71話 第二回戦
闘技場のステージ中央。
そこには、二人の人物が立っている。
両者は、大会の出場選手であり、これから試合を行う敵同士だ。
片方の者は相手が敵だと認識していた。
そして、もう一方は、と言うと…………
「先輩、この試合の後、お茶でもどうです?」
相手をお茶に誘っていた。
「………………………………は?」
女子生徒―――ソフィーは、怪訝な顔に変わる。
ソフィーは、脳内でその言葉を理解しようと考える。
目の前にいるこの男は、これから試合をする相手をお茶に誘った。
『何故?』
ソフィーの脳内が疑問符で埋め尽くされる。
「えーっと、その、あなたの言っていることの意味が分からないのだけれど?」
ソフィーは、聞き返す。
「ですから、この試合が終わった後にお茶でもしませんか? というそのままの意味です」
ソフィーの脳内に疑問符が増える。
「…………あなたは何故、これから戦う相手をお茶に誘っているのかしら?」
その問に対してハウサは即答する。
「顔がいいからですが?」
ソフィーはここでようやく理解する。
目の前の男は今まさに自分を異性として扱っているのだと。
『どういう神経しているのかしら?』
ソフィーは顔を褒められたことは嬉しいと思ったが、それでも試合前の闘技場の中心でやることではない。
「お断りさせていただきます」
ソフィーは丁重にお断りした。
誰が見ても場所を弁えていないハウサの自滅である。
ハウサは少し残念そうに「そうですか…………」と言った。
それでも、これから行われる試合が無くなるわけではない。
試合開始である。
先手を取ったのはソフィーだ。
彼女は火球をハウサに向かって放つ。
ハウサはそれをスレスレで回避した。
それから放たれる魔法も同様にスレスレで回避する。
ソフィーは理解した。
こいつはわざとギリギリで避けているなと。
その事実はソフィーのプライドに触れた。
ソフィーはよく温厚な人だと言われるが、実際にはプライドを傷つける者には冷酷になるのだ。
さらにこれだけならまだいい方でもしも可能なら魔法を撃ちこむ。
そして今回の場合、正式な闘技大会であり、魔法で多少怪我をさせても問題ない。
ソフィーは容赦なく、巨大な火球を放つ。
その大きさはそのまま彼女の怒りの具合を表わしていると言ってもいいのだ。
それがハウサに迫っている。
もちろん、避けることは不可能。
ハウサがどうやってそれを対処するのか、観客は息をのんで見守る。
ハウサがとった行動、それは――――――
「はぁ?」
その行動は真正面から受け止めるだ。
それを見たソフィーは怒りを一瞬だけ忘れ、呆れる。
普通、不可能だったとしても、反射的に避けようとしたりするだろうと。
ハウサは巨大な火球にのまれていった。
ソフィーも観客もハウサがどうなったのか、注目する。
そして驚愕する。
そこには、服が所々焦げたハウサの姿があったからだ。
一部始終を見ていた者でも、その理由が解ったのは一部の者だけだった。
ハウサが助かった理由は【火属性耐性】のためではない。
そもそもハウサはそのスキルを持っていない。
では、何故か?
それはハウサの持つ【魔力制御】の効果だった。
このスキルは、魔術をかじっている人間ならば、大多数が所持しているスキルで、そこまで珍しいものでもない。
その使用方法は、ほとんどが魔術の補助だ。
だが、ハウサは今回、別の使い方をした。
それは、魔法への抵抗だ。
発動された魔法に対して、威力が弱くなるように魔力を制御する。
それだけだった。
それは、一般的に高難易度とされる技術だ。
魔法が自身に到達するまでに発動しなければならない。
【思考加速】があってようやく可能になる技術だ。
だが、ハウサは【思考加速】を持っていない。
ハウサは感覚のみでその制御を行ったのだ。
それに気が付いた一部の者はハウサの行ったすご技に関心した。
「何で真正面から受けて無事なの?」
ソフィーは怒りに任せるがままに、先の火球に魔力のほとんどを使っていた。
これ以上は、魔法も撃てないのだ。
ソフィーは負けを認めるほかなかった。
「勝者、ファイフォン ハウサ!!」
モルベイが宣言して試合が終わった。
「ところで先輩、この後お茶でも………………」
「しません!」
ソフィーは機嫌が悪そうに言って、ステージから去っていった。




