第127話 ボーナス屋、ドルドナ遺跡を攻略する2
――ドルドナ遺跡 地下15階――
【命綱の銀貨】
【分類】魔法硬貨
【品質】普通
【詳細】生死を彷徨う者にのみ使用可能な魔法硬貨。
瀕死の者がこれを持つと、その効果により致命傷を負っていても短時間だけ命を繋ぐことができる。
ただし、使用できるのは1度限り。
使用後は壊れて只の金属片になる。
「これって稀少?」
「凄く稀少です!稀に古代遺跡などで発掘され、その効果から発見されるとすぐに発見場所を管理する貴族が高値で買い取ると聞いた事があります!」
「ほう、私は初めて見ました。やはり、遺跡にはこういう物があるんですね?」
ウィル・オ・ザ・ウィスプがドロップした銀貨に俺達は思わず盛り上がった。
これって、もしもの時にあると助かるよな。
今にも死にそうな人に使えば医者か治癒術師が来るまでの時間を稼ぐ事ができる。
貴族が欲しがるのも納得だな。
「あのう・・・。」
「ん?」
俺達が盛り上がっていると、今の今まで大人しかったプラスαの人が少し控えめな声で話しかけてきた。
それは某女神様のお告げにより仕方なく同行させる事になった、エーレ王国の兵士サイだった。
一応は逃げないように腰にロープを巻き付けている。
そんな彼が、申し訳なさそうな顔で話しかけてきた。
「盛り上がっているところ悪いんですが、急いだ方がいいんじゃないですか?もう、先に進んでいる人達は下層に入ったみたいですから。」
「「「あ!!」」」
そうだった!
今は暢気にレアアイテムの鑑賞会をしている場合じゃなかった!
ん?けど、何でサイが敵の動きを知ってるんだ?
「おい!何故貴様が顔も知らない連中の動向を知っている?」
「わっ!?」
団長がサイの首筋に剣を向けた。
そういえば、俺の《摩訶不思議な情報屋》が速報を出している訳でもないのに、何で敵が下層部に入ったって知ったんだ?
「剣を退いてくださいシルヴェスター殿!それはおそらく、彼自身の持つ“能力”によるものでしょう。そうですね?」
「は、はい!」
「――――――。」
団長は大人しく剣をサイから離した。
ロビンくんに言われて思い出したけど、確かにサイには固有能力っぽいのがあった。
《心環之秘技》だったか?
「サイ殿、貴方の能力について移動しながら私達に話してください。」
「は、はい!」
そして俺達は先を急いで移動しながらサイの話を聞いていった。
サイ自身は自分のステータスを視れないから能力の名前は知らないが、その効果についてはある程度理解していた。
サイの《心環之秘技》は、一言で言えば《念話》と同じテレパシー能力だ。
だがサイのそれは《念話》よりも強力で、《念話》が相手との距離に比例して消費魔力が多くなるのがサイのは常に一定、さらに相手の居場所が分からなくても、相手が誰か解らなくても大雑把にイメージすれば何所の誰とでも通話が可能だ。
それだけじゃなく、相手の思考を一方的に受信して読むことができる。
ただし、これは相手が意識すれば簡単に妨害されて聞こえなくなるという欠点があるし、サイ自身もこの他人の心を読めるという能力については俺達以外には殆ど他言していないらしい。
まあ、これはバレたら色々トラブルの種になるだろうからな。
それでも十分に価値のある能力ではあるので、エーレ王国のお偉いさん達はサイを無理矢理徴兵し、今回のような大事な任務に就かせたりしているそうだ。
ネットも電話も無い世界だ。
おまけにこの世界の魔法にも《念話》は無いから、サイの能力は重宝されるのは当然だった。
送受信できるのはサイだけだが、どんなに離れていてもリアルタイムで情報のやり取りができるから情報戦で他国より有利に立てる事は間違いなかった。
今回も、サイは本来なら第二王子の傍で連絡役を務める予定だったが、ゴリアス側の策略によって引き離されてしまっていたらしい。
ちなみにその第二王子は現在、イルダーナの領主の館で保護されている。
かなりのトラウマを背負って・・・。
「―――――尋問の時に聴くべきでしたね。私の失態です。」
「いや、俺も只の雑魚だと思ってたからな。」
ロビンくんと団長は、そうしてあの時に聴かなかったのかと自己嫌悪していた。
「それで、サイ殿はここより下層にいる敵勢の思考を読んで情報を得たということですね?」
「はい。けど、この遺跡のせいなのか、あまりハッキリと聞こえないんです。こんな事、今まではなかったのに・・・」
「向こうが警戒して妨害してるんじゃないか?敵も似たようなことが魔法でできるし。」
「その可能性は高いですね。」
「お前らの言う、『創世の蛇」とかいう連中か。」
敵も確実に《念話》は使えるんだ。
盗聴防止の対策を打っていてもおかしくはない。
それでも盗聴できる辺り、サイの《心環之秘技》もチートの類だな。
「それで、誰の思考が聞こえたのですか?」
「多分ですが、この国の女王陛下の声だと思います。」
「―――陛下!?陛下は無事なんだな!?」
「うぐっ!?は・・・はひ・・・!!」
「団長!首絞めてます!!」
「そのままだと死にます!!」
忠誠心スゲエな。
興奮しただけで人1人殺しかけてるよ。
あ、泡噴き出し始めた。マジでヤバいって!
「ぶ、無事です!大事に護られています!!」
「そ、そうか!!}
それは当然だろう。
奴らにしてみれば、女王は『至宝』の封印を解く為に必要な大事な人間だ。
目的を達成するまでは必死で護るだろうな。
「あ!下への階段発見!」
話しながら走っていると、下へと続く階段が見えてきた。
ロビンくんは階段を一瞥すると、すぐにサイに視線を戻す。
「サイ殿、女王陛下以外の人の思考を聞く事はできますか?」
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――ドルドナ遺跡 地下70階――
下層部へと突入したエレイン達はペースを更に上げて次の階層を目指していた。
「―――――16階層に入ったみたいね。」
「ペースを上げて正解でしたね。」
「ええ、このまま最下層へ急ぐわよ。」
「「「ハッ!!」」」
エレインの後方を走る部下3名は声を揃えて返事をする。
彼らは片腕にそれぞれ少女を1人ずつ抱え込み、空いた手に武器を持ち、襲い掛かってくる魔獣達を排除していった。
そんな中、エレインはある違和感を感じていた。
(・・・見られているわね。いえ、これは聞かれていると言った方が正しい―――。)
「エレイン様、どうかなされましたか?」
「――――リード、念の為、私達を囲む結界をもう2段階ほど強化してくれる?」
「了解しました。少しお待ちください。」
「急いでね。」
彼女は自分達の敵が遺跡内部に侵入してからというもの、妙な違和感を感じていた。
まるで遠くから自分達の存在を意識しているような、見えない目で覗かれているかのような感覚だった。
(この中では遮蔽物があるから《千里眼》は使えない。なら、何か強力な固有能力か魔法で私達の様子を窺っていると考えるべき。例の“要注意人物”か、それとも――――そういえば、エーレが送り込んできた兵士の1人に確か――――)
一方、エレインの後方を走る3人の男女に抱えられた少女達は下手に彼らを刺激しないように堅く口を閉ざしながら、それぞれいろんな思いを巡らせていた。
1人目、ゴリアス国女王ミリアムは、
(お父様とお母様が生きている。きっとこの方達がお父様とお母様を襲った。助けたいけど、この方達の言う事を聞いたら何か大変な事が起きる気が・・・私1人じゃ何もできない・・・!誰か!私はどうなってもいいから、お父様とお母様を助けて!この方達を止めて!)
2人目の少女は、
(この人達の目的はなんなの?私がエーレの王女の身代わりだと気付いているのに、何で私を必要としているの・・・?エーレもエーレよ!私をこのような姿にして!元の姿に戻ったらただじゃ済まさないわよ!!)
そして3人目の少女は、
(――――私は危険な人達に捕まっています。私以外にも2人捕まっています。お願いします。聞こえていたら一言でいいから声を聞かせてください・・・・・・サイ!!)
〈――――ナタリー!?〉
(え、サ――――――)
不意に頭の中に聞こえた返事に、少女ナタリーはすぐに心の中で彼の名を呼ぼうとした。
だがその直後、彼女は頭に衝撃を受けて意識を失った。
彼女だけではない。
他の2人の少女もまた彼女達を背負っていた男女に無理矢理気絶させられていた。
「―――――落としました。」
「こちらの結界を無視するほどの精神感応系能力とは予想外だったわ。けど、これで彼女達からこちらの情報が流れる事はいない。急ぎましょう。」
「「「ハ!!」」」
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――ドルドナ遺跡 地下16階――
「・・・・・・聞こえなくなりました。」
「敵に気付かれたと考えるべきでしょう。私達も急ぎましょう!」
サイが聞いた言葉はすぐに俺達にも伝わった。
奴らに捕まっているのはゴリアスの女王だけじゃなかった。
サイの幼馴染も捕まっていたんだ。
テンプレで考えると、その幼馴染は間違いなく某国のお姫様だ。
奴らが捕まえているということは、その子も含めた2人も『至宝』の“鍵”になるんだろう。
そうでなきゃ、一見関係無さそうな人間を奴らが巻き込むとは考えられない。
「―――――ルーグ騎士団、陛下を攫った賊を1人残らず捕まえろ!!決して殺さず、全部吐かせろ!!」
「「「―――――ハッ!!」」」
団長達、ルーグ騎士団は更に気を引き締めていた。
当然だろう。
行方不明の先王夫妻の手掛かりが入ったんだ。
「速度を上げるぞ!!」
「ええ、全員に《加速》を掛けます!」
そして俺達は一気に速度を上げて下層部へと向かった。
――――ピロロ~ン♪
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『ファリアス帝国皇帝、嫁達に襲われる!』
現ファリアス帝国皇帝ランドルフ=T=ファリアスは現在、
性的関係を持ち、尚且つ妊娠させた全女性148名の内、147名に一斉に命を狙われ襲われている。
某龍王が悪ふざけで大陸中から集めたのが原因。
襲撃に不参加の1名は現在臨月、現時点で皇帝が妊娠させた最後の女性である。
尚、予定日は5日後であり、無事出産した場合は第200子になる。
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「「「・・・・・・。」」」
どうでもいい情報だ~!!
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