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転生したらドラゴン!  作者: カム十
学生期
87/99

83話 決勝戦

「それでは、決勝戦、開始(スタート)!!」


 モルベイの宣言が観客たちに届く。

 それとほぼ同時にシリスが動く。

 カケラは、風魔法『ウィンドカッター』を使おうと手を向ける。

 弱体化の影響にて威力や発動時間が大幅に低下した『ウィンドカッター』だ。

 魔法は少し時間がかかったが、発動する。

 普段、発動する『ウィンドカッター』より遅い。

 シリスは、それを簡単に避ける。

 シリスは避けた後で火球を放つ。

 カケラはそれを竜剣(ドラゴンソード)で払いのける。

 そしてカケラは『影の手』を出す。

 こちらも弱体化されているため、手は一本のみだ。

 一本の『影の手』がシリスに迫る。

 シリスは『影の手』を回避する。

 『影の手』を避けた直後、シリスは足を止める。

 そして、その場で祈るように両手を握る。


『報告します。神聖魔法『聖結界』です』


 カケラの脳内でソクラテスが報告する。

 それとほぼ同時にそれが展開される。

 薄く神秘的な結界がステージ全体に広がる。

 追撃しようとしていた『影の手』はその結界に包まれると、何も無かったかのように消え去る。

 その結界がカケラを包むと、全身に重りを付けられたような感覚に襲われる。


『追加で報告します。『聖結界』の影響により魔法、ユニークスキル【斥力】、【隠密】、【風の者】が使用不可、もしくは大幅の効果の低下がかかりました。さらに肉体への弱体化がかかりました』


 カケラは報告を聞いてすぐに考える。

 シリスは本気できていると。

 カケラは試しに魔法を発動しようとするが、発動する気配はない。

 スキルも同様で弱まっているか、全く使えないかだ。

 カケラは少し焦った。


『ソクラテス、これって結構不味い?』


『かなり不味いと思います』


 カケラは頭の中でソクラテスとそんなやり取りをする。


『ですが、『聖結界』の内部にいるかぎり魔法などは使えなくなります。それは発動者も例外ではありまん。よって近接戦に持ち込むことをお勧めします』


 カケラはその提案を聞き、剣を両手で握る。

 それと同時にシリスも剣を構える。

 次の瞬間には、両者の剣が衝突して火花が散っていた。

 両者は剣を振るう、だが相手に刃は届かない。


『ソクラテス、奥義って今使える?』


 カケラは剣を振るいながら質問する。


『使用自体は可能ですが、威力、速度は低下します』


 ソクラテスは答える。

 その答えは、カケラにとって少し残念な答えだった。


『でも、しかたがない。ソクラテス、補助してくれ』


 ソクラテスは弱体化を割り切ってソクラテスに命じる。


「龍王流―――奥義『八頭斬下・地跳ね』」


 カケラは、そう呟いて剣技を繰り出す。

 速さは、かなり遅い。

 『思考加速』を使うと全く動いていないように見える。

 シリスにその刃が届こうとした瞬間、シリスは剣を使い八回の斬撃の内、五回を防いだ。

 シリスに三つの切り傷が付く。

 だが、大したダメージにはなっていない。

 【斥力】が使えない為の威力の低下は相当なもののようだ。


「やはり、カケラ君の技は凄いですね。五回しか防げませんでした」


 カケラは、心の中でこいつは何を言ってるんだ? 五回も防いだろ、と文句を言う。


「シリスも凄いよ」


 カケラは本音でそう言う。


「ですが、速さも切れ味も準決勝より落ちていますよ? 『聖結界』の効果ですか? それとも別に理由があるのですか?」


 シリスが痛い所を突いてくる。

 シリスは感が鋭い。


『ソクラテス、打開策はある?』


『考えますから、回避や受けに専念してください』


 カケラはその提案に従う。

 反撃はせず、相手の剣を受け、斬撃をもらわないことに重点を置いて動いた。

 傍から見れば、カケラが押されているように見える。

 カケラは、ソクラテスに急いで欲しいと思った。




『思考が終了しました』


 しばらく経つとソクラテスが言った。

 カケラは内心で歓喜する。

 これでようやくこの勝負に勝敗がつく、と思ったからだ。


『それでソクラテス、この状況から抜け出すための作戦は?』


 カケラが期待しながら聞く。


『まず、この『聖結界』ですが、発動中は常に魔力を消費し続けます』


『うん、それで?』


『魔力は、個人差がありますが、保有量が決まっています。つまり、魔力が尽きるのを待てばいいのです!』


 ソクラテスは自身満々に言う。


『なるほど! それでシリスの魔力が無くなるには、あとどれくらいだ?』


 カケラが希望に胸を躍らせながら問う。


『………………あと最低でも10分以上だと予想できます』


『10分!?』


 カケラはその答えに驚愕し、気を落とす。


『シリスってそんなに魔力を持っていたのか?』


『『神聖魔術』の場合、消費魔力は信仰の強さによって免除されます。他にも詠唱を行ったり、媒体を使用することでも威力や効果の上昇、消費魔力の免除がされます。それが魔術です』


『…………僕が知ってる魔術とは、若干違うんだけど?』


 カケラが疑問に思う。


『それは、そもそもの認識が間違っています。記憶の閲覧情報から勉強不足が原因だと考えられます』


 ソクラテスが呆れて、機械のように答える。


『記憶の閲覧情報って残ってるの!?』


 カケラは、関係のない所に食いついた。




 ここまでシリスの勇者と共に立てた計画は、順調に進んでいる。

 『聖結界』を発動させ、スキルや魔法を封じ近接戦に持ち込んだ。

 『聖結界』の持続時間も残り魔力も計画の通り。

 上手くいきすぎて、少し不安になるほどだった。

 それでもシリスは一切の油断をせず、手を抜かない。

 作戦は次が最終段階なのだから。

 この計画の最後は、シリスによる最高の一撃によって終わる。

 もしもこの一撃が失敗した場合、シリスは敗北する。

 シリスは、頃合いを見て、その一撃を発動させるために構えをとる。

 その構えは、隙だらけで正面から攻撃することが可能だ。

 だが、シリスは、あえてこの構えをとる。

 カケラへの一種の挑戦状として、正々堂々と。


「カケラ君、これが私からの最後の一撃です!」


 シリスは、構えたまま言い放つ。

 両手の指が交互に重なるようにしっかり握る構え、それは『聖結界』を発動させた時と同じ祈りの構えだ。




『報告します。彼が発動しようとしている魔法は、神聖魔法・神撃『神聖なる一撃(ホーリーブレイク)』です』


 ソクラテスが断定する。


『解った。受けて立とう』


 カケラは何の迷いもなく、そう判断する。

 それはシリスへの敬意とその技への好奇心による判断だ。

 カケラは、それが放たれる瞬間を待った。

 まるで奇跡を目の当たりにするかのように黙って見入った。




 シリスは、両手を握り、神聖魔法を行使する。

 本来ならば足りない魔力を魔術にて、祈りの構え、詠唱を組み込み、発動までこぎつける。

 勇者からの助言を丸々取り入れた作戦。

 そして今、その作戦が完遂される。

 この魔法の発動までが作戦であり、勝利までは含まれていない。

 そしてその魔法は発動される。

 神々しい光がカケラに浴びせられ、それと同時にとてつもない物理的な衝撃がカケラの肉体を襲う。

 その衝撃は、カケラがこの世界で受けたどの攻撃よりも強烈だった。

 ドラゴンの鱗だろうと砕くことができるだろう。

 もし、人間が受けたのなら、まず無事ではすまされない。

 その威力の攻撃をシリスが使用したのにも理由がある。

 原因はキラボシである。

 キラボシがシリスに容赦はいらないとアドバイスをしたのだ。

 真の威力を知ったシリスは、内心本気でカケラを心配した。

 シリスは、衝撃によって巻き上がった砂煙の方を見る。

 煙が晴れたそこには、ボロボロになったカケラが立っていた。

 カケラは手に持つ剣を杖のように使い、何とか立っていた。

 シリスが負けを覚悟した瞬間、カケラの体が重心を見失ったように揺れた。

 そして後ろへ倒れていった。

 シリスは信じられないような、ありはしないだろうと諦めていた光景を見る。

 カケラは地に倒れ、シリスは立っている。


「決着! 決着! 決着! 勝者ウィステリ シリス!!」


 全員にそう宣言される。

 それは観戦していた全員が認識していることだ。

 次に会場に響いたのは、シリスに向けられた称賛、歓声、栄誉を称える言葉の数々だった。

 それが耳に届くとシリスは、緊張の糸が切れたように疲労感に襲われ、まぶたが重くなる。

 シリスは、魔力が空であり、これはその症状だ。

 シリスは、カケラと同じように倒れ眠りについた。




 シリスが運ばれた頃、カケラはまだ倒れて空を眺めていた。

 『神聖なる一撃(ホーリーブレイク)』を受け、耐えきったはいいが、あまりの威力に立つことができなかったので、そしてこのままでは生命に関わるとソクラテスが判断し、シリスの勝利がモルベイの口から宣言された瞬間に弱体化を解除。

 さらに【再生】に権能を使って、熟練度をため、性能を強化した。


『いやー、楽しかった』


 カケラは、口に出さず心の中で言う。

 ソクラテスは、返事をしない。

 しばらくすると担架が運び込まれ、シリスに続いてカケラも運ばれる。

 担架が闘技場の通路に入った時、カケラは寝た体勢から起き上がる。


「え?」


 担架で運んでいた人も驚く。

 カケラは、そのまま担架から降りる。


「もう回復したので、ありがとうございました」


 そう言って、その場から去ろうとする。


「え? え?」


 救護の人は、担架を持ったままその場に立ち尽くした。

※魔術の認識の違いは、後付けではありません(後付けだと思ってもらってもかまいません)

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