第117話 ボーナス屋、強制転移させる
――南イルダーナ街道――
俺とロビンくんははイルダーナへと続く街道を真っ直ぐに歩いていた。
魔法で姿を消してないけど、代わりに帽子やコートで簡単な変装はしている。
すると予想通り、イルダーナの前を守っていたゴリアスの兵達が俺達の所にやってきた。
「――――お前達!イルダーナを目指しているのか?」
「うん!」
「イルダーナは現在戒厳令が出ている!住民の出入りは勿論、余所者の出入りも禁じられている!すぐに引き返せ!」
「そうなんだ。だが断る!!」
「「何!?」」
俺はイルダーナに行かなきゃいけないんだ!
なんてな♪
その後は1分ほど兵隊さん達と揉めに揉め、騒ぎを聞きつけて他の兵士さんも集まってきた。
「ガキが!黙って引き返せ!!」
「どうしても街には入れないんですか?私達は急ぎの用があるんです!どうか町に入らせてください!」
「そうだそうだ~!」
「駄目だ!これは女王陛下の命令だ。誰もイルダーナに入れるなと仰せつかっている!」
「ガキが、さっさと消えろ!」
ガラの悪い兵士は殺気丸出しで威嚇してくる。
言い忘れたが、今の俺とロビンくんは旅の兄弟という設定だ。
こうやって兵士達と口論を起こして注意を惹き付けて時間稼ぎをしているんだ。
「いいから道を引き返せ!!これ以上騒ぐと賊として斬るぞ!!」
「お前は黙っていろ!!すまないが、これも命令なんだ。ここから西南西に半日ほど歩けば小さな村がある。そこで数日ほど待っていてくれないか?」
粗暴な兵ばかりかと思ったけど、中にはいい兵士さんもいるんだな。
当たり前だけど。
「そこをどうか・・・!私達は、イルダーナにいる弟を故郷へ連れ帰る為に来ただけなんです(*本当)!すぐに出ますから!」
「お願いします(*棒読み)。」
「駄目だと言ってるだろ!!」
「おい、剣を抜くのはよせ!」
ガラの悪い兵士がついに剣を抜いてきた。
短気な兵だな~。
〈殿下、勇者様!準備が整いました!〉
そこに隊長さんからの《念話》による連絡が!
時間稼ぎ終了だな。
俺はロビンくんに目線を送る。
ロビンくんはコクンと肯いて返事をする。
「おら!!死にたくなければここから消えろ!!」
「あんたがな♪」
「あ゛!?」
「退場~~!」
「《物体転送》!」
「「な―――・・・」」
ロビンくんが魔法を発動させた直後、俺達の目の前にいた兵士さん約100人は一瞬で消えた。
さてと、この数をロビンくん1人に任せるのは大変だし、俺も手伝わないとな!
俺は四次元倉庫からクラウ・ソラスを取り出した。
「お前ら、今何をした!!??」
そこにぞろぞろと他の兵士達が集まってきた。
一度に100人近くが消えたからかなり動揺している。
冷静な兵士が少ないのは好都合だ。
「《強制転移閃光斬》!!」
「「「なっ・・・・・・・!?」」」
クラウ・ソラスの形状をバスターソードに変えて振るい、その時に発生した閃光に飲まれた兵士達はみんなまとめて俺達の前から消えた。
今度は約1000人!
どうだ、敵を強制的に別の場所に戦線離脱させるクラウ・ソラスの新必殺技!
戦わずして勝利だ!
「・・・て、敵襲!!!敵襲~~~!!!」
一気に全体の1割の人数が消え、残った兵士や騎士達はようやく戦闘態勢に入った。
騎士の1人が都市の方へ向かっている。
1人も逃がさないぜ!
「《強制転移閃光斬》!!」
さらに約1000人退場!
あと約8000人!
「怯むな!!数で押さえるんだ!!」
「「うおおおおおおお!!」」
「《物体転送》!!」
ロビンくんの魔法で今度は約500人退場!
「よ~し!《強制転移閃光斬》!!《強制転移閃光斬》!!《強制転移閃光斬》!!」
「《物体転送》!!」
「「わぁ~~~~~!!??」」
あっという間に1万近くいた軍勢は半数以下にまで減っていった。
誰も傷付けずに(多分)安全な場所へ強制転送作戦は大成功だな!
え?何所に転送したかって?
それは秘密だ♪
「ほらよ!《強制転移閃光斬》!!」
それにしても、この必殺技ってもっと派手に改良できそうだな?
イメージはできているから、次はそれを試してみよう~と!
「《強制転移閃光斬》♪」
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――イルダーナ南門前――
ミハエル達、ルーグ騎士団はただ茫然とその光景を見ているしかなかった。
数分前まで1万人以上はいた筈の軍勢は、あっという間に半数以下、もう2000人も残ってはいなかった。
「・・・は?」
「団長!正気を取り戻してください!敵襲です!友軍がやられています!!」
「やられているって、死んだのか?」
「それは・・・・・・」
それはミハエルを始め、多くの騎士達が判断しかねているものだった。
目の前で次々に消える兵士や騎士達、そこには血の一滴も残っていないので死んだのかどうかすら判別する事が出来ない。
「それにお前達も見ただろ?無闇に近づいたら、他の連中みたいに消されるぞ?攻めるなら相手の動きを観察してからだ!」
「しかし!!」
「ああ!!また消えました!!」
マイペースなミハエルに対し、他の、特にルーグ騎士団の若い騎士達は痺れを切らしそうになっている。
ゴリアス国最強の騎士団と称されるルーグ騎士団だが、君主直属の騎士団ということもあり、直接動く機会は少なく他の騎士団と比べると1年に受ける実戦的な任務も表向きには少ない。
その中でも若い騎士達、特に他の騎士団から引き抜かれたのではなく国内の騎士養成学校等から直接ルーグ騎士団に入団した者達は基本的に実戦経験が乏しく、緊急時にミハエルのように堂々としていられるほどの度胸も持ち合わせていないのがほとんなのである。
最も、ミハエルの神経が図太いだけかもしれないが。
(落ち着きねえな~。しっかし、あいつらからは敵意も殺意も微塵も感じねえんだよなあ。あのガキが持ってる剣は魔法剣っぽいし、どっかの遺跡で発掘された古代の武器か何かだろうな。見た感じ、戦っているというよりは道を塞いでいる犬や家畜を退かしているってとこか・・・。だとすれば、消えた連中も死んでねえし、怪我1つしてねえ可能性が高いな。)
「ああ!!とうとう、私達と五大騎士団だけになりましたよ!!」
ミハエルが冷静に状況を分析している間に、とうとう南門を守っていた兵士は全部いなくなり、残ったのはルーグ騎士団を始めとする首都ドーウィンから集められた騎士団だけとなった。
道を塞いでいた兵士達を消した士郎達が南門に接近してくると、流石に不用意に接近するのは危険だという事に気付いている騎士達は一定の距離を保ちながら何時でも攻撃できるよう、攻撃魔法の詠唱を開始していた。
「お前らは下がっておけ!」
「団長?」
「俺が相手をする。」
ミハエルは腰に下げた剣の柄を握ると、歩いてくる士郎達に近付こうとした。
「止まれ!!」
「!?」
「クックック・・・!蛮行はそこまでだ。名も知らぬ侵略者よ!我こそはブルーメ騎士団団長にしてゴリアス最強の騎士、名を――――――」
「《強制転移閃光斬》!!」
「「「あ!」」」
自称ゴリアス最強の騎士は名を名乗ることも無く退場した(笑)
そして、本当のゴリアス最強の騎士が士郎達の前に立ちはだかった。
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「誰だったんだ、今の?」
「さあ、何だか誰かと重なる気がしますね・・・。」
そうなんだよな。
さっきの自称最強騎士はキャラって言うか、纏っている空気が誰かに似ているようで似てない気が・・・。
まあ、気のせいだな。
「――――シロウ殿、ルーグ騎士団です!」
「――――!なんだか強そうな感じの騎士が近づいてくるな?」
「おそらく、彼が騎士団長のシルヴェスター殿ですね。辺境伯家の末子でしたが、武勲のみで先代国王陛下から男爵位を授かったと聞いてます。一応、《ステータス》で確認してみましょう。」
「だな!」
この世界にも規格外の人間はいるからな。
嘗めてかかったらチートでしたってオチとか他にもありそうだ。
村長も実は伝説の英雄だったあし、聖剣持ってたしな。
「《ステータス》!」
俺は近づいてくる騎士のステータスを確認してみた。
今回ロビンくんが使った魔法《物体転送》は、以前使った《物体転送》とは正反対の魔法です。前者は対象を別の場所へ送る魔法、後者は対象を自分の下へ引き寄せる魔法です。
さて、消えた皆さんは何所に送られたのでしょうか?
*2014/3/7 騎士団長の出身を男爵家から辺境伯家に変更しました。