第121話 ボーナス屋、救出する
――領主の館 地下牢――
貴族の家の地下には牢屋が標準仕様に入っているようだな。
何に使われているのかは、ちょっと怖いから今回は訊かない事にしよう。
「御無事ですか!!」
「隊長さん、ちょっとどいてくれ!!」
「ハイ!」
俺はクラウ・ソラスで地下牢の扉を破壊した。
というか、扉を消した。
牢の中には黒髪に白髪の混じった初老の男性と、金髪の女性、そして少女が2人いた。
「もう大丈夫だぞ~!」
「おお!助けに来てくれたのか!?」
初老のおっさんは俺達の登場に喜び顔色が明るくなった。
「私よりも先に妻と娘達を助けてほしい!妻は身重で、下の娘は昨日から体調が悪くなっおるのだ!」
「分かりました!」
隊長さんや騎士達は女性を優先に救助して地上へと運んでいった。
暗くて気付くのが遅れたけど、女の子の顔色がかなり悪かった。
一体、何日間閉じ込められていたんだ?
「領主さんは大丈夫なのか?」
「・・・少々フラつくが問題ない。助けてくれた事に感謝している。既にご存じのようだが、私はここイルダーナの領主、ユリウス=I=リヒトシルトという者だ。」
領主さんこと、リヒトシルト侯爵は頭を下げて感謝してきた。
だが、やっぱりやせ我慢をしていたみたいで歩こうとした途端に倒れそうになった。
俺は隊長さんと一緒に領主さんを支えながら地下牢を後にした。
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――領主の館 寝室――
領主一家を救出した俺達は、領主さん達をそれぞれの寝室に運んだ。
その後は取りあえず《回復魔法》や魔法薬で治療をさせて使用人達に食事を用意してもらっている。
なお、使用人達は領主さん一家を人質にされ、摂政や宰相達にこき使われていただけだったらしく、一家が救出されると泣いて感謝された。
「旦那様方を助けて戴き、誠にありがとうございました!このペトルス、皆様方のご恩を返す為ならば、お命を捧げる覚悟であります!!」
「いや、早まらないでって!!」
「イイエ!!仕える主を人質にされた挙句、一時とはいえあのようなゲスに使われるなど一生の恥!!むしろ私の命程度で・・・」
「落ち着けペトルス!すまないファリアスの方々、我が家の執事は少々変わっていてな、気にしないでくれ。」
「は、はあ・・・。」
確かに変わっているな。
というか、執事さん、制止されてもまだ目がマジになったままだ。
隣に立っている隊長さんもひいているよ。
「失礼します。」
そこへロビンくんがやってきた。
「ロビンくん、向こうの様子は?」
「ええ、シルヴェスター殿が拷・・・尋問を行っています。」
今、拷問って言いかけたよね?
絶対拷問やってるよね?
「おや?そちらの方はもしや・・・」
「お久しぶりです、リヒトシルト閣下。ロビン=W=ファリアスです。」
「ファリアス!?」
はい、ここで再び説明タイム!
終了!
「そうでしたか。それで殿下御自ら・・・」
領主さんはあっさりと信じてくれた。
親バカ皇帝の習性は有名らしく、ロビンくんが皇子だとすぐに信じてくれた。
一応、その親バカ皇帝が書いた書状とかも持ってきてたんだけどな。
「――――それで、閣下は女王陛下や私の弟の行方については何か御存じではないでしょうか?」
「リヒトシルトで結構です。ロビン殿下。残念ながら、私は陛下がこの街に到着した直後に摂政と宰相の一派に拘束され、妻子もろとも地下牢に幽閉させられていました。それ以降のことは何も・・・」
「そうですか。では、下にいるゴリアス兵に扮したエーレ兵についても?」
「エーレ兵ですと!?」
「旦那様、御無理はなさらないでください!!」
ロビンくんの言葉に領主さんは大声を上げて起き上がった。
領主さんも知らないってことは、エーレ王国の兵士達は摂政達が連れて来たってことか?
俺達が悩んでいると、部屋のドアが開いて団長が入ってきた。
なんか、鎧のところどころに生々しいものが付いてる・・・。
「――――ロビン殿下、リヒトシルト閣下、ゲ・・・摂政と宰相への尋問が終わりました。少々手古摺りましたが、陛下の居場所が判明しました。」
「それは本当か!?」
「はい。イルダーナより西に馬で半日ほど移動した場所にある古代遺跡に連れ去られたようです。」
イケメンモードの団長は、落ち着いた口調で喋っていく。
領主さんは団長の本性を知ってるのか?
まあそれはいいとして、女王は古代遺跡か。
思いっきりフラグだな。
「西の遺跡――――ドルドナ遺跡か!!」
「どういう遺跡なのですか?」
「・・・去年、ドーウィンの学者達によって発見されたばかりの古代遺跡と記憶している。一応は我が領内の外れにある遺跡だが、発見されて以降は調査を理由に専門機関により封鎖されていたのだが・・・何故、そこに陛下が・・・?」
「シロウ殿、やはり・・・」
ロビンくんは重い面持ちで俺に視線を向けてきた。
状況証拠しかないけどきっと間違いないだろう。
ゴリアスの女王は『至宝』の封印を解く為に連れ去られている。
敵は既に『至宝』の封印場所を見つけ、今にも封印を破ろうとしているんだ。
「―――シルヴェスター殿、それでエーレ王国との関係については聴きだせましたか?」
「ええ、どうやら我々が知らないうちに(ファッ〇ング)摂政達が勝手にエーレ王国と密約を交わしていたらしく、向こうの第二王子をこちらに婿入りさせ、互いに甘い汁を啜る算段だったようです。」
「勝手な事を・・・!!」
「さらに、現在我が国にエーレの第一王女が秘密裏に来訪していたようです。(ド変態)摂政に嫁入りさせようと企んでいたようで・・・。」
「・・・エーレの姫はまだ13か14だと記憶してますが?」
「(下衆)摂政はそういう趣味のようです。」
「最低ですね。」
摂政って、見た目は思いっきりオッサンだったよな?
14歳の少女を妻にって、マジで変態摂政だったのか。
王女の外見次第ではもっと最悪だな。
そういえば、館の外で拘束してある警備兵――――に扮したエーレ兵は王女の幼馴染じゃなかったっけ?
確かサイ=ベイカー、歳は20歳だったけど、20歳の男が14の女の幼馴染ってちょっと変じゃないか?
その事を皆に話してみると、直接ステータスを見ていたロビンくんと隊長さんも同じく疑問を抱いていたようだ。
「それは私もおかしいと思っていました。エーレの一番上の王女、つまり第一王女はまだ成人ではありません。なのに幼馴染と云うのは変だと思っていたのですが・・・。」
「連れて来て尋問してみる?」
「そうですね。事態の全体像を把握しておかないと、後に痛手となってしまう怖れがありますからね。リヒトシルト侯爵、部屋を1つお借りできますか?」
「それでしたら、私の執務室をお使いください。ペトルス、殿下達をご案内差し上げよ!」
「御意!」
そして俺達は執事さんに案内されて執務室へと向かった。
途中、中年のオッサンのすすり泣く声が聞こえたが気にしないことにした。
因果応報だからな。
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――領主の館 執務室――
さて、外に放置しっぱなしにしていた偽警備兵くんを執務室に連れて来て尋問開始だ。
勿論、暴れられないように最低限の拘束はしたままだ。
「つー訳で、洗い浚い話しやがれ!!」
「ヒッ!」
団長、再度不良モード・・・。
流石に相手もビビってるよ。
「シルヴェスター殿、私達が代わりに聴きますので下がっていてください。」
そういう訳で、尋問は俺とロビンくんがする事になった。
団長は壁際に下がったけど、未だに威圧感を放っている。
騎士よりヤクザとかの方が向いてるんじゃないのか?
「――――あなたはエーレ王国の名誉特兵、サイ=ベイカーですね?」
「は、はい!!」
「私はファリアス帝国第三皇子、ロビン=W=ファリアスといいます。貴方方の身の安全は保障しますので、私達の質問に正直に答えてください。」
「ファ、ファリアスの・・・!わ、分かりました!」
エーレの兵は一気に緊張した顔付になってロビンくんの質問に素直に答えていった。
権力や肩書の効果は凄いな。
「なるほど、エーレ王国はゴリアス国と手を結ぶことで国力を上げようとした訳ですか。ですが、あの国は以前から工業資源の乏しいにも関わらず、貿易はしてもどの国とも同盟は結んできませんでした。それが何故今になって?」
「そ、それは分かりません!!ただ、国王陛下はゴリアスを乗っ取ろうとしていると皆は噂しています。その為に王子を婿にだし、摂政様に王女を嫁として差し出したんだと・・・。」
「乗っ取り・・・ですか。」
ロビンくんは真剣な表情で何かを考えていた。
そんな中、俺は《念話》を使ってエーレ王国について訊いていた。
それによると、エーレ王国は農牧がそこそこ盛んで食糧はそれなりにある国だが、鉄や銅といった武器の材料になる資源がかなり少ない国で、鉱石などを輸入に頼りっきりになってるそうだ。
さらに塩の確保も問題になっていて、今までは仲の悪い隣国から高値で買わざるを得なかったらしく、ゴリアス国を乗っ取ろうと考えたのもそこが理由なのではという話だ。
けど、ゴリアス国とエーレ王国じゃ距離が開き過ぎるから塩を運ぶのは大変じゃないのか?
「――――なるほど。では次の質問です。貴方はエーレの王女とは親しい間柄ですか?」
「え?」
サイは意味が解らないと言いたそうな顔になった。
あれ?
確かにステータスには「王女の幼馴染」ってあったよな?
すると、ロビンくんは何かを思いついたのか、別の質問を始めた。
「質問を買えます。貴方の幼馴染に、高貴な御身分の方はいませんでしたか?」
その質問にサイが見せたのは、肯定を意味する動揺だった。
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