第166話 ミストラル王国、(勇者と間違えて)とんでもない者を召喚する
――アルバン帝国沖――
ダーナ大陸北部の海は冷たい。
まともな人間なら短い夏以外で、この海で泳ごうなどと考える者はいない。
そんな、大陸を囲むどこの海よりも逸早く冬を迎えようとしている海域を、多くの軍船が東に向かって航行していた。
ダーナ大陸北部を統べる国家の内の二ヶ国、クラン帝国とアルバン帝国の連合艦隊である。
「皆の者!間もなく我々はミストラル王国領海内へと入る!敵船を確認次第、我らの新兵器、『魔導破砕大弓』により先制攻撃を撃つ!我らの偉大なる力を愚者どもに見せつけるのだ!」
「「「おおお~~~!!」」」
騎士や兵達は一斉に拳を天に掲げる。
彼らの国はダーナ大陸のどの国家よりも選民思想が根強く、特に貴族達は自分達こそ神の血を引くこの世で最も崇高な存在であり、四大国は自分達を貶め、歴史を偽って成り上がった下民だと語り継いできた。
そして現在、近年から軍事力に力を注いできた両国は大陸の覇権を手に入れるために動き出し、手始めに大陸北部の完全制圧としてミストラル王国へと宣戦布告したのだった。
同時にミストラル王国の同盟国であるアナム国も狙っており、特にアルバン帝国にとっては他国を侵略して自国で不足している資源を確保しようと企んでいた。
「将軍閣下!前方に敵船を《遠視魔法》にて確認しました!」
「うむ!敵船がこちらの射程圏内に入ると同時に先制攻撃せよ!」
「了解!」
そしてクラン・アルバン連合艦隊は進路を変えずに航行していった。
この時、彼らは自国の勝利を疑ってはいなかった。
だが、事態は彼らの予想外の展開が待っていた。
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――ミストラル王国 王都 ミスティ王宮――
「我が王国に、勇者を召喚せよ!!」
ミストラル王は玉座から立ち上がり、大声を上げて臣下達に指示を出す。
「畏まりました。陛下。」
そして王宮筆頭魔術師の男はその手に持った《奇跡の書》を開いて勇者召喚の儀を開始した。
王国内の変わり者の某貴族から国王権限で没収した《奇跡の書》、異世界から勇者を召喚する伝説の本で勇者を召喚し、迫る国家の危機を乗り越えようとしているのだ。
(――――我が国の間者の情報によれば、ファリアス帝国は召喚された勇者により戦争を終結に導かれ、さらには多くの富を齎されたという。我が国も異世界の勇者の力でこの難局を乗り越え、国を発展させようぞ!)
ミストラル王は各地に散らばる兵が集めた情報から、ファリアス帝国の皇女が異世界から勇者を召喚し、その勇者が帝国だけでなく隣国のフィンジアス王国やゴリアス国も救ったという事を知らされていた。
そして勇者召喚に使用された《奇跡の書》が自国内にもあると知り、すぐに手に入れて召喚の儀を始めたのである。
全ては西から攻めて来る2つの帝国から自国を守り、大陸最北という苛酷な環境にある自国に繁栄を齎そうとする考えからであった。
「おお!これが召喚の魔法陣か!?」
ミストラル王の眼前に、光の魔法陣が現れ神々しい輝きで部屋が埋め尽くされていった。
そして、魔法陣から何色もの光の粒子が溢れ出し、次の瞬間、魔法陣の光は一気に弾けた。
「「「――――――!!」」」
――――その日、異世界ルーヴェルトにまた異世界人が召喚された。
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――アメリカ合衆国 ボストン――
同時刻のボストンでは、1人の帰宅途中の少年が厄介事に巻き込まれていた。
「うわっ!えっ?な、何これ!?す、吸い込まれる~~~!?」
栗色の髪の少年は、突如足元に出現した魔法陣に捕まり、抵抗もできずに吸い込まれていった。
「た、助けてぇ~~~~~!!」
少年は必死に叫ぶが、近くには歩行者の姿は無く、彼の必死の叫びは空しく響くだけだった。
そして、少年の姿はこの世界から消えたのだった。
「うわぁぁぁぁぁ――――――」
少年が消えると同時に魔方陣も跡形も無く消滅した。
だがこの直後、アメリカの某所では動いたらいけない人々が動き出したのだった。
――――その日、地球では史上最強の一家が動き出した。
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――天界――
同時刻、遥か高い場所にある天界では一部の天使達が少年が地球から消えるのを目撃していた。
「「「…………。」」」
天使達は言葉を失っていた。
そして、この後どう動くべきか迷っていた。
「――――じゃ、俺は失礼する!」
「ウリエル様、何処に!?」
「出張!」
四大天使、または七大天使の1人であるウリエルは我先にとその場を去ろうとしていた。
「待ってください!我々はこの後どうすれば!?」
「知~らない!俺は何も知~らない!後の事はサリエルやメタトロンに全部任せた!」
「ウリエル様~~~!」
面倒事が嫌いなウリエルは部下を置いて逃げ出した。
彼ら天使もまた、あの一家には色々と嫌な思い出があるのだ。
「待ちなさいウリエル!!」
「ガブリエル、後はお前にも任せた!」
「待ちなさい!いかなる理由で地上に下りる気ですか!?」
「………あ!俺、人間と契約する約束があったんだ!じゃ、そう言うことで!」
「ちょ、待ちなさい!!」
同僚の制止も振り切り、ウリエルは天界から地上へと避難した。
――――その日、七大天使ウリエルはとある人間と契約した。
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――ミストラル王国 王都 ミスティ王宮――
ミストラル王の前に少年が召喚された。
「ここは何所……?」
「おお!よくぞ我らの召喚に応えてくれた!歓迎するぞ、勇者よ!」
「へ?勇者?」
少年はポカンとしながら辺りを見渡し、ここが異世界であると気付いた。
そして取り戻した平常心で状況を判断し、自分がどこぞの王様に勇者として召喚されたのだと結論付けた。
(……確か、叔父さんやお祖父ちゃんも召喚されたって言ってたっけ?)
少年は小さい頃に親から聞かされた彼の家庭事情の話を思い出していた。
実は彼、親戚中に勇者が一杯だったりする。
「勇者よ、まずは名前を聞かせてくれぬか?」
「あ、はい!僕はショーン、ショーン=スプロットです!」
「勇者ショーンか。よい名だ。レアよ、剣をここに。」
「はい、お父様。」
ミストラル王の長女、第一王女レアは豪華な宝飾が施された鞘に収まっている1本の剣を少年ことショーンの元に持ってきた。
「勇者よ、この剣を受け取るのだ。」
「これは?」
「これは我が王家に伝わる伝説の剣、水の精霊剣『アンダイン』である!強大な力が秘められているが故に常人には剣を鞘から抜く事すらできず、漏れ出す力は人によっては猛毒になるが故に何重もの封印が施されている最強剣の1つだが、勇者になら使いこなせるだろう!では、今から精霊剣の封を解く。勇者よ、束を――――」
「あ、抜けた!」
「―――――は?」
何重もの封印が施されている最強剣は呆気なく抜けた(笑)
ちなみに、ショーンは特に何もしないで普通に抜いただけである。
「「「ええええええええ!?」」」
ミストラル王達は信じられない声を上げた。
「……さ、流石は勇者だ!こうも早く伝説の剣を抜くとは――――」
「この剣、欠陥品みたいですよ?」
「「「は?」」」
「えい!」
――――パリンッ!
ショーンは伝説の最強剣を折った。
ポッ〇ーやプ〇ッツを折るような感じで。
――――この日、ミストラル王国秘蔵の伝説の最強剣っぽいモノが折れた(笑)
「バババババババ、バカな!?伝説の剣だぞ!!最強の剣の1本であるぞ!!絶対に折れないと言われている大精霊の宿った剣であるぞ!!」
「これ、材料から駄目みたいですね。専門じゃないけど、材料のミスリルの純度が低すぎるし、派手に魔力を放出するしかけとか、派手に光る仕掛けとかしか施されてないし、精霊は1体も宿ってないですよ?」
「「「ええええええええ!?」」」
ショーンは冷静に伝説の剣(笑)を分析していった。
彼は家庭の事情から、こういう伝説の剣関係には目が肥えまくっているのだ。
偽物など一目で分かるのだ。
「多分、この剣は王様の先祖が宴会芸用に近所の鍛冶師に造らせたんじゃないでしょうか?」
「……お父様?」
「……陛下?」
「……知らん!我は知らんぞ!!」
ミストラル王は色んなショックに一気に襲われ、慌てふためいていた。
「そ、そうだ!伝説の剣はまだあるぞ!そこの者、急いで宝物庫より伝説の『白雪の剣』を――――」
――――ズドォ~~~ン!!!!
ミストラル王の言葉は最後まで続かなかった。
突如、時空を超えてその者達は襲来した。
「くおらああああああああああ!!人の息子を誘拐したのは何所のどいつじゃあああああああああああああああああああ!!??」
「――――あ、パパ!」
――――その日、ミストラル王国に『魔王』アレクサンダー=スプロットが襲来した。
「お前が犯人か!!」
「ギャアアアアアァァァァァァァァァァ…………!!!」
「ちょっと、パパ!?」
王宮筆頭魔術師は、『魔王』のグーパンで西数百㎞先まで吹っ飛ばされた。
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――ミストラル王国西海岸沖――
突如、連合艦隊の1隻の軍船が大破した。
「何事だ!?」
「将軍閣下!!王都ミスティから何かが飛んできて、友軍の船に激突した模様です!!」
「敵の先制攻撃か!?」
彼らは勝手に勘違いしていったのだった。
いろんな国が詰みました。