66話 ミイラの二人
その日、教室に入ると同級生たちが短い悲鳴を上げた。
そして僕に視線を向けてくる。
一瞬何が起こったのか理解できなかったが、すぐに心当たりを思い出した。
今の僕の姿である。
今の僕は包帯でグルグル巻きであり、顔の四分の一が包帯に隠れている。
要はミイラに近い見た目なのである。
僕はシリスに挨拶をする。
「おはよう」
「え…………えぇ、おはようございます。カケラ君」
シリスは若干引き気味で挨拶を返した。
その後、教室に入ってきた者のほとんどが僕の姿を見て驚く。
まるで怪物にでもなったかのようだ。
この驚きようはダクトも例外ではなく、僕を見たとたん。
「えっ、カケラさん、その包帯はどうしたんですか!」
目を見開いて驚いている。
「これは………………ちょっとな」
僕は誤魔化して返事をする。
「もしかして、ガーブさんに不意打ちを?」
ダクトが聞いてくる。
「そうなのですか?」
シリスもつられて聞いてくる。
「いや、全然関係ない」
僕はしっかりと否定しておく。
不意打ちされたなんて、少し癪に障る。
そんな会話をしているとき、教室の入り口が開かれ、キラボシが入って来た。
僕の視界には入っていないが、背後で聞き覚えのある引き気味の声が聞こえる。
目の前にいるダクトとシリスもつい数分前に見たかのような既視感のある表情になっている。
僕はおおよその予測が出来ているが、振り返りキラボシの方を向く。
そこには予想通り、僕と同じように包帯を大量に巻いたミイラのようなキラボシがいた。
経緯は僕と一緒だろう。
「おはよう~」
「おはよう」
僕は普通に返事をする。
「お…………おはようございます。勇者様」
シリスの対応は僕のときと似通っている。
ダクトはと言うと、ドン引きして離れて行った。
「その…………勇者様、その包帯は一体?」
シリスが恐る恐る聞く。
「これ? これはねちょっと昨日、龍と戯れてきただけだよ」
キラボシが当たり前のように言う。
ギリギリだが嘘ではない。
「…………そうですか、龍と戯れて…………」
シリスは目に見える速度で引いている。
それからと言うもの、二名が包帯をグルグルに巻いた姿をした教室の空気は尋常ではなく、お通夜レベルで空気が重かった。
そんな中、二人の女子生徒が教室に入ってきた。
確か名前は、フィデリス メディカさんと、エイダさんだ。
フィデリスという性は、この国の王族の性らしく、メディカさんはこの国の姫様だそうだ。
エイダさんは前世も今世も、いつもメディカさんに付いていて不自然だが、二人の前世を知る者なら自然に納得するのだ。
ましてや今世では、メディカさんの専属の使用人なのだそうだ。
その二人は教室へ入って来るや否や、他の生徒と同様に僕とキラボシの姿を見て、驚愕の表情に変わる。
そして僕とキラボシの前まで歩いてくる。
一体何の用だろうか?
「勇者様にカケラ君、その包帯はどうされたのですか!」
「ハハハ、メディカ様、落ち着いてください。これは見た目ほど大きい怪我ではありませんから」
キラボシはメディカさんをなだめる。
キラボシの言う通り、この傷は治りが遅いだけで大した怪我ではない。
「大きい怪我ではない? と言うことは、怪我ではあるのですね」
メディカさんは僕とキラボシにそれぞれ右手と左手を向ける。
回復の魔法でも使うのだろうか?
その瞬間、治りが遅かった怪我が治癒されていく。
そして傷が完全に塞がり、跡も残らず治った。
理由はすぐに分かった。
彼女の持つユニークスキル【医者】の『治療』だ。
この機能は対象に数秒間、【高速再生】を付与するというものだ。
と言うかあれ?
何でもう『解析』がされているんだ?
最近よく勝手に発動するが、一体何故だ?
僕が疑問に思っている間にキラボシはメディカさんにお礼を言っている。
「ありがとうございます。メディカ様」
「いいえ、別にお礼なんて要りませんよ。世界を救って下さった勇者様には到底足りないでしょう」
僕もお礼を言わないと。
「ありがとうございます。メディカ様」
僕はお辞儀をしてお礼を言う。
「勇者様に言ったように、お礼なんて要りませんよ。クラスメイトを助けるのは当然のことですから」
微笑みながらそう言った。
斜め後ろでは、一言も発さずにいたエイダさんがコクコクと頷いている。
丁度そのとき、教室にドクタス先生が入ってくる。
「おはよ……うわ! どうしたんだ二人とも、そんなに包帯を巻いて」
ドクタス先生は驚き聞いてくる。
「これは今、治してもらったので、今すぐに取ります」
僕はすぐに答える。
「先生! 私も左に同じです」
続けてキラボシが言った。
そして僕とキラボシは目に見える部分に巻かれた包帯を取った。
さすがに腹などに巻いたものは取れない。
それからドクタス先生が授業を始める。
内容は歴史の教科だった。
学園噂話
「勇者様とカケラは、共に龍と戦った」
順調に拡大中。




