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ボーナス屋、勇者になる  作者: 爪牙
2ヶ国奪還編Ⅳ-奪還作戦の章-
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第100話 ボーナス屋、また出番がない

 祝100回!

 なのに、また主人公の出番がないです。

――帝都タラ ファリアス宮殿――


 ヨシュカ=J=ローゼンタール伯爵は朝から苛立っていた。


 彼は今回のクーデターの首謀者の1人で、若手貴族による派閥のトップでもあった。


 幼い頃に両親を事故で失い、ファリアス帝国でも数少ない公爵だった祖父の下で育ったヨシュカはその恵まれた環境で才覚を伸ばし、学院を首席で入学、同じく首席で卒業して帝国の表舞台に立った。


 若くして数々の功績を立ててバカ皇帝より伯爵位を授かった彼は祖父から完全に独立、帝国のゴリアス国との国境近くの領地の領主となり、独自の騎士団や軍も持つようになった。


 ヨシュカの人生は順風満帆だったが、彼はそれだけでは満足しなかった。


 順調すぎたが上に野心を持ち始め、更には自由奔放なバカ皇帝を疎ましく思い始めていた彼は自分達貴族こそが帝国の頂点に立つべきだと考え、独自の派閥を創っていった。


 そして同じく帝国を皇帝から奪おうと企む重鎮貴族の派閥とも手を組み、何時から居たのか、ダニールとも手を組んでクーデターの機会を狙っていた。


 そして4日前、ダニールの「待った!」に痺れをきらしていたヨシュカは、ダニールとの連絡が耐えたのを機に独断のクーデターを決行した。


 結果は上々、第二皇子を始めとする皇族を拘束し、宮殿内の各部署も制圧、軍の指揮系統も完全に奪う事でクーデターは一応は(・・・)成功した。


 只1つ、バカ皇帝が未だに見つからないという点を除いては。



「何故だ!何故、まだあの男を見つける事が出来ないんだ!!」


「閣下、配下の者に調べさせたところ、陛下と面識のある数人の女性と子供――――おそらくは、愛人と御落胤でしょうが、陛下と同じ時期に消息を絶っています。あと、関係があるかは不明ですが、ハワード侯爵夫人も行方不明になっております。」


「クソッ!!こちらの動きを察し、女と子供を連れて逃げたか!帝都近隣の町の方はどうだ?」


「以前、何の情報も掴めておりません。ただ、帝都近くの古代遺跡付近で何者かに捕縛された盗賊団を発見したという報告があります。」


「・・・その何者かが逃げた皇帝だと?」


「確証はありませんがおそらくは・・・・・・。盗賊団そのものは軽く話を聞いた直後に処分(・・)去れたそうなので、これ以上詳しくは分かりません。遺跡の方も、1個師団に調べさせましたが、野生の魔獣以外に人の姿は無かったそうです。」


「・・・あれから4日、大分遠くまで逃げられたと考えるしかないか。」



 ヨシュカはバンッと目の前の机に怒りをぶつけると、椅子から立ち上がって今後の計画について思案を始めた。


 だがその直後、執務室の扉が勢いよく開けられ、外から息を乱した1人の若い兵士が飛び込んできた。



「ほ、報告します!!」


「――――どうした!?」



 飛び込んできた兵士の様子から、只事ではないと察したヨシュカは、兵士に急いで報告の内容を喋らせた。



「さ、先程、、平民区の南大通りに謎の軍勢を確認!こちらの兵を次々に退け、こちらに向かって直進してきています!!なお、その軍勢はファリアス皇族の旗を掲げているとの事です!!」


「何だと!!」


「報告!!軍の臨時指令本部に、第六皇子ヴィクトール殿下と思わしき人物が現れました!軍内部は激しく動揺、武装解除して逃走する兵が多数出ているのとことです!!」


「な、バカな!!第六皇子は戦死したはず!?」


「報告!!宮殿に向かっている謎の軍勢を率いているのは、先日戦死して国葬された筈の第一皇子ヴィルヘルム殿下との事です!!バカだった(・・・・・)ので本人に違いありません!!」


「!!!???」



 次々と入る報告の嵐に、ヨシュカの頭は混乱し始めた。


 戦士、或いは暗殺、この世には居ない筈の皇子達が次々と現れているという情報に、ヨシュカは平静を取り戻すのに1分以上の時間を要した。



(まさか・・・我らを騙したのか、ダニール・・・!!)



 ここには居ない協力者の顔を思い浮かべ、ヨシュカの苛立ちは更に増した。


 報告に来た兵達は、自分達の現時点での主からの指示を冷や汗をかきながら待った。



「正門前を固めろ!!敵を迎え撃つ!!」


「「「ハッ!!」」」



 兵達は敬礼をして部屋から出ていく。


 部屋に残ったのはヨシュカと文官の男の2人だけだった。



「――――閣下は?」


「賊が本当に皇子かこの目で確かめてくる!ここは任せた!」


「御意。」



 文官は簡潔に返事をすると、武器を装備して部屋を出ていく主を見送った。


 1人残された男は、命じられたとおりに職務を遂行していった。




--------------------------


――ファリアス宮殿前――


「ハハハハハ!!止まれ、ゴルド・ヴィント号!!」


『ヒヒィィ~ン!!』



 俺の声を聞いた愛馬ゴルド・ヴィント号は誇らしい姿で止まった。


 ついに、ついに戻って来た!!


 ()官による地獄の訓練、俺を補食しようと襲いかかる魔獣との激闘、そして世界を支配せんとする巨悪との戦いを経た俺は、ついに我が家である宮殿に戻って来たぞぉぉぉぉぉ!!



「な・・・ヴィ、ヴィルヘルム殿下・・・!!死んだ筈では!?」


「騙されるな!殿下の偽者が国内に居ると閣下達が仰っていただろ!」


「だが、あのバカっぽ・・・いえ、個性的な感じは・・・!」



 どうやら敵側の者どもも動揺しているようだな。


 中には騙され、利用されている者も少なくはないだろう。


 俺も無駄な血は流したくはないし、先程までと同じように警告しなければ!



「ウオッホン!!逆賊に付きし兵達よ、我が名はファリアス帝国第一皇子ヴィルヘ――――――」


「弓兵、撃て!」


「―――ルムって、待てぇぇぇぇ!!」



 言い切る前に攻撃だと!?


 俺が本物だと知った上での先制攻撃か!


 だが、甘い!!



「―――《フレイム》!!」



 基本魔法ファイアの上位魔法の《フレイム》を放つ。


 飛んできた矢の雨が一瞬で灰になって地上の兵達に降り注いだ。


 うん、俺も大分魔法の腕が上達してきたものだ!


 いや、ここで無様を曝せば・・・・また、また、また地獄の・・・・・ブルブル!!



「な、何だ今の魔法は!?」


「ありえん、あれほどの威力の魔法を片手間に使うなど・・・!」



 ハハハハ!!


 みんな驚いてるな?


 ここで大いに自慢したいところだが、今の俺は場の分別くらいできる。


 さっさと話を進めよう!



「逆賊に従いし兵達よ、我はファリアス帝国皇帝の嫡子、第一皇子ヴィルヘルムである!」



 俺は兵や騎士達に武器を下ろす様に説得していった。


 俺流(・・)に。


 流石にすぐには理解できないだろうが、きっと話を続ければ分かってくれる者も出てくるだろう。


 ほら、みんな動揺して戦意が消え・・・



「貴様!やはり、第一皇子の偽者だな!!」


「えええぇぇぇぇ!?」



 何故だ!?


 ちゃんと話したのに、何で通じないんだ!?


 前みたいにふざけたことは一言も言ってないのに!?



「第一皇子がそんなに強いはずがない!弱いはずだ!」


「そうだ!そんなに逞しい体のはずがない!」


「皇子を騙る賊を討て!!」


「ええええええええええええ!!??」



 そんな理由で断定!?


 っておい、何で同感だって呟いてるんだ部下達!


 俺は本物だ!!



「新・宮殿騎士団、皇族を騙る賊を討て!」


「「おぉぉぉ~~~!!」」



 うわっ!来た!


 こうなったら死なない程度に加減して戦うしかないか。


 そうだ!


 魔獣退治の時みたいに動けなくしてやろう!



「――――《麻痺雷撃(パラライズショック)》!!」


「「「ギャア!!」」」


「え、全滅?」



 俺に向かって来た謎の騎士団は一撃で全滅した。


 全員地面の上で全身を痙攣させながら呻き声を上げている。



「・・・殿下、相手はドラゴンじゃないんですから加減してください。ほら、向こうは皆泡を噴いてるし、変な汗も流してますよ。」


「え、ちゃんと加減したぞ?」


「「・・・・・・。」」



 部下Aを含めた全員が呆れたように俺を見ている。


 悪いの、俺だけか?



「―――――何だと!!新・宮殿騎士団が全滅だと!?」



 そこに、宮殿の方から上級貴族らしい男が現れた。


 あの男、どっかで見たことあったっけ?


 そうだ、こういう時こそ《ステータス》で名前を確認しないと!



【名前】ヨシュカ=J=ローゼンタール

【年齢】29  【種族】人間

【職業】臨時宰相 グリューンベルク領領主  【クラス】野心家な伯爵

【属性】メイン:風 氷 サブ:火 水 土 雷

【魔力】10,400/10,400

【状態】正常

【能力】攻撃魔法(Lv3) 防御魔法(Lv2) 補助魔法(Lv2) 特殊魔法(Lv2) 剣術(Lv2) 槍術(Lv2) 体術(Lv2) 弓術(Lv2)

【加護・補正】物理耐性(Lv2) 魔法耐性(Lv1) 精神耐性(Lv1) 風属性耐性(Lv2) 氷属性耐性(Lv2) 高燃費



 ああ、なんとなく思い出してきた。


 確か、俺の誕生日パーティにも招待していた・・・・よな?



「(・・・あれ、俺の知り合い?)」


「(何で自分に訊くんですか?)」←部下A


「・・・バカな、本当に生きていたのか!?」


「(だって、貴族って多すぎるしややこしいじゃないか。自慢ではないが、俺は貴族の顔と名前を同時に覚えるのが苦手だ!)」


「(本当に自慢じゃないですね。自分だって貴族の名前なんて有名どころしか知りませんよ。見ての通り、平民出身の一兵卒ですよ。運悪く殿下の元に配属になった挙句、陰謀に巻き込まれて不名誉の死を遂げかけたしがない兵ですよ。)」



 部下A、なんだか自虐的になってないか?



「お前達、何を呆けている!すぐに賊を囲んで逃げ道を塞げ!魔法部隊、残った騎士達を強化しつつ、後方から族達を攻撃しろ!」


「(一兵卒って、お前達、最近は下位の竜種なら単独で倒せるようになってなかったか?朧気だが、イイ能力をシロウから貰ってなかったか?)」


「(ええ、お蔭様で倒した竜種の素材で懐が大分暖かかくなりました。殿下の下で払いていた時の給料よりもかなりの高収入になりましたし、家族の生活費も数年分貯まりましたし、幼い兄弟達を学校に通わせる事もできそうです。正直、毎日笑いが止まりませんよ。ウハウハです。)」


「(・・・給料、そんなに安かったのか?)」


「(殿下は御存じじゃないでしょうが、貴族ばかりの騎士団と違って一兵卒の給料なんて高が知れてるんですよ。命をかけても、(自分の必要最低限の生活費を除いて)ギリギリどうにか家族の生活費の足しになるかどうかです。)」



 そうだったのか?


 金とかの管理は全部ロビンに任せていたから知らなかったな。



「(だよな~、俺も給料が寂しいんだよ。)」←部下B


「(それが今では小金持ち・・・俺、金貨なんて生まれて初めて財布に入れられたんだぜ?病気の母ちゃんの治療費もこれで払えるぞ!)」←部下C


「(俺ら、兵士やめて冒険者になった方がよくね?俺、もう一軒家を買えるだけの金が貯まったんだ。死んだ親父の借金もこれでチャラだぜ!)」←部下D



 みんな、顔がニヤケてるぞ?



「(・・・実は僕、軍に入る前に冒険者に登録してるんだ。魔獣の討伐であっという間にランクが上がっちゃった♪)」←部下E


「(え?みんな俺の元から居なくなる気満々?)」


「(正直なところ、殿下よりも弟殿下(ロビン)達に仕えたい気分です。)」←部下A


「「「(うんうん!!)」」」←部下一同


「(ガ~~~ン!)」


「総員、攻撃開始!!」


「「「おおおおおおおおおおお!!!」」」


「そこ、五月蠅い!!」



 俺は魔力を全開放(・・・・・・)して威嚇した。


 人が部下達と話している時に攻撃してくるとは、マナー違反じゃないのか?



「「「グハッ・・・・・・!」」」


「な・・・な・・・・・・・・・・!!」



 あれ?


 襲ってきた兵や騎士達が全員倒れちゃった?







 報われないバカ皇子が可哀想に思うのは作者だけでしょうか?


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