含めたファル村の今後の処遇について協議が行われた。
皇帝が半ばノリ、半分は以前から考えていた内容で色々発案していた結果、ファル村は引き続きアンデクス伯爵領のものとし伯爵は村の開発等を行い、村と遺跡そのもの管理は村長のロンが行うことになった。
遺跡の詳細な調査については冒険者ギルドと学院が共同で行い、フライハイト商会は遺跡で回収されるアイテムの売買に関して他の商会と共に引き受けることになった。
協議後は速やかに事が進んでいき、現在では噂を聞きつけた冒険者や商人達が一攫千金を狙い集まる町と化している。
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そうか、あの遺跡が原因だったか。
既に攻略済みだったからあまり気にも留めていなかったけど、確かに考古学的価値とかを考えても目を付けられるだろうな。
それにしても、“不思議な事に”か……。
それって、絶対どこぞの神様が関わってる気がするな。
なんか、そんな感じの事を言っていた気がするし……。
けどその神様、確か大魔王に捕まっていたような……?
「ま、いっか♪」
神様なんだし、自力で何とかするだろう!
俺はあの神様の事はさっさと忘れ、久しぶりのファル村を散策することにした。
よく見ると、元からあった民家の何軒かが家ごと移動しているような印象があるけど、そこは魔法で移動させたんだろう。
魔法って、本当に色んなことができるからな。
「お!ギルドも出来たのか?」
村の中には冒険者ギルドも出来上がっていた。
見た目は木造2階建てだが、調べてみると内部は外観の倍以上の広さになっているし、建物自体も色々魔法で強化されて戦車砲を受けても疵ひとつ付かない造りになっている。
多分、コレを建てたのは村長一族といったところだろう。
そしてギルドから程なく近い場所には遺跡への入口があった。
発見当初は魔獣が地面に開けた穴だった場所も、今は周りを壁で覆われ、入口には石階段が造られて誰でも難なく内部に下りられるようになっていた。
入口の前には領主のオッサンとこの騎士団メンバーがしっかり警護しており、冒険者や学者風の人達が遺跡の中へと次々に入っている。
遺跡と云えば、あの隠し部屋に会った壁画、所々崩れていて詳細は不明だけど、学者先生達が修復とかしてくれたらもっと何か分かるかもしれない。
今度機会があったら訊いてみよう。
「あれ?もしかして、勇者殿ですか?」
村を散策していると不意に声を掛けられた。
振り返ると、そこには冒険者風の格好をした、俺と殆ど年の違わない感じの少年が立っていた。
少し雰囲気が変わっていたけど、その少年に俺は見覚えがあった。
「もしかして、リーンか!?」
「そうです!リーンハルト=レーベンです!」
嘗てはフィンジアス王国との戦争の為にバカ皇子2&3と共にこの村にやってきた帝国の少年騎士、リーンハルト=レーベンくん(通称リーン)は屈託な笑顔で返事をした。
『創世の蛇』に仕組まれたあの戦争に参戦していたリーンは、あの戦いの後、村で保護されていた妹のリーナちゃんと再会を果たし、その後は村に住み着いていた。
どうやら実家には兄妹ともども帰りたくないらしく、ロン村長も彼を快く受け入れてくれた。
確か俺が帰省する時点では村の仕事を手伝ったり、ファルの森に狩に行ったりしてたはずだけど、どうやら今は冒険者に転職したようだ。
ステータスにもそう出てるしな。
【名前】リーンハルト=レーベン
【年齢】15 【種族】人間
【職業】冒険者(Lv29) 狩人(Lv40) 戦士(Lv38) 【クラス】兼業冒険者
【属性】メイン:水 サブ:風 火 土
【魔力】495,000/495,000
【状態】正常
【能力】攻撃魔法(Lv2) 防御魔法(Lv2) 補助魔法(Lv3) 特殊魔法(Lv1) 剣術(Lv2) 体術(Lv2) 弓術(Lv3) 盾術(Lv1) 投擲(Lv2) 調合術(Lv2) 鑑定
【加護・補正】物理耐性(Lv2) 魔法耐性(Lv2) 精神耐性(Lv2) 水属性耐性(Lv2) 風属性耐性(Lv1) 火属性耐性(Lv1) 土属性耐性(Lv1) 麻痺耐性(Lv1) 狩猟神ケルヌンノスの加護 職業補正 職業レベル補正
【BP】109
「久しぶり♪冒険者になったんだな?」
「はい!昼間は冒険者として活動して、夜は妹と一緒にお世話になっている酒場で働かせてもらっています!勇者殿は、今到着したのですか?」
「ああ。あと、士郎でいいし、敬語も使わなくてもいいぞ?」
「そうはいきません!勇者殿は、俺とリーナの命の恩人なんですから!」
「まあ、いいけど」
リーンはあの戦争でダニール達の陰謀から救われた事や、妹のリーナを保護してくれたことに恩を感じているらしく、ずっと俺に対してこんな感じて接してきている。
悪い気分はしないから別にいいけどな♪
「リーナは元気にしてるか?」
「はい!今は友達も沢山できてすっかり明るくなりました!最近は地下遺跡に住んでいたらしい精霊とも仲良くなったそうです!酒場でも手伝いもしています!」
「そうか。後で様子を見に行ってみるかな?」
「それは妹も喜ぶと思います!リーナは勇者殿が大好きのようですから!」
「そ、そうか……」
懐かれてるのは自覚してたけど、大好きとは……。
あ、何度も言ってるかもしれないけど、俺はロリコンじゃないからな!
「じゃあ、後で酒場で会おうな!」
「はい!」
その後、リーンくんは仲間らしき人達と合流して遺跡へと向かっていった。
俺が日本に帰っていた間にも、みんなには色んなことがあったようだな。
他にも見覚えのある人達の活気溢れる姿がチラホラと見える。
だけど、その中にアンナちゃん達の姿は見当たらない。
「考えてみれば、アンナちゃんは皇女さまなんだよな」
幸か不幸か、バカ皇帝が正式に公表したお蔭でアンナちゃんは今やファリアス帝国の皇女様だ。
見送りの時まではファル村にいたけど、あれから10日以上も経っているんだ。
正式な皇女として、宮殿で暮らしているのかもしれない。
だとすれば、会いに行くには帝都まで行かないと無理かもしれないな。
「はあ……」
「――――勇者様?」
「え?」
ちょっとだけガッカリし落ち込んだ直後、また不意に声を掛けられた。
しかも今度の声は――――
「アンナちゃん!」
「……お帰りなさい。勇者様。」
そこにいたのは綺麗なドレスを着た皇女様じゃなく、俺のよく知るアンナちゃんだった。
頬を僅かに紅く染めたアンナちゃん。
俺はそんなアンナちゃんに対し、俺は呆けた顔をすぐに直して返事を返した。
「ただいま!」
リーンはあくまで脇役なので、また登場するかは未定です。多分モブで終わる。
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