72話 懐かしき思い出
彼は頭のネジが外れているのかもしれない。
それが第二回戦の感想だ。
【魔力制御】だけであの大きさの火球を受けるなんて、控えめに言ってぶっ飛んでいる。
しかも【思考加速】無しで。
あれが俗に言う天才というやつだろう。
それにしてもさっきから試合があっさりと終わってしまっている。
かなりの早さで勝敗が決する。
盛り上がっているからいいものの、結構不味いのではないだろうか?
「………………ハウサ君も大胆なことをしますね」
「あれでどうして無事だったんですかね? まだ解らないんですけど?」
隣にいるシリスとダクトもこの様子。
解っている者と解らない者である。
前者がシリスで、後者がダクトだ。
それにしても短くて面白い戦いだった。
僕も【魔力制御】の獲得でも目指してみようか?
魔力の全力攻撃とか、防御もできて便利そうだったし、僕は『思考加速』ができるからおそらく問題はないはずだ。
「そう言えば、ハウサくんは何か特別なユニークスキルを使っていませんでしたね」
シリスが思い出したかのように言う。
「そう言えばそうですね」
ダクトが共感する。
「いや、使ってたよ」
僕は二人に訂正を加える。
「どういうことです?」
シリスが聞いてきたので、僕は『解析』で知りえた情報を説明する。
まず最初に、ハウサは転生者の獲得する生まれつきのユニークスキルを使用していた。
ハウサのユニークスキルは【魅了】である。
【魅了】の機能は二つ、『催眠』と『注目!』だ。
『催眠』はいかがわしいものではなく、対象がハウサに固執するようになる精神攻撃である。
『注目!』は僕の持つ【誘導】に似ている。
その効果は、他者や魔法をハウサに向けさせるというものだ。
言わば、自ら避雷針になる機能である。
そして試合で発動されたのは、『注目!』だ。
本来であれば、ただ補正のかかる的になるだけなのだが、ハウサは器用なことに魔法の不確定で僅かな軌道をこの機能により確定させ、すぐに解除し回避していたのだ。
やはり、ものは使いようだと再認識できる。
「なるほど、そうだったのですか………………」
シリスが気付かなかったのも無理はない。
シリスは【解析】を持っていない。
仮に持っていたとしても、『無知の知』が使えなければ発動の有無までは判別できないはずだ。
やっぱり【哲学の父】は便利なスキルだ。
「いやー、熱かった」
その時、ハウサが観戦席に戻ってきた。
見れば所々が軽い火傷を負っている。
「ハウサ! 何であんな危険なことをしたんですか! ほら、全身火傷だらけじゃないですか!」
メディカさんがすごい形相で駆け寄り、【治療】で回復をする。
「いや怒るなよ、軽い火傷じゃん。それにお前が治してくれるし………………」
ハウサがそう反論する。
「治るから怪我してもいいってダメに決まってるでしょ! こっちも魔力を消費してるのよ。試合があるのに!」
「分かった分かったら、今度から気を付けるよ」
ハウサは反省の色を見せて、大人しく座る。
実に懐かしい光景だ。
前世でもよくみた光景、我がクラスの日常だ。
そして絶対にハウサ―――上野はまたやらかして、メディカさん―――高岸さんが怒る。
このクラスは時を越えても、世界を越えても、一生が終わっても変わらない。
「懐かしいですね…………」
「確かに…………」
シリスもダクトも同意見のようだ。
周りからも似たような視線が見受けられる。
しばらく皆で懐かしさに浸っているとステージからモルベイさんの声が聞こえてくる。
「それでは、お待たせしました。第三回戦を開始していきたいと思います」
どうやら第三回戦が始まるらしい。
そう言えば、三回戦目は誰と誰が出場する試合だったっけ?
「カケラくん! 何をしているのですか!」
するといきなりシリスが大きい声で言う。
「どうしたんだ、シリス?」
僕は少し耳を抑えて聞き返す。
「どうしたもこうしたもありませんよ! 第三回戦の出場者は、ガーブくんと君でしょう!」
その言葉を聞いて思い出す。
「やっべぇ」
「やっべぇ、じゃありませんよ! 急いで入場口に向かってください!」
僕は立ち上がり入場口に向かおうとする。
「やっほ~」
突然、キラボシが現れる。
「どうしたの、そんなに急いで?」
「僕が忘れてて、今すぐステージに入場しないといけない」
僕は手短に説明をして、走り出そうとする。
「なんだ、それならもっといい方法があるよ」
キラボシが僕を捕まえて言った。
次の瞬間、僕は観客席からステージへと投げられた。
一瞬、何が起こったのか解らなかった。
耳には、キラボシの「あとは、頑張ってね~。応援してるよ」という声が届いた。
僕はそのまま自由落下で落ちてゆく。
そして地面に衝突した。
さすがに、ここで龍の翼を出したりはできないので不可抗力だ。
別に無事だからいいが、本当に驚いた。
僕は土埃を掃いながら立ち上がる。
視線を上げると、もうすでにガーブが立っているのが見えた。
僕は急いで定位置に移動する。
「随分な登場の仕方だな。目立ちたがり屋なのか?」
ガーブが言った。
「不本意だよ」
訂正をしておく。
「えー、少しトラブルもありましたが、気にせず開始したいと思います」
モルベイさんが宣言する。
「第三回戦、開始!」
第三回戦が始まった。




