94話 お届け! 爆発の雨
カケラとハウサは、木々の間を全力疾走で逃げている。
周囲では、爆発音が鳴り響いており、木片が飛んでくることもある。
何故、二人は、こんな状況になっているのか?
それは今から数十分前に遡る。
二人は、拠点を離れ、狩人たちから逃れるために移動している。
何故手っ取り早く狩人たちを叩かないのか?
それは、とある注意が原因である。
「はーい、獲物側のお二人。よーく、聞いてください」
キラボシが登場して、狩人の本拠地に攻め込もうとする二人を制止した。
「「何?」」
二人は、キラボシに問う。
「今より、獲物側は、逃亡メインで動いてもらいます」
突然ルールの変更を宣告された。
「「何故?」」
二人が理由を聞く。
「二人とも忘れていると思うけど、君たちは、獲物役なんだよ。侵略者とかではなく、え・も・の・が・わ! 獲物に攻め入られたら意味がないでしょ? というわけで今より獲物側は逃亡に必要な戦闘以外禁止です!」
そう言い渡されたためである。
確かにこの勝負の趣旨を考えれば納得の変更だ。
つまり獲物は逃げ続けるしかないのである。
逃げると言っても、隠れ続けることはできない。
相手には、ユニークスキル【捜索】を持つサーチェがいる。
使われれば阻止もできずに位置情報を知られる。
その対策として移動し続ける。
相手との位置関係は、カケラの『生命感知』と『生物記録』で常に把握できるので、不可能ではない。
と、言う風に案外簡単な遊びなのだ。
「暇だな」
ハウサがあまりの退屈に呟く。
カケラは同意する。
すでにこの鬼ごっこは、作業と化している。
相手は工夫を凝らしているようだが、それでもまだ簡単だ。
「はぁ~、暇だ。暇すぎて―――」
そこまで言った時だ。
その台詞の続きは、ある轟音によってかき消された。
二人が何ごとかと思い、音の方向を向く。
木がえぐられていた。
木片が散らばっている。
辛うじて支えていた半分の幹もその重量に耐えきれず、折れていく。
それを確認した直後、二度目の爆発音。
カケラとハウサは直感した。
自分たちは、今攻撃されているのでは?
二人は、正体不明の爆撃から全速力で逃げ始めた。
と言う経緯があり、現在も逃亡中である。
「なぁ! 本当に気配とか感じないのか?」
ハウサが質問する。
「全くない。相手は別で動いてる」
カケラは、スキルによる結果を伝える。
スキルによれば、相手の動きは変わっていない。
大きく二つに分かれていて、一つは動かず、二つ目はカケラたちを追っている。
どちらも距離は、ある程度離れている。
ソクラテスにも探らせているが、究明中だ。
その間、カケラとハウサは観察する。
だが、現在は原因不明。不可視の爆撃である。
「ハウサは何か心当たりはないの?」
カケラは聞く。
「………………一人なら、それらしいスキルの奴がいる」
ハウサの心当たりのある人物の名をユニオ ウォー。
ユニークスキル【戦軍】。
玩具程度の大きさの戦車や軍用機などの小隊を召喚し、操ることのできるというスキルだ。
小型小隊の軍用機から爆撃も可能だそうだ。
「でも明らかに威力が違う。ここまでの破壊能力は無かったはずだ」
説明が終わった頃、ソクラテスの調査が終了した。
爆発の原因は、魔剣だそうだ。
爆発する魔剣を『郵送』で送っているというのが爆発の正体だそうだ。
ハウサに伝える。
「じゃあ、止めることはできないか………………」
ハウさの言う通り、止める手段は現状無い。
スキルの持ち主を戦闘不能にすれば解決だが、それはルール違反になってしまう。
「じゃあ、一時的に爆発から逃れよう」
カケラはそう言って、魔剣「カオス」を手にとり、『影牢』を発動させる。
黒い空間をつくり出し、一時的に避難した。
ここには、爆発が届かない。
外から轟音が聞こえ、振動が伝わるが、おそらく問題はないというのが、ソクラテスの分析だ。
「さて、これからどうやって逃げる?」
ハウサがカケラへ問う。
この現状『影牢』は動かすことができないため、追ってくる者たちに追いつかれる。
だが、二人にとっては、そっちの方が簡単だ。
戦闘の大義名分を得られるから、追手に関しては全く――――少しは心配しているのでここでは、あえて少し心配しているとしよう。
問題は、やはり爆撃だ。
魔剣が降ってきて、爆発しているこの攻撃への対処法は限られている。
今の状況もその一つだ。
そしてこの魔剣の雨だが、尽きる様子がない。
大盤振る舞いである。
「俺のスキルも爆発じゃ、意味ない」
ハウサが言う。
魔剣をハウサに集めたとしても、魔剣の雨は止まない。
避けるにしても爆発に巻き込まれる。
『ソクラテス、この状況に丁度いいスキルか権能か魔剣はないの?』
『剣技・・・意味なし。スキル、権能・・・制限下では共に該当なし。魔剣・・・反魔、転魔など該当あり。魔法・・・影魔法が該当。神聖魔法も効果が見込まれますが、現状使用不可です』
その結果を聞き、カケラはハウサにその結果を推測として伝える。
「それで、あの便利なスキルでの再現はできてるの?」
ハウサが質問する。
カケラの転生特典のユニークスキルだと考えているのだろう。
その問にカケラは頷く。
カオスでの再現、剣墓標の影竜でも使用可能だ。
もちろん全てソクラテスの仕事で、カケラ自身は何もやっていない。
「よし、それじゃあ、転魔を出してくれ。もしもの時は少しだけ奥の手も使えるし」
「解った」
カケラは、シェードドラゴンを召喚する。
そして剣墓標に変更する。
背に生えた魔剣の中から魔剣を手に取る。
「あっ、これ違う魔剣だ」
『転魔は、その魔剣から右に二本の剣です』
ソクラテスから指摘され、その魔剣を抜き、ハウサへ手渡す。
間違えた剣は捨てる。
魔剣は影となって消えた。
「それじゃ、解除するよ」
カケラは、『影牢』を解除する。
解除直後、ハウサは『注目!』を発動させる。
集まった魔剣を転魔で反転させる。
爆発が反転される。
魔剣は縮むように消えた。
「よし! このまま逃げ切るぞ!」
そう言って走り出そうする。
「いや、その前にあれをどうにかしないと」
カケラは、ハウサを止める。
その時、ハウサへ向かって砲弾が飛んでくる。
砲弾と言っても大きさは、BB弾程度だ。
ハウサは魔剣でそれを防ぐ。
もしも防がなければ、大怪我をしていただろう。
発射された場所には、玩具程度の小型戦車が砲身を向けている。
例の小型小隊だ。
上空を見れば、軍用機が飛んでいる。
カケラは、シェードドラゴンを向かわせる。
だが、次の瞬間には、戦車に穴だらけにする。
その間に二人は逃亡を試みる。
だが、それは叶わない。
次の瞬間には、動きが一時的に停止した。
【撮影】だ。
そして弦を弾く音も聞こえてくる。
二人の動きが封じられた。
次に風魔法が飛んでくる。
カケラは、『風向操作』で、それを無効化する。
「ハハ、まるでゲームの負けイベントみたいな状況だな」
ハウサは苦笑いをする。
宙へ転魔を振っているが、呪いには効果がない。
『解呪します』
ソクラテスが呪いを解除する。
体が軽くなった。
カケラがハウサの解呪へ向かおうとするが、すぐに呪いをかけ直される。
『影の手』
カケラは影の手を伸ばす。
向かうは、ポーレン。
「え!? いや、待ってくれ。何でこっちなんだ! こっち来るな!」
ポーレンが逃げながら『嚔』を使う。
だが、それでは影の手を止めることはできない。
ポーレンは影の手に握られる。
カケラは、一人を無効化したと考えたが、すぐに崩れる。
魔剣の雨により、影の手が爆破される。
もちろん、カケラは何もせずに爆破を受けたわけではない。
『影潜り』で魔剣を影の中に入れようとしたのだ。
だが、内部で爆発し、そのまま影の手も破壊された。
「た、助かった~」
ポーレンは、安堵する。
影の手でガーブがボコボコにされた所を見ているので、かなりの恐怖だっただろう。
「ヒヤヒヤした~。待機組に感謝!」
メラもカメラを構えながら言った。
「それは後です。今は、彼らに勝利することに集中してください」
ウォーが全体へ号令のように言う。
そして叫ぶ。
「撃てぇぇ!」
その瞬間、周囲の戦車や軍用機などが一斉に攻撃を始める。
指示の条件に宣言はないが、それはウォーの趣味だ。
銃弾、砲弾がカケラたちを襲う。
「使わないとダメか~」
ハウサは、自信の手に転魔を刺し、攻撃を全て逸らす。
幸いなことにカケラも範囲内に入っていたため、攻撃を逃れた。
だが、攻撃は止まない。
二人は、またもやピンチに、はめられたのだ。




