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ボーナス屋、勇者になる  作者: 爪牙
番外編Ⅳ
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第164話 某国大統領、大魔王について語る

 番外編です。


――ワシントン ホワイトハウス――


 私はアメリカ合衆国大統領である。


 優秀な成績で名門大学を卒業し、尊敬する政治家の元で経験を積みながら力を身に着けてゆき、ついに先の選挙で大統領に就任した。


 我が国の愛する国民達の中には「アメリカは世界一」、「アメリカ最強」、「アメリカ大統領は世界の王」と言う者も少なからずおり、私も若い頃はそれを信じて疑わなかった。


 だが、それは無知ゆえの愚かな勘違いであると私は思い知らされていた。


 アメリカ大統領は世界の王?


 とんでもない!!


 大統領など所詮は社会の駒の1つに過ぎず、この国には我々など比べることすら憚れる恐ろしい存在が住み着いているのだ!!




――――アメリカ合衆国には大魔王がいる。




 これは我が国の深淵とも言うべきトップシークレットでもあるが、同時にこの国で真の意味で政治に携わる者なら誰もが知る常識でもある。


 ここホワイトハウスに残る歴代大統領が受け継いできた“秘密の手帳”によれば、彼の大魔王がこの国にやってきたのは20世紀初頭、第26代大統領セオドア=ルーズベルトの時代にイタリアからやってきたとされる。


 曖昧な言い方になるのは公式記録がなく、つまりは不法入国だからである。


 当時は今ほど脅威とは認識されておらず、セオドア氏も直接対面したのは任期を終える直前の1度だけだったということだ。


 彼が我々の明確な脅威となり始めたのはそれから数代後、第31代大統領の時代からとされている。


 気付けばこの国の裏社会では「大魔王」と呼ばれ、同じく気づけば我々の先人達からも「大魔王」と呼ばれるようになっていた。


 これはあくまで噂であるが、某歴代大統領は彼の恐怖に心身が耐え切れなかった為に突然死したという話があるが、あくまで噂の範疇を越えない話である。


 そして現在、彼こと『大魔王』ラートン=B=スプロット氏の一族の存在は、私も勿論のこと、この国の政財界の大物達の間では100回死んでも無視できない存在となっていた。


 国民達の多くは知らない事だが、ここで『大魔王』の一族が我が国で何を(・・)してきたのか、その一部を紹介しよう。




1、『某陸軍基地消滅事件』

 第2次世界大戦中、陸軍兵士の1人が『大魔王』の当時幼かった長女に暴行を働き、その報復として加害者である兵士が所属していた基地ごと消滅してしまい、当時の政府は大混乱した。


 後年、中央情報局(CIA)の命がけの調査の結果、消滅した基地は信じられない事に異世界(・・・)に強制転移したという、世間には決して発表できない事実が発覚した。


 余談だが、この事実が発覚するまでの間、我が国の軍内部では兵士の原因不明の神隠し事件(・・・・・)が何度も発生していた。


 真相は語るまでもないが。




2、『某諸島壊滅事件』

 その年、我が国の領内にある無人の島々が消滅した。


 調査の結果、『大魔王』が正体不明の相手との激戦により戦場が消滅したことが発覚した。


 『大魔王』の完全勝利だったが、それでも相手は彼に本気を出させる程の猛者だったらしく、その爪痕は決して小さくはなかった。


 当時の政府は事実を隠ぺいする為、表向きには核実験という事にした。




3、『未知からの侵略未遂事件』

 1965年、それは突然起きた。


 ニューヨークが原因不明の大停電に襲われ、同時にUFOが目撃された。


 世間には公表されていないが、これは宇宙人によるテロ……否、降伏勧告だった。


 だが、当時の政府は宇宙人に対して全く恐怖せず、全員「あ~あ、俺知~らね~!」と憐れんだ。


 日本的に言えば「飛んで火に入る夏の虫」だったのだ。


 詳細は不明だが、あの夜、『大魔王』の一族はUFOに突撃し、あっという間に制圧しただけでなく、宇宙人達の母星にも乗り込んだらしい。


 その日以降、我が国にはNASAを通じて、毎年この宇宙人達から謝罪等のメッセージが届くようになった。


 尚、そのメッセージの中に「あのう、そちらに失礼を働いた我らの同胞の行方を知りませんか?」という一文があったが、我が国は常に「知りません。」の返信し続けている。




4、『核弾頭全弾食物化事件』

 それは20世紀末、核廃絶運動が広がり始めている時に起きた。


 ロシアに次いで大量の核兵器を保有する我が国から、全ての核弾頭が消滅してしまった。


 原因は某テレビ局が放送した核実験をテーマにしたドキュメンタリーだった。


 その番組を見た『大魔王』の初玄孫(・・・)が核兵器に怯えて泣きだし、それを目にした『大魔王』は一夜にして我が国が保有する全ての核兵器をお菓子に変えてしまったのだ。


 あるミサイルはチョコレートになり、他にもエクレアやマシュマロ、キャンディー等になり、政府内は大パニックに陥り、この事実を隠蔽する為に多くの職員達が過労で倒れていった。


 余談だが、元核弾頭は美味しかったらしい。




 他にも星の数ほどの事件があるが、ここで紹介できるのはこの4件だけである。


 『大魔王』は私が大統領に就任する以前からホワイトハウスに平然と出入りし、勝手に飲み食いしたり料理したりなど、自由に利用している。


 そして時に、とんでもない爆弾発言をしたりもした。



『野党の上院議員(クソガキ)、お前らの暗殺を企んでるな?五流の奴なんかで成功するかよ。バカが!』



 CIAやNSAより遥かに優れた『大魔王』一族の情報網には私も何度か命を救われたものだ。


 その際、愚かにも彼らの機嫌を損ねた暗殺者と依頼者達は……言わないでおこう。



『―――商務省のガキ共、子飼いの成金共とつるんで俺をカモにしようとしてるみたいだなが、手前らもグルか?』


『『『うわあああああああああああああああああああああ!!!!』』』


『しょしょしょしょしょしょしょ、商務長官ををををををををををををを!!!!!』


『嫌だあああああああああああ!!!ジャングルはもう嫌だあああああああああああああああああ!!』


『牙がああああああ!!!T-レックスの牙がああああああああああああああ!!!???』



 それに、ほとんどが恐怖と絶望の惨劇だったりもするのだから。



『どっかの補佐官のバカ息子が俺の曾孫に手を………』


『もももももももももももも、申し訳ありませんでしたあああああああああああああ!!!!煮るなり焼くなり、どうぞご自由にいいいいいいいいいいいいい!!!!』



 気付けば私の部下達は、全員日本のDOGEZAをマスターしていた。


 この事実は当人達の面子の為にも、我が国の威信の為にも決して外には漏らせない事実である。



『うちのガキがよ、どっかのビーナス像の腕とか、ブッダの遺骨を持ってきてさあ……』


『知らない!!聞いてない!!』


 その日の夜、仕事を終えてホワイトハウス(マイホーム)に帰ってきた私の下に、復活した(・・・・)補佐官達が急いでその報せを伝えに来た。



大統領(プレジデント)!!大……ではなくて、Mr.スプロット氏が暫くの間、家族と日本(ジャパン)に滞在するそうです!!」


「「「!!!!!!!!!!!!」」」


「それは本当か!?」


「事実です!!大使と一部の諜報員の尊い犠牲のお蔭で確認が取れました!!」


「「「うおっしゃああああああああああああああああ!!!!」」」



 その日はUTAGEだった。


 高級シャンパンを皆で開け、一時ではあるが『大魔王』から解放された事を祝福しあった。


 シェフ達もノリでワインを一気飲みしていった。



「これは天が与えてくれた好機だ!!彼の居ない内にこの国の(よわみ)を手当たり次第排除するんだ!!」


「イエス、サー!!」



 その日から1週間、我々は限界突破の仕事ぶりを発揮した。



「――――Y下院議員が次男の交通事故の揉み消しをしてるそうです!地元警察に賄賂を……」


「親子一緒に逮捕!!被害者に急いで謝罪!!」


大統領(プレジデント)!!ロシアの某企業が――――」


「予算を横領している者が――――」


「中国がハニートラップを――――」


「全部纏めて始末だ!1人も逃すな!」



 与党(みうち)野党(よそ)も関係なく、禍根は手当たり次第潰していった。


 1つでも残れば取り返しのつかない事に成りかねないからだ。


 要は真面目に正しいことをしているだけなのだが。



大統領(プレジデント)!!CIAから“あの半島”の諜報員がスプロット家に潜入を謀ろうとしているとの報告が!!」


「バカか、あの国は?」→大統領


「……あの国、終わったな。」→補佐官


「結局、自分で死亡フラグを立てましたな。」→副大統領



 あの国は知らないのか。


 今では彼の故郷であるイタリアは勿論のこと、彼の祖母の故郷であるイギリスだけでなく、ロシアや他に国々も彼の一族に手出しはしないというのに。


 怒らせたら終わりだというのに。



大統領(プレジデント)!!シカゴの生花店『パラダイス・シカゴ』の前で中東の某国の諜報員達が発見されたそうです!!」


(((中東も終わったな……。)))→大統領+職員一同



 どうやら、彼らの事を詳しく知らない国は、彼の不在を好機と勘違いして動き出したらしい。


 あの国々は知らないのか?


 スプロット家で最も危険極まりないのは確かに『大魔王』の彼だが、スプロット家の現当主(・・・)はとうの昔に彼の息子に代替わりしている。


 『大魔王』の印象が強すぎたのだろう。


 まさか、同格以上の怪物(子供)達がいるとは想像すらできていないのかもしれない。



大統領(プレジデント)!!シカゴで某国の諜報員達が路上で失禁して倒れているとの報告が!!」


「「「あ~あ。」」」→職員一同



 某国は終わったな。


 あの国はテロリストとも繋がっていたから、テロリストも一緒に退場(・・)だろう。



大統領(プレジデント)!!あの半島の首都が物理的に斬られた(・・・・)との報告が!!」


「「「うわあ………!!」」」→内閣一同



 不幸な形で、幾つかの国外問題は解決の道が開けてしまったようだ。



「……大統領(プレジデント)、ロサンゼルスで天使と悪魔が戦っていると意味不明な報告が来てますが?」


「ああ、それはきっと彼の四男の次男の次男が戦っているんだろう。悪魔も彼が不在なのを好機と勘違いしてやってきたようだな。」


「あ、悪魔は実在するんですか!?」


「ここでは常識だよ?新人君。」



 ここでは俗世の常識は捨てなければならない。


 敬虔なカトリック信者も、ここでは信仰は控えなければならない。


 何故なら、年に何回かは天使を始め、『大魔王』の下僕と化した世界中の神々も来訪するのだから。


 今回のはおそらく、『エノク書』に登場する天使、神の創意(サハクィエル)だろう。



「大統領!!御嬢さんがスプロット氏の玄孫とデートしているそうです!!」


「ノオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」



 この世は理不尽だああああああああああああああああああああああ!!!!






--------------------------


――数日後――


 大魔王が日本に滞在して約1週間、最初は多忙だった職務も大分落ち着きを取り戻し始めていた。


 この数日間で世界の情勢は大分変化していた。


 自業自得にも滅んだ国もあった。



「―――大統領、某国の組織から「自首するから助けて!」とのメールが届いていますが、どう致しましょう?」


「……()を怒らせたのか。」


「はい、今回は孫です。」



 この国から『大魔王』が居なくなってからというものの、調子に乗って問題を起こす組織や個人が次々と彼の家族に潰されていった。


 お蔭で現在、『大魔王』ファミリーの知名度が裏世界で急激に上昇しつつあった。


 だが、彼らの多くはまだ知らないだろう。


 この世には、『大魔王』も逆らえない存在がいるという事に……。



「大統領!!日本のデイビス大使から緊急連絡です!!」


「何!!生きてたのか!?」


「はい!生きてました!!」



 その日、てっきり再起不能になっていると思われた日本にいる我が国の大使から緊急連絡が入った。


 いや、我々はちゃんと彼の生存を信じていたとも……本当だとも。



「今から70分前、日本の名古屋市(ナゴヤシティ)で大魔……スプロット氏が夫婦喧嘩を始めたそうです!!そして負けたと!!」


「「「!!??」」」→ホワイトハウスの愉快な皆さん



 救世主キタ―――――――――――――!!!



「詳細は調査中とのことですが、スプロット氏は夫人と一緒に夫人の実家(ブルガリア)に家族と一緒に向かったとのことです!!」


「「「よっしゃあああああああああああああああああああ!!!!!」」」



 我々は約1週間ぶりに大歓声を上げた。


 我等にとって恐るべき存在である『大魔王』、理不尽の権化である『大魔王』を確実に制圧できるこの世で唯一無二の存在、それは彼の奥さんであった。


 あの方は聖女である。


 『大魔王』の暴虐も一瞬にして止めてくれる聖女、噂ではバチカンは秘密裏にあの方を聖人認定しているとのことだ。


 その聖女様が久しぶりに『大魔王』を大人しくさせ、更に別の国へと連れて行ってくださった。


 これは私が大統領になってから一度も無かった奇跡だった!!



「今夜もシャンパンを開けるぞおおおおお!!!」


「「「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」



 その後、さらに半月ほどホワイトハウスは平和に包まれた。


 後日、欧州連合(EU)から色々と要請が来たが、我々は全部無視した。


 ガンバレ欧州!!







 余談ですが、ロシアやインドも大魔王の被害に遭ってますが、必死に隠していますwww

 次回は久しぶりに異世界ルーヴェルトのお話です。

 勇者が帰省している間に、向こうでは何があったのでしょうか?


 感想、御意見お待ちしております。

 評価もしてくれると嬉しいです。



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