第102話 ボーナス屋、出番が来る
――帝都タラ スラム街――
救援に向かおうとした直後に必要が無くなった。
マジで出番が無くなりそうだ。
つーか、あの自称新皇帝、出オチかよ!
「・・・暇だな?」
「・・・・・・。」
作戦、これで終わりか?
あ、別に仲間のピンチを期待してる訳じゃないからな?
「あ!お兄ちゃん、まだ大きいゴーレムが動いてるよ!」
「「「―――――!」」」
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――帝都タラ ファリアス宮殿――
『フ・・フフフフ・・・!今のは中々効いたが、その程度では・・・・・』
「《ホーリーブラスト》!!」
『ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
俺の目の前で、敵の頭目らしき人物が乗っているゴーレムと、我が弟ヴィクトールが戦っている。
戦っていると言っても、俺から見ても勝敗は明らかだ。
既に10体のゴーレムの内3体が倒れ、今戦っている1体も両腕を失っている。
「おお!流石は我が弟!」
「そうですね、どこかの誰かと違って凄く頼りになります。愚兄賢弟ですね。」
「いや、最近は俺も頼りになるだろ?」
「今まで頼りなかったのは認めるんですね?」
「うっ・・・!」
部下A、段々毒舌になってきていないか?
は!そうだ、俺も弟の加勢に向かわなければ!!
「行くぞ!敵は多数、ヴィクトールに加勢する!!」
「「「おおおおおおおおお!!」」」
おい、なんだか妙にやる気になってないか?
そんなに俺は頼りない男だったのか?
「殿下ぁ!!今加勢します!!」
「ヴィクトール殿下~~~!!これが終わったら転属させてくださ~~~い!!」
えええ!?
そんなに俺って嫌われてるのか!?
お前達は知らないだろうが、我が弟にも残念なところがある。多分。
いや、兎に角、今は戦いに集中せねば!!
「ハハハハハ!!邪悪なるゴーレムどもよ、我が力に畏怖するがいい!!」
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――ゴーレム内部――
オーベルシュタイン子爵はゴーレムの中で戦慄していた。
「バカな・・・!こんな・・・こんな事が・・・!!」
多くの労力と財力を使い、現皇帝派の目を盗んで造らせた魔導兵器達が次々に破壊されていく。
子爵の乗ったゴーレムは両腕を失い、後方に下がって他のゴーレム達に戦わせている。
「《ハイ・ホーリーソード》!!」
また1体、バカ皇子の剣によって斬られた。
「有り得ん・・・!物理攻撃にも、魔法攻撃にもビクともしなかったはずだ・・・!」
子爵はゴーレムの運用実験を何度も行ってきた。
死刑を待つだけの罪人と戦わせ、常人の物理攻撃や魔法攻撃でもヒビ1つ付けられなかったのは記憶に新しい。
子爵自身、自分の得意とする魔法で攻撃したが憑依させた悪魔の力に阻まれて一度も破損させる事が出来なかった。
それが今、刃を向けた皇族やその兵達によって破壊されていく。
「どうなっている!そもそも、平民での兵ごときがどうして魔法が使える!?」
子爵の視線の先ではごく当然の如く魔法を、それも子爵を始めとする貴族が使うものより遥かに強力な魔法を使う兵の姿があった。
魔法が使えるのは基本的に貴族だけ、稀に不貞で生まれた子やその子孫にもその才を受け継ぐ者はいるが、それでも多くは無い。
それなのに、視線の先にいる兵達は全員が魔法を使っている。
「一体・・・一体奴らは何者・・・・・・!?」
子爵は心が砕かれそうになった。
彼は爵位こそ低いが、その血筋は数代前の皇帝にまで至る。
それが先代、つまり子爵の父親の代で没落、それをようやくここまで盛り返してきたのだ。
狙うは皇位、そして世界の覇権だった。
その為に造ったのが、禁術も利用したゴーレム、10体もあれば他の3大国も敵では無い筈だった。
「《フリーズグラウンド》!!」
「《ライトアロー》!!」
「《ライトニング》!!」
「《ホーリーブラスト》!!」
一方的、悪魔の力と意志が宿っている筈のゴーレム達が次々に倒されていった。
最早勝敗は明らかだった。
「何故だ・・・何故・・・同じ始祖王の血を引いているのに、何故ここまで差が・・・・。それだけの力があって、何故、覇道を進もうとしない・・・・・・!?」
子爵は1人で呟いた。
拡声魔法を解除しているので、その問いに答える者はいない。
その筈だった。
「――――それはお前が無知なだけだ。」
「――――――貴様は!!」
「どうにか急いで来たつもりだったが、予想通り勝手な事をしてくれたようだな?」
「ダニール!!!」
そこに立っていたのは、数日間行方知らずだった子爵達の協力者、ダニール=ペトロフだった。
ダニールは不機嫌な顔を露にし、それを見た子爵は死の恐怖を感じてしまった。
「まあ、どの道帝国がどうなろうと知ったところではないが、俺が今まで積み重ねたものを一瞬で台無しにされるのは不愉快だ。このゴーレム兵器も、俺が用意した用意してやった悪魔があったからこそ造れたというのに。よくもまあ、無駄にしてくれたものだな。」
「ダニール、今の今まで何をしていた・・・!」
「貴様には関係の無い事だ。それよりも、このまま一方的にやられるのは癪だ。本来の目的を遂げるついでだ。最後までコイツラを有効利用させてもらうか?」
ダニールは子爵を軽く一瞥すると、すぐ近くにあるゴーレムの核に近づいていった。
そして、懐から2個の意志を取り出す。
「フン、死したお前らに新しい肉体をくれてやる。邪魔するもの全て壊し尽くせ!」
そして2つの石をゴーレムの核へと混ぜ入れた。
直後、変化は急速に発生した。
「1つに融合し、復活しろ!巨人カクス、そして魔竜フェアデルベン・ヴルカーンドラゴン!!」
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「何だ?」
ようやく、残るゴーレムも3体になったと思ったら、なんだか様子がおかしいな?
1体だけ、両腕の無いのが嫌な魔力を出している。
「殿下、あのゴーレム、様子が明らかにおかしいです!?」
「お、落ち着くんだ!!」
「おい!腕の無い奴から変な魔力が出ているぞ!!」
俺の部下達がゴーレムの変化に動揺しだした。
すると、腕の無いゴーレムから赤黒い炎のような腕が飛び出し、他のゴーレムを鷲掴みにした。
「・・・あれ、気のせいじゃなければ吸収してないか?」
「だから何で自分に訊くんですか!?それに、訊かなくても見ての通りですよ!!3体のゴーレムが1つ
に混ざって・・・というか、形が変わっています!!」
「だよな。」
俺達の前で3体のゴーレムが合体、そして変形していった。
全身を覆う魔力が黒から炎、いや熱く煮え滾る溶岩のように変わり、背中からは真っ赤な翼が生えていく。
あ、頭は3つになって形が・・・・あれ?
あの形って、まさか・・・・・・。
「・・・あれ、もしかしなくてもドラゴン?」
「・・・みたいですね。」
何と!
ゴーレムは合体し、巨大な三つ首のドラゴンになった!?
誰か説明してくれる者はいないのか!?
『――――聞こえているか、帝都に居る全ての者達よ!!』
・・・え?
あの声って、まさか・・・?
『俺の名はダニール=ペトロフ、今回のクーデターの黒幕であり、これからこの帝都を破壊する者だ。勿論、帝都に居る人間全てもだ!』
やはり、ダニールか!!
おのれ!!戻ってきたのか!?
こうなれば、今度こそ俺の手で・・・って、放すんだ部下A!!
『一部を除けば、ほとんどの者には恨みはないが、こいつの最初の生け贄として死ね!』
うお!?
巨大なゴーレムドラゴンが飛んだ!!
しかも、巨大化してる!!
あれは一体・・・!?
【破滅を呼ぶ三つ首巨魔竜】
【分類】合成型人造魔獣
【詳細】ゴーレムをベースにした人造魔獣。
自我は持たず、使役者の命令のままに破壊を続ける。
体内に高温のマグマを蓄えており、それを3つの口から吐き出して攻撃する。
その力は最上位の魔獣に匹敵し、もはや天災そのものである。
小国なら一晩で滅ぼされる。
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――帝都タラ スラム街――
突然現れた巨大怪獣にパニックになる帝都を俺達は走っていた。
いや、正確には俺達が宮殿に向かってる最中にあの巨大怪獣が現れたんだ。
しかもダニールとセットで!
「本当に現れやがった!」
「お兄ちゃん達、大丈夫かな?」
「あからさまに危険だろうな。相手があんなんじゃ!!」
まだ宮殿から何kmも離れているのに、あの巨大怪獣がハッキリと見える。
どんだけデカいんだよ!!
『ああ、それから―――――』
またダニールの声が聞こえてきた。
『もののついでだ。同時に滅びる敵国の姿も見せてやろう。』
直後、帝都の外周の景色が、正確には西半分の景色が歪み始めた。
そして、外周を覆う壁の向こう側に別の景色が現れ始めた。
『ようく見ているがいい。帝都と共に滅びる、フィンジアス王国の王都の姿を!!』
そこに見えたのは、巨大な何かに襲われているフィンジアス王国の首都、王都クリーオウそのものだった。
何あれ!?
ようやく主人公にも出番が来ました。
余談ですが、「巨人カクス」はギリシャ神話に登場する巨人で、ヘラクレスに倒されています。