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ボーナス屋、勇者になる  作者: 爪牙
その頃のとその後(仮称)編
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第143話 エーレ王国、破滅する 前編

 今回はエーレ王国のお話です。

 士郎が遺跡内部にいる間に何があったのか、というお話です。


――エーレ王国 王都エイラン エイラン城――


 士郎達がドルドナ遺跡に潜っている頃、遠く離れたエーレ王国の王都エイラン、その中の高台に堂々と聳え立つエイラン城にはエーレ国内から多くの王侯貴族が集まり宴が催されていた。


 高級食材をふんだんに使った高級料理、王家御用達の商会が用意した高級酒を貴族達は遠慮することなく飲み食いしながら楽しいひと時を過ごしていた。



「国王陛下、ゴリアス国の方は上手く進んでおられるようで何よりです。」


「うむ。此度の件は貴公の働きが大きいものであった。今後も我がエーレ王国の繁栄の為、力を貸してもらうぞ?」


「ハハ!全ては陛下の御心のままに!」



 エーレ王国の現国王であるハウエル=L=エレルードは忠臣達からの祝福の言葉に上機嫌になっていた。


 今夜の宴は前祝い。


 ゴリアス国を手に入れ、ゆくゆくは大陸全土を手に入れる栄光への第一歩を祝う宴だった。



(フハハハハ!!もう笑いを堪えるのも限界だな♪まさか私の代でこれほどの好機が訪れようとは思わんだ!)



 全てが自分に都合よく働いているとハウエルは思った。


 ダーナ大陸南部を支配するフィンジアス王国とファリアス帝国の戦争、行方不明のゴリアス国の先王夫妻、ムリアス公国の公太子の独断行動、聖国内部の腐敗因子、その全てがエーレ王国の、正確には国王ハウエルにとって好都合だった。


 目指すはダーナ大陸の頂点!


 ハウエルはそれが夢物語ではなくなったのだと確信していたのだ。



「父上、今日の宴は素晴らしいですね。特に酒の品揃えが実に良いです!」


「おお!楽しんでいるようでだな。ソード?」



 ハウエルの下にやってきたのは、次期国王であるソード=R=エレルードだった。


 贅ん尽くした衣装を身に纏い、右手には澄んだ赤色をした葡萄酒が入ったグラスが握られていた。



「うむ!確かに今日の酒は絶品だな!」



 息子と同じ酒を飲み、ハウエルは更に上機嫌になる。


 そこへ更に無駄に派手な格好をした少女がやってくる。



「お父様、お兄様、今夜はレリアも楽しいですわ♪」


「レリアか。新しいドレスがよく似合っておるな?」


「ありがとうございます♪」



 第一王女レリア=J=エレルードは新しいドレスと自分を褒めてもらって上機嫌になった。


 年の割に体が小さいことを気にしており、順調に成長している同性に対して嫉妬ばかりしていたレリアも今夜はかつてないほど上機嫌だった。


 彼女も、いや、彼女だけでなくソードもまた父親と同様に全てが自分達に都合よく動いていると思っているのだ。



「レリア、今回の件はお前のお手柄だな?」


「うむ!ゴリアスだけでなく、ロホやウーイルも同時にハメる策、見事であった。さすがは私の自慢の娘だ!」


「そんな、照れますわ。私はただ、エーレにとって不利益な者達を片付けるように父上に頼んだだけですわ。」



 レリアは頬を紅く染めながら父と兄との会話を続けていった。



「そもそも、由緒あるエーレに降らない下等な国の姫ごときが私達の足元で彷徨くなど、この国(私達)にとって害悪でしかないのです。なのに、あの汚らわしい姫達はその事を理解しないどころか、卑怯な手を使って私を貶めたのです。罰を受けるのは当然のことですわ。」


「ハハハ!レリア、意地悪はよくないよ?父上はレリアを褒めたいのだから。」


「良い。レリアが我が国の姫として成長しておるのが実感できるだけで私は幸せなのだ。」


「お父様・・・!」



 レリアは嬉涙をこぼす。


 彼女は生まれた時から両親や兄弟に愛され続け、父のハウエルと兄のソードもレリアを可愛がっていった。


 だが可愛がり過ぎたが故、レリアの性格は次第に歪んでいった。


 自分はこの世で最も美しく尊い乙女であり、世界中から愛されるべき高貴な存在であると本気で思いこみ、自分以外の女は(母や祖母を除いて)自分の足元にも及ばない下等な存在だと考えていた。


 更に、自意識過剰な兄ソードの影響か、それとも娘に過保護な父ハウエルの影響なのか、度々問題行動を起こしても叱られなかったので自分は何をしても正しいのだと、自分の価値観が世界基準だと思いこんでいたので、家族以外に他人を思いやる気持ちは微塵も持ち合わせていなかった。



「フフフ、今頃あの下賤な姫達は、ゴリアスの野蛮な男に食われているのかしら?」


「ハハハ、まずは1人だろうな。片方が使えなくなったらもう片方と入れ替える手筈になっている、例え正体がバレても、我らは知らぬ存ぜぬを通せばいい。後はロホとウーイルのバカ共がゴリアスと潰しあって勝手に疲弊してくれるだけだ。」


「そして疲弊した2国を我らかが制圧し、ゴリアスの摂政達は我らに無実の罪をなすりつけた罪で処刑し、後はランスがゴリアスの王になれば・・・ハハハ!ランスは今頃緊張しているかな?」


「ランスお兄様は緊張に弱いですからね♪」


「しかし、あのランスが王とはな。時が経つのは早いものだな。グスッ!」


「父上、飲み過ぎですか?」


「そこの貴方、お父様に水を。」


「畏まりました!」



 近くにいた給仕の男は深々と頭を下げながら早足で水を取りに行った。


 給仕を始め、エイラン城に勤める平民出身者達にとって王族とは絶対逆らってはいけない存在であり、少しでも機嫌を損ねれば本人だけでなく家族にまで被害が及ぶことも少なくない。


 今のエーレの王侯貴族は、一部の例外を除けば平民を自分達の道具としか考えておらず、少しでも逆らったりすればその場で切り捨ててよいと思っているのだ。


 もっとも、彼らの場合は他国の王侯貴族も見下しているわけだが。



「お父様、今度はウィスカの第一王女を浚って奴隷にしてください。あの女、私よりブスの癖に才女とモテはやされていて邪魔です!私以外の女はみんなバカだということを知らないんですよ?あ、お母様以外ですけど!」


「レリアは謙虚だね。母上はいつも、自分が産んだとは思えないほど優秀だと言ってるんだよ?」


「そんな・・・!こんな人前で言わないでください。恥ずかしいです!」


「ハハハ、レリアは本当に可愛い娘だな♪よし、明日にでも兵を送って浚わせよう。そうだな、内乱が起きそうなクラン帝国にでも送るか?」


「父上、それでしたらついでに暗殺して欲しい男が・・・」



 その後も彼らは人目も気にせず、笑顔で悪巧みを話していた。


 その様子を、離れた場所から見ていた少女は息が詰まりそうな不愉快な顔で見ていた。



(みんな、腐っているわ!)



 少女はこの国の第二王女だった。


 王女と言っても妾が産んだ娘なので正妻の子であるソードやレリアほど大事にはされず、同じ年に生まれたレリアには毎日虐められ、父であるハウエルからも政治の道具としか扱われていなかった。


 そんな反面教師がいたせいか、父や異母兄姉とは正反対の、思いやりのある良識のある姫に育っており、実は平民からの支持率はダントツトップだったりする。



(もうここには居られないわ!)



 彼女は腐った家族や貴族達と同じ場所に居るのに耐えられなくなり、宴の会場を後にした。



「姫様、おでかけですか?」



 そこに彼女のお世話係の女性がやってくる。



「ええ、あそこに居ても姉様に邪魔者扱いされるだけですし、私自身、あの場所には居たくないの。」


「では、いつもの所へ?」


「ええ、叔父様のお店(・・・・・・)へ行きますわ。」


「私もお供します。」



 その後、彼女ことエーレ王国第二王女、ティファンヌ=R=エレルードは着替えを済ませた後、お世話係の女性と数人の従者を連れてコッソリ城を抜け出した。


 その行動が、城に残った王侯貴族達とのその後の運命に大きく明暗を付ける事になるとは露ほど知らずに。





--------------------------


――エーレ王国 王都エイラン 城下町――


 ティファンヌ(以降、愛称のティファ)が来たのは、王都の中でも平民が暮らす城下町の商店街だった。


 最初に彼女がここに来たのは8年前、まだ彼女が6歳の頃だった。


 その頃から姉のレリアから虐められ、父親からもほとんど見向きもされず1人で泣いていたのを見かねた当時の(物凄く稀少なほどイイ人の)大臣の1人がこっそりと御忍びで城の外へと連れ出し、当時からその存在を知る者が少ない“ある人”の経営する店を紹介したのだ


 現国王のハウエルも知らないエーレ王国重要機密がある人物がある店、それが――



――――ガチャッ!



「いらっしゃい!パン屋の『ベイカー(・・・・)工房』へようこそ!」



 その店の扉を開けると、店主の男が明るい声を掛けてきた。


 王都エイランでも大評判のパン屋、『ベイカー工房』の3代目店主、カイ=ベイカーだ。



「おや、ティファじゃないか?また抜け出して来たのか?」


「こんばんわ、カイ叔父様(・・・・・)。久しぶりに来てみました。」


「叔父様はやめてくれ。俺はしがないパン屋のオッサンなんだからよ?」



 店主カイはティファの実の叔父、国王ハウエルの腹違いの弟だった。


 十年前に退位した先代エーレ国王、望まぬ政略結婚で心を痛めていた彼が御忍びの時に出会った女性との間に生まれた息子がカイだった。


 この事実を知るのは当人達とカイの両親、先王の友人で今は隠居した元大臣を含めごく少数だったので王位争いにはならなかった。


 そしてベーカー家は、ティファにとって城にい国王達とは違い、心から家族と思える人達だった。



「腹空かせているんだろ?一緒の人達もどうだい?」


「頂きますわ♪」


「何時もすみません。」



 ティファの従者達も深々と頭を下げながら店の奥へと入っていった。



「あ!ティファ姉ちゃん!」


「お姉ちゃん久しぶり~!」



 店の奥を通った先にある住居スペースでは、店主の子供達が笑顔でティファ達を迎えてくれた。


 ちなみに、この家の子供達はここには居ない長男(・・・・・・・・・)を含め、全員が自分に王家の血が流れているとは知らない。


 両親の意向で普通の子供として育てられ、ティファのことも金持ちの家の従姉だと思っている。



「それにしても、この国の王族も貴族も禄なのがいないな?」


「・・・申し訳ありません。」


「いやいや、ティファが謝る必要はねえぞ。」


「そうそう!姉ちゃんは悪くないって!」



 申し訳なさそうなティファをベイカー家の人達は温かく元気付ける。


 一方、エイラン城の方では破滅の足音がすぐ傍まで近づいていた。






 エーレ王国のお話は全3話構成です。


 ご意見、ご感想をお待ちしております。

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