第157話 ボーナス屋、繁華街に着く
『ハッピーハンター』――――プレイヤーの総数が20名という少人数であるにも拘らず、他のゲームと同様に対戦という要素が入っている。
プレイヤー同士が一定距離内で接触すると自動的に大戦がはじまり、アプリから《結界魔法》が展開されてプレイヤーは一般人には認識されない結界に飲み込まれバトルをする事になる。
勝者は敗者が保有する全てのLPと、相手が持っている才能や能力の中から好きなものを10個をゲットする事ができる。
更に特典として、通常プレイでは入手不可能な、アバターを格段に強化する“何か”が入手する事ができる。
「――――消費50!くらえ!!」
「なっ!?」
ランキング第5位のスマフォから火の玉が発射され、それはランキング第10位に直撃する。
「熱ッ―――!!」
「もっといくぜ!!燃焼せよ我が魂!我の100の薪を業火の糧とし、我に立ちはだかる敵を魂もろとも焼き尽くせ!!」
湊太は真っ赤に燃える小さな太陽を出現させる。
「弾けろ!!CHU-Ⅱ式対人灼熱砲!!」
「ぐああああああああああああああ!!!」
小さな太陽に飲み込まれ絶叫する大河。
勝負はあっけなく着いた。
「――――つまらぬものを焼いてしまった。」
「がっ・・・はぁ・・・!」
「・・・あんた、貯めたLPで自分の強化をあまりしてなかっただろ?ま、お陰で俺は儲けたけどな♪さあて、戦利品は何がいいかな?」
湊太は戦利品を選んでいく。
そして同時に新たな特典が彼に贈られてきた。
対戦勝者に贈られる新たな特典、それは〈種族変更〉だった。
〈種族変更〉――――これを装備し、なりたい種族を選択した瞬間、彼は人間を辞めることになる。
「安心しな。ここでのダメージは全部ニセモノだからすぐに痛みも消えるよ!」
そして湊太は対戦を終了しようとした。
その時だった。
《他のプレイヤーと接触しました。》
「え?」
「へえ、面白そうなことをしてんじゃねえか?」
ランキング第1位が彼らの前に現れた。
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俺達は繁華街に到着した。
俺の情報によれば、現在この繁華街に複数人のアプリ所持者達が集まっている。
神様クエストを達成する為、俺はターゲットを捜・・・
「キャア~!!この子達可愛い~!!」
「えへへ~♪」
な、何だ!?
ちょっと目を離した隙に銀耀とルチオが女子高生にモテまくっているだと!?
「見て見て、マジ銀髪!私、地毛で銀髪なんて初めて見た~!超綺麗!なんかリッチって感じ?ロイヤルな色に見えるんだけど!?しかも超可愛い!!私一人っ子だけど、こんな弟がいたらCBH!!あ、写メ写メ♪」
「ヤバい!私の中の何かが目覚めてしまいそう!?これって母性本能!?う~~~彼氏欲しい~~~!!できれば可愛くて優しい系希望!!」
「あんたのそれはショタコンっしょ?あたしはこっちの栗毛がイイかも!ヤバ、バッテリーがギリギリっ!誰か携帯バッテリー持ってない?」
「ねえボク?お姉ちゃん達と一緒にケーキ食べにいかない?お姉ちゃん、美味しい店知ってるんだ~!」
「行く~♪」
「コラ!」
オチビ、知らない人について行っちゃいけないって教わらなかったのか!
それにしても、テンションの高いJKだな~?
「兄で~す♪」
「うわ!こっちもマジシルバー!?なんかロイヤルなんですけど~~~!」
「シルバーな兄弟?なんだかロイヤルなにおいがプンプンするんだけど!!しかも兄弟揃ってイイ素材してない?」
そりゃあ、龍王+弟だからな。
100%ロイヤルだろう。
「こっちの栗っ毛もなんだか気品?みたいなのがある~!!可愛いし持ち帰りた~い!!」
大魔王の直系だからな。
それと持ち帰るのはよせJK、自宅に大魔王が来襲しても知らないぞ?
いや待て、このままコイツラをここに置いていくって手もあるか?
「―――――イヤ!放して!!」
「イイから来なさい!!」
ん?
なんかトラブルが起きたか?
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『ハッピーハンター』ランキング第2位の村瀬姫奈はお嬢達に絡まれていた。
「ちょっと村瀬さん、私達に付き合ってくれませんか?」
「え、何で・・・ですか?」
「イイから来なさい!輝香様に逆らう気?」
「え、でも私は・・・」
「まあ、下流の娘の分際で上流の中でも更に上流であらせられる輝香様に口答えをするなんて信じられませんわ!輝香様、ここはキツイお仕置きが必要では?」
「翠さんの言うとおりです!ほら、早くこっちに来て輝香様に非礼を詫びなさい!」
「――――イヤ!放して!!」
「イイから来なさい!!」
嫌がる姫奈の腕を引っ張るお嬢達。
彼女達は最近の姫奈の様子を不審に思っていた。
選ばれた、いずれは世界で名を馳せる立場にある自分達の成績が落ち、逆に自分達に使い潰される運命にあるはずの姫奈の成績が上がっていることが気に入らないのだ。
『下流の女が何か汚い手を使ったに決まっている!』
根拠もなくそう決めつけたのだ。
あながちハズレてはいないが・・・。
とにかく嫉妬である。
生まれつき才能にも家庭環境にも恵まれていた彼女達は世の中の大多数を占める一般人をあからさまに見下し、必死に努力をしている人の姿を笑い飛ばし、自分達は対して努力もしていなかった。
身に付ける物はどれも一級品、知人友人は将来を約束された名家の令息や令嬢ばかり。
勉学は親が雇った家庭教師に教わり、試験の成績は常に上位で無駄にプライドが高かった。
そんな彼女達のプライドは、最近はことごとく傷つけられていた。
逆に見下していた相手に追い越されたのだ。
そして嫉妬、現在に至る訳である。
「さあ、私達に謝りなさい!」
「何で!?私は悪いことをしていないのに!」
「嘘つきですね。貴方ごときが私達より良い点数をとるわけがありません。一体、どのような汚い手を?」
「本当です!!」
姫奈は嘘を言ってはいない。
彼女は確かに『ハッピーハンター』で自分を強化したが、それでも成績が上がったのは日頃の努力の成果であるところが大きい。
一方、お嬢達の方は『ハッピーハンター』で幸運を喰われているが、成績が落ちたのは単なる自業自得、テスト日前夜にパーティに出かけて勉強していなかったり、自信過剰で解答用紙を確認せず、記入欄がずれたことに気付かなかったりである。
つまり八つ当たりである。
「さあ、謝りなさい!私達はこんな下々の中にはいたくないんですから!」
「い、嫌っ!!」
「おい!その子、嫌がってるだろ!」
その時、姫奈を無理矢理土下座させようとする手を1人の少年の手が掴んだ。
「・・・え?」
「大丈夫か?」
そして姫奈は運命の出会いをしたのだった。
異世界帰りの勇者の登場である。
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一方その頃、同じ繁華街の別の場所では――――
「ハハハハハ!!スゲエな、このゲームにこんな秘密があったのかよ?こりゃあ最高だなあ!!なあ、お前らもそう思うだろ?」
「「―――――はい。」」
信愛の質問に、大河と湊太は虚ろな瞳をしながら返事をする。
2人は信愛との対戦の末に敗北し、全てのLPを失っただけでなく、心まで奪われていた。
「ハハハハ、マジで俺の人形になってやがる!!サイコーさな、この《支配の魔眼》ってのは?」
信愛は新たな魔眼を手に入れていた。
その瞳を見た者の心を支配し、自分の思い通りにする《支配の魔眼》を。
彼は敗者となった2人の心を奪い、自分の僕に変えていたのだった。
さらに彼は、2人に対戦で勝ったことにより2つの特典を獲得していた。
「へえ、コレが特典か?〈魔進化〉に〈魔改造〉、俺にピッタリじゃねえか!」
詳細説明も碌に読まず、信愛は迷わずこの2つの特典を装備する。
そしれ下僕化した2人を連れ、移動を開始したのだった。