第154話 ボーナス屋、学食に行く
――某公立高校 学生食堂――
お昼になった。
俺は仲のいい同級生と一緒に学食に来ていた。
うちの高校の学食は名古屋の公立校の中では指折りの美味さで大評判で、年に何回かは地元新聞で取り上げられたりもしている。
作っているおばちゃん達曰く、「ここに来てから、不思議なくらい料理の腕が日々上達している」とのことだ。
気になって《ステータス》で調べてみたら、某家庭科教師の加護があった。
加護の内容は生産特化で、料理技能成長補正があった。
「・・・やりたい放題だな。」
「何か言ったか?」
「いや・・・。」
ここは感謝すべきだろう。
お蔭で俺達は低価格で美味しいランチを食べる事が出来るんだからな。
と、ここで俺は食堂の隅っこに人物に俺は気付いた。
「・・・佐原?」
そこにいたのは、昨日まで俺に絡んできては罵詈雑言を吐いていた佐原宗二だった。
正直、奴がここにいるのは珍しい。
何時もなら、家政婦が作った豪勢な弁当を自慢しながら教室で食っていたのに、今日は何故か隅っこでチャーシュー麺を1人で食べていた。
取巻き達を捜してみると、別の座席でポツンと座りながら日替わり定食Aを食っていた。
というか、佐原も取巻き達も揃って暗過ぎる。
「なあ、あいつ等何であんなに暗いんだ?」
俺は佐原達と同じクラスの奴に訊いてみた。
「ああ、なんだか全財産の殆どを失ったみたらしいぞ?万札とカードが入った財布をスラれて、銀行にあった金の殆どが下ろされたんだってさ、全員!」
「うわあ・・・・。」
「しかも佐原の親父が脱税で捕まっただろ?それで家の中の物もいろんなところから差し押さえられたとかで、親の財布も寒くなってるんだってよ。家政婦も辞めちゃったらしいから今日から学食らしいぞ?」
「取巻きの連中も、家に強盗が入って現金や預金通帳に車も盗まれたらしいぜ?俺ん家、あいつ等の家と近所だから朝近くを寄ったら近所のババア達が噂してたぞ。」
「え?父親がリストラされたとかじゃなかったか?」
「僕はカツアゲした中学生のお姉さんが女子プロだったとかで絞められたと・・・」
「親が浮気相手と駆け落ちしてとか・・・」
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1人に訊いたつもりが、その他大勢も集まってきちゃった。
ペナルティの効果スゲエな。
「歓楽街でナンパしたら逆レ〇プされたらしいぞ?」
「「「うわあ・・・・。」」」
どこまで本当かは知らないが、俺は気付かれないように話の輪の中から抜け出した。
俺はカツ丼セットを食べながら、神様先生に頼まれた2つ目の依頼の話を思い出していた。
『―――――街の人にボーナスを?』
『大羽達に能力を与えた男は、世界の均衡も考慮した上でお前達を選んだようだが、それでも資格がありながら選ばれなかった者も数多くいる。不公平とまでは言わないが、若干、町の彼らの運命にも悪い影響が出始めている。それだけなら、まだ無視しても問題無いのだが、先に頼んだ「原因不明の不幸」が悪い具合に彼らの運命を狂わせているわけだ。』
『しかも器用に加減をしてて、神が介入できない――どの道、神は現世に不介入が基本だが――ギリギリの範囲でやっているから先生達は直接解決に動く事が出来ないのよ。』
『まあ、人間の問題は人間に解決してもらうのが理想なんですけど。神が現世で力を使えば、それだけでバランスに影響を及ぼしますから。』
『それに対して大羽くんの能力は、その規格外ぶりにも拘わらず、世界そのものへの悪影響がほぼ皆無なのよ。正直私が欲しいくらいよ。』
『要約すればだな、大羽の能力をこっちでももっと広く活用してほしい訳だ。これはあくまでついでだから無理ならやらなくていいからな♪』
『先生、なんか面白がってない?』
俺のチートは神様も羨むほどらしい。
確かに見方によっては神の所行にも近いからな。
神や魔王にも有効だったし。
「はあ・・・。」
「ん?」
不意に後ろからため息が聞こえてきた。
振り向くと、1人の女子が重い空気を纏いながらナポリタンを食べていた。
なんか、幸薄そうだ。
「・・・志望校、変えようかな?」
受験・・・3年生か。
見た感じ、最近の成績が芳しくなく、志望校を変えようか悩んでいるようだ。
試しにステータスを視てみる。
【名前】山田 幸子
【年齢】18 【種族】人間
【職業】高校生(3年) コンビニ店員 【クラス】アルバイトJK 幸喰われたJK
【属性】メイン:火 サブ:風 木 土
【魔力】930/930
【状態】吸運 知力低下 精神力低下 才能低下 技能低下
【能力】――
【加護・補正】魔法耐性(Lv2) 毒耐性(Lv1) 幸運を喰われた少女 肥満知らず 健康胃腸 近視 努力家 歴女 幸喰い後遺症
【BP】79
いきなりビンゴか?
神様先生が言っていた「謎の不幸」の被害者だ!
なるほど、幸薄くて暗そうなのは幸運を喰われた上に、精神力が低下したせいか。
知力も低下してるから成績も良くないわけだ。
「はあ・・・。」
また溜息吐いた。
なんだか安心して食事ができなくなってきたな。
ここは俺が解決してやるか!
けど、施設の先生の時もだけど、こっちの一般人には能力系ボーナスは選べないんだよな。
あげた途端に魔力に目覚めたりしてパニック起こされるし、そんな事になったら受験どころじゃなくなるのは必至だ。
要は魔力が関係無いボーナスにすればいいんだけどな。
知識系とか、補正系とか、他には何か無いかな?
《一般才能・技能系ボーナス》
・魔法等のように魔力と直接関係ない技術と才能を与えるボーナス。
・例:〈料理の才(Lv2)〉、〈文学の才(Lv4)〉、〈歌唱(Lv1)〉、〈空手(Lv2)〉
・才能のレベルは能力・補正と同じく最大レベル5、技能のレベルは熟練度で最大上限は才能に依存する。
・尚、このボーナスは知識系ボーナスと同様にステータスには表示されませんが、当システムでのみ確認が可能となります。
都合のいいのあった!
新たに追加されたボーナスなんだろうけど、今まで気付かなかったな?
これもゲームっぽくていいな♪
俺は箸を進むながら俺にだけ視える画面を操作していった。
【山田幸子の一般才能・技能】
(表示形式:才能順)
・〈数学の才(Lv3→1)〉:〈暗算(Lv24→11)〉、〈高速演算(Lv22→9)〉、〈数値解析(Lv25→10)〉、〈図形理解(Lv28→8)〉・・・
・〈語学の才(Lv4→1)〉:〈現代文(Lv26→7)〉、〈古文(Lv25→10)〉、〈漢文(Lv22→5)〉、〈英語(Lv24→10)〉、〈英会話(Lv17→4)〉・・・
・〈歴史学の才(Lv4→1)〉:〈日本史(36→20)〉、〈世界史(Lv39→20)〉、〈仏教史(Lv30→15)〉、〈キリスト教史(Lv32→13)〉・・・
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歴女だけに歴史の才能と技能のレベルが凄いな。
勉強の才能だけで既にチートだ。
けど、どれも才能低下や技能低下の影響でガクッと下がっている。
これって〈全状態異常無効化〉で治るのかな?
――――駄目だった。
〈全状態異常無効化〉は毒や麻痺を無効化させるようだ。
何か他にはいいのはないのか?ステータス異常無効化とか?
〈全能力異常無効化〉 60→40pt(期間限定特別価格!)
・攻撃力・防御力・知力などの身体能力及び、才能や適正レベルが外的要因での低下を無効化する。
・病気を含めた内的要因による低下は無効化できない。
あったけど、「期間限定特別価格!」ってのは何だ!?
まあいいや、取り敢えずこれを交換させよう。
と、ここで俺はふと思った。
俺達が交換して手に入れた〈職業補正〉、〈職業レベル補正〉を彼女に与えたらどうなるのだろうかと?
レベルは別に戦わなくても上がるし、上がればポイントも貯まって便利だ。
魔力とは直接関係は――レベルアップごとに上昇するが――あるかどうかは微妙だが、試してみるのはいいかもしれない。
チョットした賭けだけど、やってみるか!
あとは受験生だし、体を壊さないように―――っと!
〈全能力異常無効化〉 40pt
〈職業補正〉 10pt
〈職業レベル補正〉 15pt
〈安眠熟睡〉 10pt
〈体力上昇〉 4pt
合計79pt 残り0pt
「―――あれ?なんだか元気が出てきた?」
効果が出てきたようだ。
ステータスの異常もしっかりと消えている。
【名前】山田 幸子
【年齢】18 【種族】人間
【職業】高校生(Lv1) アルバイター(Lv1) 【クラス】アルバイトJK
【属性】メイン:火 サブ:風 木 土
【魔力】930/930
【状態】正常
【能力】――
【加護・補正】魔法耐性(Lv2) 毒耐性(Lv1) 全能力異常無効化 幸運を喰われた少女 肥満知らず 健康胃腸 近視 努力家 歴女 安眠熟睡 職業補正 職業レベル補正
【BP】0
余談だが、彼女は某国立大学文学部へと進学し、在学中に作家デビュー、大学卒業後は何度も挫折を乗り越えてノーベル文学賞を受賞することになるのだが、当時の俺にはそんな事など知る由もなかった。
「うわっ!もうこんな時間だ!」
ボーナス交換に夢中ですっかり昼休みの時間が減ってしまっていた。
俺は残りのカツ丼を急いで食べ終え、返却口に食器を返して教室へと戻った。
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――1年D組――
教室に戻る途中、色んな生徒のステータスをチェックしてみると、山田幸子と同様に幸運を喰われている生徒は4人程見つけた。
山田先輩と同じ〈全能力異常無効化〉を与えたら全員元に戻った。
だけど途中で俺は気付いてしまった。
「・・・《勇者之魔法》でも治せるんじゃね?」
山田先輩を含めて3人目のステータスを視た時点で気付いた俺は、怪しまれないようにすれ違う瞬間に《勇者之魔法》の中にある回復系魔法を使ってみた。
結果、できました。
山田先輩てその他のみなさん、ポイントを無駄遣いしてごめんなさい。
俺はすぐに遠隔操作でリセットし、替わりに才能を上げたり、各能力値を上げておいた。
上手くすれば、みんな大物になるだろう。
「さてと!」
席に座り、思ったよりまだ時間に余裕があったから、依頼された怪事件の捜査を始める。
方法は勿論、毎度お馴染みの《摩訶不思議な情報屋》だ!
検索ワードは「名古屋」、「幸喰い」、「犯人」っところだな。
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『検索:名古屋の幸喰いの犯人』
実行犯は名古屋市在住の20人の若者達。
彼らは約1ヶ月前に謎のサイトからダウンロードしたアプリ、通称『ハッピーハンター』を使い不特定多数の人間から幸運や才能を狩り自分のものにしている。
実行犯の大半は遊び気分で自分達がしている行為をしっかり認識してないが、中には気付いた上で他人の運を狩り、ギャンブルで儲けている者もいる。
アプリには複数の制限がかかっており、そのせいで被害の規模は神にしか気付かれない且つ、神が干渉できないレベルに収まっている。
真犯人は《隠形術(Lv5)》を使用しているの為、現在の当システムのレベルでは特定不可能。
実行犯は以下の通りである。
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