第122話 ボーナス屋、フラグを立てる?Ⅰ
ロビンくんの尋問は一気に進んだ。
偽警備兵サイから聞いた身の上話をまとめると以下の通りだ。
1、サイはエーレ王国の平民で、実家は王都でパン屋を営んでいた。
2、6歳の頃、お腹を空かせていた迷子の貴族の令嬢Aと出会い、自家製パンをあげたのがキッカケで仲良くなった。以降、時々一緒に隠れて遊ぶようになった。
3、10歳の時、貴族街にパンの配達をしていると護衛付きの貴族令嬢Bに「召使になれ」と呼び止められたが断って逃げた。
4、後日、貴族令嬢Aと一緒にいる時に貴族令嬢Bが現れて捕まりそうになったところに悪党が現れて貴族令嬢A&Bを拉致しようとするが、サイは2人を連れて逃げ、生まれつき持っていた“不思議な力”で助けを呼んで助かった。その際、貴族令嬢Bをお姫様抱っこしたらしい。
5、12歳の時、何故か貴族が通う学校に通うことになり、そこには貴族令嬢A&Bがいた。平民なので苦労したが、寮の相部屋だった貴族子弟A&Bや、上級貴族に虐められていた貴族令嬢C&D&E&F&Gと仲良くなった。何故か貴族令嬢達はケンカが絶えなかったらしい。
6、学校卒業後、貴族令嬢A&Bは家庭の事情で王都を去り、サイは持っていた能力が軍の目に留まって無理矢理徴兵された。軍で仲良くなった女性軍人A&B&C&Dと一緒にいると、偶に貴族令嬢達が殺気を放ってやって来ることがあったらしい。
7、そして現在、一度も面識のない第二王子と第一王女をゴリアス国に送り届ける任務等でイルダーナに来ている。
どんだけだよ!!
「モテ過ぎだな?」
「え、そうですか?」
自覚なしか!!
話聞いただけでもフラグがあっちこっちに見え隠れしているよ!
どんだけハーレム要員増やしてんだよ!!
身分問わずにモテまくってるのに何で気づかない・・・って、だから「鈍感男」か。
「(おそらくですが、その貴族令嬢達の誰かが某国の王女だった可能性がありますね。確か小国の中には、同盟の有無に関係なく他国の貴族の令嬢と婚姻を結ぶ事はそれほど珍しく無かった筈です。)」
「(なるほどな、身分を隠しているから、コイツには自覚がないって訳か。)」
俺とロビンくんは小声で囁きあった。
俺の予想だと、貴族令嬢A&Bが怪しいんだよな。
学校卒業後に居なくなったのって、自国に帰還したってことなら筋が合う。
「(取り敢えず、今回の件とは関係無さそうだな?)」
「(そうですね。話も聞けましたし、後は他のエーレ兵と一緒に空いている地下牢に閉じ込めておきましょう。)」
エーレ王国の王女とは関係無さそうだしな。
と、隊長さんがサイを執務室から連れ出そうとした時だった。
「あ、神様からメールだ!」
「え!?」
タイミングを計っていたかのように、本日2度目の神様メールが届いた。
送信者は同じだ。
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From:現役のルー
Sub:(緊急)女王ミリアムを救え! Part2
「(緊急)女王ミリアムを救え! Part1」達成おめでとう!
報酬は現時点をもって支払われた。
ゴリアス国女王ミリアムはイルダーナの西にある『ドルドナ遺跡』にいる。
遺跡には発掘の為に集められた多くの違法奴隷や軍用魔獣がいて無闇に近づくと魔獣の餌食となる。
警戒網を上手く潜り抜け、遺跡周辺にいる敵を倒せ!
尚、遺跡には今回の黒幕が女王ミリアムの傍にいる。注意せよ!
報酬:クリアメンバー全員にBP+50、中級ポーション×3
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メールを読んだ直後、俺やロビンくん、隊長さんの目の前にそれぞれ片手でギリギリ持てる大きさの黄色い魔石が現れた。
これが報酬なのだろう。
あれ?
もう一通メールが届いている。
今度は誰からだ?
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From:戦場のヴァハ
Sub:(緊急)某国の王女達を救え!
『ドルドナ遺跡』でエーレ王国第一王女の身代わりに輿入れされた某国の王女達を救え。
王女達は遺跡最下層で行われる儀式でゴリアス国女王とともに生贄に捧げられてしまう。
儀式が始まるより前に救い出せ!
尚、彼女達は幼馴染が助けに来ることを希望している。
報酬:クリアメンバー全員にBP+50、宝石の原石(中)
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更に別の神様まで・・・!!
暇なのか!?
神様って、どの世界でも全員暇を持て余しているのか!?
しかもご丁寧に「・・・」なんてルビまで付けてるし、それって思いっきりフラグだよな?
遠まわしに一緒に行けって行ってるよな?
「・・・隊長さん、連れて行くのちょっと待ってくれる?」
「はい?」
「どうしたのですか、シロウ殿?」
「・・・神様からまたお告げがきた。それも2柱から。」
「「「は!?」」」
みんな揃って阿呆面になった。
まあ、普通はそうなるよな?
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――領主の館 1階フロア――
あの後、ロビンくん達が違う意味で意味で神様に戦慄し、それでも取り敢えずサイを始めとするエーレ兵達は一時的に地下牢に閉じ込めておくことになった。
そして作戦会議、だったのだが――――
『なあおい、お前らが消した連中の中から俺の部下達だけでも戻してくれねえか?陛下を救出する以上、これはルーグ騎士団の役目でもある。俺だけで動く訳にもいかねえんだよ。他の騎士団?あいつらは別に放っておいて構わねえぞ。なんか変なのもいるし、数が多けりゃいいって訳でもないからな。つーか、何所に消したんだ?』
と、団長に頼まれ、取り敢えず、退場中だったルーグ騎士団だけでも領主の館の敷地内に出した。
言い忘れたが、ゴリアス軍達が強制転移させた先は俺達が普段使っている四次元倉庫の中だ。
最初はどっかの迷宮の中や荒野のど真ん中とかにしようとも考えたけど、死傷者を出したりするのもマズイから極めて安全な四次元倉庫の中にした。
そういう訳で、今、館の外にはゴリアス最強のルーグ騎士団全メンバーがいるんだけど、何やらパニックを起こしていた。
『だだだだだだだ団長ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!ドドドドッド、ドラゴンがああああああ!!!!』
『上位竜!!上位竜が沢山死んでええええ!!??』
『おい、お前ら落ち着け!』
『魔獣が!!上位種の魔獣の死体の山が~~~!!!』
どうやら俺の四次元倉庫内に入れっぱなしの魔獣の死体に精神的ダメージを受けたらしい。
そういえば、市場の混乱を避ける為に一部の魔獣の死体は四次元倉庫内に入れっぱなしにしていたんだよな。
ついでに昨日の帝都を襲った大型魔獣の死体の一部もあったりする。
どれも個人や少人数で狩れるような魔獣じゃないので、閉じ込められている間に俺達への恐怖心が湧き上がってきたらしい。
その辺のことは団長に全部お任せする事にしよう。
自分の部下だしな♪
そして俺は屋敷の中に戻っていた。
執務室の方では、ロビンくんが通信魔法具で帝都と連絡中だ。
「――――あのう・・・」
「ん?」
「すみません。さっき、私達を助けて下さった方ですよね?」
「そうだけど?」
執務室に戻ろうとすると、俺より少し年下の少女が呼び止めてきた。
あ、この子って、確か領主さんの娘さんだ!
名前は・・・あ、まだ聞いてなかった!
「私はイルダーナ領主の娘、ユリア=S=リヒトシルトと申します。この度は私達を助けていただき、本当にありがとうございます。」
うわあ、貴族令嬢にお礼言われちゃったよ。
あれ?
もしかしなくても、俺って貴族の御令嬢にお礼を言われたのって初めてかも?
いやいや、今はお兄さんと一緒に村に居るリーナも貴族令嬢だったな。
「私、凄く怖かったんです!だけど、あの優しい光とともに現れた貴方様に救われた瞬間、恐怖も絶望も嘘のように消えていったんです!本当にありがとうございます!」
「そ、それは良かったな!」
「あのう、よろしければお名前を教えて貰えないでしょうか?」
「ああ、俺はシロウ。シロウ=オオバだ。」
「シロウ様・・・♡」
え?
なんだかこれ、フラグっぽくないか?
「あ!大事なことを忘れてました!お母様が恩人の皆様にささやかなお礼にと、簡単なお食事をご用意したので来ていただくようにと言付かってきたのでした!」
「そうなんだ?じゃあ、お言葉に甘えようかな?」
「わ、私は他の皆様にも伝えてきますので、失礼します!」
あ~、なんか顔を真っ赤にしていったよ。
最近の俺って、あちこちでフラグを立ててるんじゃないか?気のせいかもしれないけど。
「女の子っていえば、アンナちゃんは村に帰ったのかな?今朝は二日酔いで辛そうだったな。」
村の仕事もあるから帰っていると思うけど、あのバカ皇子や親バカ皇帝に引き留められている気がするな。マジで。
さてと、ロビンくん達にも声をかけてから行くかな?
え~と、場所は食堂でいいんだよな?
余談だけど、この後すぐに場所を伝え忘れたことに気付いたユリアちゃんが慌てて戻ってきた。
その時も顔を真っ赤にしていたのは言うまでもない。
サイはレギュラーキャラにはなりません。
ゴリアス編だけのキャラに終わる予定です。