93話 適材適所
ハウサは、自陣営へ戻る。
そこには、シリスとカケラが待っていた。
「ただいま」
ハウサが気の抜けた声で言う。
「おかえりなさい。勝敗はどうなりました?」
シリスが聞く。
「いやー、思いの他あいつ怒っててヤバかったよ。一応、勝ったけどクタクタだよ」
その返事を聞いて、シリスはため息を吐く。
「じゃあ、本当に私だけなんですね。負けたのは………………」
「シリス、ドンマイ」
カケラがシリスを励ます。
「と言うか、カケラは、見てただろ! 加勢もせず呑気に観戦してただろ!」
ハウサが問い詰める。
「いやー。まさかそんなわけないじゃないかー」
カケラが棒読みで答える。
事実としてカケラは、ハウサとメディカの戦いを影から観察していた。
怒られて当然なのだ。
「そんなことより、もう暗くなってきました。夕食の準備でもしましょう」
シリスが話を変えるために提案する。
「そうだな」
「食べよう」
二人は、同意し、早速三人で夕食の準備を始める。
調理は、主にハウサが担当し、残りは、サポートとして皿を運んだりする。
事は、順調に進み、見事な料理が机に並べられる。
三人は、椅子へ座り、夕食を始める。
「相手は、残り10人。対してこちらは、2人………………厳しいな」
「でも、目立つ攻撃向きのスキルを持ってる人は、大方リタイアになったのでしょう?」
夕食を取りながら作戦会議を平行する。
その時、ふとカケラが呟く。
「そう言えば、人数が足りない気がする………………」
その言葉にシリスは、答える。
「それは、ガーブ君がいないからでしょう。彼は、いつもサボっていますから。それに勇者様も参戦していませんし」
「だから全員合わせて20人――――――? いや、一人足りないぞ? 勇者様は、転生者じゃないから転生してきたのは、19人。一人足りない?」
前世でのクラスメイトは、20人。
彼らの気付いたように一人足りない。
「誰だ?」
「解った。確か永目 愛さんだ」
ハウサが消去法から人物を特定する。
「まぁ、この世界だったら生まれによっては、死亡する可能性も………………」
「解ったところでですね」
「せめて何処かで生きてることを願っとこう」
そう結論を出し、三人は、話しを戻した。
そして様々な作戦を議論していると、ハウサが唐突に呟く。
「………………何処かで凄い面白そうなことが起きている気がする」
「何です? 急に?」
その感は、見事に当たっていたのだが、彼らはその詳細を知ることはないだろう。
メディカは、エイダと共に陣営へ帰る。
敗北のため肩を落としている。
陣営へ帰り着くと全員がその様子から敗北を察する。
「皆、夕食を準備しましょう………………」
暗い声でメディカが言う。
皆は、準備を始める。
が、その時から地獄が始まった。
ある一人の者がメディカに近づき、報告する。
「メディカさん、気持ちが下がっているところ申し訳ないのですが………………」
「何?」
メディカが問うとその者は言う。
「あちらを見てください」
メディカは、その者が指差す方向を見る。
そこでは、ある者が火柱をつくり上げ、ある者が鉄の塊を出現させ、ある者は奇妙な踊りを踊り、ある者は絵を描いている。
「あれは………………何をやっているの?」
「料理です」
「………………料理っていうのは、食べ物を切ったり火を通したりする方の料理?」
メディカは、信じたくないあまり、問いただす。
「その料理です」
メディカは、頭を抱える。
流石にこうなるとは、思っていなかった。
仮に彼女が意気消沈していなくとも同じ指示を出していただろう。
「もう私とエイダが………………」
そう言いかけた時、作業? をしていた者たちが待ったをかける。
「「「一生懸命作ったので、せめて食べてください!」」」
メディカは、彼らを少し不憫に思い、了承する。
「解った、食べるわ。でも、普通に辛口のコメントをするかもしれないから覚悟だけしておいてね」
そう言い、全員に釘を刺す。
それから爆発やらありながら、全員がつくり終わる。
「それでは、まず私のものからどうぞ」
一番目は、ブルーシュだ。
そして彼女の料理は、美味しそうな厚みのあるステーキ――――の絵だ。
「ブルーシュさん、私の目がまともならこれは、絵だと思うのだけど?」
「はい、絵です」
ブルーシュは、当然のように反応する。
メディカが次へ行こうかと考えた時、エイダが耳元で言う。
「メディカ様、ブルーシュ様のスキルは、絵の具現化です。なので或いは………………」
その言葉にメディカは、納得し、絵を食べる。
そしてすぐに吐き出す。
噛んだ瞬間、確かに肉を触感がしたが、舌に触れた瞬間、油っぽく明らかに食べ物ではない味が広がった。
「え? メディカさん、何で絵を食べたんです? 絵が食べられるわけないでしょ」
「じゃあ、何でこの場で出すの!」
メディカは、流石にブルーシュを叱る。
そして口をゆすぎ、次の料理へ移る。
「どうぞ」
次に出されたのは、黒い何か。
全面がブラックホール並みの黒色の物体だ。
メディカの頭の中にこれが食べ物であるという発想が出てくるが、メディカは、信じたくない。
状況的にその可能性しかないのだが、メディカは念のために問う。
「この黒い物は、何?」
調理をした者――――マグは、答える。
「黒い部分は、全て焦げです」
その答えにメディカは、肩を落とす。
ワンチャンもない絶望。
「ですが、安心してください。きっと焦げているのは、表面だけで中身は、丁度よくなっているはずなので」
マグは、自信に満ちた補足をする。
メディカは、確かにと納得し、ナイフを入れ、断面を開く。
「………………黒焦げね」
「………………黒焦げですね」
断面は、外側と同じく炭化していた。
「魔剣を打つ要領で熱したんですけど、強火だったみたいです」
メディカは、次の料理に移る。
次に出された料理だが、見た目は、普通だ。
見た目は。
メディカは、警戒心を強めでチェックする。
匂いは、見た目通り。
ナイフで切って断面を見るが、丁度いい火加減だということが解る。
メディカは、安心して口に運ぼうとする。
が、嫌な予感がしたので手を止め、調理したイロハとメラに質問する。
「これは、大丈夫よね?」
「はい、大丈夫です!」
メラが先に答える。
その言葉にメディカが一瞬胸をなでおろす。
だが、それは一瞬の安心だった。
後に続いてイロハが小さい声で付け加える。
「少しだけ妖怪が憑いてます………………」
「呪物じゃない!」
「それでは、こちらが夕食です」
エイダが調理した料理を運ぶ。
あの後、エイダが全員分を作り直したのだ。
そしてこのことでメディカにある考えが、根付くことになる。
『適材適所って大事ね………………』
料理の腕
ダクト→普通。
サーチェ→普通。
ポーレン→やや苦手。
ブラード→普通。
マグ→壊滅的な火加減。
エイダ→完璧。
ウォー→やや苦手。
イロハ→苦手。
ラピス→やや苦手。
メラ→苦手(見た目は完璧)。
メディカ→得意。
シナル→普通。
サーカ→やや得意。
トレイ→やや得意。
ブルーシュ→普通。
カケラ→苦手から普通に上達。
シリス→やや得意。
ハウサ→完璧に近い。
キラボシ→得意(特に野営)。




