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ボーナス屋、勇者になる  作者: 爪牙
ゴリアス国編Ⅱ-ドルドナ遺跡の章-
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第124話 ボーナス屋、遺跡に向かう

――ゴリアス国 西イルダーナ街道――


 俺達は今、イルダーナの西にある『ドルドナ遺跡』を目指して進行中だ。


 流石のロビンくんも知らない場所には転移できないということで、領主さんからイルダーナ内の馬を借りて西へと移動を開始した。


 街を出る際、北門を守っていたゴリアス軍と遭遇した訳だけど、そこはゴリアス最強騎士団のお蔭でスルーできた。


 それどころか、団長が摂政&宰相が謀反を起こしたと言いまくったので、今頃イルダーナでは軍人達が大混乱しているだろう。


 団長、そこは黙っておいた方が良かったんじゃないか?



「ハハハハ!これは速いな~♪」



 その団長は表向き上機嫌だった。


 現在、俺達は馬に乗って時速100km近くの速度で宙の上(・・・)を移動中だ。


 どうしてそんな移動ができているのかというと、まず乗っている馬全部を魔法で強化しまくり、《勇者之魔法》の《ウインドロード》を使って空中を道があるかのように走れるようにした。


 しかもこの魔法、空気抵抗とかもほとんど緩和してくれるから、俺達は馬から振り落とされる心配もない。


 今更だけど、ムリアスの高速侵攻の時も似たような魔法を使ったんだろうな。


 それはいいとして、先頭を走る団長は実に上機嫌そうだ。


 それだけなら、みんなもすぐに気にしなくなって前を向いただろうな。


 そう、団長が乗っている馬の後ろを見なければな。



「ヒィィィィィィィィィィィィィ!!!」


「あああああああああ!!!た、助け・・・おえ!!」



 団長の馬にはロープが2本が巻き付けられていた。


 そのロープの先で、両足を縛られた摂政と宰相が真っ青になりながら悲鳴を上げていた。


 あれはかなり大変だな。



「この速さなら、あと一刻も掛からずにドルドナ遺跡に着きそうだな!」


「シルヴェスター殿、外からは私達の姿が見えないとはいえ、あまり大声は出さないで下さい!」


「ああ、これは失礼!」



 その後は静かになった。


 摂政と宰相は意識だけ現実から退場した。


 そして時間が経ち、馬達が暴走族みたいにハイテンションになったことも幸いして俺達は予定よりも早くドルドナ遺跡に到着した。


 ちなみにだけど、最初は《隠形術》で姿も気配を消しているけどみんなを四次元倉庫に入れてから移動した方がより安全に移動できるんじゃないかと提案したけど、直後に団長以外のルーグ騎士団全員が猛反対された。


 四次元倉庫の中がトラウマになったんだろう。


 そこまで怖かったか?





--------------------------


――ゴリアス王国 ドルドナ遺跡――


 時は少し遡って士郎達がイルダーナを出発する少し前、イルダーナより西、リヒトシルト侯爵領の最も外れに位置する草原の中にその遺跡はあった。


 元々ここには石造りの廃屋が草原の上にポツンと残っているだけの何も無い場所だったが、古代遺跡であると判明してからは急速に発掘作業が急ピッチで進み、今では周囲の地面も掘り起こされてピラミッド状の建物が姿を現していた。


 だけどそれは氷山の一角、遺跡の本体は地下深く埋まっており、地上に現れた入口からしか中に侵入することがまず不可能な地下迷宮となっていた。


 遺跡内部には多くの魔獣が住み着き、その中には上位クラスの魔獣の姿も混ざっていた。


 第一次調査団はこの魔獣の前にほぼ全滅、その後の調査団も中々下層へと足を踏み入れる事ができずにいた。


 それが一般に知らされている(・・・・・・・・・・)表向きの事実である。



 実際には摂政や宰相を始めとする一部の勢力によって遺跡周辺は封鎖され、遺跡の中では今も尚調査が進められている。


 その発掘作業の労働力は主に奴隷商から買い集めた違法奴隷、そして遺跡内部の調査には傭兵や裏の専門家達が使われていた。


 遺跡の周りには幾つものテントが設置され、その中の1つでは遺跡調査の定期報告が行われていた。



「―――――以上の事から、現状ではこのルートが遺跡最下層への最短ルートと判断されます。他のルートについては、魔獣の密集区画や遺跡自体に設置されたトラップが障害となるのでお勧めできません。」


「そう、ならこのルートで―――――ッ!」


「エレイン様?」


「どうやら、イルダーナが墜ちたみたいわ。」


「「!?」」



 エレインと呼ばれた女性、いや少女は小さく溜息を吐いた。



「南門が破られ、摂政や宰相達は討たれたみたいです。エーレの兵達も全滅・・・けど何故?」


「何か疑問が?」


「領主の屋敷に仕掛けておいた探知術式は敵の情報を自動で私に送信した後に消滅するようにしているのだけど、摂政達を倒したのは帝国の勇者ではないわ。この国の騎士よ。」


「・・・ルーグ騎士団ですか?」


「ええ、団長のシルヴェスターによるものだけど、それ以上の情報がない。同行者については何も・・・第三者による干渉?」



 エレインはイルダーナから送られてくる情報に対し、怪訝な表情を浮かべていた。


 今回の黒幕であるエレインはイルダーナの各所に様々な魔法の術式を施しており、イルダーナを覆う結界も彼女によるものだった。


 その彼女が仕掛けた最も多い術式は探知系、監視の効果をもつものだった。


 領主の館を始め、各の目的で来国した帝国の皇子とエーレの王子を軟禁していた宿にもそれは仕掛けてあり、敵が街に侵入し、用済みの街を任せておいた摂政と宰相の身に何かがあれば彼女に敵の情報とともに伝わるようになっていた。


 だが、実際に届いたのは南門の防衛を任せておいたルーグ騎士団団長が単身で領主の館に突っ込み、摂政達を血祭りにあげたという情報だった。


 帝国から来るはずの勇者が血祭りに参加したという情報は欠片ほど無かった。



師匠(せんせい)の話では、あの大魔王や、“銀”の龍王もこの世界に出入りしている。私達の知らないところで、別の勢力が帝国の召喚勇者に力を貸している・・・?)



 実際は騎士団長が勝手に暴走して特攻しただけではあるが、そこまで詳細な情報を知る術を持ち合わせていなかった。



(――――イルダーナには帝国の皇子がいるから救助に来ていてもおかしくないわ。摂政達もこの遺跡のことは知っているから、『至宝』の存在を知っている彼らなら必ず向かってくる。普通の馬(・・・・)なら1日の距離だけど、帝国の勇者の持つ“未知の能力”がどれほどの者か解らない以上は油断はできないわ。それに、異世界の魔法なら、その気になれば1時間もかけずに到着する事も出来る。急いだ方がいいわ。)



 敵勢が近づいてくるのを確信し、エレインは素早く行動に移った。


 直属の部下達に指示を出し、すぐに『至宝』回収の為に動き出した。


 彼女は別のテントへ移動し、そこに監禁していた少女を呼びに行く。



「――――――ッ!!」


「怖がるのは無理もないけど、貴方にはこれから私と一緒に遺跡に潜ってもらうわ。そこでの用事が済んだら解放してあげるわ。」


「い、嫌・・・!」



 少女は怯えながらエレインから離れた。


 それでもエレインは平然とした表情を崩さず、少女に近づいてその手を掴んだ。



「嫌でも来てもらうわ。一応、保険(・・)も用意してはあるけど、あくまで本命は貴方だから。すぐに出発するから。」


「私は行きたくありません!!」


「・・・仕方ないわね。なら取引をしましょう。この件に貴方が大人しく協力して無事に成功したら、貴方に相応の報酬を与えるわ。」

「報酬?」


「行方不明の先王夫妻――――」


「!!」


「そう、貴方のお父様とお母様に逢わせてあげるし、一緒に解放してあげるわ。」



 エレインの差し出した取引の内容に、少女、ゴリアス国女王ミリアムは拒否する事は出来なかった。


 そして10分後、エレインは女王ミリアムと直属の部下数名、そしてもしもの時の“保険”を連れてドルドナ遺跡の内部へと潜っていった。


 丁度、士郎達がイルダーナを出立したの同時刻のことだった。





--------------------------


――ドルドナ遺跡近辺――


 ―――と、敵側が既に女王様を連れて遺跡内部に潜入しているのは俺達に筒抜けになっている。


 それもこれも《摩訶不思議な情報屋》のお陰だ。


 リアルタイム情報を即座に伝えてくれるし、検索ワードを言えばすぐに調べてくれる。


 まさに情報系チートだ!


 ま、それでも大なり小なり制約があるんだけどな。



「それでも十分に反則的な能力ですよね?」


「だよな~♪これ、使い方によっては世界を震撼させられるよな?」


「ええ、ですからこの能力は他言しない方がいいですよ。悪用しようと考える輩が次から次へと湧いてきますから。中には人質を取ってでも利用しようと考える者も出てくるでしょう。」


「ああ~、スッゲエ有り得るな。分かった。無闇に他言しないでおくよ。定期的にばれていないかコレでチェックもしておく!」



 リアルタイム情報を調べられるこのチートなら、現時点で俺の事を知っている奴らが何人いるかも検索できるからな。


 よくよく考えたら、よく80ポイントだけで創れたものだ。


 このチートッぷりなら優に100ポイントを越えていてもおかしくないと思うんだけど。


 と思ったけど、さらに考えてみたら、このチートのもたらす情報は基本的に簡潔にまとめられた文章情報ばかりだ。


 画像情報はかなり少なく、写真のような情報はさらに少ない。


 この世界に写真がないからなのか?


 その辺は後で検証しておこう。



「雑談はその辺にしておけ。それで、敵の方はどうなっている?」



 団長が眉間に皺を寄せながら話しかけていた。


 言い忘れたが、今の俺達は遺跡から少し離れた場所に穴を掘ってその中に隠れている。


 平原だから穴でも掘らないと隠れる場所がないんだ。


 ちなみに、さっきまで爆走してもらっていた馬達はいまだに興奮が収まらないのか、今も後ろで鼻息を荒げている。


 それはいいとして、俺達の視界にはドルドナ遺跡は映っていない。


 検索してみると、遺跡の周囲を結界が囲んでいて外からは視認できなくなっていた。


 敵の防衛戦力は把握しているが、細かい配置は偵察隊が調査中だ。


 と、タイミングよく戻ってきた。



「殿下、勇者様、あの不可視の結界の向こうには5体の上位竜と10体の中位竜、さらに50体の下位竜と100体以上の魔獣が守りを固めています。」


「あらら、やっぱそういう布陣か。」


「更にその先には傭兵団が待ち構えています。勇者様の情報通り、悪名高い『ヘルロック傭兵団』や北部で名を上げている『カルドンヌ傭兵騎士団』、帝国出身者で構成されている『シュトック傭兵団』等、名だたる傭兵団が守りを固めています。」



 金にものを言わせて傭兵を雇いまくったようだな。


 けど、いくら数を揃えたって意味はない!


 俺の能力に対して1人1人対策をしていないのは調査済みだ!


 俺からすれば、最初の魔獣軍団さえ突破すれば余裕で遺跡内部に侵入できる。



「では、遺跡に突入する部隊と障害を片付けながら彼らを援護する部隊に分けましょうか。」


「よし!お前ら、魔獣どもを片付けて来い!」


「無茶言わないでください!!」


「団長、上位竜もいるんですよ!!それも5体も!!」


「戦力が足りません!!千人単位の兵力が要ります!!」


「せめて、我々と一緒に消された他の騎士団や兵士達を戦力に加えるべきです!!」



 うんうん、それが普通の反応だろうな。


 けど、俺を含めた元チームバカ皇子の面々はヤル気満々だ。



たったの5体(・・・・・・)なら余裕だな!」


「1人1体で大丈夫だから、他は中位竜達の相手をすれば余裕で片づけるんじゃないか?」


「何言ってんだ?上位竜全部俺1人で大丈夫だろ?ファイヤードレイク戦の時の俺の活躍を忘れたのか?」


「今日のディナーのメインはドラゴン肉だな。ミディアムで食べたいな。」


「何を言っている!?肉と言えば唐揚げが正義だ!!」


「お前バカか?肉といえばカツだろ!!ファル村特製ソースで酒と一緒に食うんだ!!」


「それなら私は――――」



 ヤル気満々というより、既に魔獣軍団を全滅させる前提の会話をしていた。


 そうそう、昨日の宴会でレモンを発見したんだよな!


 これで唐揚げの味が更に引き立・・・じゃない!



「帝国の連中は何を言ってるんだ・・・!?」


「上位竜を1人1体でだと・・・正気か!?」



 ルーグ騎士団は元チームバカ皇子に戦慄していた。


 そりゃまあ、この世界の常識範囲で当て嵌めればルーグ騎士団の反応が普通なんだろうけど。


 元とはいえ、チームバカ皇子の連中も本当に規格外になってきたな。



「お前ら!!帝国の騎士達に負けるな!!ルーグ騎士団の名と誇りに懸けて、敵を全滅させて女王陛下を救出するんだ!!」


「「「ハ、ハッ!!!」」」



 団長が発破を掛けたお蔭でルーグ騎士団の士気は戻っていった。


 そうだ、どうせだからルーグ騎士団も(勝手に)パワーアップさせておこう。


 ポチポチ・・・・・・よし、これで完了だ!



「よし!突入開始!!」



 俺達は遺跡に向かって突入を開始した。





 《摩訶不思議な情報屋》は便利ですが万能ではありません。

 士郎はエレイン達がミリアム女王を遺跡の中へ連れて行ったことは知りましたが、その直前の会話の内容までは知っていません。


 次回、ドルドナ遺跡へ突入です!



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