表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
JACK  作者: 響子
3/3

03 White Christmas

ローズと一緒に、今度はクリスマスのお知らせをして歩くジャック。街で偶然、自分たちの姿が『見える』大人に出会う…。

「ジャック…?誘いに来たわ」

 遠慮がちなノックの後、小さな声がした。ぼくは急いで返事をする。

「今、行くよ!待ってて!」


 ハロウィンは終わり、ぼくは皆に忘れさられて…、次の秋まで、どこかへ身を潜めているはずなんだけど。クリスマスの精霊ローズと仲良くなったので、こうしてまだ、人の世にいる。賑やかな夜の街に繰り出す大人たちには、ぼくらの姿は見えない。

 酔ったおじさんの耳元で、着飾った女の人の隣で、『もうすぐ、クリスマスだよ』って、囁いてあげる。そして皆に向かって『大好きなひとと、素敵なクリスマスを過ごせますように…』って、呼び掛けて歩くんだ。

 きらきら光るイルミネーションと、街を行く人の波。ざわめく声と、流れる音楽の中を、ぼくらは泳ぐように通り抜けていった。それと気づかぬうちに、ぼくらの言葉は、心に響いていくはず。ぼくらの姿が見えるのは、純粋な心を持つ子供たちだけなんだから。

 でも、たまに…ごくごくたまに、子供の心を忘れない人には、ぼくらが何となくわかるらしい。目をこすって、じっと見られるときがある。

「あれ?子供の頃に見た、カボチャお化けと魔女かな?」

 そうなんだ。ぼくらとは時の流れが違うから、この前会ったはずの子供たちも、もう大人なんだ。だけど、ぼくらを覚えていてくれて…すごく、嬉しい…。

「よかったわね。ジャック」

「うん」

「あの人は、もしも子供が生まれても、きっとカボチャをくりぬくわ。一緒にハロウィンを楽しんでくれる」

「もちろん、クリスマスもね」



 その日ぼくらは上機嫌で、つい、遅くまで街をぶらついていた。

 大きなガラスのショーウィンドウの前の舗道に、背の高い男の人が立っていた。誰かを待っているのか、店の中を気にしながら、革の手袋をした手を見つめ、白い息を吐く。

 …ふと、ぼくらの方を見て、低い声で尋ねた。

「誰か、そこにいるのか?」

『この人にも、見えるんだろうか?』

 ぼくは、ローズの方を見た。彼女は首を振り、そっと答える。

『多分…、すごく、鋭いのよ』

「子供か…?」

 目を細めると、また、問いかける。

「おじさん、ぼくらがわかるの?」

「おじさん、か…。子供からは、そう呼ばれるのか…。はっきりと見えている訳ではないが、何となく存在を感じる。お前たちは、迷っているのか?」

 この場合の迷う、は迷子ではなくて…幽明の境を迷っているのかと聞いているのだ。

「ううん。ぼくとローズは、精霊なんだ」

「今は、クリスマスをお知らせするために、街を歩いているの」

「ふむ…、子供二人というわけだな。悪いものではないのか…」

 また、独り言のように呟いた。

「待ち合わせなの?」

「いや、連れに着せていこうと、ここで買い物をしたのだが。中で待つのも、つまらないのでね」

 ぼくらは、店を見直した。ものすごく高そうな服を着た、マネキンが並んでいる。

「素敵な服…。少し早い、クリスマスプレゼントかしら?」

 ローズが、女の子らしく尋ねる。

「高そうだよ?お金持ちなの?」

 ぼくは、単刀直入に聞いた。

「そういう訳でもないが…。もしも欲しがるのならこの世の全てでも、買ってやりたいと思っているよ」

 その口調は、とても優しかった。


 ドアが開いて、白いコートを着た女の人が出てくる。付き添ってきたお店の人が頭を下げて、ありがとうございましたと言っていた。高級な店なんだな、ぼくはぼけっと考えていたが、いつの間にか、横にいた男の人の姿がない。

 でも、どこへ行った訳でもなかった。ぼくらには声もかけずに、その女の人のそばにすっ飛んで行っただけ。お店の人からは大きな紙袋を受け取り、女の人の背中に手を当てて、何か話しかけてる。それから…。

「わあ」

 ローズが目を輝かせ、ぼくは何だか恥かしくなって俯いた。さっきの男の人が、女の人を抱き上げてたから。お店から舗道まで何段か階段になってたんだけど、雪が積もってて、きっと、危ないと思ったんだろうな。

「恥かしいわ、お兄ちゃん」

 女の人がそう言うので、ぼくらはちょっと、ガッカリした。何だあ、きょうだいだったんだ。

「足を滑らせたら、危ないじゃないか」

「大丈夫よ。お兄ちゃんが、見ててくれるから」

「それなら、抱いて運んでも構わないだろう」

「いじわる」

 女の人は少し頬を膨らませ、首を振る。男の人は笑って、もう相手にしていない。裾の長いコートに紛れて最初は気づかなかったけど、女の人は白い杖を持ってた。足が悪いのかもしれないな。それなら、お兄さんだっていう人が、大げさなくらいに気遣っても不思議じゃない。

「誰かとお話していたの?」

 女の人が首を傾げて、こっちを見る。男の人は少し戸惑ってから、頷いた。

「…、あ、ああ。通りがかりに…」

「こんばんは、お姉さん。あたしたち、クリスマスをお知らせして回ってたの」

 ローズが明るく話しかけ、女の人は微笑んで答えた。

「まあ、まだ子供なのね?おうちのお手伝いかしら、えらいわ。頭の固いお兄ちゃんが、子供は家に帰れとか、補導するぞとか言わなかった?」

「ううん。おじさ…、お兄さんは、おまわりさんなの?」

「おい、誰がおじさんだって?」

 男の人が怒ったが、妹だという女の人は、とっても楽しそうに笑った。ローズもにこにこしてたが、ぼくは、どうも腑に落ちない。この女の人は、ぼくらの存在を感じていて、話も出来る。だけど、見えてはいないのか?子供の姿なのは、会話を通じて推測したようだ。それでも気味悪がることもなく、普通に接してくれてる。

『ねえ、ローズ…?』

 ローズだって、変に力んで、明るく振舞ってる気がする。いったい、どうしたんだろう?こっそり話しかけたら、ぎゅっと手を握られた。黙った方がいいような気がして口をつぐみ、彼女の視線の先を見る。女の人の持っている杖は…、そうだ。森のお姉さんの杖と違って、身体を支えるようなしっかりしたものじゃない。白くて細い、道の障害物の有無を確かめるためのものだ。…見えてないんだ、何も。だから逆に、ぼくらの姿がなくても、怖くないんだろう。「女の子一人じゃないのよね?あたしたち、って言ってたし」

 女の人は、ぼくの方を向いて言った。目の悪い人は他の感覚が鋭いから、案外、存在を感じてるのかもしれない。ぼくは虚ろな目で、女の人を見あげた。瞳はこんなに綺麗に澄んでいるのに、何も見えてないなんて。

「ジャックは、恥かしがり屋さんなの」

「男の子なのね。あなたは?」

「あたしはローズ、クリスマスローズよ。ジャックは、ジャック・オー・ランターン」

「クリスマスなのに、ハロウィンなの?」

「うん。友達だから!」

「そうなんだ。いいなあ」

 そこに、男の人が割り込む。

「ルミには、俺がいるだろう」

「うん…。だけどお兄ちゃんは、お嫁さんを貰っちゃうかもしれない」

「それはない。俺は一生、ルミの側にいる」

 ローズが笑いを堪え、口元を手で隠す。ぼくも、噴き出しそうなのを我慢した。

「俺の責任だ」

 男の人の口調がとても苦くて、ぼくらの笑いは引っ込む。

「…。お兄ちゃんが変に気にして構うから、私が素敵な男性と知り合えないじゃない」

 女の人が無理に茶化したが、ぎこちない雰囲気は拭えない。ぼくらは少し後ずさり、顔を見合わせて、声を揃えた。

「それじゃ…、行くよ。またね」

「お手伝い、ご苦労さま。寒くないようにね?」

「うん、ありがとう!」

 二人は、雑踏の中へ消えていく。どこかお店にでも入ったのか、すぐに姿は見えなくなった。


「びっくりしたね」

「うん」

 目の不自由な女の人に、ぼくらが『見えて』いたこと。あの男の人は、どうしてあんなに妹さんに優しいんだろう。責任っていう言葉も、変だった。不思議に思うことはたくさんあるけど、詮索しても始まらない。言いたくなさそうだったし。だから、最初に感じたことだけ、口にした。

「仲良しだったね、恋人どうしかと思った」

「私たちみたい?」

「え?ぼくは…そんなに、図々しくないよ…」

「何が図々しいの?」

 真面目な顔で聞き返され、ぼくは言葉に詰まる。突っ立っていたら、ローズはどんどん先に行ってしまった。

「ジャック、早くう」

「待ってよ…、ぼくは頭が重いんだから…」

 笑顔で呼ぶローズを追って、ぼくも走り出す。今夜は、嬉しいことがいくつもあった。ううん、今夜だけじゃない。ローズがぼくを連れ出してくれるようになってから、色んなことが起きてる。もう、一人ぼっちじゃないんだ…。


(了)

ハロウィンからクリスマスまで、何となく時間が進んでいます。5年前に1と2のあらすじを書いて放置していたものですが、童話風に行こうと思いつつ、最後は現実的になってしまいました。

兄妹は他の話で使う予定のキャラで、妹の名前は「ハルミ」ですが、お兄ちゃんは「ルミ」と呼びます。どシスコンのようですが、それだけではなく、何か事情があるみたいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ