第120話 ボーナス屋、後を追いかける
――イルダーナ 南門――
門の前に辿り着くと、団長が乱暴に門を蹴ったり殴ったりして無理矢理開けようとしていた。
「クソッ!!門番がいねえと開けられねえか!?」
「シルヴェスター殿、落ち着いてください!!」
「おい、ガキ!!ここにいた門番も一緒に消したんだろ!今すぐ出せ!!」
「おいおい、落ち着けよ!お~い、隊長さ~ん!」
俺に詰め寄る団長を宥めながら、俺は誰もいない方に声を掛けた。
直後、俺達の前に偵察部隊が現れた。
「な!?何所から現れたんだ!?」
「最初からだぜ?魔法で姿と気配を消していたんだよ。」
突然現れた偵察部隊に団長はビックリしている。
そういえば、さっきクラウ・ソラスを地面に突き刺した時もこの辺に居た筈なのに、よく巻き込まれなかったな?
「隊長さん、さっきの無事だったんだ?」
「ええ、職業柄なのか、勇者様の剣が突き刺さった瞬間に嫌な予感がしたので急いで退避していたんです。いやあ、あれは危なかったですね。」
「・・・すみませんでした。」
仮に巻き込まれても安全な場所に転移するだけだけど、もしあれが転移じゃなくて攻撃だったら大惨事だった。
今後は気をつけないとな。
「それはそうと、こちらが門番です!」
「ん~!ん~!」
隊長さんは猿轡をされたゴリアス兵の人を僕達の前に差し出してきた。
俺達は予め、偵察隊の人達に門を開けられる人を確保しておくように頼んでおいたんだ。
門番の人まで強制転移させたら後が大変だからだ。
転移させるのは簡単だけど、個人単位で戻すのは大変なんだ。
「よし!そいつを寄越せ!」
「あ!!」
団長は隊長さんから素早く門番を奪い取り、そのまま門の前に戻った。
その間、1秒弱!
本当にスペック高いな?
あ、門番の人が泣きながら門を開けさせられている。
もしかすると、今日の1番可哀想な人はあの人なのかもしれない。
「よし、開いた!!」
大きな音を立てながら門が開き始めた。
お~!迫力あるな~!
「待っていろよ!あのクズ摂政がっ!!」
団長は怒りのオーラを爆発させながら特攻を始めようとしていた。
今更だけど、漫画とかにいたなあ、こういうキャラ。
「待てって団長さん!摂政が何所にいるのか知ってるのか?」
「それ位知っている!会談の会場であるイルダーナ図書館、今の時間ならクズどもがバカ笑いをしている!!」
「あ~、多分そこにはいないな。摂政も宰相も領主の館に集まっているぞ?」
「何!?何故いないと分かる?」
「さっき神様が教えてくれたから!」
「「「え!?」」」
その場にいた俺以外の全員が声を上げた。
俺はさっき届いたばかりの神様メールを全員に見せた。
って、信じてくれるのかな?
自作自演て思われそうだな。
「「「光の神王様!!??」」」
「ルー」の名前にロビンくんも大声を上げた。
どうやら信じてくれたようだ。
しかし、あの神様、「光の神王」なんて呼ばれていたのか。
何はともあれ、俺達一同はイルダーナの街に入り、一路、領主の館を目指した。
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――イルダーナ 領主の館――
イルダーナの、正確にはイルダーナを中心としたこの辺り一帯の領地を治めている領主の館は街のほぼ中心部に建っていた。
ほぼと云うのは、本当の中心部にはなんだか意味深なモニュメントがあったからだ。
気にはなったけど、今は急いで領主の館へと向かった。
「止まれ!この先には許可なく・・・」
「ドケエエエェェェェェ!!!」
「ギャアアアアアアア!!??」
哀れ、館の警備兵は宙を舞って散った。
団長は猪のように領主の館に突っ込んでいった。
「ああいう騎士もいるんだな。」
「「「いやいやいや!!」」」
俺の何気ない呟きを帝国騎士一同は全面否定した。
一括りにされたくないんだろう。
「――――この警備兵!!」
「どうしたんだ、ロビンくん?」
「この警備兵、ゴリアスの装備を来てますがエーレ王国の兵士です!!」
「「「―――――!?」」」
ロビンくんは哀れな警備兵のステータスを確認しながら驚いていた。
俺達も警備兵のステータスを確認した。
【名前】サイ=ベイカー
【年齢】20 【種族】人間
【職業】名誉特兵 【クラス】鈍感男 王女の幼馴染
【属性】メイン:火 サブ:水 闇
【魔力】4,100/4,100
【状態】気絶 打撲(微)
【能力】攻撃魔法(Lv1) 防御魔法(Lv1) 補助魔法(Lv2) 特殊魔法(Lv1) 剣術(Lv2) 槍術(Lv2) 盾術(Lv2) 体術(Lv2) 心環之秘技
【加護・補正】物理耐性(Lv1) 火属性耐性(Lv1) 火傷耐性(Lv1)
・・・王女の幼馴染?
「――――「名誉特兵」と呼ばれる職業は――帝国にも似た職業はある――エーレ王国独自の職業なんです!主に特別な才能を持った民を軍が召集して兵士にしているのですが、どうしてゴリアスに・・・?」
なるほど、国独自の職業か。
それは俺じゃあ気付けなかったな。
けど、エーレ王国ってどこにある国なんだ?
「勇者様、エーレ王国はムリアス公国の西隣にある国の1つです。どの国とも同盟を結ばずにいる小国の1つです。」
隊長さん教えてくれてありがとう!
確かに前に見た大陸の地図にそんな国があったっけ。
なんと納得していると、館の方から悲鳴が聞こえてきた。
「ギャアアアアアア!!」
「ゴアアアアアアア!?」
「イィ~~~~~~~!!」
最後の悲鳴か?
どっかの悪の組織の雑魚キャラみたいだったな。
「行ってみましょう!!」
「ああ!」
俺達は館の中へと急いだ。
ああ、あの警備兵はしっかり拘束しておいたぜ!
「おい、勝手に・・・ってええええええ!?」
扉を開けて中に入ると、そこは血肉の海だった。
十人以上のゴリアス兵が血塗れになって倒れ、一緒に大型犬の死体も転がっていた。
いや、これ犬か?
なんか、変な魔力みたいなのを感じるぞ?
【黒原の風狼 ♂(死亡)】
【分類】哺乳類型魔獣
【用途】防具の素材、軍用犬
【詳細】ダーナ大陸西部に棲息する狼型の魔獣。
嗅覚が鋭く、数km先の臭いも嗅ぎ分ける事ができる。
種族全体が風属性を持ち、風を操って攻撃したりする。
「・・・これはエーレの軍用魔獣のようですね。」
「軍用魔獣?」
「軍用に飼いならされた魔獣の事です。エーレ王国は、数十年前から魔獣を使役する技術を独自に見つけて、小型や中型の魔獣を戦力として使っているそうです。」
「しかし、何故エーレ王国の兵がゴリアス兵の格好でこの館に・・・?」
「それはまだ分かりません。摂政や宰相に問い詰めるのが早いですね。」
「「ギャアアアアアアアアア!!!」」
「「「――――――!!」」」
上の階から悲鳴が聞こえてきた。
おいおい、あの団長はまだ暴れているのかよ?
俺達は急いで階段を上り、右手にある大きな扉を開いた。
「シルヴェスター殿!!」
「くおらあああ!!陛下を何所にやったのか今すぐ吐けやあ!!」
「ヒィィィィィィィィィ!!!」
「こ、殺さないでくれ・・・!!!」
そこでは、不良モード全開の団長が貴族の男性を脅迫していた。
どっちが悪党だか分かんねえな。
軍の構造は国によって異なります。
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