86話 作戦
三人は拠点を離れ、森でそれぞれに分かれる。
理由は、カケラが感知した気配が三つに分かれたので、同じく分担しようとハウサが選択したためである。
三人は着実に足を踏み込んでくる。
狩人たちの罠に。
ハウサが森の中を走る。
いつ狩人側に奇襲を受けても対応できるように【思考加速】を発動させて、気を張っている。
ハウサは、奇襲や攻撃を回避することに長けている。
そんな自信をもっていると早速奇襲? を受ける。
ハウサは、その攻撃を回避する。
回避した後、体勢を整え、脊髄反射のように避けたその攻撃を認識する。
その攻撃は、魔物によるものだった。
鋭い爪を持った牙狼だ。
『狩人側の誰かだと思ったけど、野生の魔物だったか?』
ハウサはそう考えるが、一つの疑問点が生まれる。
何故、この魔物はカケラのスキルに引っかからなかった?
この魔物の隠密性能が異様に高いのか、それとも………………
ハウサがそこまで考えた時、気が付く。
魔物に囲まれている。
それも数十匹ほどの種族も別の魔物たちすら混ざっている。
それらが統率をとり、跳びかかってくる。
ハウサは意識を集中させ、その猛攻を回避する。
だが、数も数。全て避け切ることは出来ず、鋭い角や爪が数か所に傷を付ける。
『一体、何が起こってる?』
ハウサがそう考えた時、声が聞こえる。
「ハウサ、避け切れてないですね」
「どうやら、メディカさんの作戦は、有効みたいだね」
二名の声、同級生であり、転生者である「トレイ」と「ドロー ブルーシュ」だ。
「お前たちかよ。作戦って?」
ハウサが尋ねる。
「メディカさんが考えた、この授業で勝利するための作戦ですよ」
「その内、ハウサを戦闘不能にするための実に単純な作戦」
ハウサはその言葉で思い出す。以前、二人にもユニークスキルについて聞いていたことを。
そして思い至る。その自分を倒す作戦を。
二人はハウサの付けた見当と同じ答えを言う。
「「物量で押し切る作戦」」
ハウサは――――――否、獲物側の三人は見事に罠に当たったのだ。
「ハッ!」
シリスはその蹴りを剣で受け止める。
シリスもハウサと同様に狩人側と遭遇していた。
その二人の名は、「マヌーサ サーカ」と「シバリ― シナル」。
ユニークスキルはそれぞれ、【曲芸師】と【剣道】、どちらも物理特化の武術系スキルだ。
シリスは距離をとり、火球を三発飛ばす。
だが、容易に回避され、またもや接近される。
「委員長、ごめんなさい! これも勝つためなので」
「悪く思わないで頂きたい」
二人はそう言って、攻撃を再開する。
シリスは、【思考加速】で守りの体勢に入る。
『これは………………不味いかもしれない』
カケラは狩人たちへ接近する。
『二人は、もう遭遇したのか』
カケラは自身のスキルで反応を把握する。
『でも、ハウサの方は何だ。この反応の数?』
魔物か? と不思議がる。
ハウサが狩人側に近づいた途端に出現した複数の魔物の気配。
違和感を持ちながらカケラは自分の役割をこなそうとする。
さっさと戦意を失わせて、援護に向かわなければならない。
そう考えていると突如、聞きなれない音が耳に入る。
その音は和楽器の弦を弾いたような音だ。
その音を聴いた直後、体に重りを付けたように重くなる。
『奇襲です。解析を開始します』
ソクラテスがそう告げる。
『これは………………攻撃?』
カケラが考える。
『解析が終了。この攻撃は、呪術の一種です。クラスメイトにこの攻撃が可能な者は該当者一名です』
カケラは何が何だか未だに追いつけていない。
「作戦は順調?」
「ハッ、初手は問題がないようです」
メディカの疑問にユニークスキルで戦場を確認している者が答える。
ここは、狩人側の本拠地。
そこには、ほとんどのクラスメイトが常駐して作戦に必要な作業を行っている。
「このまま作戦通りに行けば、私たちの勝利でしょう。それにもしもの場合も考えていますし」
メディカは気分がよさそうに言う。
「流石です。メディカ様」
近くに控えているエイダは、そんなメディカを持ち上げる。
本拠地も快適なほどに環境を整え、全てがメディカの計画通りに進んでいる。
メディカが考えた作戦は、厄介な三人に勝利する方法。
ハウサには物量で十八番の回避を押し切り、シリスには純粋な物理特化の二人を向かわせ、カケラは他二名の勝負が決するまでに時間稼ぎができる三名を向かわせた。
三組に分かれれば、ハウサが分担を提案することも読み通りで、それぞれがどこへ向かうのかも大当たり。
誰もが彼女の脅威は、王族であることや耐久性の高いユニークスキルだと考える。
だが、それら以上の脅威がある。
その脅威は、メディカに精神負荷――――――要はストレスがかかることで発現する。
慈悲などない厳しめの作戦実行――――――ハウサ曰く「ストレス発散モード」。
彼女の知恵が三名を苦しめる。




