75話 第四回戦
試合が開始一秒にも満たない間の出来事だった。
トレスとモルベイさんが紹介した三年生は、恐ろしい速度でメディカさんを攻撃した。
僕も気が付かなかった。
気配がほとんど感じとれなかったのが気掛かりだ。
~結果~
|名前:カドモス トレス
|種族:人間
|スキル
|EX・空腹耐性、精神耐性、痛覚耐性、衝撃耐性、気配感知
| 腕力、脚力、動体視力、索敵
|ユニーク・恐怖、隠密、狩猟
|アチーブメント
|魔物殺し、不意打ち御免、身を潜めて
スキルを見れば、そのほとんどが暗殺・奇襲向きである。
速く動くためのスキルは【脚力】の他に特に見当たらない。
解ることと言えば、スキルだけを見ればメディカさんに勝ち目がないことくらいだ。
三年生の中ではおそらくトップクラスだろう。
そんなに差があるのに、メディカさんは瞬時に『治癒』で傷を治し耐えた。
転生によるユニークスキルが規格外であることを再認識できる。
何で僕には無かったのか、という疑問が出てくるが、それはどこか遠くに捨てておこう。
僕の『解析』の結果、そして予想では、その規格外があっても、おそらくこの試合での勝利は厳しいものだろう。
今もトレスはメディカさんに短剣で攻撃を続けている。
メディカさんは怪我を『治療』で治すことで手一杯のようだ。
いつまで経っても、メディカさんの防戦が続いていて急展開のような変化は一切ない。
しばらく攻防を観察しているとトレスの動きの正体がだんだんと解ってくる。
まず最初に、異常な速さだと思えた動き、その正体は気配のコントロールがなす技術だ。
認識されないよに気配を薄くして近づき、たどり相手の近くに着いた時点で攻撃をしている。
移動中の動作が認識されないので、結果的に速く動いているように見えるのだ。
次に攻撃について、あの攻撃はおそらくだが本気ではない。
彼の持つスキルを使えば、殺したり、気絶させたりする手段なんて軽く数十個くらいはあるはずだ。
今はおそらく、単純に力量で相手を試しているのだろう。
結論として、この勝負にメディカさんは、勝ち目がない。
それこそ相手が何らかの事情で棄権するくらいしか勝ち目は残されておらず、その希望も塵ほども存在しない。
まだ負けていないのは、【医者】とトレスの手加減のおかげだ。
そしてその二つの要も、もうじき消え去る。
『治療』を発動するにも魔力が必要なのだろう。
あんなに発動し続ければ、その内魔力切れでぶっ倒れる。
トレスもそろそろ手加減を止め、本格的に勝敗をつけにいくだろう。
試すには十分な時間が経った。
メディカさんには悪いが、すでに半数以上の観客も興味を失っている。
そんなことを考えながら観戦しているとメディカさんの行動が変わる。
目を閉じて、集中している。
僕には、何をしているのか理解できた。
横にいるキラボシもおそらく、気付いただろう。
メディカさんは最後に魔法を撃つことを選んだのだ。
自分が負けると悟ったのか、僅かな希望にかけたのだろう。
術式を構築して、魔術によって強化と最適化。
もう、トレスも気付いたはずだ。
その根拠にトレスは攻撃の手を止め、身構えている。
そして、その魔法は放たれる。
氷魔法、『アイスショット』。
氷の粒を発射する魔法だ。
トレスは回避をする。
その方法は影魔法、『影潜り』。
僕も重宝した魔法だ。
確か、【隠密】を持っていたから使えても不思議ではない。
メディカさんの渾身の氷の粒はそのままトレスの潜った影を素通りしていき、闘技場の壁に衝突する前に溶けるようにして消えた。
これで勝負が決した。
「降参します」
メディカさんが敗北を宣言する。
「勝者、カドモス トレス~!!」
モルベイさんが勝敗を闘技場全体に宣言する。
観客席では一部の者たちが歓声を上げ、また一部の者たちは無反応で、数名の者は残念な顔に変わった。
僕は少し残念な気分になった。




