第136話 ボーナス屋、3つ目をゲットする?
――ドルドナ遺跡近郊――
魔王アスモデウスが現れた!!
アスモデウスと云ったら『ソロモン72柱』や『七つの大罪』とかで出てくる有名な悪魔、魔王だ!
俺も詳細までは知らないけど、『七つの大罪』の1つ《色欲》を司る魔王だというのは覚えている。
「それがまさか俺の前に現れるとはな。思いっきりラスボスクラスだろ?」
なんて呟いていると、不意に背後から声が聞こえてきた。
『――――否、あれは別の世界で滅ぼされた魔王の残滓、出来損ないの欠片だ。』
「お前は!!」
振り返ると、そこには遺跡の最深部で倒したはずの悪魔――――仮面男がいた。
まるで幽霊のように透けた姿の仮面男は、俺に抱き抱えられているエレインを一瞥するとどこか嬉しそうな目をしながら喋り始めた。
『異世界より召喚された勇者よ。お主に頼みたい事がある。』
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――ドルドナ遺跡 最深部――
一方その頃、敵を全滅させたロビン達は敵をしっかりと捕縛した後、保護したゴリアス国女王とウーイル国第一王女、ロホ王国第三王女に事の次第を説明しつつ、封印の台座の周りに集まっていた。
「へえ、これがガキの頃に散々聞かされたお伽噺に出てくる伝説の『至宝』というヤツか?ただの彫刻にしか見えねえな?」
「ミハエル?」
「あ!陛下の前で粗暴な言葉を―――!」
『ホホホ、余の契約者は主君の前では形無しじゃのう♪』
女王ミリアムも大分落ち着いていたのか、ルーグ騎士団に囲まれながら遺跡の中をウロウロと観察していた。
一方、ロビンは封印の台座に突き刺さった『至宝』を調べていた。
「どうやら私では抜く事もできそうにないですね。やはり、封印解除には何らかの条件がありそうです。」
「所有権は置いておくとして、できれば今の内に回収しておくべきでしょう。ロビン殿下、他の『至宝』はどうやって封印を解いたのですか?」
「そこは何とも言えませんね。シロウ殿が持つ『光の魔剣』はフィンジアスの先代女王が別の古代遺跡から回収したそうですが詳しい話はまだ聞けていません。『戴冠石』はファル村の地下遺跡で弟達が普通に見つけて回収したそうですが本人達は特に変わった事はしていないと言っていました。」
ロビンは目の前の『至宝』をどうやって回収するか迷っていた。
すると、さっきからミハエルを面白そうに観察していた焔の上級精霊ファンが都合よく答えを教えてくれた。
『どうやら、今の人間達には『四至宝』の伝承は正しく伝わってないようだのう?これも何かの縁じゃから余が特別に教えてあげようぞ。』
「本当ですか!?」
「って、知っていたのか・・・いたのですか?」
『うむ!余も焔を司る旧き上級精霊じゃ。それ位の知識は備えておる。よいか?『四至宝』の封印を解く“鍵”となるのは、それぞれの『至宝』を守護する一族の中でも、神王様の一族、俗に「ダーナ神族」と呼ばれる神々に選ばれた者であり、また、『至宝』を扱う者も「ダーナ神族」に認められた者でなければならないのじゃ。』
「ダーナ神族・・・それは、ジーア教の教えの中にも出てくる言葉ですね。」
『人間の宗教のことなど知らぬが、その認識で間違いなかろう。先程飛び出した少年もダーナ神族のアヌ様とヌアザ様に御認めになられておった。封印を解く事は出来ぬが、担い手として選ばれたのであろうな。さて、ここにある『至宝』の封印を解く方法じゃが、この国の初代国王の血を引き、尚且つ、あの勇者のようにダーナ神族に選ばれた者でなければ封印は解けるのじゃが、幸い、ここには3人もおるようじゃ。』
ファンは1人の女王と2人の王女を指差した。
ミリアム、ナタリア、ジェニファー、彼女達3人が封印を解く“鍵”なのだ。
「え・・・?ナタリーとジェニーって、もしかして王族だったの・・・?」
「「気付いてなかったのかよ!?」」
エーレ王国の兵士サイは、ここでようやく幼馴染達の身分に気付いた。
「・・・そういえば、ウーイル国とロホ王国の現王家は、系譜を辿ればゴリアス国王家にも連なりますね。大分昔の話ですけど。」
『話を進めるぞ?この賊どもは荒業で封印を解こうとしたようじゃが、そんな事をせずとも“鍵”が自らの意志で触れ、その生き血を『至宝』に垂らせば封印は自ずと解ける。心当たりはないかの?』
「あ!」
ファンの問いかけに、ロビンはクラウ・ソラスはフィンジアス王国王女ステラの血で、リア・ファルは弟・ヒューゴの血で覚醒した事を思い出した。
『さあ、誰でもよいから血を流して封印を解くがよい!』
「おい精霊!!陛下に何という事を言うんだ!!」
「いいの、ミハエル。」
『ほう?』
「へ、陛下!?」
「・・・ロビン様、これがあれば勇者様のお力になりますか?」
激昂するミハエルを制し、ミリアムはロビンに質問をする。
その意味を察したロビンは、思わず本音が顔に出しそうになるのを堪えながら笑顔で答える。
「はい。地上に戦っているシロウ殿のお役に立つ事でしょう。しかし、宜しいのですか?」
「はい。私を助けて下さった勇者様のお役に立てるのなら、血の一滴や二滴流しましょう。」
『ホホホ、今時のおぼこは随分と強いと見えるのう。』
その様子を、ファンは実に面白そうに見ていた。
そして、しつこく止めようとするミハエルを黙らせたミリアムは、ロビンから借りたナイフで指先を軽く切ると、血が流れるその手で封印の台座と一体化した『至宝』に触れた。
―――――カァァァァァァァァァァァ!!!
「「「――――――!?」」」
その直後、『至宝』から虹色の光が放たれてその場にいたもの全ての視界を奪った。
そして光が収まると、一同の目の前には封印の台座は無く、代わりに虹色の輝く1本の槍が浮かんでいた。
『これが嘗て神王様を担い手としていた『至宝』、『貫く光』じゃ。完全覚醒とまではいかないが、無事に封印は解けたようじゃのう。』
「これが・・・!」
「なんと温かい光・・・!」
「綺麗・・・。」
その神秘的な姿に、封印を解いたミリアムを始めとする一同は見惚れていた。
槍が輝いているというよりは、光が槍の形をしていると言った方がいいのかもしれない。
一同がブリューナクに見惚れていると、何所からともなく不思議な声が聞こえてきた。
―――――3つ目の封印は解かれた。
それはとても澄んだ、聞いただけで爽快な気分になりそうな男の美声だった。
そして声は続く。
―――――汝らの望み通り、我が槍を彼の者に届けよう。
その直後、ブリューナクは穂先を天井に向け、地上に向かって飛んでいった。
その光景を目の当りにした人間一同は、ただただ呆然と見ているしかできなかったのだった。
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――ドルドナ遺跡近郊――
俺は仮面男の悪魔こと、「荒漠のヒードロス」から一通りの話を聞いていた。
「――――つまり、本物ていうかアスモデウスの本体はとっくに別の世界で倒されていて、今アソコに浮かんでいるのはアスモデウスが予めエレインの中に寄生させておいた分身、本体の残り滓ってことか。それが俺に消滅されそうになって暴走していると。」
『そうだ。魔王アスモデウス陛下は、既に異世界地球の人間により討滅されている。アソコにいるのは陛下の魂の欠片、記憶も思考も本体と同じだが、本体が討滅された際に世界に響いた断末魔の影響を受けて変質したものだ。本来なら本体が討滅したと同時に欠片も消滅するはずだったが、陛下の妄執が強過ぎた為にああなってしまったのだ。最早あれは我ら悪魔にとっても害悪にしかならない。』
「だから俺に倒してくれって?」
『・・・というより、エレインを助けてほしい。魔王の、魔の呪縛から解放し、人の世に連れていってほしい。』
「・・・?」
ヒードロス、なんだか今までの悪魔と違って人間くさいな。
エレインを助けてほしい?
まさか、生き別れの妹ですとか言わないよな?
『気づいていると思うが、エレインは人間と悪魔の間に生まれたハーフだ。それも、父親はアスモデウス陛下だ。』
「マジで!?」
魔王の娘さんでした!?
じゃあ、悪魔のプリンセスってことか。
『正確は《色欲》を司る方、常に強い色の匂いに釣られては人の世に現れ人を惑わし、命を奪っていく。エレインはそんな陛下の遺児の1人であり、“器”として最も適合する者なのだ。』
「器?」
『陛下にとってエレインは道具にすぎない。あのアスモデウス擬きはエレインの体を使って完全復活しようとしているのだ。』
「何だって!!」
魔王復活!!
それは絶対に阻止しなければならないよな!
それにしても、エレインは根っからの悪人じゃなかったのか。
道理でポイントがマイナスじゃなくプラスだった訳だ。
悪魔の話は間に受けないのが常識だけど、今回は信用できそうか?
気のせいかもしれないけど、今のヒードロスからは邪悪な感じがしないからな。
というか、また一段と薄くなってる!
『もう時間が無いようだ。勝手な頼みかも知れないが、彼女を助けてほしい。我も生前は彼女と同じハーフだったが、闇に堕ちてしまい《強欲》の魔王マモン陛下の軍門に下ってしまった。だが、彼女はまだ堕ちきってはいない。勇者よ、魔王の残滓を倒し、彼女を救ってほしい!』
ヒードロスも元は人間だったのか。
それで似た境遇のエレインを助けたいと・・・?
元より殺すつもりはないし、頼まれなくてもOKだ。
「任せ――――」
『そしてできれば彼女を嫁にしてもらいたい!!』
「「何でそうなる(のよ)!?」」
俺とエレインの声がハモッた。
って、意識があったのかよ!
あ、何勝手に喋るだけ喋って消え去ろうとしてるんだ!
待てよ悪魔!!
『エレイ・・よ、この勇者は・・男だ。必ずやお・・を幸せに・・・る!もう闇に・・・る・・!』
「待て、ヒードロス!!」
『・・・・・・さらば・・・』
そしてヒードロスは消えた。
今一、奴とエレインの関係が見えないけど、今はそれどころじゃないよな。
『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!《天空より来る大災厄》!!』
バケツを引っ繰り返したような暴雨が降ってきた。
ついでに暴風や雷、というか遠くに竜巻みたいなのが見えるな。
残り滓とは言え、正真正銘魔王って訳か。
これはさっさと倒すしかないな!
「――――で、お前は降ろした方がいいか?」
「――――!は、放しなさい!!」
俺の腕の中で暴れるエレインを思わず笑いながら解放した時だった。
遺跡の方から一筋の光が飛び出し、俺の所に飛んできた。
「な、何だ~!?」
「これは、まさか・・・!?」
そして、俺の左手に第三の『至宝』、ブリューナクが勝手に握られた。
え?これってゲットってこと?
次回、チートで魔王を瞬殺・・・かな?
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