第111話 ボーナス屋、予感する
コッコくんの健闘を祈った俺は、宮殿前を散歩していた。
大怪獣の残骸はロビンくんの魔法で別の場所に移動させられ、後日、学院の研究者達が調査するらしい。
そういえば、ロビンくんの周りにも転移系の魔法に興味津々な人達が群がっていたな。
ロビンくん、面倒事に巻き込まれなきゃいいけど。
あ!あそこにいるのはヒューゴ達と・・・バカ皇帝?
「息子達よ、沢山食べてるか?」
「「ゲッ!?バカ親父!!」」
「ハイ!お父さん!」
「ハハハ、ケビンは昔から元気だな~♪」
バカ皇帝、ヒューゴとジャンの表情に気付いてるのか?
いや、それより今、バカ皇帝の奴、「昔から」とか言ってなかったか?
「お父さん、もしかしてずっと前から僕のことを知ってたんですか?」
ケビンも同じ疑問を抱いたらしい。
「当たり前だろ?お前達の名前は俺が付けたのだからな!」
「え?」
「マジかよ!」
「おい!聞いてねえぞ!?」
「教えてないからな。もっと言えば、他の子供達の名前の大半は俺が名付けたんだぞ!まあ、中にはナイフを投げて拒絶されたりもしたけどな♪」
おいおい、なんだか予想外の事実が発覚したな?
ヤリ逃げじゃなかったのか?
「毎年の巡回視察でヴァールに行った時は必ず陰からお前達の成長を見届けに行ったものだ!いやあ、ジャンが喧嘩で怪我した時はうっかり助けに出ちゃったりもしたな~、ハッハッハ!」
「あああ!!あの時の怪しい芸人のオッサンか!?」
「お菓子くれたオジサン!あれ、お父さんだったんですか!?」
「ハッハッハ!」
「母さんに話したら、知らない人から物を貰うなっていわれたっけ?」
「ハッハッ・・・(ガーン)。」
バカ皇帝、何やってたんだ?
明らかに母親達に感づかれた上で、拒絶されてるよな?
「あれ?お父さん、ルドルフは?」
「ああ、ルドルフならロビンにくっついてったな。随分と懐かれたものだ。お前達は知らないだろうが、ああ見えて、ルドルフは極度の人見知りなんだぞ?」
そういえば、領主のオッサンが泣かれたとかって言ってたっけ?
村じゃかなり明るかったからあまり信じられないけど。
「あ、来てたんだ?」
「よう、ロルフ!」
のんびりバカ皇帝一家を見ていると、そこにロルフが果物をかじりながらやってきた。
「あいつら、ああやって並んでると親子だよな?」
「約2名には聞かせられないけどな。それより、一緒にいたんじゃなかったのか?」
「・・・家族の中に余所者は邪魔だからな。」
「ロルフ、最近のお前、なんか変だぞ?どこか不満があるっていうか、ヒューゴ達に遠慮してないか?」
「・・・。」
この前のダンジョン探索の時といい、最近のロルフは何かが変だ。
しばらく無言を通すロルフ。
すると、不意に夜空を見上げながら口を開いた。
「俺さ、親父を捜そうと思ってるんだ。」
「え?」
「俺の親父はどっかの貴族らしいんだよ。」
「それは知ってる。」
ステータスに『貴族の落胤』って載ってたからな。
「母さんはスラムで死ぬまで親父のことは何も言わなかったけど、恨んでる感じでもなかったんだよ。」
「そっか、ロルフの母さんは・・・」
「何年も前に死んだ。雪の降る寒い日にな。俺は宛もなく南に流れていってヒューゴ達に会ったんだ。」
「けど、何で今になって捜そうと思ったんだ?」
「やっぱさ、家族と一緒なのって良いよな。」
「あ・・・!」
そうか。
考えてみれば、今のファル村はバカ皇帝の子供が沢山集まっている。
兄弟仲良くやってて微笑ましいと思ってたけど、ロルフにはそれが辛かったんだろう。
だから父親を捜そうと・・・。
俺も忘れそうになるけど、ロルフはまだ12歳なんだ。
家族が恋しくなるのも無理のないことだ。
「でも、手がかりとかあるのか?」
「多分、帝国より北の国だと思うんだよな。俺が帝国に来たのって、母さんが死ぬ数カ月前だったし、チビだった頃は雪ばかり見てた気がするんだよ。」
「ん?帝国より北ってことは、ゴリアス国か?それともムリアス公国?」
確か、地図だと帝国のすぐ北にあるのは四大国のゴリアスとムリアスだ。
それ以外だと・・・
「ミストラル王国だな!」
「「!!」」
突然、俺達の前にマンガ肉を食っている男が現れた。
赤髪金眼、妙な雰囲気のある長身の男だった。
「誰だお前!?」
「イグニスだ。」
「そっか!」
「納得するのかよ!?」
男は人化中の焔龍イグニスだった。
驚くロルフに構うことなく、イグニスは話を進めていった。
「こいつの生まれ故郷は大陸最北の地、ミストラル王国だな。年中雪が見れるのはあの国だけだし、何よりこいつの顔には見覚えがあるな。」
「え、本当?」
「確か20年以上前だったか、たまたま寄った時に見た貴族の坊主によく似てたな。そいつが父親じゃないのか?」
「ミストラル・・・王国!」
「なんか、簡単に手がかり見つかったな?」
こうしてロルフは父を探しにミストラル王国へ向かう事になった。
某名作みたいに会ってすぐに死亡なんてオチにならなきゃいいけど。
「俺は親父を殴りにいく!」
「今のお前が殴ったら死ぬんじゃないか?」
ロルフの父親が頑丈であることを祈る俺だった。
一方、バカ皇帝の方を見ると、知らない爺さんに叱られていた。
「陛下、何を暢気に酒を飲んでるんですか?」
「ゲ!クレイグ・・・!!」
「陛下には仕事が山ほど・・・と、これはこれは皇子殿下の前で名も名乗らずご無礼を。私は宰相を務めております、クレイグと申します。」
「は、初めまして!」
「いけません!皇族が無闇に頭を下げるのは、相手の方だけでなく殿下御自身の立場を危うくさせてしまいまぞ!陛下、何処へお逃げになるおつもりで?」
「うっ!?」
「親父・・・。」
バカ皇帝は宰相さんが苦手らしい。
まさか、それが理由で1人で宮殿から逃げたんじゃないよな?
「陛下!陛下には今回クーデターを起こした貴族達の処分だけでなく、没収予定の土地の今後の扱いについて・・・」
「ああ、それならもう書類作ったから。」
「何ですと!?」
あ、宰相さんの顔面白♪
「フッフッフ、この皇帝ランドルフが何も考えないで帝都から逃げていたと思ってたか?」
「思うだろうな。」
「ちょっとお兄ちゃん!!」
ヒューゴ、ハッキリ言うな。
あ、バカ皇帝落ち込んだ!
「・・・と、とにかく、この書類のリストに書いてある者達に勲章や爵位と一緒に余った土地を与える!」
「陛下、私の気のせいでなければ、平民の名前がかなりあるようですが?貴族達の不評を買ってしまいますぞ?」
「能力のある者達を選んだからな。その辺は身分に関係なく選んだから大丈夫だろ。中には上級貴族出身者も沢山いるからな!」
「確かに・・・名門一族の分家筋の者もおりますな。これなら不満を言う者も少なく・・・いえ、それでも平民出身者が多いですな。」
「別にいいだろ?今回の件で貴族も大分減って爵位も余りまくったんだから新興貴族をドンドン増やそうぜ♪とりあえず、平民出身者は最初は騎士爵を与えて、次に成果を出したら準男爵にすればいい。与える爵位の種類も細かく書いてあるから、後はお前達でなんとかできるだろ?」
「陛下、相変わらず仕事は早いですな。動機が丸見えですが。」
「親父、マジで皇帝やってたんだな。」
バカ皇帝、今度は息子達に感心されて喜んでるな。
「ただのバカじゃなかったのか。」
隣のロルフも感心していた。
ちなみに後日、バカ皇帝から爵位の授与が発表され、上級貴族から下級貴族、平民と身分に関係なく今回の件で空きまくったイスを埋めるように爵位の授与が行われていった。
その際、今ではファル村に馴染みまくっているチームバカ皇子の面々や、最近は工房に引き籠って発明ばかりしていて不安になる魔法具職人のエルナさんにも爵位が与えられた。
貴族の中には平民に爵位を与える事に不満を訴える者がいたが、そこはバカ皇帝が「じゃあ、お前らこいつらより凄い事したの?」と、クーデターの際に何もせずに屋敷に引き籠っていた貴族達には痛い一言をぶつけて黙らせた。
余談だが、この爵位の授与により図らずもバカ皇子達の部下の一部がバカ皇子からサヨナラとなってしまい、バカ皇子がショックを受けたのだがそれは別の話である。
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――ファリアス宮殿内――
さすがに眠くなってきた俺は、宮殿内に用意された客室に向かっていた。
すると、ある一角でロビンくんが第二皇子と立ち話をしているのを見かけた。
「ロビンくん!」
「あ、シロウ殿!もうお休みですか?」
「まあな。ロビンくんはここでお兄さんと何話してたんだ?」
俺は第二皇子ブリッツを見ると、ブリッツは丁寧にお辞儀をした。
「勇者シロウ殿、この度は大変お世話になりました。このご恩は一生忘れません。」
「いいのいいの♪俺は別に気にしないからさ!それより、兄弟で何の話をしてたんだ?」
今更だけど、俺って皇族に対してタメ口だけど、よく不敬罪とかって言われないよな?
まあ、皇帝があれだから不敬罪そのものが存在しないのかもな。
そうそう、ロビンくんがバカ皇帝の息子というのは既に大勢の人達に知れ渡っている。
ヒューゴ達についても、後日正式に発表される予定らしい。
本人達は乗り気じゃないみたいだけどな。
「実はゴリアス国のことを話していたんです。ブリッツ殿・・兄上の話ではどうやら知らない内に王位継承が行われていたそうなんです。」
「知らない内にって、かなり怪しいな?」
俺の感想に2人とも頷く。
「ゴリアス王、今は前王になりますが、あの方が王位を継いだのは数年前で、王位を子に継承させるほど老いてはいません。こうも早く退位するなど、正直信じ難いのです。まして、新たにゴリアス王になったのは前王の長女で、歳もまだ12歳と若過ぎます。」
「さらに先程届いた情報によれば、ゴリアス国内部で不穏な動きが見られるようです。」
「第三皇子、ヤバいんじゃない?」
「でしょうね。」
聞いた話だと、(ロビンくんの弟の)第三皇子エーベルはブリッツと同様にダニールを重用、少なくとも本人はそのつもりでいたらしい。
ゴリアスとの同盟を結ぶ会談も、裏でダニールが動いていた可能性があるから、今は会談場所であるゴリアスの都市で捕らわれているかもしれない。
「で、明日は名目上は第三皇子の救出って感じで行くんだよな?」
ロビンくんに尋ねると、ロビンくんはすぐに肯いて答えた。
「状況にもよりますね。表向き、何も無ければ会談の補佐としなければならないので、向かうのは少数精鋭にした方がいいでしょう。会談場所は国外ですから。」
「大勢で行ったら変に疑われて戦争になりかねないもんな。」
「ですが、今までの事を考えると何も起きていない事は無いでしょうね。戦闘になる事を前提にして向かった方がいいでしょう。」
「君達、本当に明日行くのか?まだ今日の傷も癒えてないだろうに・・・。」
「いえ、敵は四大国だけでなく大陸全土の脅威になる相手です。出来るだけ早く手を打たなければ後の禍根になります。」
それに敵の目的はダーナ大陸の何処かに封印されている『四至宝』、そのうちフィンジアス王国の『クラウ・ソラス』とファリアス帝国の『リア・ファル』は俺達の元にある。
残るはゴリアス国とムリアス公国の2つのみ!
きっとこれまで以上に本気で手に入れようとするはずだ!
実際のところ、『至宝』が奴らの手に渡ると何が起きるのかは分からないが、テンプレ的に碌でもない事が起きるのは間違いないだろう。
まあ、単純に俺が欲しいってのもあるんだけどな♪
その後も色々話し合い、その後は明日に備える為に用意された客室で寝た。
こうして、長かった帝都での1日は幕を下ろしたのだった。
そして翌日、俺は第三皇子が捕らわれている(*前提)ゴリアス国へと向かう。
ゴリアス国に眠る第3の至宝、『貫く光』を巡る戦いが幕を上げた!・・・なんてな♪
長かった2ヶ国奪還編もこれにて終わり。
次回から3話ほど番外編をやった後、新章を開始します。
ただ、新章のタイトルは何にすべきか悩んでいます。「ゴリアス編」?それとも「貫く光編?