第101話 ボーナス屋、解説する
――帝都タラ スラム街――
俺達は、画面の向こうで一斉に地面に倒れる大勢の騎士や兵達の姿を見ていた。
全員ではないけど、敵のほとんどは気絶したみたいだ。
「勇者様、あれは何が起きたのでしょうか?」
「ん~、多分、強すぎる魔力に当てられたショックで意識が飛んだんだろうな。アンナちゃんも魔法の練習をしている時にケビンの魔力でフラついた事があっただろ?」
「はい、ありました!」
「魔力って、放出すると気迫みたいに相手に伝わるんだよ。敵意を込めて出せば尚更な。自分と同格以上の相手にはそんなに影響はないけど、格下って言うか魔力が少なすぎる相手には影響が大きいんだよ。この世界の人間の魔力って、基本的にみんな1万以下だろ?そこに100万以上の魔力を当てられたら・・・。」
「・・・ビックリしますね。」
「そう言うこと♪」
漫画やアニメでもよく見る現象だな。
捨駒勇者達も銀洸や大魔王相手に同じ経験をしている筈だ。
ハッキリ言って、あれは相手が悪過ぎだけどな。
「バカ兄貴の魔力って、今、幾らくらいなんだ?」
「確か、俺が鍛冶屋で見た時は200万近くはあったな。ケビンには負けてるけど。」
ヒューゴの疑問にジャンが答える。
そういえばケビン、お前の魔力は未だに上昇中だよな。
どんだけ魔法チートなんだ?
「あ!ヴィルお兄ちゃんが動いた!」
そのケビンが画面の方を指差した。
バカ皇子が動いたか。
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――帝都タラ ファリアス宮殿前――
ヨシュカは状況が全く理解できなかった。
(な、何だこの異常な魔力は・・・・・・!?)
騎士や兵達に指示をだし、隙だらけのところを狙って攻めさせた。
だが、突然有り得ないほどの魔力が放出され、それにもろに受けた騎士達は意識を失って倒れてしまった。
ヨシュカ自身もその魔力に一瞬だけ意識を飲み込まれそうになるが、騎士達よりも距離があった事や、周りの魔術師達に護られた事もあってどうにか気絶せずに済んだ。
(有り得ない・・・!これ程の魔力を持つ人間など、帝国どころか大陸中何所にも居る訳がない!奴は本当に人間なのか!?)
相手の魔力の大きさに動揺を隠せないヨシュカ、彼は若くして才覚を発揮した優秀な人物ではあるが、他の者と同様に少々常識の枠に捕われ易いのが玉に瑕だった。
自身の知っている事がこの世の基準であり、それに多少ずれた存在はいたとしても、目の前のバカ皇子のような常識外の魔力を持った人間など存在しないと思い込んでいた。
認識不足、それが彼の大きな敗因だった。
「む、無理だ!勝てっこない!」
魔術師の1人が怯えたように呟いた。
ヨシュカが自分の周りを見渡すと、攻撃に行かなかった騎士達も同様に戦意を喪失していた。
「か、閣下・・・駄目です。勝ち目がありません!!」
「あ、何を言っている!相手は賊、帝国に仇名す敵だ。帝国の敵と戦うのがお前達の職務だろう!」
「無理です!あんな出鱈目な魔力を持つ相手に・・・勝てる訳がない!!」
バカ皇子の魔力の放出は終わったが、それでも彼らには十分なほどの恐怖が植え付けられていた。
次々と腰を抜かし、剣や杖を落とす騎士と魔術師達、最早バカ皇子達と戦おうとする者はほとんど残されていなかった。
そこに、愛馬から降りたバカ皇子が歩いて近付いてくる。
「き、来た・・・・・・!」
「か、閣下、に、逃げましょう!!」
「バカを言うな!クッ!こうなれば、自らの手で・・・!!」
未だに震える我が身をどうにか動かし、ヨシュカは持っていた武器を、嘗て伯爵になった際に祖父から貰った名剣を抜き、見た目だけでも強気な態度を見せた。
「停まれ!ここより先は、賊が入るべき場所ではない!」
「ハハハハハ!!ローゼンタール伯爵よ、俺を止めたくば力ずくで止めてみよ!」
「(流石に私の名前ぐらいは知っていたか。)いいだろう。皇族を騙る賊には勿体無いが、我が愛剣をもって貴様の首を斬りおとしてくれる!」
少し勘違いをしながらも、ヨシュカは柄を強く握りしめて魔力を流し込む。
すると、刀身が幻想的な輝きを放ち、周囲を蒼い光で包み込んでいった。
「む!それは魔法剣か!?」
「如何にも!これは『鍛冶王』の末裔が鍛えしミスリルの魔法剣!聖なる輝きにより主の傷を癒し、魔法の威力を数倍にまで引き上げる名剣!貴様もこの輝きの前に跪くがいい!!」
「おお!!」
(よし!奴がこの光に見惚れている隙に詠唱を!)
ヨシュカは自身の使える魔法の中でも最強の魔法の呪文を詠唱し始める。
彼の持つミスリルの剣の輝きは肉体だけでなく精神にも癒しを与え、先程までバカ皇子の魔力に恐怖していた彼の心に平静さを取り戻させていた。
「ん?寒い!?」
「血の一滴まで凍てつき、砕け散れ!!」
周囲の気温を一瞬で真冬まで下げ、ヨシュカは必殺の魔法をぶつける。
対するバカ皇子も、慌てて自分の剣を振る。
「《色無き氷獄の暴風》!!」
「バ、《バーニングソード》!!」
パキンッ!!
ミスリルの剣はアッサリ斬れた。
ヨシュカは宮殿の中まで吹っ飛んで倒れた。
バカ皇子は勝った(笑)
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――帝都タラ スラム街――
「弱っ!!」
俺の率直な感想はその一言に尽きた。
あれだけ派手な演出した割には、呆気ない最期だった。
死んでないけど。
「そういや、バカ兄貴の剣はオリハルコン製だったな。俺も造るの手伝ったからよく覚えてる。」
「マジで?バカ皇子、自分の剣だけ材料豪華にしやがったな?」
ジャンが合成して作ったオリハルコンを材料にした剣、そりゃあ強いな。
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――帝都タラ ファリアス宮殿前――
あれ?
何だか呆気なく終わったな?
「(・・・この場合、何て言えばいいんだ?)」
「(だから訊かないでくださいよ!!適当に「敵将討ち取ったり!」でいいんじゃないですか?)」
「(いや、敵、死んでないし。気絶してるだけだから。)」
「(じゃあ、どうすればいいんだ?)」
「(普通に「突入~!」でよくね?)」
「(それだ!!)」
よし、それでいこう!
俺は剣を掲げて叫んだ。
「―――――宮殿に突入!!」
俺は急いでゴルド・ヴィント号に乗り、宮殿内へ突入した。
あ、ちゃんと人を踏まないように注意はした。
俺は命を大事にする皇子だからな!
―――――――ズシンッ!!
「ん、何の音だ?」
―――――――ズシンッ!!ズシンッ!!ズシンッ!!
「殿下、向こうから巨大な何かが出てきます!!」
「何だと!?って、何だあの巨大な甲冑は!!??」
宮殿の敷地内に入った直後、宮殿の横の方、確か軍か騎士団の関係施設がある方向から巨大な黒い甲冑が大きな足音を立てながら近づいてきた。
しかも10体近くも!!
「あれは何だ!?宮殿より大きいぞ!!」
「だから自分に訊かないでください!!《鑑定》でも使えばいいでしょう!!」
「あ、そうだった!」
うっかりしていた。
変な物を発見したら《鑑定》を使え、だったな!
【巨大悪魔騎士人形】
【分類】ゴーレム型兵器
【品質】普通
【用途】軍事関係
【詳細】禁術を用いて造られた巨大なゴーレム。
大量の魔石を動力としたゴーレム本体に召喚した悪魔を憑依させている。
全身を悪魔の魔力によって覆われ、並大抵の攻撃では傷ひとつ付けられない。
悪魔が憑依している為、その悪魔の意志で動く事が出来る。
強力な光属性の攻撃が弱点。
「気を付けろ!あれには悪魔が憑依しているぞ!!」
俺は部下達に注意をする。
すると、ゴーレムの方から大きな声が聞こえてきた。
『フハハハハハ!!恐れ戦くがよい、古き帝国に与する愚か者どもよ!我こそは新生ファリアス帝国皇帝、トラウゴット=F=オーベルシュタインなり!!』
み、耳に響く!!
何だこの大きすぎる声は!?
大きすぎて逆に聞き取り辛いぞ!!
「な、何だあの化け物は!?」
「今の声、オーベルシュタイン子爵の声だ!!」
「新生ファリアス帝国皇帝!?何の話だ!!」
後ろからその他大勢の声が聞こえてくる。
どういう事?
あいつらの仲間じゃないのか?
『帝都にいる全ての民よ、この偉大なる力の姿を刮目して見よ!!これこそ、偉大なる帝国の新たなる力、大陸全土を統べ、世界を帝国の名で統一する事を叶える究極の力なり!!』
「・・・何言ってるんだ?」
「殿下、おそらく、反皇帝派の連中はあのゴーレムを使って世界征服をする気です!流石にあの大きさと数では我々だけでは心許無いですから、勇者殿達を呼びましょう!」
確かにあの大きさはマズイな。
前に見た龍王程ではないが、あの大きさの物を壊すのは難しそうだ。
『フハハハハハ!!我らに反旗を翻す愚か者どもよ、この偉大な姿に恐れて戦意を失ったか?』
「よ~し、通信兵!シロウ達に救援要請だ!」
「了解~!」
『その力に怯えながら死ぬがいい!行け、我が忠実なるし――――――』
「あ!殿下、あれってヴィクトール殿下じゃ?」
「何?」
部下の1人が空を指差した。
あ、本当だ!
我が弟が空を飛んで来ている!
『くらえ、《黒き――――・・・』
「――――《ホーリーバーストインパクト》!!」
『なっ・・・ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』
あ、ゴーレム吹っ飛んだ!!
派手な登場の割に、呆気なかったな?
オリハルコンの武器は基本的にミスリルより強いです。