第11話 暴れん坊王女、村を回る
今回はステラちゃん視点のお話です。
私はフィンジアス王国第二王女ステラ。
異世界から来たという謎の組織の策略により暗殺されかけたところを異世界より召還された勇者シロウにより命を救われた。
そしてその日から一週間が経とうとしていた。
「ステラ様、王都に向かった者からの定期報告が届いています。」
「分かった。すぐに行く。」
部下からの知らせを聞き、私は日課の鍛錬を中断させて天幕のひとつの中に入っていった。
あの後、情報収集や隠密行動に長けた部下を王都へ向かわせ王国の現状を調べさせている。
「報告によりますと、我々は帝国との戦闘にてほぼ全滅し、運良く生き残った者がステラ様の亡骸と共に帰還した、となっているようです。亡骸は国王様が確認して公式に死亡が発表されています。」
「そうか、大方こちらの予想通りの状況か。帝国側も似たような状況だろうな。」
「ハイ、昨晩帝国側の野営地を偵察したところ、第一皇子が大声で叫んでいるのを確認しましたか。」
「・・・・・そうか。」
「・・・・・・はい。」
あのバカ皇子、自分で大声で暴露したか。
これは村人にも伝わっていると考えた方がいいかもしれないな。
「―――――では、潜入隊には予定通り王都へ向かえと伝えておけ。あくまで慎重にと付け加えてな。」
「畏まりました。」
その後は今日の予定をいくつか話し合い、朝の定期会議を終えた。
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会議を終えた私は天幕を後にして村の中へと向かう。
現在私達が拠点としているのは村長との話し合いで決めた王国側の一部の土地だ。
村の挟んで反対側には第一皇子率いる帝国側の拠点がたっている。
最初の2日ほどは野営用のテントで済ませていたが、一般兵の中に《建築魔法》を使える者がいたのでその者を中心にして拠点造りが行われた。
当初は敵国である我々が居つく事に村人達の大半は不満や警戒心を抱いていたが、村の復興や農作業を手伝っていくうちに少しずつ打ち解けてきている。
「おやおや、おはようございます、王女様。」
「今朝もお元気で何よりです。」
「ああ、おはよう。御婦人方は今日も畑仕事か?」
「嫌だわあ~~、こんな田舎女に御婦人なんて~~~♡」
「王女様はお世辞が上手だわ~~~♡」
お世辞で言った訳ではないのだが・・・・。
だが、私もようやく受け入れられてきたと言う事か。
しかし、どこかこの視線に違和感を感じるのは気のせいか?
「農地の方も随分変わってきたみたいだな?」
「ええ、勇者様が見つけ下さった作物のお蔭で随分と変わってきましたわ。」
「コショウだけじゃなく、油や砂糖もたくさん出来始めてきて料理のし甲斐がでてきましたわあ。勇者様からも新しい料理の作り方も教えてきてもらって、うちの子達も大喜びで。」
うん、ご婦人方も随分元気になってきたな。
我々が来たばかりの頃は食糧不足で随分痩せ細っていたが、今は随分と健康的になっている。
確かに、シロウが作った異世界料理は私も部下達も大絶賛していた。
「コロッケ」や「クッキー」、「チップス」など、部下達もすっかりハマっている。
あれを食べれば元気になって当然か。
「それじゃあ、私達はこれで。」
「失礼します。」
「ああ、私も後で農地の方へも行くのでまた後で。」
御婦人達と別れた私は村の教会へと向かった。
村長との何度かの話し合いの後、村への滞在と食糧の提供の条件の1つとして、私は村の子供達に勉強を教える事になっている。
キッカケはシロウの言葉、「読み書きと計算くらいはできて損はないんじゃないか?」という発言だった。
シロウの故郷では“ギムキョウイク”と呼ばれる制度があるらしく、国民全員が高い教育を受けているとのことだ。
これには私以外の者も驚愕した。
読み書きだけでなく、計算や歴史、文学なども学ぶという・・・・何とも進んだ国だと驚かざるを得ない。
「あ、王女様先生だ!」
「おはようございま~~~す!」
教会の扉を開くと、子供達がそろって挨拶をしてきた。
思ったのだが、この村の子供達は意外と礼儀正しい子が多いな。
まあ、前例もある事だし訳ありの人間が多いのかもしれないな。
「ああ、みんなおはよ―――――――」
「おはようございます!暴れん坊王女様!」
ズデン!!
思わず転んでしまった。
誰だ!その名前で呼んだのは!?
「・・・・誰からその名を教わった!?」
「え~~と、皇子様~~~!」
あのバカ皇子か!!嫌がらせか!?
奴め、いっそ剣の錆にしてやるか!?
「まあいい、とにかく授業を始めるぞ!」
「「「は~~~~い!」」」
バカ皇子への処罰は後にするとして、今は子供達への授業に集中する事にする。
ちなみに私が教えるのは読み書きと簡単な計算だが、週に1~2回ほどは帝国側の者と共同で歴史や地理も教える予定になっている。
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結局、子供達の間では『暴れん坊王女』という私にとって黒歴史の代名詞が浸透していた。
授業が終わった後の挨拶でもあの名を何人かに呼ばれ、私の中でははあのバカ皇子への殺意を増していった。
「おのれ・・・今から斬りに行くか!?」
剣を抜きそうになるのを必死で堪えながら歩いていると、遠くから悲鳴が聞こえてきた。
「こ、殺される~~~~~!!」
「そこのお前!止まったらさらに10週追加だ!!」
「ヒィィィィ~~~~~~!!」
そこでは、馬に跨った村長が帝国の兵達を容赦なく扱いていた。
今日も悲鳴を上げていたか・・・・・・。
「ぼ、僕は貴族なんだぞ!?」
「俺だって、子爵家の長男なんだぞ!?」
「知るか!!貴様らの腐った性根を叩き直してやる!!全員、100回は死ぬ気で走れ!!」
「「「ヒィィィィィィィィィィィィ!!!」」」
村長、若返ってから日に日に鬼教官になってきているな・・・・・。
バカ皇子は一緒ではないようだが、既に死んだか?
いや、村長の乗る馬が何かを引き摺って・・・・・・・・・?
「グ・・・・ハッ・・・・・・・」
・・・・・・・・・・。
さあ、農地の方へ行ってみるか。
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農地へ行くと、そこは様々な作物で埋め尽くされていた。
最初は麦や豆しかなかったが、ここに来て2日目以降はその種類を数倍に増やしていった。
「ほう、今日も随分と育っているな?」
私の目の前にはたくさんの甜菜畑が広がっていた。
元々葉を食べる作物だったが、今まで捨ててきた根の部分から砂糖が作られるとシロウから教えられ、今は村人達がより効率よく砂糖を作る研究を行っている。
最初は不純物が混ざった粗悪な砂糖だったが、数日で商品として問題の無い良質な物を作れるようになった。
別の畑で栽培されているコショウや油も加えると、これは大陸全体に多大な影響を与えるものばかりだ。
我が王国だけでなく帝国も同じだが、今までコショウも砂糖も南部の島国からの輸入に頼り切っていた国にとって、この村で栽培されている作物は金銀財宝に優るとも劣らない宝の山ばかりだ。
「・・・・・いずれこの村の事は外部に漏れるだろう。そうすれば、大勢の商人や役人が訪れるようになって我々の存在にも気付かれるな・・・・・。」
シロウは気付いているのだろうか?
これ程の宝の山がある以上、いずれ人が集まって我々の存在に気付かれてしまう。
公式に死亡扱いになっている私やあのバカ皇子の存在が気付かれれば、勢力は問わず村ごと揉み消そうとする輩が湧き出る可能性は十分にある。
彼に我々を匿う義務はないとは言え、これはいささか短慮な行動ではないのだろうか?
「あ・・・・ステラ様!」
「ん?アンナか。」
難しそうな顔で立っていると、いつもシロウと一緒にいるアンナがやって来た。
腹違いとは言え、あのバカ皇子の妹とは到底思えない健気な村娘だ。
「どうした、今日はシロウと一緒じゃないのか?」
「は、はい!勇者様は今朝早くから村から一番近い町に出かけています。」
「何?ここから近い町と言うと、南東の港町か?」
初耳だ、昨日はそんな話を聞いていなかったが・・・・。
確か、あの町にはこの辺りを統治する領主が住んでいたはず。
「まさか、領主に会いに行ったのか?」
「さあ?でも、この村をしばらく護る為のことをしてくると言ってました。」
「村を護る?」
「はい。」
何をするつもりだ?
あの町は今でも海運の盛んな町だが、戦争中の今は海軍の拠点の1つにもなっている。
「あと、帝国兵の方が1人、皇子殿下と一緒にいた方も一緒に行きました。」
「ロビン殿も?」
シロウだけでなくロビンも一緒だと?
一体、彼らは何をしようとしているのだ?
と言うより、ロビン殿がいない間はあのバカ皇子を誰が面倒を見るのだ!?
私は少々混乱しそうになりながら立ち尽くしていた。
主人公はお休みです。
次回は港町で海賊に襲われてしまうシロウ・・・・な話にはなりません。
次は土曜日の午前更新予定です。