イントロダクション
高校受験を乗り越えて無事今年から高校生になる俺は現在、学校の前にある坂を上っていた。自転車登校じゃないから帰りに誰かを自転車の後ろに乗せて下っていく、なんてことはできず帰りもつらいだけだろう。そんな大変な登下校を支えてくれるのはイヤホンから流れる様々な音楽だ。
「同じ中学からここに進学したのがお前でよかったぜ、奏斗」
「ん?なんか言ったか正樹?」
正樹はため息をした後少し怒ったかのような顔をして続ける。
「お前なぁ、そうやっていつもイヤホンつけてるから人の話を聞き逃すんだぞ」
「すまんすまん。で、なんか言ったか?」
「なんでもねぇよ。それよりほらついたぞ。『青葉ヶ丘高校』」
「去年もオープンハイで来たけどやっぱりでかいな」
俺たちの中学も大きいほうだったがそれが霞むほど大きな建物が目の前にあった。圧倒されて足が止まってしまうほどには。正樹はそんな俺を気にも留めず学校に入っていく。
学校に気を取られていると、突然後ろから何かがぶつかってきて、その衝撃でイヤホンが外れてしまった。何がぶつかったのかと思うと、ぶつかったのは誰が見ても可愛いと思ってしまうような女の子だった。長く綺麗な黒髪に飲み込まれそうなほど深い茶色の目をしている。ここにいて制服を着ているということはこの学校の生徒なのだろう。
「ごめんなさい!音楽に夢中で周りがよく見えていなくて」
彼女も音楽を聴きながら登校していたようだ。
「いやこっちもこんな所に突っ立てて邪魔だった」
そう言って俺は落としたイヤホンを拾う。
「あれ?こんな曲プレイリストに入ってたっけ?」
耳に飛び込んできたのは少し聴き覚えのある曲。しかしこの曲をプレイリストに入れた覚えはない。どこで聴いたのだろう?テレビ?親の車の中?カラオケ?そんなことを考えていると彼女が声をかけてきた。
「お互いのイヤホン取り違えたみたい。まさか同じイヤホンをつけてたなんて」
彼女は笑いながら言う。向日葵のように明るく眩しい笑顔だ。
「はいこれ。にしても聴いたことのない曲だったなぁ」
どうやら彼女も俺の聴いていた曲を聴いたようだ。
「どうも」
そう返しながら俺は自分のイヤホンを彼女から受け取り、彼女のイヤホンを返す。
「そっちだって少なくとも今の世代の曲じゃなかったじゃないか」
「私もたまたま聴いていただけだよ」
笑いながら目の前の彼女は言う。
「じゃあ、友達が待ってるからそろそろ行くね」
「ああ」
そうして彼女は玄関のほうに消えていった。俺も正樹に追いつくため少し歩幅を大きくして玄関に向かった。
「遅かったじゃないか。なにかあったか?」
先に行っていた正樹が不思議そうな顔で聞いてくる。
「少し向日葵と話をしていたんだ」
「緊張でついに植物と会話してしまうようになったか。大丈夫だ、俺はどんなお前でも友達だからな。てか、まだ向日葵の時期じゃなくね?」
憐みの目でこちらを見つめてくる正樹を無視して俺は張り出されているクラス割の紙に目をやる。
「1学年8クラスか。えーと俺は、、4組か。正樹も一緒みたいだし入学早々ぼっちは免れそうだな」
「そりゃよかった。てか奏斗は普通にコミュ力があるんだから俺がいなくてもぼっちにならねぇだろ」
「お褒めに預かり光栄だ」
そんな他愛ない会話を交わしながら俺たちがこれから一年間を過ごすことになる教室へ向かう。
教室についた俺たちは自分の席を確認し座る。窓側の一番後ろの席、いわゆる主人公席というやつだな。今日は本当に運がいい。
「あれ?さっきのイヤホンの」
席に着くと隣からそんな言葉が飛んできた。おそらく自分に向けての言葉だろう。声のほうを見てみるとさっきぶつかった子がいた。
「やっぱり!さっきの人だ。偶然だね!これから一年間よろしく」
このとても晴れやかな笑顔を見ればほとんどの男子はイチコロだろう。実際俺も少し危なかった。
「本当に偶然だな。俺は南部奏斗よろしく。えっと、、」
名前を呼ぼうとしたがそういえば知らないので言葉に詰まる。彼女は不思議そうに見てくるが、察してくれたのか名前を教えてくれた。
「私は高瀬 琴葉。よろしく南部君!」
「よろしく高瀬」
新しい環境にうまくなじめるか不安だったがとりあえずスタートは悪くはないのではないだろうか。そう考えているうちにあることを思い出した。
「なぁ、高瀬」
「ん?」
「朝聴いていた曲の名前教えてくれないか?どこかで聴いたことがあると思うんだが名前が出てこなくてな」
俺は胸の内に残っていた小さなもやもやを解消すべく質問した。それを聞いた高瀬はにやりと笑いながら
「ん~?新手のナンパかな?」
などと茶化すように言葉を返してきた。俺がそれに対してため息をすると彼女は少し笑って口を開く。
「あの曲の名前は――」
「おはよう皆!」
その言葉の続きを遮るように大きな声が教室に響き渡る。声の出所は教壇の上にいる人物だった。おそらくこのクラスの担任となった先生だろう。高瀬との会話に意識をやっていたため、教室に入ってきたことに気づかなかった。灰色の長い髪と深い赤色の瞳をしている。この学校は髪染めやカラーコンタクトなどがOKなのか?
「早速だが皆、廊下に並んでくれ。入学式に行くぞ」
中学の入学式の時も思ったが、どうしてこうも校長の話というのはつまらないのだろうか。卒業式なら話を聞いているうちに、それまでの学校生活を振り返って涙の一つや二つ出るのだが、、。今はあくびが出るほど退屈だ。きっと俺だけじゃなく多くの新入生が同じ気持ちだろう。案の定正樹は立ちながら寝ている。こんな時間を過ごすくらいなら何も考えず好きな曲を聴いていたいものだ。
「新入生挨拶。新入生代表神波 葵衣さん」
いつの間にか校長の話が終わって新入生代表挨拶に移っていたようだ。代表ってことは俺たちの学年の首席入学者ということなのだろう。俺は後ろのほうに並んでいるため、代表者様のご尊顔を拝むことは難しい。まぁ、話す人が変わったところで退屈なことには変わりないのだが。
結局、終始ただ立っているだけの面白みのかけらもない入学式だった。入学式に面白みを求めるなと言われたらそれまでだが。仕方ないだろう、新しい環境に来たのだから期待を少なからず抱いてしまう。教室に戻って間もなく担任が口を開く。
「自己紹介をしようか。新しい環境になってみんなも互いのことをよく知らないだろうからな」
自己紹介。それはチャンスでもあれば地雷のようなものでもあるのだ。ここでの己の言動が後の学校生活を決めるといっても過言ではない。故にここでの失敗は許されないのだ。とはいえこれには絶対に失敗しない方法がある。その方法とは――前の人の型に合わせて自己紹介をすることだ。我ながらこの発想をできる自分が怖い。
「じゃあまずは担任の私から。名前は小川 晴香。担当教科は生物。特に部活の顧問などはしていないぞ。買い物やカラオケに行くことが好きだ。これから一年間よろしく!」
とても明るく元気な先生のようだ。生徒からすればこのような馴染みやすい人が担任をしてくれるのは非常にありがたいものだ。さて、俺は自分の自己紹介を考えよう。名前を言って、出身中学、そして好きなことはなにかを言って最後に一言。完璧だ!
一通り全員の自己紹介が終わり、下校の時間になった。ちなみに俺の自己紹介は本当に何の変哲もない普通のものとなった。
今日はどうやら部活動の見学ができるらしい。中学の頃は運動部に入っていたが高校ではどの部活に入る気もないので俺には関係のないことだ。
「南部君はどこの部活に入るの?私はまだ決まってないんだけど、」
帰る準備をしていたら高瀬から声をかけられた。
「俺は今のところどこにも入るつもりはないかな」
「そうなんだ。面白そうな部活見つかるといいね!私友達と見学行ってくるから。じゃあねー」
「じゃあな」
さて、俺も帰るとするか。正樹はきっと部活動見学に行くだろうし、今日は一人で下校するか。
「なーにかえろうとしてんだ?」
右肩に手が置かれたので振り返ってみるとそこにはニヤニヤしながらこちらを見てくる正樹がいた。これは、予定より帰るのが遅くなりそうだ。
「なぁ奏斗、本当に部活入らないのかよ~?」
「別に絶対に入らないってわけじゃないさ。もし惹かれる部活があったら入ってみるのもありかもな」
俺たちはその後さまざまな部活動を見学しに行ったが、今のところ興味を持てるような部活は見つかっていない。正樹はバスケ部をもっと見学したいとのことなので一旦行動を別にすることにした。
俺は今一人でこのとてつもなく大きな学校に慣れるべく、校舎内を散策している。デカい。マジでデカい。学校に必要なものが全てそろっている。まさに理想の学校と言えるだろう。そんなことを考えながら歩いていると気づけば俺は学校の中で迷子になった。恥ずかしすぎる。学校の中で迷子になるなんて。てか迷子になるほど広いってどんな高校だよ!
「どうしたんだい少年?ここにいるってことは私たちの同好会のポスターを見て興味を持ってきてくれた見学者かな?」
呆けていると急に声をかけられた。振り返ってみると新緑のような深い緑の瞳と、背中まで流れ落ちる豊かな金髪を持った女性が目の前にいた。どうやら部活、いや同好会?の見学者だと思われているようだ
「いや実は、、、」
「?」
どうしよう。実は学校の中で迷子になっちゃったんです。そんなこと口が裂けても言いたくない。なので俺は彼女に話を合わせることにした。
「そ、そうなんですよ!ポスターを見て少し興味がわいて」
「そういえばこの間ポスター外したっきり貼りなおしていないんだった」
、、、、は?この人カマかけたな。だって馬鹿にしたような顔でこっち見てるもん。もう正直に話すしかないか。
「本当は迷子になっているだけです」
「アハハハハ!がっ、学校の中で迷子って君面白いね。」
予想通りめちゃくちゃ笑われた。こうなる事がわかっているから言いたくなかったんだ。
「ここで出会ったのも何かの縁だ。どう?見学していかない?見学しに来てくれたら玄関まで案内してあげるよ」
正直このまま俺一人では学校から出るのにかなり時間を要するだろう。最悪このままだと今日中に帰ることができず学校内で夜を明かすことになってしまうかも。それだけは絶対に避けなければならない!
「そうですね。どうせ暇でしたし見学させていただきますよ」
「よし来た!ただ暇だったわけじゃないでしょ?ま・い・ご だったんだから」
どうしよう。俺この人苦手かもしれない。
「ようこそ!私たち音楽同好会へ!」
今俺たちはおそらく部室?いや同好会らしいから同好会室?と思われる場所にいる。部屋の中には棚が2つと長机が3つ置かれている。棚の中にはおびただしい程のCDが並んでいる。俺は普段音楽を聴くときはスマホを使っているのでCDは片手で数えられる程度しかもっていない。そんなこともあったため俺は棚に並ぶCDに目を奪われていた。
「? もしかしてCDを見たのは初めてか?少年」
どうやら俺の視線が棚に向いていることに気づいたようだ。
「さすがに見たことありますし、少しだけだけど持っていますよ。たださすがにこの量には圧倒されますね」
今時CDを使って曲を聴く人がどれくらいいるのだろうか。スマホやパソコンなどで曲を聴けるようになってからはほとんどの人がCDから離れているだろう。実際、スマホなら外出先でも好きな時に好きな曲を聴けるから便利なのだ。
「そういえば自己紹介をしていなかったな。私の名前は水野 三重。二年生、つまり君の先輩だ。君の名前は?」
「南部 奏斗です。先輩は一人でこの同好会を?」
「まぁそうだね。あ、でも君がいるから二人かな?」
「一言も入るなんて言ってませんよ?」
「え~入ってくれよ~。頼むよ~いつも一人で暇なんだよ」
正直俺は現段階で少しここに興味を持っている。だが3年間在籍し続けられるほどかと言われてしまえばそれは分からない。
「と、とりあえず体験入部させてください。それでここに入るか決めます」
「本当かい!?ありがとう、南部クーン」
目を輝かせてこちらを見たと思ったら、いつの間にか涙目になっているしこの人めっちゃ感情の起伏激しくない?
「まだ入ると決めたわけじゃないですよ、先輩」
「わかっているとも!この水野三重、君がここに入りたくなるよう最高の体験を提供しよう!」
はぁ、大丈夫かなこれ?
前回は自分の納得がいかなかったので改変させていただきました。
誤字や文章のおかしなところがあれば教えていただけらば幸いです。




