第134話 ボーナス屋、地上に出る
『《堕天の領域》。』
明るい部屋が一瞬にして暗闇に覆われた。
いや、暗闇じゃなく暗闇色の何かが広がったって感じだな。
『――――闇が光に弱いというのは半分正解で半分間違い。闇は光で消えるけど、光もまた闇で消えるもの。2つの属性は互いに相反する存在、互いに互いを強め、打ち消し合うものなのよ。貴方の光、闇をより色濃くするのに利用させてもらったわ。』
エレインの冷めた様な声が聞こえてくる。
なんてことだ、俺の魔法が逆に利用されたってことなのか!?
「エレイン様!!その姿で長くいるのは危険です!!」
エレインの仲間が何かを叫んでいる。
どうやらあの第2形態はエレインにとってもリスクが高いようだな。
「分かっているわリード、だからすぐに終わらせるわ!影よ――――」
エレインが何かを呟いた直後、床や天井、壁から無数の手が飛び出して襲い掛かってきた。
うわ!なんかキモイ!!
「――――クッ!何だこの気持ち悪い手は・・・!?」
『汚らわしい力だのう。』
団長達は襲い掛かる手を手当たり次第に焼き払っている。
すると、団長は何かに気付いたように俺の傍から下へ飛び降りた。
「――――陛下!!」
どうやら女王様達の元に向かったようだ。
一応は偵察隊の人達もいるけど、それだけでは足りないと判断したんだろ。
次々にあの火の鳥特攻隊(仮称)を放っている。
『――――《ダークネスブラスト》×50』
「うおおおお!?」
余所見をしている場合じゃなかった!!
さっきまでとは桁違いの攻撃の嵐が襲い掛かってくる!!
「《ホーリーバリア》!!」
『《漆黒氷槍》!!』
50発もの攻撃を防いだと思ったら、今度は数百本もの槍の雨が襲い掛かってきた。
マズイな、ここで戦い続けたらロビンくん達や女王様達を巻き込んでしまう。
敵の策に嵌るみたいだけど、場所を移動した方がよさそうだ。
『《ダークネスレイ》!!』
今度は黒いレーザーの嵐だ。
クラウ・ソラスのお蔭でどうにか防いで入るけど、流れ弾が周囲に跳んでいく。
なんて気にしてたら、壁や床からまたあの気持ち悪い手が襲い掛かってくる。
移動する前に、この黒い何かを除去しないとな。
そうだ、あの魔法なら!
「―――《勇者の領域》!!」
『何!!』
「ハッハッハ!お前の魔法を上書きしてやったぜ!!これでキモイ手は使えないぞ!!」
エレインの《堕天の領域》を、俺の魔法で上書きしてやった。
ちなみに効果は一定範囲内では俺や俺の仲間の能力を一時的に底上げできるというものだ。
上手く上書きができたという事は、やはり同じ系統の魔法だったんだろう。
さて、奴を上に誘うとしますか!!
「さあ、地上に行こうぜ?《ライトストリーム》!!」
『うっ!!』
クラウ・ソラスから光の鞭が飛び出してエレインを縛り付ける。
そして俺はそのまま、エレインが開けて何故か未だに塞がっていない天井の穴に飛び込むと、地上に向かって飛んでいった。
・・・ん?
今更だけど、俺も何時の間にか普通に空を飛んでいないか?
ああ、無意識の内に《飛行魔法》を使っていたみたいだ。
スゲエご都合主義な魔法だな?
『うう・・・こんなもの!!』
「うわ!無理矢理解きやがった!!」
地上に向けて上昇していると、エレインは力ずくで体を縛っていた光の鞭を解き、俺に向かって襲い掛かってきた。
『ハッ!!』
両手から黒い光球を出して撃ってくる。
俺はそれを避けていきながら地上に向かって上昇を続けていく。
遺跡に開いた穴は徐々に再生をしているようだけど、俺達が破壊を試みた時と比べるとかなり遅い。
堕天使の力が遺跡の再生力を妨害しているのか?
『――――《悪夢の幻影》!!』
今度は弾やビームじゃなく変な波動を放ってきた。
名前からして幻覚系の魔法だろうな。
だけどそれは効かない!
「無駄だ!《超魔力吸収》!!」
『!!』
幻覚系への対処法は《超魔力吸収》が最適なのは淫魔戦で確認済みだ!
他の攻撃も吸収はできるけど、大小無数の攻撃を全部狙って吸収するのは正直面倒だから避けた方が楽だ。
そうこうしている内に、俺達は最上階の天井を飛び出して数時間ぶりの外へと飛び出した。
「・・・夜?」
外に出ると、既に夜になっていた。
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――ドルドナ遺跡 最深部――
一方、最下層最深部に残ったロビン達の方は今まさに決着が着こうとしていた。
最初はエレインの部下達の多彩な攻撃に翻弄されて苦戦する場面もあった彼らだったが、士郎の攻撃の流れ弾に敵がそろって巻き込まれて負傷した事で戦況は好転していった。
正確に言えば敵が負傷した事で動きが鈍くなったお蔭でロビン達の攻撃が命中するようになったのだ。
それまでの敵は兎に角動きがすばしっこく、ロビン達の魔法の大半を《防御魔法》を使わずに身体能力だけで避け続け、その間に初級や中級クラスの魔法で攻撃し、隙あれば距離を詰めて武器で攻撃していくというスタイルで戦っていった。
だが、士郎自身も想定していなかった大技の巻き添いを受けてからはその動きが悪くなり、ロビン達も底を突いて《加重》等の魔法をかけて更に動きを鈍らせていった。
スピードを封じられた敵側はすぐに変え、武器や体術による近接戦闘を行う前衛と距離を取って魔法で攻撃をする後衛に分かれて戦闘を続けていったが、時が進むにつれて追い詰められていった。
「――――クッ!!なんて堅い防御だ!!」
「私達の攻撃が全て防がれるなんて・・・!!」
敵側にとって最も厄介だったのはロビンの《防御魔法》だった。
適正レベル5という反則的な性能が繰り出すバリアは敵の魔法攻撃を次々に封じていく。
状態異常や能力を下げる魔法も無効化され、後衛についている敵は為す術がなかった。
「おらあああ!!《ライトニングスラッシュ》!!」
「《ブリザード》!!」
「クッ・・・!!たかが帝国騎士如きが、こんな短期間でこれ程の力を・・・!!」
活躍しているのはロビンだけではなかった。
士郎の《善行への特別褒賞》により魔改造―――強化され、ロビンの保有する《英雄神プイスの加護》による成長補正がかかった事で、帝国騎士達だけでなくゴリアス国のルーグ騎士団の面々も数時間前までとは別人と言わざるを得ない程のハイスペックになっていた。
元々一般人だった士郎とは異なりこっちは戦闘が本職、彼らはそのパワーアップした能力を発揮して敵を追い詰めていった。
(マズイ!こうなれば、一か八か敵の防御を上回る上級魔法で・・・!)
そして予想外に追い詰められた敵の1人は、その焦りから普段ならしないミスを犯してしまう。
そのミスが、勝負を決めてしまうとも気付かずに。
「――――貫くは千を超える雷霆の槍!《轟く槍の暴嵐》!!」
その男は自身の得意とする雷属性の上級魔法を、普段よりもより多く魔力を込めて放った。
それは上位種の魔獣さえも一度に数十体は殺すことの出来、小さな町なら一発で跡形もなく破壊し尽くす魔法を彼の技量により収束させて放ったものだった。
何倍にも収束させた雷の嵐はロビン達の生命を瞬く間に奪い去ろうとした。
「《魔鏡盾の牢!!》」
だが、それはロビンが出した上級魔法により100%反射されてしまう。
空属性上級防御魔法であるそれは、上級以下の攻撃魔法を反射するバリアでできた立方体に閉じ込める魔法であり、その中で出した攻撃魔法は立方体の中を乱反射して術者達に襲わせるものだった。
敵の術者が放った《サンダーストーム》は呆気なく反射され、5人の敵に容赦なく襲い掛かったのだった。
「「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」」」
阿鼻叫喚。
敵は町1つを壊滅させる規模の魔法をその身に受け、ただただ悲鳴を上げるしかなかった。
その光景は1分以上続き、雷が収まってロビンが魔法を解除した時に立っていられたのは1人だけだった。
その1人さえも満身創痍で、剣を持って立っていられるのがやっとだった。
倒れている4人も、装備していた上質な装備や戦闘開始前に自身にかけておいた《補助魔法》のお蔭で死んではいなかった。
「ハァハァハァハァハァ・・・・・・!!ご、ごごで負げるわげに・・・は!!」
『――――あれほどの魔法を受けて立っていられるとは、敵ながら天晴れであるぞ!』
その男の前に現れたのは焔の上級精霊ファン、そして――――
「―――――燃え散れ!」
ミハエルの放つ炎に焼かれ、その男もついに意識を失って倒れたのだった。
こうして、ドルドナ遺跡内での戦闘は終結したのだった。
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その様子を、主無き『至宝』は封印の台座に突き刺さったまま静かに見届けていた。
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――ドルドナ遺跡――
遺跡の外はすっかり日が落ちて暗くなっていた。
まあ、何時間も遺跡に潜っていたんだから夜になっているのは当たり前だよな。
それにしても、遺跡の中にいた奴隷の人達が全員無事で良かった。
全員に魔法をかけておいて正解だったな。
―――――バサッ!!
6枚の翼が羽ばたく音が聞こえてくる。
遺跡の頂上に立つ俺は、夜空をバックに翼を広げながら宙に立つ少女の姿を見た。
「――――良くも悪くも、私向きの舞台ね。さあ、3つの『至宝』を賭けて戦うわよ!」
勇者VS堕天使、なんだかラスボス戦観たくなってきた。
さて、どうやって倒そうかな?
あまり進まない・・・。
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