第156話 ボーナス屋、寄り道する
――名古屋市 某女子高――
『ハッピーハンター』ランキング第2位、村瀬姫奈は1ヶ月前までボッチだった。
各界の令嬢が多く通う名門女子高に通う彼女は「家庭が下流」という理由で孤立し、周りからは嘲笑され続けていた。
つまりイジメである。
下手に反抗すれば彼女達は親の力も使って仕返しをしてくる。
なにせ、姫奈の父親が働いているのは彼女をイジメる女の親が経営する会社なのだから。
大家族を養う両親の為にも姫奈は学校での日々に耐えていた。
だが、『ハッピーハンター』が彼女の運命を変えた。
(やった!過去最高点!)
最初の数日間、姫奈は『ハッピーハンター』をゲームだと思っていたのでアバターの強化を己の願望のままに行った。
アバターを理想の自分に近づけていく。
運気も上げ、周りの声を気にせずに済むように集中力も上げ、苦手な教科の才能を上げた。
そして彼女が『ハッピーハンター』の力に気付いた時には彼女の環境は変わっていた。
(小テストだけど、初めて最高得点がとれちゃった!)
願望のままに己を強化し続けた姫奈の学力は学年上位にまでになっていた。
以前より集中力と記憶力が上がったことで勉強が捗り、精神力も上げたので心に余裕が生まれた結果だった。
一方、他の生徒はというと・・・
「え・・・私が補習?」
日頃から真面目に勉強はせず、教師に便宜をはかる事で成績を維持した者は過去最低点で補習行きになった。
「か、カンニングなどしてません!したのはあそこの庶民ですわ!」
実はカンニング常習犯だったものは生徒指導室直行となり、そのまま停学処分になって校内での名声を失った。
「そんな・・・解答欄を間違えるなんて・・・。さ、最下位!?」
学年1位の女王は解答欄を間違えて最下位に転落、他のクラスの生徒に女王の座を奪われてしまった。
無論、補習行きである。
「違うんです校長!私は生徒の親から何も受け取ってません!」
何故か某教師は不正が校長に知られ、停職に追い込まれてしまった。
とまあ、こういった感じである。
そして勉学以外では・・・
「嘘よ!パパが逮捕だなんて・・・!?」
ネットのニュースで父親が逮捕されたことを知る者。
ちなみに、某大手企業の重役の娘である。
「え?パパが警察に自首?」
家族からのメールで父親が警察に出頭したことを知る某市長の娘は事実をすぐには理解できなかった。
彼女達(+某教師)は姫奈にLPをハントされたことにより、今まで幸運過ぎた人生に幕が降り始めていたのだった。
もっとも、中には親の不幸に巻き込まれただけの者もいたが。
そんな事があったその日の放課後、彼女は久しぶりに笑顔で下校しようとしていた。
「早く帰ってお母さんに教えよ♪」
久しぶりに母親に喜ばれる報告ができることに姫奈は本当に幸せを感じていた。
大家族を養うために休日も近所の店でパートをしている母親を彼女は誇りに思っていた。
「本当に凄いなあ、このアプリ。神様からの贈り物かな?」
姫奈は最近になって『ハッピーハンター』に不思議な力があることに気付いてからはあまり乱用はしていない。
それはリスクを考えているわけではなく、普段からの貧乏性のせいでハントしたLPの多くを貯め続けているのだ。
しかも彼女がターゲットにしていたのは主に学校にいる人、つまり普段から人より幸せを謳歌しいるせいか保有しているLPが多い人ばかりなので1回のハントでゲットできるLPも経験値もかなり多く、ターゲットの数こそ少ないが気付けば全プレイヤー中第2位になっていたのだった。
「・・・ちょっと使ってみようかな?」
姫奈は久しぶりにアバターの強化を始めた。
そして、彼女が新たにアバターに装備させたのは〈恋愛運〉と〈運命〉だった。
彼女も年頃の少女、恋愛の1つもしたいのである。
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――名古屋市 とある商店街――
繁華街に向かう途中、俺は近くの商店街の前を通っていた。
今日は月曜日、本屋でジャ〇プを買うために寄ったのだ。
「ヤッホ~♪」
「まだ名古屋にいたのかよ。」
本屋には銀洸がいた。
「僕もいるよ~!」
「こんにちわ!」
銀耀とルチオもいた。
おい、お前らはアメリカ在住じゃなかったのか?
「大爺ちゃまについてきました!」
ああ、大魔王の付き添いか
って、近くにいないよな、大魔王!?
「大爺ちゃまは仕事で防衛省に行ってます。」
「はたらく大魔王~♪」
「・・・乗っ取られたりしないよな?」
大手企業、名古屋市と続いて今度は防衛省が大魔王のターゲットになってしまったか。
自衛隊を異世界や戦国時代にトリップさせてたりして・・・?
有り得そうで怖いな。
「あれ~?士郎から神様の臭いがする~?」
「――――ッ!」
こいつ、なんて鼻がいいんだ!?
神様先生達からは出稼ぎしているのを口止めされているから、この場はどうにか誤魔化さないと!
「お、お前らは買い物か?」
「うん!」
「そうだよ~!士郎は~?」
「じゃあ、俺はこれから繁華街に行くからまた後でな!」
「じゃあ、僕達も行く~!」
な、何だですと!?
「士郎からなんだか面白い事が起きそうな匂いがするんだよね~?」
こいつ、一体どんな嗅覚をしているんだ!?
実は全部お見通しじゃないだろうな?
「駄目!!」
「「え~~~?」」
「「え~?」じゃない!!」
「でも~、絶対何かありそうな気がするんだよね~?」
「僕も~!」
「大爺ちゃまが、面白そうなことには積極的に関われと言ってました!勿論、保険付きで!」
大魔王、余計な事を・・・。
その後結局、俺は銀洸達を振り切る事が出来なかった。
――――ピロロ~ン♪
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『大魔王、防衛大学校で臨時教官をする』
大魔王は防衛省に勤める知人の依頼で防衛大学校を訪れ、若い幹部候補生達をかなり手加減しつつ鍛えた。
訓練内容の詳細は不明だが、異空間の中で行われた模様。
明日以降は現役自衛官も訓練される予定である。 この事実は防衛省内部だけのトップシークレットであり、現内閣で知っているのも防衛大臣1名だけである。
尚、大魔王の受け取った報酬は東京ディズニーランドを含めた日本国内の全テーマパークのフリーパス、家族全員分である。
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哀れなり、自衛隊。
あ、ジャ〇プ買わないと!
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――名古屋市内 繁華街――
士郎達が本屋でジャ○プを買って繁華街を目指して出発した頃、繁華街の一角ではある騒ぎが起き始めていた。
《他のプレイヤーと接触しました!》
「は?」
『ハッピーハンター』ランキング第10位、広田大河は意味が分からず首を傾げた。
「よっし!繁華街ならいると思ってたぜ!」
『ハッピーハンター』ランキング第5位、平塚湊太は自分以外のプレイヤーを発見した事を喜んだ。
ここ、名古屋の繁華街の一角においてプレイヤー同士の対戦が始まった。
「苦労したんだぜ?このゲーム、プレイヤーがたったの20人しかいないから探すのが大変なんだよ。ま、その分、見返りがでかいんだけどな?」
「何の話だ?」
「その様子だと、他のプレイヤーと会うのは俺が初めてみたいだな?カモ決定!」
「だから何の話だ!?」
困惑する大河をよそに、湊太はスマフォを操作して攻撃を開始する。
狙いは大河が保有する全てのLP、そして彼の持つ能力全て!
「俺のチート化の為の糧になってくれよ?」