84話 張り合い
「それでは、ここにウィステリ シリスの栄光を称えよう」
そう言うと、王様は優勝者へ送るトロフィーを掲げシリスに手渡す。
「ハッ、光栄です」
シリスは格式ばった口調で言う。
会場全体が拍手し、シリスを称える。
「其方に龍神のご加護があらんことを」
そう言って、優勝者へのトロフィー授与は終了した。
「はぁ~」
カケラは、ため息を吐く。
理由は、王様が言った一言だ。
―――其方に龍神のご加護があらんことを
カケラは思い出すが、それだけで肩が重くなる。
何と言ったって、何度言ったって、その龍神の今代は、カケラ自身なのだ。
本人は、龍神になってやったそれらしいことなどほとんどないと考えている。
挙げてみれば、勇者であるキラボシを救ったことは、歴史的にも大事なのだが、本人は勇者を助けたという自覚がなく、可哀そうな子供を救ったという善行だとしか認識していないため、自信を無くしている。
「どうしたんですか、ため息なんて吐いて? そんなに負けたのが、悔しいんですか?」
ダクトが見かねて励まそうとする。
「いや、確かにそれも悔しいは悔しいけど今は違うんだよ」
カケラはダクトにそう言う。
カケラとしては、敗北を認めているので、悔しくはあるが、納得はしているのだ。
そんな時にカケラをからかうように突く者がいる。
これに関しては、カケラは少し苛立ちを感じている。
その突く者とは、毎度お馴染みのキラボシである。
キラボシは、からかうようにニヤニヤしながらカケラの脇腹辺りを人差し指で突いている。
カケラは、何とかこの地獄に耐えて、閉会式も乗り切った。
「それじゃあ、お祭りを周りましょう!」
ダクトが握った拳を突き上げていう。
その場で同調する者はキラボシだけだ。
カケラは今更ながらキラボシが付いて来ていることに多少の違和感を持った。
「まずは、シリスさんを捜して、一緒に周りましょう」
そう言ってダクトはシリスを捜すべく、歩き出す。
それに続いてキラボシも歩きだす。
しかたがないのでカケラも歩きだした。
「シリスさん~、何処ですか?」
ダクトが迷子を捜すように名前を呼ぶ。
ただカケラは、もう既にシリスの居場所を把握している。
『ソクラテス』の機能『生物記録』により、一度遭遇した生き物であれば位置情報が把握可能なのだ。
そしてその反応が示す場所は、ここからそう遠くない。
だが、ダクトがいくら呼んでも、シリスは一向にでてこない。
だからカケラは、不思議に思っているのだ。
そんなことをカケラが考えていると、ダクトが声を上げる。
「あっ、居ました!」
カケラはダクトの指し示す方向を見ると、確かにシリスがいた。
数十名ほどの多種多様な人々に囲まれたシリスだ。
考えてみれば、大会の優勝者なのだから人気者になるのは必然だろう。
カケラたちは人だかりに近づく。
そしてその中からシリスを引っ張り出す。
「シリス、お祭り周りに行くぞ~」
カケラはそう言って、シリスを連れてその場を去る。
実は、二位の自分に何もないのに、シリスには人が寄ってきていることが妬ましかったのはここだけの秘密だ。
四人はあまり人の居ない場所まで走ると、シリスを掴んでいた手を放す。
「何でいきなり誘拐じみたことをしたんですか?」
シリスが不服そうに問う。
「それは羨まし………………一緒にお祭りの屋台を周ろうと思って」
「今一瞬、何か言いかけていませんでしたか?」
「聞き間違いじゃないか?」
カケラは鋭い指摘を誤魔化す。
「早速屋台を周ろう!」
キラボシが待ちきれないように主張する。
「はぁ~、勇者様もこれでは断れませんね」
シリスは諦めたように誘いに乗ることを表明する。
「それじゃあ、早速あの串焼きやで二本くらい買おう!」
三人はその提案に乗り、一人二本―――計八本の焼き串を購入した。
その後も様々な屋台を周った。
飴を綺麗に整形した見て楽しめる飴細工やクリームを使用した菓子のようなパン、さらには海産物を焼いた串などなど、ほぼ食べ物の屋台ばかりを訪れた。
そんな風にお祭りを楽しんでいる四人の脳内はこんな感じだ。
まず最初にシリス。
『さっきから食べてばかりだな?』
次にカケラ。
『美味しいけど…………さっきから食べてばかりだ』
次にダクト。
『こういう食べ物の屋台がお祭りでは人気なのか、覚えておかないと』
最後にキラボシ。
『美味しい~。最高!!』
――――と言う感じで半分が食べてしかいないことを気にしている。
しかも純粋に楽しんでいるのは、キラボシ一人だけだ。
カケラは兎も角、シリスはそろそろ胃袋が限界を迎えそうなのでこれ以上食べ歩くことはできない。
シリスは、暇を潰すためにカケラに前々から思っていた疑問をぶつけることにした。
「カケラ君、前々から気になっていたのですが、勇者様とはどういったご関係で?」
カケラはその質問に答えようとするが、『思考加速』を発動させよく考える。
ここで妹だと答えようものならば、詳しい事情を聞かれるにちがいない。
だが、ここで意気投合したと言っても普段シリスやダクトと一緒にいたのでそんな時間は無かったと疑いの目をかけられる。
結論、学園の入学前からの友人と言う。
「学園に入学する前からの友達だよ………………」
カケラは目を逸らしながら答える。
「そうなんですか、君は運がいいんですね。転生して勇者と友人になるなんて」
シリスはそこまで言うとそれ以上何も追及しなかった。
今は絶賛、次の話題探しに集中している。
シリスがふと目をやるとそこにあった屋台は、前世の日本でもあった射的のような屋台だ。
射的と言っても銃ではなく、弓矢で的を射抜くタイプのものだ。
「カケラ君、あれで一つ勝負でもしませんか?」
シリスはカケラを誘う。
カケラは即答する。
「やろう。決勝戦のリベンジだ」
二人は早速、屋台に移動する。
ルールは簡単、一番高得点――――――つまりは最も中心に近い部分に矢が刺されば勝ちというシンプルなものだ。
最初に挑戦するのは、シリスだ。
シリスは、手に『ノート』を出現させ、弓を構える。
そして手を放すと中心から僅かにずれた場所に矢が刺さった。
「ズルくない?」
カケラが抗議する。
「スキルも自分の力です」
そう言って、勝ち誇っている。
「次は君の番ですよ」
シリスが弓と矢を手渡す。
カケラは弓を構える。
シリスに一泡吹かせたいので心の中で命じる。
『ソクラテス、中心を射抜けるように調整してくれ』
ソクラテスは、『思考加速』、『意識誘導』、【斥力】を使用し、狙いを定める。
そしてカケラは、矢を放つ。
矢は一直線に的の中心に向かい、そのまま吸い込まれるようにして的の中心に刺さった。
シリスは言葉を失う。
「ズルくないですか?」
シリスが抗議する。
「確か………………スキルも自分の力じゃなかったっけ?」
カケラは先ほど言われた言葉をそっくりそのまま返す。
それからは、お互い手加減なしの射的対決であり、矢が矢に刺さったり、的を貫通したりなど多くのアクシデントが発生した。
いつしか食べ物屋台を巡っていたダクトとキラボシも見物に来ていて、決勝戦より楽しそうに観戦をしていた。
「あの、すみません。そろそろ矢が無くなるんで止めていただけると………………」
店員のその言葉により、二人の勝負は終了した。
勝敗は引き分けである。
「シリス、次は勝つからな」
「いいえ、次勝つのは私です」
そうやって張り合って、このお祭りを二人は終えた。




