92話 決着の一手
シリスのユニークスキル【板書】の機能は、ただ一つ。
『ノート』にて能力物体の「ノート」を出現させるという機能だ。
そしてその「ノート」には、特殊な能力が備わっている。
それは、書いた内容が共有されること、そしてメインの能力として手に持っている間そのノートに書かれた技術を誰でも使用できるというものだ。
手に持つことさえできれば一般人でも魔物でも剣術や魔法が使用できる。
もしも軍隊のような集団に使用すれば兵の練度が格段に上がることだろう。
つまり誰でも使える。
シリスは、保険としてハウサに「ノート」を一冊渡していた。
絶対に役立つはずだからと。
そしてその感から来た予想は、現実のものになろうとしている。
ハウサが「ノート」を経由して防御魔法を発動させる。
シリスの防御結界が魔剣の斬撃を防いだように見えた。
だが、その魔剣の効果は、反転である。
脆弱は、強固に強固は、脆弱に変わるのだ。
防御魔法は、古びたプラスチックのように突破された。
ハウサは、避ける。
これも想定済みなのだ。
ハウサは、その魔剣の効果について気が付き始めている。
『再生が自壊になって、防御魔法がすぐに崩れたってことは、守りが反転したわけじゃないよな』
ハウサが結果を元に考察する。
『簡単に壊れたから、堅いとかが反転して脆くなったってことか………………』
ハウサは、その仮説を確かめるべく、ノートのページをめくる。
『防御魔法は………………このページか?』
ハウサは、目的のページを開く。
そのページには、防御魔法の術式が描かれている。
ハウサは、その術式を見様見真似で再現する。
もちろん簡単に再現できるようなものでは、なく、シリスのものに劣る。
例えばそう、強度などである。
「なっ!?」
メディカの魔剣が防御魔法の前に止まる。
ハウサが内心ガッツポーズをとると、メディカが手を振り上げる。
そのままメディカは、拳を振り下ろして防御魔法を砕いた。
これには、ハウサも目を丸くする。
だが、ハウサに驚く暇などない。
メディカは、魔剣を振り下ろし、ハウサは、その斬撃を避ける。
防御魔法を突破されたものの、本来の目的は、達成できた。
『あの魔剣は、予想通り、反転させる魔剣だ』
その結論は、ハウサの勝ち目に繋がるのだ。
メディカは、兎に角ハウサに攻めている。
それは、怒りのままの行動であり、八つ当たりである。
だが、一部冷静さを取り戻している。
だからこそ現在、優勢でいられるのだ。
そんなメディカだが、不可解なことがある。
『何故、何もしないの?』
ハウサは、防御魔法を最後に回避ばかりしている。
勝ち筋がなければ諦めるはずなのに。
『どうして?』
メディカは、考えても答えを出すことができない。
そんな時、ハウサが行動を起こす。
ハウサは、幾つもの魔法を辺り一面に放つ。
火や水や土などの魔法が辺りに飛んで行く。
『どうしてそんな狙いも定めずに………………』
メディカが不思議に思ったのもつかの間、ハウサを中心として放たれた魔法は、次のハウサの一言で180度向きを変えることになる。
「注目!」
魔法は、向きを変えハウサに向かって飛んで行く。
そしてそれらは、次に一点を目指すようになる。
ハウサへと飛んで行った魔法群は、方向を変えメディカへと牙を剥く。
メディカは、魔剣で魔法を防ぎ、その魔法の集中攻撃をしのぐ。
魔剣「反魔」と違い、「転魔」には、魔法への特効などは、ない。
魔法を反転させることも、属性を反転させることも、ほぼできないからである。
火や水などの反対がないからだ。
もしかしたら何処かしらの世界に存在するかもしれないが、少なくとも転魔の反転の世界には、それが存在しないのだ。
それでも魔剣は、魔剣。
ある程度の強度は、兼ね備えてあるので全てとは、言えないが、防げなくもない。
それに多少当たった所で瞬時に『治癒』させればいいだけなのだ。
そう高を括っていた次のハウサの行動で逆転される。
ハウサは、魔法に紛れてメディカに近づき、その防御に使われている転魔を自身に刺したのだ。
そしてそのままメディカから離れて行く。
ハウサは、何を反転させたのか?
そんな疑問がすぐにメディカの頭の中で生まれたが、すでに遅い。
ハウサは、腕に転魔を刺したまま抜こうとしない。
メディカは、ハウサが魔法に紛れる際の損傷が治っていることから怪我を反転させたのだと考えた。
メディカは、腰から魔剣などでは、ない、ごく普通の剣を抜く。
そしてハウサへ斬りかかる。
間合いに入った所で剣を振り下ろす。
だが、剣は、ハウサに当たらなかった。
それどころか全く別の場所へ剣を振り下ろしていた。
再度、メディカは、試すが、結果は、変わらない。
「さっきから何故当たらないの?」
メディカが解らずにいると察したのか、ハウサが言う。
「メディカ、何で俺に剣が当たらないのか不思議だろ?」
「えぇ、それは、もう本当に不思議よ」
「理由知りたい? 自分で気が付かなくていい?」
「いいから教えて」
ハウサは、説明を始める。
「まず僕のユニークスキルは、覚えてる?」
そう問うとメディカは、すぐさま答える。
「自分に攻撃なんかを注目させる人間避雷針だったはずよ」
「そう! それが正解。でさ、この今刺してる魔剣の効果は、何だった?」
メディカは、少し考えてから答える。
「反転させる効果。再生を自壊に、強固を脆弱に、それぞれ変えることができる」
メディカは、それがどうかした? とでも言わんばかりの顔である。
ハウサは、説明を続ける。
「この魔剣が刺さってると俺のユニークスキルが反転する。つまり………………」
メディカは、そこまで聞いてようやく気が付く。
そして悔しがる。
「自分から攻撃を遠ざける効果に反転されるってこと」
メディカは、悔しがりながら心の中で思う。
『それは、チートだろう』
攻撃が当たらないということは、絶対的な防御に等しい。
ズルいに決まっている。
「でも、デメリットに今気が付いたんだけど、魔剣とユニークスキルの二つを同時に使うから、かなり魔力消費が大きい」
その弱点を聞いてもメディカの考えは、変わらない。
「………………敗北を認めます」
メディカは、その宣言を喉から絞り出した。
ハウサは、気を緩める。
もしここでメディカが引き下がらなかったら、それなりにピンチになるからだ。
メディカに言ったようにこの技は、魔力消費量が激しい。
すぐに魔力切れになって詰んでいただろう。
これもメディカの頭が冷えていたおかげである。
『もし、メディカが怒ったままだったらヤバかったな』
ハウサは、その世界線を想像して身の毛がよだつ。
『それじゃあ、帰るか………………』
ハウサは、自分たちの拠点に引き返していった。




