枝垂れ梅を見て、君を想う
それは2月も終わりになろうかと言う、雨上がりの朝のことだった。
「もう知らない!」
いつものことなのだ。昨日の夜もまた喧嘩していた。すごくどうでもいいことなのよ。どうでもいいことなんだけどね。
今日は久しぶりに休みだったのと、朝からいい天気だったから、ちょっと散歩がてら梅を見に行こうと思ったんだ。
あ、私はヒロコ。歳はごにょごにょ…まぁそんな感じ。訪問介護の仕事をしてるんだ。介護ってしんどい、汚い、給料安い、とかそういうイメージの人が多いのかもしれないけども…私はそうは思わないし、私は自分がしている仕事は、自分で言うのもなんだけど、とても立派な仕事だと思ってる。
訪問介護ってね、お年寄りの人でも施設に入りたくない人はやっぱ多い。不安もあるし、やっぱ自分の家で過ごしたいじゃない?ただ、家族の事情もあるし、家の事情もあるけども、生活のちょっとしたサポートが必要だったりする。
そのために訪問介護という仕事があるんだよ。介護って言っても、お風呂とかオムツとかを替えるとかだけが介護じゃなくて、ご飯を作ったり、デイサービスの送り迎えをしたり、なんていうか家政婦さんとはちょっと違うんだけども、そういうこともしたりする。
心無い人は、そういう仕事は何も生み出さない、生産的ではない、と言う人もいるよ。
でもね、私の考えはそうじゃない。今まで頑張って働いてきたり、みんなの生活を支えてきてくれた人達や、その人達を守ってきた人達、そういう人が歳を取って子供や孫がいても、みんな独り立ちしていったりで一緒に居ることができなかったり、元々ひとりの人もいるかもだけど、その人達が最後に命を終える場に私達は立ち会っている。
物理的なサポートだけじゃなくて、心のサポートをさせてもらってる。お年寄りの人みんなが淋しい命の終え方ではないのはわかるよ?でもね、結構最後は淋しい人が多いと思う。
そんな人たちが一人でも、あぁよかったな、って。楽しかったな、って思えるよう私は仕事をしている。
それなのに、それなのに、それなのに!
「あー、ムカつく〜!!」
あ、ごめんね。一人でイライラしてしまったわ。そうそう、聞いてよ〜。ムカついてるのは彼氏のショウタのことなんだけどね。うん、そうなの。一応こんな私にも彼氏がいるのだ。
3つ下なんだけどね。んとね、めちゃくちゃかわいいの!かわいいって男に言う褒め言葉じゃないって?うんうん、わかるよ。でもね、ひと言でいうとかわいいんだよ。
私がこんな性格だから、余計に思うのかもしれないけどね〜。なんていうか…優しいし、私がわかんないこととかでもすぐ教えてくれたり、頼りがいもあるんだ〜。なんかそういう時は、なんか男らしいっていうか〜。
あ、しまったしまった。違うんだよアイツにムカついてるんだよ!昨日の夜にね。あれ?なんで喧嘩したんだったっけ?
んーと、そうそう、私が仕事のことでね、利用者さんの愚痴を言ってるのに、ショウタったら全然聞いてくれないの!うん〜、うん〜、て生返事してさ〜。ちゃんと聞いてる??って聞いたら、え?何??…だって。もぉ〜、そりゃヒロちゃんもお怒りだよ!
あ、でもね…ショウタも仕事続いてて忙しかったのもあったと思うから、疲れてるのかな、って思ったりもして。
来週のね、ひな祭りの日にはデートするんだよ〜。なかなか、休みの都合が合わなかったりするから、月に1回も会えない時もあるんだけどね。でも、毎日ちゃんとメールも電話もしてくれるから、すごく安心させてくれる。
あぁ、愛されてるんだな、って思うんだ。それにね、私がたまーに、これ食べたいって思ってるんだよね〜、て言ったりするのをすごく覚えてくれてるの。でね、でね。デートの時とかにさりげなく、私が食べたいって言ってたお店に連れてってくれたりするんだ〜。もぉ好きっ!好き好きっ!
あ、しまった。ノロケたいんじゃないのよ。私は怒ってるんだよ。ぷんぷんなんだよ。
今朝もね、ちょっと怒ってはいたものの、ショウタが仕事に行く前に、少し淋しいかなと思って電話かけたのよ。ん?私が淋しいだけじゃないかって?違う違う!ショウタが淋しがってるからだよ!
んでね、昨日はちゃんと話聞けなくてごめんね、って言ってはくれたんだけどね。その後がダメなのよ〜、実はあの時さぁ、これがこうで、あれがああで、とか、言い訳ばっかりなのよ〜!!もう私言い訳されるの一番嫌いなの。
ん〜、そりゃまぁ…私もしないこともないんだけどね…だって、仕事が訪問介護だから、移動が多いし?メールくれてても返せないこともあるし?
あ、でも返せなくても怒るとかはないんだよ、むしろ急いで返さなくていいから、落ち着いた時に見て、ゆっくりできる時に返事してね、って。ちゃんと気遣ってくれてるかも…あれ、あれ、私なんで怒ってたんだっけ…?
まぁいいや、今日はね、近所にある神社にね、梅が咲いてるところがあるって言うから、そこに行くんだ。もちろん一人で行くんだよ。
ん…ほんとはね、ショウタと2人でもまた行きたいよ。あ、梅の写真送ってあげよ。綺麗に撮れるかな。ショウタ喜ぶかな。
写真送って…今朝はごめんね、って謝ろう。
だって、やっぱ大好きだし。来週会った時に、ぎゅって抱きしめてほしいし。
私ってなんでこう。いつも素直になれないのかな…ショウタが優しくしてくれるから、それに甘えてしまってるのかな。
私がしてる仕事を、とても立派だよ、って褒めてくれるショウタが大好きだ。
私がワガママばかりいって、食べ物の話ばかりしても、笑って答えてくれるショウタが大好きだ。
早く…あいたいな。




