64話 追い出された
僕は廊下を歩いていた。
気絶したガーブを医務室に運び、訓練場に戻ったところ、ドクタス先生に残りの授業は自習だと告げられ訓練場から追い出された。
なので特にあてもなく歩いてた。
そんなとき窓から外を見ると図書館があった。
それを見たときに思ったのだ。
本でも読もうと。
と言うわけで図書館にやって来た。
学園内にあるこの図書館はかなりの大きさであり、パッと見ただけでもその蔵書数が多いことがわかる。
魔術書も置いてあるようだ。
僕は目についた棚から本を一冊取り出す。
タイトルを読むと『精霊の住処』と書かれていた。
おとぎ話だろうか?
この世界なら精霊がいてもおかしくはないが、いるのだろうか?
僕は気になって、ページをめくり読み始める。
昔々、ある探検家がいた。
その探検家は、ドラゴンスパイラルを越えた場所にあるといわれ、神話に登場した龍神の聖地である不可侵領域の探索に乗り出した。
だが、山脈は甘くなかった。
山脈の危険な地形、数々の魔物、極めつけに大量のドラゴン。
探検家は重症を負い、やむなく引き返した。
その引き返しているとき、探検家は山の麓で倒れ、意識を失った。
探検家の負っていた怪我は命に関わるものだったそうだ。
そして探検家が次に目を覚ますと何者かに荷車に乗せられ、運ばれていたという。
怪我には応急手当がされていて、相手が命の恩人だとすぐに理解した。
探検家はその者にお礼を言って自力で去ろうとした。
だが、荷車を押す者がすぐに止めた。
まだ傷が大きい。
知り合いに治せる者がいるからそこまで我慢してくれ。
そう言われた探検家はおとなしく運ばれた。
そして森の中にある村に到着した。
言われていた通り、運んでくれた者の知り合いが傷を瞬時に治療し、そのまま解放された。
そして探検家はそのまま歩いて町に着いた。
それから数年後、探検家はその出来事を思い出し、違和感を覚える。
あそこまでの重症をどうやって瞬時に治癒したのか、と。
探検家はその村にもう一度行こうと森の中を探した。
だが、その村は森のどこにもなかった。
そして探検家は、あることに気が付いた。
助けてくれた者の姿も声も思い出せないのだ。
男だったのか、女だったのか、子供だったのか、老人だったのか。
何も覚えていない。
探検家はこの出来事を精霊の仕業として調査し、経緯と調査記録を著書として出版した。
と、いう内容だった。
おとぎ話のような話だが、調査記録はしっかりとしていて現実味がある。
結局、精霊が実在するのかは分からなかった。
著者である探検家は実在すると信じていたようだが、村もその痕跡も見つからなかったそうだ。
僕は別の精霊についての本を探し、手に取り、読みはじめる。
その本を読み終えるとまた別の本を読む。
それらを総合して精霊が実在するかどうか考えた。
だが、結論はやはり分からない。
「そこの君、もうすぐここは閉館するよ」
図書館の管理をしている館長のお爺さんが言った。
もうそんな時間か。
ここには窓がないから時間が分からなかった。
「すみません。すぐ片付けます」
僕は机に積んである精霊に関する本を棚に戻そうとする。
「私も手伝いましょう」
館長さんは数冊本を持った。
そしてそのタイトルを見て、聞いてくる。
「精霊に興味があるのですか?」
「いえ、少し気になっただけです」
僕は答えたあとに言ってみる。
「精霊って本当にいますかね?」
「分かりませんが、私はいないと思いますよ」
館長さんはその疑問に答える。
「精霊なんて不思議なことの説明に使われるだけの子供騙しですよ」
日本で言う妖怪みたいなものなのだろう。
この世界なら妖怪も居そうだが。
僕は本を元の棚に戻し、図書館をあとにした。
教室へ行くとドクタス先生だけが居た。
「カケラか、もう授業は終わったぞ。早く寮に戻れ」
それを聞いて僕は寮に戻る。
寮の自室は、いつも通りだった。
だが、窓に紙が挟まっていた。
紙を取ってみると、文字が書かれていた。
『訓練場にて待つ』
差出人不明の手紙。
かなり不気味である。
だが、僕はその指示に従って寮を気配を消して抜け出し、訓練場へと向かう。
周囲はすでに日が沈んでおり、暗くなっている。
幸い、月明かりのおかげで視界には困らないほどに明るかった。
訓練場には、一人の人影があった。
僕は目を凝らし、その人影の正体を突き止める。
「やっと来た! 結構待ったんだよ」
待っていたのは、キラボシだった。
キラボシは待ちくたびれたように立っている。
「………………何で呼び出したんだ?」
僕はキラボシに聞いた。
「いや~、最近、戦い不足でね」
要するに勝負をしようということなのだろう。
「この間の模擬戦じゃだめだったのか?」
僕はキラボシに尋ねる。
「あの程度じゃ、精々準備運動止まりかな」
あれで準備運動って……………………
キラボシなら神にでもなれそうだ。
「スキル、武器、神様の力、全部使っていいよ」
キラボシはやる気に満ちているようだ。
「でもなぁ」
僕は露骨に勝負をする気がないことをアピールする。
「可愛い妹の頼みだからさ、お願いお兄ちゃん」
それでもキラボシが頼みこむ。
自分で言うか、とツッコみ、事実だから、と答えるキラボシ。
「はぁ、分かったよ」
僕は仕方がなく了承する。
そう言われれば断ることはできないのだ。
バラシャダさんの特訓の成果を見せてやろう。




