第99話 ボーナス屋、出番が少ない
――フィンジアス王国 王都クリーオウ――
「ムッ!さすがに手強いのもいるか!?」
私はなかなか隙を見せない敵兵に少しだけ手古摺っていた。
作戦開始直後は、王都各所にいた敵兵を次々に倒していった私だったが、王城に近づくに連れて強さを増す敵に少々手こずっていた。
クーデターを起こした連中も雑魚ばかり集めている訳ではないようだ。
「亡き王女を語る偽者よ、ここで散れ!!」
「偽者かどうか、その身を持って確かめろ!!《クロスゲイル》!!」
「なっ!?うおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
私の《結晶の宝剣》から放たれた風の刃が圧倒的なパワーで吹っ飛ばす。
集まってきた敵集団と激突し、一気に100人以上が倒れた。
「進むぞ!!」
「「「おおおおおおおお!!!」」」
私は剣を掲げながら愛馬を走らせていく。
この道を直進すれば王城はすぐそこだ。
その分敵も増えてくるだろうが、フィリスが率いている別働隊が敵主力を制圧しているからそれほど多くはならないだろう。
私は大勢の民衆が驚愕の眼で見ている中を馬で駆け抜けていった。
「おい!あれはステラ様じゃないか!?」
「本当だわ!王女様よ!」
「生きてたのか!?」
住民達は私の姿を見て驚愕の声を上げ始めている。
フフ、死んだと公表されていた王女が目の前に現れたのだから無理もないな。
等と考えていたら、路地裏から10人ほどの人陰が飛び出してきた。
「おい、あれはステラの姉御ですぜ!!」
「姉御ォォォォォォ!!生きてたんすねぇぇぇぇぇぇ!!!」
「ギャアアアアア!!!ブラッディステラだあああああ!!」
「こ、殺されるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
「あ!暴れん坊姉ちゃんだ~!」
「暴れん坊王女だ~!」
「「姉御ォォォォォォォォォ!!!」」
わああああああああああああああああああああ!!!!!
あ、あいつらわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
私の消し去りたい過去が~~~~~!!!
「ステラ、彼らは知り合いかい?」
「違います!!断じて違います、兄上!!」
「「「姉御ォォォォォ!!!お供しますぅぅぅぅぅ!!」」」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
何故!?
アイツラは別の区画に住んでいたはずでは!?
このままでは私の黒歴史が知られてしまう!!
あんな過去、兄上は勿論、シロウ達にも知られたくない!
知られたら私は(精神的に)破滅だ!!
「総員、全速力!!!」
「ステラ、彼ら、馬に乗って追いかけて来るよ?」
な、何!?
何所から馬を!?
「姉御に続けぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「「「うおおおおおおおおお!!!」」」
「姉様をお守りするのよ~~~!!」
「「「キャアアア!!ステラ様~~~~~♡」」」
増えてる!増えてる!
何時の間にか増えてる!?
マズイ、このままでは私の黒歴史が兄上や部下だけでなく、王都の住民全員に知られてしまう!
ここは早く敵を片づけて消えなくては!!
「王女の偽者、覚悟!!」
「邪魔だぁ!!!」
「「「ぐわああああああああああああ!!!!」」」
私は行く手を阻む敵勢を一気に吹っ飛ばした。
王都の空を数百人の敵が回転しながら舞う。
後からついてくる部下達が上手くフォローしてくれるから死人の心配はいらないだろう。
こうなれば一気に道を開く!!
「――――《ハイ・トルネードソード》!!」
王城の方から迫ってくる敵兵達を、剣先から放たれる竜巻で一気に倒していく。
ついでに王城の門も吹っ飛んだ。
「門は開いた!このまま突入する!!」
「「「おおおおおおおおお!!!」」」
「「「姉御ぉぉぉぉぉ!惚れ直しました~~~~♡」」」
「「「キャァァァァァァ!!素敵~~~~♡」」」
「お前達は来るな!!」
何時の間にか余計な者達まで合流してしまった。
兎も角、私達は王城へと突入していった。
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――王都クリーオウ クリーオウ城――
「ベネディクト陛下、どうやら反乱分子達がこちらに向かって来ているようでございます。」
「何だと!?」
一方、王城ことクリーオウ城の玉座の間では自称新国王のベネディクトが外の様子を知って激怒していた。
「どこのクズどもだ!?」
「どうやら、死亡した第二王女と第一王子を騙る者が一部の兵や騎士達を扇動しているようです。おそらく背後には、陛下の戴冠を快く思わぬ貴族がいると思われます。」
「おのれ!俺の威光が解らぬクズどもめ!!」
「ですが陛下、これはある意味好機でもあります。」
「何?」
ボイド侯爵の言葉に、ベネディクトは僅かに怒りを鎮めた。
「不幸中の幸いと言いますか、この騒動は王都中の全住民に知れ渡っています。中にはこの騒動を機に他の反乱分子達も動いているとの事です。これを陛下が表に出た上で鎮圧すれば反乱分子を一掃できるだけでなく、陛下の絶対的な威光を王都の隅々にまで届ける事が出来ます。」
「ほう・・・。」
「さすれば、多くの貴族や平民達は陛下がいかに崇高であるのかを知り、その命の全てを陛下に捧げる事になるでしょう。これは陛下の王道を飾る、最初の栄光になるのです。」
「うむ!確かにお前の言うとおりだな。俺に逆らう逆賊どものを倒す事こそ俺の最初の栄光に相応しい!俺としたことが、思わず怒りで目を曇らせるところだった。ボイド侯爵、すぐに親衛隊を集めて逆賊どもを迎え撃つぞ!」
「―――――御意!」
「ハハハハハハハ!!阿呆なクズどもに俺の威光を思い知らせてくれる!!」
ベネディクトは上機嫌になって玉座の間を後にした。
残されたボイド侯爵は軽く溜息を吐くと、ヤレヤレと呆れた様な顔で閉じられた扉を見つめた。
「まったく、ああは言ったものの、大人しく棒立ちしていてくれればいいのだがな。それよりも、ブラス卿の留守を狙ったかのような・・・。一体何者だ?」
実はボイド侯爵も敵が本物のステラとエドワードだとは思ってはいなかった。
侯爵は自分達の協力者であったブラスの力を知っている為に彼の実力を過信し、ステラやエドワードが本当に戦死したと信じ切っていた。
それはブラスの能力を考えれば無理もない事だが、そのせいで彼らは敵の戦力を見誤る事になってしまう。
ブラス=アレハンドロの留守を狙った奇妙な賊、侯爵達のステラ達に対する最初の印象はその程度のものだった。
「さて、私も騎士団を率いて賊を出迎えるとするか。念の為、ブラス卿が残していった“切り札達”も出しておくか。」
独り言を終えた侯爵は玉座の間を後にし、自分達の最高戦力が待機する場所へと向かっていった。
だが、この時点で既に王城の地下では捕らわれていた王族や貴族、騎士達の救出がステラの部下達によって完了していた。
つまり、現在の城内にいる者は一部の使用人を除けば全てベネディクトやボイドを含めたクーデター派の者だけになっており、ステラ達は気兼ねなく城内でも戦える環境になっていた。
そしてこの十数分後、ステラ達は城内に突入に成功し実の伯父と対峙する事になる。
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――帝都タラ スラム街――
「――――――フムフム、じゃあ、全員無事なんだな?ああ、わかった!」
俺は通信魔法具のスイッチを切ると、みんなに今届いた連絡の内容を報せた。
「勇者様、今のは?」
「ああ、王国にいるフィリスからだ。王都側は無事に軍の施設を制圧して、牢獄にいた王族達を無事に救出したってさ!」
「「おおお~~~!!」」
スラム街に歓声が上がる。
事情を何も知らないスラムの皆さんまで声を上げている。
それはいいとして、どうやらステラちゃんの方も順調そうだ。
帝都も王都も、後は敵の頭を叩くだけだ。
「にしても、本当に出番なさそうだな?」
「ヒューゴ、そんな事を言っている時に限って、とんでもない事態になるぞ?」
「そうだよお兄ちゃん!油断しすぎ!」
「分かったよ。」
「みんなも油断するなよ?」
「ハイ、勇者様!」
『ゴケッ!』
さて、作戦もいよいよ終盤だ!
主人公、出番は最後だけでした。
このまま活躍無し・・・な訳がありません!
それにしても、ステラちゃんの黒歴史がますます気になりますねw