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ボーナス屋、勇者になる  作者: 爪牙
ファル村編
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第10話 ボーナス屋、イモを煮る

お気に入り登録数が100になりました!

信じられません!まさかこんなに登録してくださる方がいるなんて・・・・。

当作品はシリアスは低めな感じで進めていく予定ですが、たまにはちょっと暗い話も混ざるかもしれません。

基本的には楽しいお話になる様に進めていきます。

では、10話目をどうぞ!

 何かヤバい物まで採取しそうになったけど、とりあえずたくさん食べられる果物や野菜を見つけたので俺達はファル村へと帰って来ていた。


 鋼牙大猪は魔法で宙に浮かせ、他の物(・・・)と一緒に村まで運んだ。


 村に到着した直後は鋼牙大猪を見たおばちゃんが悲鳴を上げるわ、勘違いした兵達が集まるわ、猟師の爺ちゃんが興奮するわの大騒ぎになった。


 なお、鋼牙大猪は猟師の爺ちゃんに引き渡して解体してもらっている。


 今夜はイノシシ料理かな~~~~♪



「よし!じゃあ、森から採ってきた果物や野菜で畑を盛り上げるぜ!!」


「「お~~~~~!!」」



 アンナちゃんやチビッ子達の助けを借りて、昨日は使わなかった農地を使ってファル村復興計画を開始した。


 その1、まずは肥料作り!


 俺は農地の上に森から持ってきた腐葉土を集め、そこに村のゴミ捨て場から集めた生ゴミや今は全滅した家畜などが以前出した糞なども一緒に入れてシェイクしていった。


 《土壌改良》も利用して落ち葉や生ゴミを瞬時に分解発酵して上質の肥料は完成した。



「そして次はこれを畑に撒く!」



 昨日と同じ要領で俺は畑に斑の無いように肥料を撒いていき、そのまま土とシェイクしていった。



「よし、次はみんなで俺の改良した種を撒くんだ!」


「「お~~~!!」」



 アンナちゃんやチビッ子達は俺が《品種改良》でいろいろ調整した種、今回は試しにコショウや大根、そしてジャガイモを植えていった。



「蒔いたよ~~~!」


「なら、今度は水をまくんだ!」


「は~い!」



 うん、みんな素直だから順調に進むな!


 水もまいたらお馴染みの《成長促進》!


 そしてあっという間に収穫だ!!



-------------------


 昼になると村の中はちょっとした騒ぎになっていた。


 俺が仕留めてきた鋼牙大猪も理由の1つだが、最大の理由は新しい作物の発見だ。


「おっ!できたできた!」


「うわ~、いい匂~い!」


「おいしそ~~!」



 村の広場に置かれた大鍋の中ではグツグツと煮立った湯の中で収穫されたばかりのジャガイモ(ファルポテト)がゆでられていた。


 俺としては油でカリッと揚げて食べたかったけど、今の村の現状では油はそれほど残っていないみたいだから今回は塩ゆでにした。


 ホクホクとした見た目に集まってきた村人達も口から涎が漏れそうになっている。



「ほう、これが勇者殿が森で発見した食べ物ですか?」



 村長も興味深そうに茹で上がったイモを見ている。


 うん、まずは村長に毒味(試食)をしてもらうか(笑)



「良かったら村長から一口どうだ?」


「う~~ん、食欲をそそる様な香りですな。それではお言葉に甘えて・・・・・モグ!」



 周囲では見た事の無い食べ物を口にする村長を心配そうな目で見る村人達もいた。


 まあ、昔のヨーロッパでもジャガイモは忌避されていたからな。


 この世界でも根菜はそもそも食べ物として見られていなかったんだから当然の反応だな。



「――――――うっ!?」



 そんな事を考えていると、村長は衝撃を受けた様な顔で固まった。


 周囲に緊張が走る。


 あれ?芽や皮はちゃんと剥いたから毒はないはずだけど、まさか!?



「う・・・・・美味い!!!!!!」


「は?」


「勇者殿!このジャガイモと言う食べ物はとんでもなく美味しいです!!こんなに美味しいものがファルの森にあったとは―――――――――!!」



 うわ!村長号泣してるし!


 俺はまだ食べてないが、そんなに美味かったのか!?



「・・・村長、食べて大丈夫なんですか?」


「おお!こんなに美味い食べ物は生まれて初めてだ!!」



 村人達も村長の幸せそうに食べる姿に、次第にイモに対する警戒心を緩めていく。


 すると、さっきから鍋の傍にいたチビッ子達も涎を流しながら俺に視線を向けていた。



「お兄ちゃん、私も食べたい!」


「僕も!」


「私も!」


「俺も!」



 子供達がわらわらと俺の元に駆け寄ってくる。


 おい、火の回りで危ないだろ!



「分かった分かった!順番にあげるから、ちゃんと並べ!」


「「「は~~~い!」」」


「あ、あのう・・・私達もよろしいでしょうか?」


「ああ、たくさんあるから順番に並んでくれ!」



 村長の言葉で安心できたのか、子供達を先頭に続々と村人達がイモ目当てで行列を作っていく。


 あ、何か帝国兵や王国兵も何人か混じってる・・・・ま、いっか!


 その後、順番にイモを配っていき、それ食べた人達からは次々と歓喜の声が上がっていった。


 この世界にイモ文化が誕生した瞬間である(笑)



----------------


――ファリアス帝国 帝都タラ――


 一方、ファル村がイモで盛り上がっている頃、帝都タラの中心部に建つファリアス宮殿では1人の少年が苛立ちを露にしながら執務机(デスク)をドンと叩いていた。



「兄上が生きているだと!?」


「はい、ステラ王女とともに存命ですよ、エーベル皇子。」


 まるで愉快な世間話をするような口調で、ダニールは目の前で苛立っている皇子に暗殺失敗の報告を伝えていた。


 ダニールはあの後、すぐに帝都には帰還せず、本業の上司(・・・・・)の元で報告を済ませた後、適当に時間を潰してから帝国での上司(・・・・・・)、つまりファリアス帝国の第三皇子エーベルに事の次第を報告していた。



「ダニール!貴様に言われた通り、兄上は戦死したと既に発表しているんだぞ!ここで兄上がノコノコ帰ってきたら僕の立場は―――――――――!!」


「その心配はありませんよ皇子、既にあらかじめ用意した偽の亡骸を陛下に見せて確認させてありますので、もし帰ってきたとしても偽者として処分されるように手を回しております。今回の計画で皇子の立場が悪くなる心配は微塵もありません。」


「そ、そうか・・・・!」



 ダニールの言葉にエーベルは僅かに落ち着きを取り戻す。


 ダニールの言うとおり、既に皇帝は彼ら(・・)が用意したこの世界の魔法レベルでは判別不可能なほど精巧な偽の遺体を第一皇子本人だと確認している。


 本来の計画(・・・・・)では本物のヴィルヘルムとステラの遺体を皇帝の前に渡す予定だったが、ダニールの上司の突然の計画変更により、保険の為に用意していた偽の遺体を使う事になった。


 ちなみに、フィンジアス王国の方にも、同様に偽のステラの遺体を送ってあり、両国では近日中に国葬を執り行う事になっている。



亡き兄君(・・・・)の話はこの辺りにしましょう。今は来月に行われるゴリアス国との会議の準備が先です。この会議で同盟軍を結成させ、フィンジアス王国に勝利すれば、皇子の次期皇帝の座は確実のものになるでしょう。」


「そうだったな、よし、兄上の事については後はお前に任せる。僕はこれから大臣達を集めて会議の準備を始める!」


「――――――畏まりました。」



 ダニールは表向きの主に頭を下げるとエーベルの執務室を後にした。


 通路を歩くと、多くの貴族や兵が慌ただしく宮殿の中を走り回っていた。


 中には『第一皇子、名誉の戦死』を本気で(・・・)信じて涙を流す者もいた。



(―――――あの第三皇子もだが、帝国の貴族共は予想以上に簡単な連中が多いな。まあ、社会や文明のレベルがこの程度では当然と言えば当然か。)



 感情を一切表に出さずにダニールは気配を少しずつ消していき、他の通行人の意識に入らないようにしながら人気のない場所へと移った。


 昼にも係わらず光がほとんど通さない暗い部屋には、既に先客が来ていた。



「来たか?」


「お待たせしました。予定通り、エーデル皇子を誘導することに成功しました。ブリッツ殿下。」



 物陰から現れたのは、帝国第二皇子ブリッツだった。



「そうか、これで弟達もしばらくは大人しくなるだろう。兄上には悪いが、これも増えすぎた皇族をまとめる為の苦肉の策だ。しばらくは帝都から離れていてもらおう。」


「今後はどのように?」


「公国の方へ非公式に使者を送る。今は少しでも早くダーナ大陸の四大国をまとめるのが先決だ。」


「・・・殿下のお意志のままに。」



 その後、ブリッツはいくつかの極秘任務をダニールに伝えると隠し通路を通って部屋から去っていった。


 残されたダニールは唇でわずかに笑みを浮かばせていた。



(公の皇子皇女の中で唯一バカじゃない第二皇子も、しょせんは我らの駒のひとつに過ぎないが、まだまだ使い道はあるな。バカではないぶん、選ぶ道が分かりやすいから何時でも利用できる。)



 ダニールはブリッツ達に報告していない事実がいくつかあった。


 ひとつは自分達がこの大陸の四大国全てで暗躍していること、自分達が異世界からやってきたこと、皇帝には公にはされていない庶子が大勢いること、そのうちの一人が異世界から勇者を召還したことを・・・・。


 エーデルとは違い、ブリッツは本当にこの世界の未来を考えて行動している。


 だが、聡明で人望が厚くてもどこか世間知らずな部分があり、多少は芝居のうまい悪人の存在には気付けても、ダニールのようなプロが身近に潜んでいることを想像すらしていなかった。


 そのため、今では知らない内にダニール達の便利な駒と化しているのだった。



(次は皇女達の方か。使いやすいのはいいが、さすがに数が多すぎるな。)



 何年も帝国に潜入しているダニールにとっての唯一の誤算は現皇帝の底無しとも言える性欲だった。

 年々見境なく子供を増やしていく皇帝の夜遊びは、ダニール達に対してウンザリさせるほどの嫌がらせになっていた。



(まあいい、それよりもバカ皇子のいるあの村にも少し手を回しておくか。ついでに、バカ貴族を利用してあと何人か脱落させるか・・・・・。)



 いくつかの計画を企てながら、ダニールも消えるように部屋から姿を消していった。






 数日後、複数の離宮が他国の暗部に襲撃されるという事件が帝都を震撼させることとなる。






・次回の更新は木曜日を予定にしています。


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