第165話 バカ皇帝、真面目に仕事をしている
――ファリアス帝国 帝都タラ――
それは士郎が日本に帰国してから数日が経過した日のことだった。
クーデター事件が解決し、再び機能を取り戻し始めた帝都の西端、帝都と街道を隔てている門の前に数人の少年達が集まっていた。
「本当に1人で行くんだな。ロルフ?」
「ああ、親父を一発殴ってくるからよ!それと、1人じゃねえよな。クリスピー?」
『ゴケエ……。(眠い……。)』
コッコ団のクリスピーに跨り、少年ロルフは帝都を出発した。
目指すはダーナ大陸の北の果て、ミストラル王国である。
ロルフは顔も知らない父親を捜す為、単身――正確にはクリスピーと一緒――で大陸最北の国家であるミストラル王国を目指すのだった。
「行くぞ、クリスピー!」
『ゴケッコォ~!(《縮地超特急》!)』
ロルフを乗せたクリスピーは閃光になり、一瞬にして地平線の向こうへと消えていった。
《縮地超特急》―――コッコ団が使用する高速移動法である。
「行っちまったな。」
「ああ。無事に親父を殴り飛ばせればいいな!」
「……兄さん達も殴ったよね。思いっきり。」
ヒューゴとジャンが笑みを浮かべながら地平線を見つめ、2人の間に立っていたケビンはそんな2人の兄に苦笑するのだった。
ちなみにこの3人、現在の格好は100%皇子様である。
そして彼らの現在のステータスは以下の通りである。
【名前】ヒューゴ=F=ファリアス
【年齢】13 【種族】人間
【職業】冒険者(Lv110) 聖龍騎士(Lv9) 皇子(Lv10) 【クラス】皇子騎士
【属性】メイン:火 水 土 光 闇 雷 空 サブ:風 時
【魔力】2,860,000/2,860,000
【状態】正常
【能力】攻撃魔法(Lv4) 防御魔法(Lv4) 補助魔法(Lv4) 特殊魔法(Lv4) 属性術(Lv3) 剣術(Lv4) 体術(Lv3) 鑑定 龍殺剣ペンドラゴン 勝者の簒奪 魔獣使いの秘技 竜炎の鎧 怒れる大地の炎 看破の魔眼
【加護・補正】物理耐性(Lv3) 魔法耐性(Lv3) 精神耐性(Lv2) 光属性耐性(Lv3) 闇属性耐性(Lv3) 火属性耐性(Lv3) 水属性耐性(Lv3) 土属性耐性(Lv3) 空属性耐性(Lv3) 雷属性耐性(Lv3) 風属性耐性(Lv2) 時属性耐性(Lv3) 毒耐性(Lv3) 麻痺耐性(Lv3) 火傷耐性(Lv4) 凍傷耐性(Lv2) 竜殺し 討滅者 王の器 聖竜の主 軍神オグマの加護 職業補正 職業レベル補正
【BP】91
【名前】ケビン=F=ファリアス
【年齢】10 【種族】人間
【職業】冒険者(Lv108) 森羅之魔術師(Lv10) 皇子(Lv9) 【クラス】未来の大賢者
【属性】無(全属性)
【魔力】3,700,000/3,700,000
【状態】正常
【能力】森羅魔法(Lv5) 剣術(Lv4) 体術(Lv3) 仙術(Lv4) 錬金術(Lv5) 賢者の指輪 大いなる解析者 賢者の瞳
【加護・補正】物理耐性(Lv2) 魔法耐性(Lv3) 精神耐性(Lv2) 全属性耐性(Lv3) 全状態異常耐性(Lv3) 竜殺し 学習者 王の直感 知恵の器 賢者の卵 詠唱破棄 思考加速 魔法神マナウィダンの加護 職業補正 職業レベル補正
【BP】15
【名前】ジャン=D=ファリアス
【年齢】13 【種族】人間
【職業】冒険者(Lv108) 合成術師(Lv9) 皇子(Lv6) 【クラス】新米皇子
【属性】メイン:光 風 サブ:火 雷 水
【魔力】2,400,000/2,400,000
【状態】正常
【能力】攻撃魔法(Lv3) 防御魔法(Lv3) 補助魔法(Lv3) 特殊魔法(Lv3) 斧術(Lv3) 体術(Lv3) 彫金術(Lv4) 鑑定 古代合成秘術 古代分離秘術 魔石生成 纏之秘技
【加護・補正】物理耐性(Lv2) 魔法耐性(Lv2) 精神耐性(Lv1) 光属性耐性(Lv2) 風属性耐性(Lv2) 火属性耐性(Lv1) 雷属性耐性(Lv1) 水属性耐性(Lv1) 全状態異常耐性(Lv3) 工芸神ベリサマの加護 成長補正 職業補正 職業レベル補正
【BP】50
--------------------------
――帝都タラ ファリアス宮殿――
その日、皇帝の謁見の間には大勢の人々が集められていた。
王侯貴族は勿論のこと、平民出身の騎士等も集められていた。
「オッホン!皆の者よ、此度は大陸四大国を狙った賊共からの帝国の――正確には帝都――の奪還ご苦労であった!フィンジアス王だけでなく、ゴリアス王やムリアス大公からも我が国への感謝の言葉が届いている!まだ国中に傷跡が残っているが、貴君らや多くの民達の不屈の意志ならば必ずや戦前の、いやそれ以上の繁栄を齎すことが出来るであろう!」
バカ皇帝は、一応は皇帝らしい威厳ある顔で謁見の間に集まった者達へ言葉を送っていった。
そして一通りの挨拶が終わり、本題へと入っていった。
「――――次に、今回の帝国奪還及び、賊討伐の貢献者達への褒賞授与を始める!」
そしてバカ皇帝の前に出たのはチームバカ皇子や、第六皇子ヴィクトールの部下――正確にはバカ皇女やバカ皇子2&3の元部下でヴィクトールに引き抜かれた者――達、それとファル村で魔法具を製作しているエルナやファル村や港町ヴァールの領主であるアンデクス伯爵等であった。
「まずはオトマール=F=アンデクス伯爵、此度の争乱の英雄である勇者に助力し、また、賊により行方知らずになっていた皇子達の保護、更には賊の一派から帝国を守った功績を賞し、ファリアス一等紅晶勲章を叙するものとする!」
「「「おおおおおおおおおお!!」」」
一気に歓声が上がった。
少しだけ説明すると、ファリアス帝国での一般的な勲章は20種類ある。
まず功績内容から紅晶、蒼晶、翠晶、黄晶の5つに分かれており、さらにそれぞれが一等から五等のランクに分かれている。
伯爵が授かった『ファリアス一等紅晶勲章』はその中でも一番上の栄誉ある勲章であり、これは主に救国の英雄など、よっぽど凄い功績でないと与えられない物である。
実は伯爵、士郎達の知らない所でコツコツと活躍していたりしていたのだ。
尚、勲章にはこの20種類以外にもあるのだが、それについては後々説明する。
「さらに、今までの南部地域での多くの功績も称え、爵位を伯爵位から侯爵位に陞爵するものとする!」
「ははっ!オトマール=F=アンデクス、今後とも帝国の為、民の為に謹んでお受けいたします!」
アンデクス伯爵―――いや、侯爵は多くの拍手に包まれながらバカ皇帝から勲章を授かった。
尚、侯爵の直属の騎士団達にも勲章が授与され、代表として騎士団長のヴィレムがバカ皇帝より勲章と褒賞を受け取った。
そして次はチームバカ皇子やチームヴィクトール達だった。
まずはその中でも貴族組から。
「――――以下の功績により、貴君らにはファリアス三等紅晶勲章と爵位を叙するものとする!」
チームバカ皇子の中でも貴族組は基本的に貴族の次男以下が多く、家の跡目になれない者達ばかりだった。
各々の家は跡目を継ぐ者をバカ皇子よりも次期皇帝と目されている第二皇子や第三皇子と親交を持たせ、余った・・・というか問題児で邪魔だったバカ息子達を一応は念の為にと、バカ皇子のところに放り込んでいたのだった。
だが、今回の戦争やクーデター事件の末、第二皇子と第三皇子の株は下がってしまい、逆にバカ皇子は誰もが予想できないほどの大活躍を帝都の貴族や民衆達に見せつけて大幅に株を上げていった。
まあ、それでも第六皇子には若干及ばないが。
賊の策略とはいえ、まんまと悪事――チームバカ皇子の暗殺とか――に利用されていた2人の皇子とその取り巻き貴族達の立場は微妙なものとなり、逆に捨駒同然だったチームバカ皇子は勲章だけでなく爵位まで授かる大出世を果たしたのだった。
「(……何故こうなった!?)」
「(噂では『群青の豪傑』殿に鍛えられて全員上位竜を倒せるまでに成長したとか……。)」
「(それは噂ではないですぞ!私の屋敷の庭にはバカ息子が持ってきたファイヤー・ドレイクが丸々1体が―――)」
「(我々の跡取りは第一皇子暗殺の共犯の容疑が掛かったまま。こうなれば、バカ息子達を持ち上げて……)」
チームバカ皇子(貴族組)の親達は複雑な心境の中、自分達の現状をどうにかしようと小声で相談し合っていた。
一方、そんな親の苦労を知らないチームバカ皇子はというと……
(やったぜ!これで独立貴族だ!)
(親や兄貴達に自慢できる!)
(俺、親より上の爵位を貰ちゃった♪)
(地獄の日々が報われたぞ~~~~!!!)
(俺の城を建てるぜ!!)
(彼女に告白できる!!)
大興奮だった。
ちなみに彼らに与えられた爵位は準男爵と男爵だが、一部にはクーデター事件で爵位を失った貴族や不幸な天災で壊滅寸前の某貴族の領地が与えられた。
余談だが、彼らはファル村で培った経験を元に領地を発展させ、10年後には全員爵位を上げていたりするのだが、今は誰もその事を想像すらできなかったのだった。
その話はいいとして、次に呼ばれたのはエルナだった。
「多くの魔法具を開発し、転移装置により各国との国交正常化に貢献した事を賞し、エルナ=シュナイダーにはファリアス一等翠晶勲章と準男爵位を叙するものとする!!」
「「「おおおおおおおおおお!!」」」
謁見の間は驚愕の声で埋め尽くされた。
これはファリアス帝国史上、初めて女性貴族が誕生した事による驚愕だった。
そしてこの瞬間、一部・・・というか半数近くの貴族夫人達の目が鋭く光った。
そしてその眼光は各々の旦那を貫いた。
「(これで世継ぎの心配は無くなりましたはね。あ・な・た?)」
「(跡取りを産む妾を用意しなくて済みますわね。オホホホホホ!)」
「(陛下、よくぞやってくれましたわ!)」
(((ヒィィィィィ!?)))
女性も貴族になれる。
それは既存の貴族の跡取りは男児でなくても良いと同義であり、女児しか産めず、跡継ぎをつくるという理由で旦那に浮気・・・妾を作られていた夫人達にとっては逆襲開始の合図でもあった。
この日を境に、帝国内における男女間のパワーバランスが大きく変動することになる。
「ホホホ!お父様、これは私が皇帝になりなさいということですね!」
(((んな訳ないだろ!!)))
約1名は勘違いしているようだが。
さて、残るは平民組となった。
「――――この者達に爵位を叙する!」
チームバカ皇子の平民組の約半数は新興貴族になった。
なれなかった者にも勲章が授与され、主にバカ皇子関連で苦労していた彼らの人生はこの日を境にさらに大きく動き出すのだった。
ただし、そのバカ皇子本人は心の中で無言の悲鳴を上げていた。
(うおおおおおおおおおん!!俺を1人にしないでくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!)
何だかんだで寂しがり屋なバカ皇子は、部下達の授爵に喜びつつも、すっかり大好きになっていた部下達が独立して自分の下から去るかもしれない――というか、領地も与えられた者もいるので確定済み――事態に心の中で悲鳴を上げていた。
事実、この後チームバカ皇子達の大半は素直に独立していく事になり、バカ皇子の下に残るのはモノ好きな6人の兵士だけとある。
バカ皇子を横から見ていた一部の弟妹達は、呆れつつも少しだけ同情していた。
「(……顔に出てるぞ。)」
「(なんか、可哀想だな?)」
「(後で兄さんを慰めに行こう。)」
ヒューゴ達3人も、何だかんだでバカ皇子が自分達の実兄として見ていたのだった。
兎も角、こうして一連の出来事による褒賞と爵位の授与は終わったのだった。
余談だが、今回この場には呼ばれてはいないが、港町ヴァールの商会「フライハイト商会」もまた、多くの貢献をしたとして、後日“皇族御用達”となり、1年後には大陸中に名を轟かせる大商会にへと発展する事になる。
--------------------------
――ファリアス宮殿 皇帝執務室――
「フウ、ホント疲れた~~~~~!」
「陛下、お疲れでしょうが、今日の仕事はまだ沢山残ってますぞ?」
「う~~~!子供達の愛で癒されたい~~~!!」
「殿下達ならさっさと宮殿を出ていかれましたので諦めて下さい。」
授与式の後、皇帝モードからすっかり平常モードに戻ったバカ皇帝は宰相に説教されながらも、渋々何時もの職務に戻ろうとしていた。
そこへ、扉を大きな音を立てながら開けて入ってくる者がいた。
「報告します!!クラン帝国とアルバン帝国が、ミストラル王国に宣戦布告しました!!」
「「―――――!?」」
バカ皇帝は瞬時に皇帝モードに切り替えた。
バカ皇帝は“アレ”から立ち直れたようです。
あと、ファリアス帝国では準男爵も世襲可能な正式な貴族です。(イギリスでは世襲不可能な一代貴族らしいです。)
*12/2 一部変更
感想、ご意見をお待ちしております。
評価もしてくれると嬉しいです。