第112話 Legend Of Ron 第二章 前編
ボーナス屋外伝こと、「Legend Of Ron」の第二章です!
異世界ルーヴェルトの過去がまた少し明かされていきます。
――ダーナ神暦1433年秋 帝都『タラ』――
ロンがフィンジアス王国の王女シャーロットとその付き人のエルヴィスと出会って数ヶ月が経った。
ヴァントでの功績が認められ、再び帝都の騎士団へ転属された。
なお、ロンを左遷させた一味は不祥事が発覚して全員解雇、または左遷された。
「ロン、久しぶりね!」
「お久しぶりです。ロンさん!」
「ああ、数カ月ぶりだな!」
ある日、ロンは下町の酒場でシャーロットとエルヴィスに再会した。
あの後、他言無用を条件に、ロンはただ今絶賛家出中の王女で、エルヴィスは彼女の付き人で幼馴染みで、家族にも内緒でシャーロットを捜していた事を本人達の口から聞いた。
その後、王国に帰る気の無いシャーロットが心配になったエルヴィスは冒険者になって彼女の旅に同行した。
「そうか、シャルルはBランク、エルヴィスはもうすぐDランクになるのか。」
「凄いのよ?エルヴィスは魔法の才能はないけど、体術だけはかなり強いの!お陰で討伐の仕事でも怪我をする事がかなり減ったわ。」
「シャーロ・・・いえ、シャルルを護るのが僕の役目なので当然です!」
「エルヴィス、今は役目とかは気にしなくても良いって何度も言ってるでしょ?」
「ハハハ、本当に仲が良いんだな?」
その日は遅くまで飲み続けた。
シャーロットとエルヴィスはそれからしばらくは帝都を拠点にしていった。
数日後、秋の色が深まり冬の季節が顔を見せ始めようとしたある日のことだった。
ファリアス宮殿の敷地内にある騎士団の訓練所にいたロンは、コソコソと動き回る不審な樽を見つけた。
「中にいるのは誰だ!」
「うわわっ!?」
「子供?」
樽の中に隠れていたのは身なりの良い10歳くらいの男の子だった。
赤い髪に琥珀色の瞳、ロンはその外見的特徴に見覚えがあった。
「まさか・・・」
「レオンハルト殿下~!何処に隠れておられるのですか~!?」
「わわわ!早く僕の樽を返せ!」
思わず持っていた樽を返してしまうロン。
再び樽を被って身を隠した少年は大声の主が消えるのをそのまま待った。
「・・・レオンハルト殿下?」
「・・・(ギクッ)!」
少年は当時の帝国のただ1人の皇子、レオンハルト=R=ファリアスだった。
この時の出会いがきっかけとなり、レオンハルトは毎日のように宮殿を抜け出してロンの元へ顔を出すようになった。
1週間も経つ頃になると他の騎士団員にもバレたが、マイペースな団長の独断で黙認されていった。
だが、1ヶ月が過ぎると流石にバレてしまい、ロンと団長は(非公式に)皇帝の前に呼び出された。
「――――ゴホッ!非公式にだが、息子の護衛と教育係を命じる。」
「ええ!?」
ロンは皇帝に気に入られた。
その後、皇帝公認でレオンハルトは騎士団に顔を出すようになった。
「皇子、今日は歴史の勉強です!」
「ヤダ~~~~!!」
ロンは真面目にレオンハルトに勉強を教えていった。
剣術や魔法は好きだが、学問が大嫌いなレオンハルトはその度に逃げ出そうとしたが騎士団全員によりお縄にかかり渋々勉強するのだった。
--------------------------
――ダーナ神暦1434年年始――
「ロン!僕は宮殿の祭に行きたいぞ!」
「「「ダメです!」」」
「え~~~!」
新年を迎えたばかりの日のこと、街での新年の祭が気になるレオンハルトは駄々を捏ねていた。
騎士団員全員が却下する中、騎士団の詰所に予想外の人物が現れた。
「・・・ゴホッ!無駄使いは駄目だぞ?」
「あ、父上!」
「「「陛下!?」」」
何時の間にか増えていた酒樽の中から皇帝が現れた。
騎士団員達は、色んな意味で他言厳禁な秘密を知ってしまったのだった。
そして、ロンが一緒に行くことを条件にレオンハルトの初めての御忍びが始まった。
「そういう訳だから助けてくれ。」
「フハハハ!案内を頼んだぞ!」
「いや、私達はマズい・・・くない?」
「本名を名乗らなければだ、大丈夫ですよ!」
色々あって、シャーロットとエルヴィスの2人にもヘルプを頼んだのだった。
その日、ヤンチャ皇子に振り回された3人はヘトヘトになったのだった。
だが、彼らの苦労はまだ始まったばかりだった。
「ロン、僕は冒険者になりたいぞ!」
「駄目です!!」
本気で怒るロンだった。
--------------------------
――ダーナ神暦1434年春――
その年の春は平年とは何かが違っていた。
去年までの春は暖かい晴天が続いていたが、この年の春は曇天の日が多く寒い春となっていた。
帝国北部では雪がまだ解けずに残り、更に一部の地域では流行病が広がりを見せ始めていた。
そして帝都内でも不穏な空気が流れ込んでいた。
「―――――派が優勢のようだ。」
「やはり、陛下の容体が――――」
「大公閣下が――――」
宮殿内では貴族達の怪しげな密談が頻繁に行われていた。
その原因の1つは日に日に病状が悪化の一途を辿る皇帝にあった。
数年前に原因不明の病に罹り、初老になってから生まれたレオンハルト以外に嫡子がおらず、貴族達の間では次期皇帝の座を巡る争乱の火種が燻っていた。
「どうやら、大公派が勢力を伸ばし始めたようだ。」
「皇太子はレオンハルト殿下じゃないんですか、団長?」
「ん~、殿下の味方は少数派だな。まだ小さい殿下よりも、成人している陛下の甥、大公の長男を押す勢力が優勢だろうな。」
「・・・そうですか。」
レオンハルトに苦労しているロンだったが、次期皇帝には彼になってほしいと思っていた。
表向きには評判の良い大公の長なんだが、彼が信用できない人物であるとロンは直感していた。
そしてその直感は不幸にも当たることとなった。
--------------------------
――ダーナ神暦1434年初夏――
皇子レオンハルトの11歳の誕生日パーティの日にそれは起こった。
パーティには皇帝の計らいでロン達騎士団の面々も特別に招待されていた。
貴族達が豪華な料理や酒を楽しんでいる最中、ロンは皇帝が様子がおかしいことに気付いた。
警護の目を掻い潜り、ロンは皇帝に近づいた。
「(――――陛下、大丈夫ですか?)」
「(・・・毒を盛られた。グフッ!)」
「―――――!?」
皇帝はワインに遅行性の毒を盛られていた。
皇帝はロンにバレない様に支えられながらパーティ会場から抜け出した。
元々病気を患っていたので、皇帝がいなくなっても左程気にはされなかった。
「・・・ロンよ、レオンハルトを連れて帝都から逃げるのだ。」
「どういう事ですか?」
「息子は・・・レオンハルトは近い内に暗殺されるだろう。おそらく、お前を含めた騎士団にでも濡れ衣を着させてな・・・。」
「なっ!?」
皇帝に毒を盛ったのは大公派の者達だった。
皇帝が患っている病気も皇帝の弟である大公が裏で何かをした疑いがあるらしい。
皇帝直属の間者から、大公が飼っている暗殺者がレオンハルトを暗殺しようとしているという話をロンは聞かされた。
「――――勝手ではあるが、お前を書類上では騎士団から除籍させてある。今のお前の表上の肩書きは帝国軍の一兵士となっている。頼む。息子を護ってくれ。」
ロンは多少迷ったが、罪の無い子供を見殺しにするのは騎士道に反すると承諾した。
よく考えれば拒否権の無い命令だったかもしれないが、皇帝の父親としての顔を知るロンは後になっても皇帝を恨む事はなかった。
何より、皇帝の判断は間一髪でレオンハルトの命を護った。
「曲者!」
「――――ッ!?」
「うわぁぁぁぁぁ!?」
その日の深夜、皇帝の部下の手引きでレオンハルトの部屋に来たロンは暗殺者と遭遇した。
ロンは暗殺者の1人に素早く迫り、武器を持っていた方の腕を躊躇わずに斬り捨てた。
だが、侵入していた他の暗殺者にレオンハルトの身柄を奪われそうになる。
「――――息子から離れろ!!」
「陛下!!」
「父上!!」
そこに皇帝が――壁を破壊して――大剣を持って現れ、暗殺者を瞬殺した。
だがその直後、無理が祟って吐血してしまう。
「父上、血が・・・!」
「陛下、御身体が!」
「ゴホッ!わ、私の事はいい、それよりも早く息子を・・・!!」
皇帝は事前に用意しておいたレオンハルトの荷物の入ったリュックをロンに渡す。
受け取ったロンはレオンハルトにローブを被せると、抱え上げながら宮殿から離れていった。
「父上!父上~!!」
「・・・殿下、今は耐えてください!」
皇帝の身を案じながらも、ロンは今自分がすべきことだけを考えて深夜の帝都を走り抜けていった。
翌日、皇帝は病状が急変して意識不明に陥ってしまい、帝国の政治中枢は大公派によって掌握されてしまったのだった。
後に「悪夢の2年間」と呼ばれる、悪政の歴史の始まりだった。