78話 初めての入り口
準決勝の一回戦目、結果は、シリスの勝利に終わった。
凄い思考戦だった。
相手の先を読み合い、仕掛け合い、潰し合い、最後はシリスがハウサの剣を折り、降参されることで決着がついた。
ハウサは良くやったと思う。
ただ、相手が上回ってきたことで負けてしまった。
激戦、接戦、技術戦である。
「いや~、凄かったですね。二人とも動かなかった時もありましたけど、最後のシリスさんがハウサさんの剣を折るときは、かなり盛り上がりましたね」
ダクトが試合の感想を言う。
二人とも動かなかった時、というのはあの思考戦の時のことだろう。
「いや~、本当に良い試合を見せてもらったよ」
キラボシが言う。
「出られなかったことが悔やまれな~」
「お前が出たら、大会が終わるだろ」
僕はキラボシの一言にすかさず言う。
もしキラボシが出たら、それこそ出場者全員が棄権する。
「よし! それじゃあ、行ってくる!」
僕は立ち上がり、キラボシやダクトに言う。
次の試合の出場者は、僕だ。
僕が観戦席から出ていこうとすると数名のクラスメイトに呼び止められる。
「カケラ、メディカ様の仇をとれよ」
「そうだぞ、とってくれよ」
「お願い!」
そう言われ、背中をポンと叩かれる。
「カケラくん、私の仇をお願いします!」
メディカさんにも仇討ちを依頼された。
「―――頑張ります」
僕はそう言って、ステージに向かった。
速足で歩みを進める。
つい数戦前に遅刻し欠けたので少し急いでいる。
通路を歩いていると、前からシリスが歩いて来た。
「カケラくん、これからですか?」
僕は頷く。
「カケラくん、私の戦いぶりはどうでしたか?」
シリスが僕に聞いてくる。
もしかしたら、試合の評判が不安なのかもしれない。
「良い試合だったよ。周りに居た皆も絶賛していた」
僕は正直に答える。
「そうですか、それなら良かったです」
シリスは少し笑い、そして表情をすぐに戻して言う。
「―――頑張って下さい。そして、決勝でまた会いましょう。もしも、その時になっても私は、負けませんよ?」
そう冗談めかしてシリスが言う。
「あぁ、頑張るよ」
僕は返事をして、歩き出す。
背後でシリスも歩き出す足音が聞こえてくる。
それから何十歩か歩くと、僕は入り口の前に到着する。
入り口の前に立つのは、これが初めてだ。
それは観戦席から見ていたよりも大きく感じる。
その大きさを見ていると少し緊張してくる。
これなら、またキラボシに投げてもらっていた方が気持ち的に楽だったかもしれないと頭によぎる。
僕は深呼吸をして自分を落ち着かせる。
『大丈夫。大丈夫。大丈夫………………』
何度も何度も自己暗示をかける。
そして緊張を和らげ、無かったもののようにする。
ステージからモルベイさんの声が聞こえてくる。
僕は、自分の名前が呼ばれるのを待つ。
モルベイさんの前置きが終わると僕の名前が呼ばれる。
僕は、一歩一歩、前へと歩き、入り口を潜る。
そして、ステージ中央に向かう。
向かう道中、観戦席から多くの声援が聞こえてくる。
声援が何重にも重なって、その細かい内容は、よく聞き取ることはできない。
ただ、判るのは、それが応援の言葉であることだ。
ステージ中央に着くと対戦相手である、トレスは、既に目の前に立っていた。
目の前にして再認識するが、集中しなければ気配を感じることができない。
だが、覇気は感じることができる。
おそらく、『恐怖覇気』だろう。
〈熟練度が一定値に達しました。EXスキル【覇気感知】を獲得しました〉
久しぶりにスキル獲得のアナウンスが耳ではなく、頭に聞こえてくる。
少し鬱陶しい気もするが、今は気にしない。
早速発動させた【覇気感知】により、トレスの覇気がどういったものなのかが解る。
静かな殺意のような覇気。
ドラゴンは暴力の化身と言った感じの覇気だったが、こちらは静かで、それでいて恐ろしいといった感じの覇気だ。
ここでふと、自分の覇気がどういうものなのか気になるが、今は置いておく。
この試合が終わった後にでもキラボシに聞けばいい。
そう言い聞かせ、試合開始の合図を待つ。
すでに武器は【空間収納】から取り出してある。
もちろん前の試合でも使用した竜剣だ。
トレスも隠しているが、短剣を忍ばせて、いつでも取り出せるように準備をしている。
「準決勝、第二回戦、開始~~!!」
その宣言がされた直後、トレスが動きだした。




