第12話 ボーナス屋、港町に行く
ステラちゃんのターンから再び士郎のターンです。
――ファリアス帝国 南ファル街道――
やあ、久しぶりの登場の士郎だ!
俺は今、近くの港町に麦や野菜を運んでいる馬車に乗っている。
旅のお供は苦労人のロビンくん、そして村のお爺さんAだ。
何で俺が町に向かっているのかと言うと、一言で言えば村の難問解決のためだ!
うん、正直に言えば俺、調子に乗りすぎてしまった。
最初は村の食糧問題を解決させるつもりが、うっかり宝の山を作ってしまった。
例えば神様の加護をフル活用して作った麦、すごく早く育つ上に生産力も高い麦は上に苦しむ農民にとっては嬉しいことこの上ない!
そしてジャガイモ(ファルポテト)を始めとする根菜、今まで食べられてこなかった物がとっても美味いと分かれば農民だけでなく商人たちだって放っておくわけがない。
さらに止めは砂糖とコショウ、つまり調味料だ!
世界史を少しでも齧った事のある人なら想像できると思うが、砂糖もコショウも中世では金や銀と変わらないほどの貴重な高級品だ。
ロビンくんに聞いた話だと、この世界・・・と言うよりこのダーナ大陸では塩は各国でも生産されているが、砂糖とコショウの2つは大陸の南部にある島国からの輸入に100%依存しているらしい。
そんな時に自国でも生産する事ができると知れたら、商人どころが国そのものが動いてしまう!
そんな事になれば、陰謀によって行くあての無いバカ皇子一行やステラちゃん一行の存在が明るみになって間違いなく面倒事が起きてしまう。
運良くばれなかったとしても、金儲けのネタが山の様にあるファル村がいろんな連中に狙われるのは避けられない。
昨日その事に気付いた俺は、いくつかの解決案を考えてみた。
1、みんなで村に引き籠る
これは却下!
小さい村と言っても定期的に行商人ぐらい来るだろうし、一般人だってやってくる。
そこで村ぐるみで引き籠りなんかしてたら一発で怪しまれるに決まっている。
2、魔法を駆使して防壁や結界を張って出入りを制限する
余計目立つ!
一歩間違えたらダンジョン扱いされてしまう。
3、徹底抗戦!邪魔者は実力で排除!!
却下!
村人達に迷惑がかかるし、何より戦力が限られている。
ダニールがまた攻めてきたら俺も瞬殺の可能性大だ!
そう言う意味では“2”も即却下だろうな。
4、全員村民になって永住する。
現実的かもしれないけど、説得とか大変だろうな。
特にバカ皇子率いる帝国側の連中は猛反発するのは目に見えている。
ダニールにいらないとポイ捨てされた貴族とかがほとんどだから無駄にプライドがデカいしな。
ステラちゃん側の方も、自分達だけ安穏と暮らすのを良しとしないだろうな。
これはあくまで最終手段の1つだな。
5、とにかく味方を増やして一緒に考えてもらう。
これが俺の考えた中では1番賢明だろうな。
村長の話からも、帝国貴族の中には穏健派や味方になってくれそうな人もいる感じだしな。
それに、この辺の統治をしている領主を味方にすれば合法的に村を誤魔化したりできるからな。
取引材料として砂糖やコショウは使えるだろう。
と言う訳で、俺は収穫した麦を町に売りに行くお爺さんAに便乗しているってわけだ。
流石に交渉とかした事の無い俺だけじゃ無謀だからロビンくんにも頼んだらOKしてくれたわけだ。
「――――――ヴァール港って言うんだよな?」
「ええ、戦時中の今は軍の拠点港になってますが、元々は王国や南部のマーレ諸島との貿易が盛んな町なんです。今は開戦前と比べると控えめですけど、それでも一部の物資は輸入に頼るしかないので商船の出入りはあるようですね。」
「一部って、鉱石とか?」
「いえ、ファリアス帝国は大陸の中でも鉱山数を誇るので鉄や銅は豊富にあります。ですが、製鉄などで使用する木炭の7割を輸入に頼っていました。後は油や布、金や銀、穀物なども半分近くが輸入に依存しています。」
「ん?鉱山はあるのに金銀は少ないのか?」
「ええ、このダーナ大陸で鉱山数が多いのがファリアス帝国とフィンジアス王国の2カ国なのですが、金銀が多く採掘されるのはフィンジアス王国だけなんです。」
ああ、なるほどな。
帝国は鉄や銅が多いけど金銀が少ない。
逆に王国は金銀がたくさん採れるけど代わりに鉄や銅が少ないと言う訳か。
きっと戦争の目的の1つはここにあるんだろうな。
「そう言えば、この大陸には国ってどれくらいあるんだ?」
「小国を含めたら10ヵ国以上になりますが、その中で最も力を持っているのが帝国を含めた四大国ですね。」
ロビンくんの話をまとめるとこうだ。
俺達が今いるファリアス帝国が大陸の南東部で大陸全体の四分の一を支配する最大国家だ。
そして帝国の西部にあるのがステラちゃんのフィンジアス王国、国土は帝国には劣るが金銀や農牧などで栄えている大国ってわけだ。
3つ目は大陸中央部にあるムリアス公国、国土は四大国でも一番小さいけど陸路の中枢を押さえているのと魔法研究で力を付けた国だ。
最後の1つが大陸の北東部にあるゴリアス国、森林資源や塩が豊富で帝国で、消費される木炭はここから輸入されているとのことだ。
「――――――後は北西部にいくつかの小国があるくらいですね。」
「へえ、てことは帝国がゴリアス国と組んだら戦争有利になるんじゃね?」
「ええ、私達が帝都を出発した時も同盟の話があがっていましたから、今は他の皇子達が交渉の準備をしているでしょうね。」
「大丈夫なのか?」
「・・・まあ、第二皇子のブリッツ殿下なら問題ないでしょうが、他の王子となると・・・・・」
「バカなのか?」
「いや・・・私の口から言うのは・・・・・・。」
うわあ、また遠い方向を見てるよ・・・・。
これはきっと第2、第3のバカ皇子がいる可能性があるみたいだな。
しかもそれ全員がロビンくんやアンナちゃんの兄弟なんだから、ロビンくんにとっては複雑だろうな。
「お~い、お2人さん、もうすぐ町に到着するぞい!」
「あ、ホントですか!」
ナイスタイミングだお爺さんA!
嫌な空気も一瞬で吹き飛んでくれたぜ!
そう言えばさっきから潮の香りがするな。
日本の海よりいい香りかもしれない。
「あそこがヴァールの町か~~!」
今、俺の目の前に広がるのは広大な海と港町、そして港に停泊しているたくさんの船舶!
スゲェ!全部帆船だぜ!
「国旗を付けた船ばかりだけど、みんな軍の?」
「はい、やはりかなりの数が集まっていますね。町にはかなりの兵が集まっているでしょうね。着替えてきて正解でした。」
「だな!後で村長にももう一度礼を言っておかないとな。」
「そうですね。」
言い忘れたが、今の俺はこの世界の服を着ている。
理由は明確、召喚された時から着ていた服だと目立つからだ。
村長に相談したら、快くロビンくんの分も用意してくれた。
どうやら、今は村にはいない孫のお古らしい。
そう言えば、あの後孫とは連絡とれたのか?
「こっから坂道になるからしっかり馬車につかまっててくだせえ。」
「はい。」
「了解♪」
そして馬車は坂道を下りながら港町ヴァールに入って行った。
まさかと思うけど、着いた途端に襲われないよな?
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――ファリアス帝国 港町ヴァール――
町に着くと、そこにはファル村とは比較にならないほどの人で溢れていた。
うわあ!兵隊・・・軍人も多いけどやっぱ地元の人が多いな!
あっちこっちに店とかあるぜ!
あ!あそこに見えるのはいわゆる娼館ってやつ?
てか、堂々と騎士っぽい人とか出入りしてないか?
ま、俺には関係ないけど♪
「もうすぐ馴染みの店に着きますぞい!」
今俺達は麦を売るために、村と付き合いの長い商人の店に向かっていた。
何でも、村長が若い頃に一緒に旅をした商人の息子が経営しているらしい。
あの村長と旅って、ト○ネコみたいな奴か?
まあ、そんなベタな話が何度もあるわけないよな。
「あそこですぞい!」
「へえ、なかなかいい店のようですね?」
「そうなのか?」
「ええ、立地もいいですし、この規模の町の店としては大きい方の店です。」
俺の目に映ったのは人通りの多い通りに面した一軒の木造二階建ての建物だった。
入り口の前には『フライハイト商会』と書かれた看板が掲げられている。
見た感じだとコンビニかファーストフード店くらいか?
俺にはそんなに大きいとは思えないけどな?
まあ、この世界の基準とかまだよく分かんないから俺にはそう見えるだけだろうな。
「―――――では、儂はこれから商人さんに会いに行ってきますがお2人さんはどうしますかな?」
「ん~~~、一緒に行ってみようかな?」
「そうですね。どんな商人なのか私も興味があります。」
商人に顔を覚えてもらうだけでも価値はあるだろうしな。
とりあえずはコネを増やしてみるとするか。
というわけで、俺達は『フライハイト商会』へ入っていった。
チリン~!チリ~ン!
扉を開けると鈴の音色が店内に響いた。
へえ、中は結構広いんだな?
けど暗い!何だか知らないけど暗い空気が充満してる!!
「お~い、ウツさんはおるかい?」
「・・・・・誰だ?」
暗い!
暗い店の奥から暗いおっさんの声が聞こえてきた!!
「ファル村も者ですぞい。いつもの買い取りをお願いしに来ましたぞい。」
「あ~~、ファル村の爺さんか・・・・・今行く。」
「(何か、嫌な予感がしなくね?)」
「(しっ!聞こえますよ!)」
でもロビンくん、何か全てが暗く感じるんだぜ?
あ、出てきた!
さて、どんな人かな・・・・・・・
「・・・・・久しぶりだな、爺さん。」
「そうだのう、もう半年ぶりぞい?」
「・・・・・・・・・・・」
暗い店の奥から出てきたオッサン、その姿を見た俺は絶句した。
何故かというと・・・・・・
(―――――――トル〇コ!?)
現れたのは頭の上に矢印が刺さったト〇ネコっぽいオッサンだった。
【高ポイント保有者と接触しました。】
「―――――――はい?」
ト〇ネコっぽいというだけで瓜二つではありません。
あくまで連想しちゃうレベルです。