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ボーナス屋、勇者になる  作者: 爪牙
番外編Ⅲ
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第113話 Legend Of Ron 第二章 中編

――ダーナ神暦1434年初夏 貿易都市『トレーネ』――


 ファリアス帝国皇帝の命を受け、皇子レオンハルトと共に帝都を脱出したロンは馬に乗って故郷であるトレーネに来ていた。


 途中、魔獣の大量発生に遭遇したり、慣れない旅にレオンハルトが体調を崩すなどのトラブルに遭ったがどうにか2人とも五体満足でトレーネに到着した。



「うわ~!ロン、海の香りがするぞ!」


「殿下は海に来たことがあるんですか?」


「うん!父上の仕事について行った時にあるぞ!」



 最初はショックで黙り込む事が多かったレオンハルトだったが、ロンの優しさに触れていく内に普段の明るさを取り戻していた。


 ロンは久しぶりに帰ってきた街を懐かしそうに眺めながらも、できるだけ目立たないようにしながら実家を目指す。


 すると、ロンの実家は場所こそ同じだったが、ロンが家出している間に増築されて庭や作業小屋付きに

なっていた。



「た、ただいま・・・」


「ガハハハ!誰だ泥棒か~?」


「わははは!」


「うわっ!?」


「痛い!?」



 家に入った直後、夕方になったばかりなのに既にできあがっていたロンの父と、何故か居る領主のデーゲンハルト侯爵が笑いながら皿を投げ、それがレオンハルトの頭に命中した。


 数分後、ロンの家族と旦那を連れ戻しに来た領主夫人にロンは他言無用で事情を説明した。



「「ももも申し訳ありませんでしたああああああああ!!!」」



 酔っぱらい2人は一気に酔いが引き、真っ青になって土下座で謝罪した。


 W母はそんなバカ旦那を料理した後(・・・・・)、急いで買い出しをして夕食を用意した。


 ちなみに、バカ旦那は外で一晩飯抜きで反省中である。



「どうぞ殿下、お口に合うか分かりませんがこの街の伝統料理です。」


「果物もありますよ?」


「うわ~!ロン、宮殿の料理より美味しそうだぞ!」


「(宮殿の料理人達、泣くな・・・。)」



 トレーネ料理は予想以上にレオンハルトを満足させ、帝都からトレーネまでの疲れを取ってくれた。


 食後はロンの弟妹達からの質問責めにあったりなど、ロンは久しぶりに家族の温もりを感じていった。


 余談だが、領主は秘蔵の酒コレクションを夫人に全て没収され、それらは使用人や騎士達に振る舞われた。


 領主は泣き崩れ、代わりに信用と忠誠を得たのだった。




 一夜明け、人の形を取り戻した(・・・・・・・・・)ロンの父と領主を加え、ロンは今後のことを考え始めた。



「おそらく、近い内に大公派の刺客が殿下の命を狙ってこの街にも来ます。」


「同感だ。殿下の死亡を確認するまでは、大公派の者達は執拗に追ってくるだろう。国内に長居するのは危険だな。」


「チッ!権力欲しさにガキの命を狙うなんて腐った連中だな!」



 意見を出し合った末、表向きにはレオンハルトをロンの弟とし、一緒に冒険者ギルドに登録して大陸中を移動することになった。


 熟睡から目覚めたレオンハルトはその話を聞かされると興奮しながら喜んだ。


 こうしてレオンハルトはロンの末弟レオ(偽名)になり、数日間をトレーネで過ごした後、しっかりと準備を整えて隣国ゴリアスを目指して街を出発した。


 元々やんちゃだったレオンハルトことレオは、出立の日には街の住民に好かれていた。


 後にデーゲンハルト侯爵はこう語る。



『トレーネが新皇帝始まりの地だったのだ。』



 と。





--------------------------


――ファリアス帝国 辺境地『フアラ村』――


 船で国境近くの町まで行き、そこから陸路を西に歩いて着いたのがフアラ村だった。


 辺境にある村だが、国境から近いということもあり多くの旅人が訪れる宿場町でもあった。


 その為、田舎であるにも関わらず、宿屋だけでなく冒険者ギルド等の様々な施設があった。



「ロン、今日はここに泊まるのか?」


「ああ、どうせなので簡単な依頼をこなしてランクを上げていこうか。それと、人のいる前では俺のことは“兄さん”と呼ぶんだぞ?」


「う、うん・・・!」



 照れ屋のレオは顔を真っ赤にしながら頷いた。


 2人は宿屋で部屋をとった後、ギルドで依頼を受けてそれをこなしていった。


 トレーネで達成した分も含め、2人はランクを上げてFランクになった。


 その後宿屋に戻ると、予定外の人物達と再会した。



「シャルル、エルヴィス!?」


「え、ロンさん!?」


「何でここに?それに一緒にいるのは・・・」


「シィィィィィ!!」



 そこにいたのは1ヶ月半前に帝都を旅立ったシャルル(シャーロット)とエルヴィスだった。


 2人はロンと一緒にいるレオに驚いたが、場所を移して事情を聞くとロンとレオを自分達のパーティに誘ってくれた。


 信頼できる友人からの誘いに乗り、一同は4人組の冒険者パーティになってゴリアス国へと向かった。





--------------------------


――ダーナ神暦1434年秋 ゴリアス国 バヌバ地方――


 数カ月が経ち、ロン達はゴリアス国内で着々と力を付けていった。


 ランクが上がれば依頼の難易度も上がる。


 当初、戦闘経験が皆無だったレオは命を奪い合う行為に怯えていたが、そこは()や仲間の支えによって乗り越えていった。


 気付けばかなり逞しい少年に成長していた。



「ロン(ニイ)、そっちに行ったよ!」


「よし!」



 森の中を元気よく走りながら、レオは(ロン)を呼んだ。


 そしてレオが追い込んだ魔獣をロンが剣で斬る。



「よし、依頼のクランウルフの討伐完了だ。他の魔獣が来ないうちに解体をするぞ!」


「うん!」



 2人はすっかり慣れた手付きで魔獣を解体し、余った部位をしっかりと処分してから町に戻った。


 ギルドで報酬を受け取り、酒場でシャルル達と合流した2人は食事をしながら最近の異変について話し合っていった。



「やはり、日に日に魔獣による被害が増えているみたいね。私達の方でも、最近、魔獣の数が急増しているって話をよく聞くわ。」


「俺のところもだ。季節外れの魔獣が人里に現れているらしい。やはり、今年は何かがおかしいな。」



 彼らがゴリアス国に来てから数カ月、ダーナ大陸各所では例年なら有り得ないような異変が勃発していた。


 寒い春、異常な猛暑、比較的雨の少ない地域での連日の大豪雨など、異常気象だけでも本一冊分以上はある。


 それ以外では、作物を荒らす魔獣の大量発生、決まった季節にしか活動しない筈の魔獣の異常活動など、挙げればキリがない。



「でもロン兄、お陰で依頼も増えてラッキーじゃないの?」


「レオ、そういうことは言うものじゃない。農民達にとっては死活問題なんだからな。」


「・・・ゴメン、ロン兄。」



 レオは反省し、その頭をロンは優しく撫でる。


 2人は端から見ても何処にでもいる兄弟になっていた。


 特に一人っ子のレオは、本気でロンを実の兄のように慕っていた。



「あと数日、レオのランクが上がったら首都の方に向かおう。」


「うん!」


「そうね、私ももう少し魔獣を狩りまくって腕を上げてくるわ!」


「シャ、シャルル!あまり危険な事はしないでください!」



 数日後、レオが単独で依頼を達成してランクをDに上げた。


 本人は自覚していないが、彼の歳でこのランクに上がる事は珍しかった。


 本来、子供に魔獣退治は自殺行為であり、普通は採取や雑用の依頼ばかりやるのがほとんどなのだ。


 レオがこの若さでここまで来れたのは、周りに良い先生がいた事や、彼自身の潜在能力の高さが起因していた。


 だが、彼が自身に眠る力に気付くのはもう少し後のことだった。





--------------------------


――ダーナ神暦1434年初冬 ゴリアス国北部『アルバ山脈』――


 ロン達は雪が降り始めた山岳地帯に来ていた。


 ゴリアスの首都に着いた彼らは、そこで様々な依頼をこなしていった。


 そしてある日、某貴族からの依頼でアルバ山脈にのみ自生する薬草の採取依頼と、それとは別の魔獣の討伐依頼を受けてこの山に来ていた。



「う~、寒い~!」


「ゴリアスの冬がここまでとはな・・・。」



 ファリアス帝国よりも北にあるゴリアス国の冬はロン達の想像を越えるものだった。


 依頼の薬草は早々に採取できたものの、魔獣の討伐に手間を取ってしまいお山を下りようとした時には日が暮れていた。


 仕方なく洞窟の中で野宿する事になったが、真冬前とはいえ、冬山での野宿は寒さとの戦いでもあった。


 そして夜の闇が深まり、交代で火の番をしていたロンは、不意に洞窟の外から奇妙な音が聞こえてくることに気付く。




――――バリッ・・・・・・・バキッ・・・・・・




「・・・何の音だ?」



 最初は魔獣か動物が付近を歩いているのかと思ったが、すぐに違うと判断した。

 ロンは剣を抜き、辺りを警戒しながら洞窟の外に出てみる。




――――バキッ・・・バキッ・・・




 奇妙の音は山頂の方から聞こえてきた。


 静かに雪が降ってくる雲の向こう側から聞こえてくるその音は、ロンに底知れぬ不安を抱かせていった。



「何が・・・山頂で何が起きているんだ?」


「どうしたの、ロン兄?」


「何?交代?」



 レオ達も起きだし、ロンは山頂付近の様子がおかしいと伝えた。


 調査するか迷ったが、慣れない冬山では自殺行為だと判断し、夜明けとともに下山することにした。


 だがその直後、彼らの賢明な判断をあざ笑うかのようにそれは現れた。



『ギャオオオオオオオ!!』


「あれは!?」


「ななな、何!?」


「シャシャシャ、シャーロット様!あ、あれは竜種!そ・・それも上位竜です!!」



 彼らの前に現れたのは大型のドラゴンだった。


 全身を氷のように美しい白い鱗に覆われ、両腕両足には刃物のように鋭いトゲが伸びている。


 それはゴリアス北部に棲息する上位竜、「ヴァイスグランツドラゴン」だった。



「何だ、あの黒い靄は・・・?」



 だが、美しい外見とは裏腹に、その全身を禍々しい黒いオーラを纏っていた。


 そしてその目は血のように真っ赤に染まっていた。



「待って!手の中に誰かが捕まってるわ!」


「「「――――!?」」」



 全員がドラゴンの両手に注目する。


 すると、ドラゴンの手の中にはレオと同じ年頃の子供達が握られていた。



『ギャオオオオオオオオオオオオオ!!!』


「うわあ~~~!!!」


「レオ!!」



 ドラゴンはレオを狙い、ロンは助けようと動く。


 だが、ドラゴンは全身から魔力を放出させ吹雪の魔法で襲い掛かる。



「させない!」



 シャルルとエルヴィスも動くが、ドラゴンのブレスに吹き飛ばされる。


 ドラゴンの力は今のロン達よりも圧倒的に強かった。


 そして為す術もなく、レオはドラゴンに捕まってしまった。



『ギャォォォォォォォォォォォ!!』


「うわぁぁぁぁぁぁ!!」


「レオォォォォォォォォ!!!!」


「―――――ロンッ!」



 レオを捕まえて飛翔するドラゴンにロンは飛び移った。



「私も!」


「シャ、シャーロット様!!」



 シャルルも同じように飛び移り、エルヴィスもそれに続く。


 かくして、1人を捕まえ3人に飛び付かれたドラゴンは山頂を目指して飛んでいった。






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