幕間 模擬戦 シリス VS キラボシ
カケラがガーブに圧勝しているとき、その様子を観戦して機嫌が良くなっている者がいた。
キラボシである。
対して、キラボシの目の前にいる男は、カケラの様子が気になってはいるが、キラボシがいつ剣を振るうのか警戒している。
シリスである。
シリスは先ほどまでキラボシに攻撃を仕掛けていた。
魔術による攻撃、剣による物理的攻撃、全ての攻撃が打ち消され、回避された。
今は、次の攻撃をどうしたものかと考えをめぐらせている。
『全ての技術が通用せず、物理的な攻撃も効果なし………………』
絶望的な状況。
シリスの出した結論はそれだった。
勝ち目はない。
だが、シリスは諦めず打開策を考え続ける。
本心では、そんなものはない、と理解していながら。
そして数分後――――ガーブが気絶した時、キラボシは一息吐き、シリスの方に向き直る。
「いやー、待たせたね。それじゃあ、やろうか」
そうシリスに告げる。
シリスにとってそれは、勝負を終わらせるだけの作業を始める、と言っているように等しく聞こえた。
シリスは思い出す。
まだ、自分がこの世界に転生して間もない頃、この【板書】というユニークスキル、そして前世の知識から世界最強とまではいかなくともそれなりの強さがある、と考えていた。
もしかしたら自分が向かえばかの有名な魔王を倒せる、などとも考えていた。
なのでその魔王を倒した勇者とも勝てわしないかもしれないが、ある程度の勝負ができるものだと考えていた。
だが、それらは子供の安易な考え………………転生者の慢心だったことを理解した。
本物の勇者は格が違った。
自分では勇者といい勝負をすることも、魔王を倒すこともできないと理解できた。
素早い剣技、高度な技術、肉体のスペック、経験、スキル、全てにおいて足元にもおよばない。
さらにカケラの存在である。
勇者と剣技で張り合う同級生。
自分はこの世界では、弱い者なのだと思い知った。
それは比べる相手が悪かったとも言えるだろう。
そんな警戒したシリスを見たキラボシは、こう考えた。
『私、怖がられてるな~』
キラボシとしては、同年代の者に怪物のように見られるのは、いい気がしなかった。
そしてこの目がこれからも続くとなると少し鬱陶しく感じていた。
そのためキラボシは解決策として慎重に言葉を選び、シリスに提案した。
「君、少しゲームでもしない?」
それは相手に勝機を与えることだ。
無論、負ける気はないがこういうことをして警戒心を少しでも和らげようと考えたのだ。
「………………聞きましょう」
「まず、君が私に攻撃をする。私は最小限の方法でそれを防ぐ。もし、私が一歩でも歩いたら君の勝ちだ。どう?」
シリスはその説明を聞いて、すぐに無理だと思った。
何か考えるよりも速く、無理だと直感が結論をだした。
それから、ようやく理性が考え出した結論。
可能性はある、と。
先ほどまでに比べれば断然勝率が高いと。
「分かりました。その勝負、乗りましょう」
シリスは乗ってしまった。
彼の直感は正しかったというのに。
シリスは『ノート』のページをめくる。
基本的なものはすでに試した。
残りは、使いどころが限定された技術だ。
釣りの技術、投擲の技術、走る技術、などなど。
使えそうなものはない。
『やはり、魔術………………いや、そのままだと先ほどと同じことに………………』
シリスはページをめくり、術式を見る。
そしてページを戻し、術式を見る。
ページを行き来して、術式を見比べる。
そしてある考えに辿り着く。
『複数の術式の同時発動………………』
ページをめくることで重なる術式を見て考えついた方法だ。
それは簡単な話、数を増やして威力を上げよう、というものだった。
だが、ただ数を増やすだけではダメだということはシリスも分かっている。
シリスは考えた。
シリスはキラボシの方を向き、深呼吸をする。
そして走りだす。
キラボシはそれを見守るだけで、妨害はしない。
シリスはキラボシとあと1mという所までせまり、手を前に突き出す。
そして魔術を発動させる。
複数の術式を同時に発動させる。
ここからがシリスの考えた作戦である。
同時に発動された術式は二つ。
一つは火を起こす魔術――――――の熱を発生させる術式。
二つ目は水を出現させる魔術。
一つ目はとにかく魔力を流し、術式を重ね、より多くの熱を発生させる。
その熱によって水が素早く気化し体積が膨張する。
その現象は前世でいう水蒸気爆発である。
もちろん辺り一帯を更地にするような威力のでない小規模なものであるが、それでもかなりの威力である。
キラボシはその攻撃をまともに受けた。
だが、爆発のあとには涼しい顔をして立つ、キラボシの姿があった。
『いや~、びっくりした』
キラボシは内心驚いていた。
驚いただけで終わってしまった。
「どうして平気でいられるのですか………………」
シリスはその場に座りこんでいた。
小規模で調整を行ったとしても、シリスにはそれなりの反動で吹き飛ばされたのだ。
受け身はとったもののかなりの衝撃だったのか、動こうとはしなかった。
「どうしてかって? いくらか耐性があれば何もせずに耐えられるよ」
当然のように答えるキラボシ。
キラボシ自身も知らないことだが、普通ならば耐性だけでは、あそこまでの衝撃で一歩も動かないことは不可能だった。
あそこまで耐えることができたのは、キラボシの耐性系スキルの熟練度の高さが要因の一つだった。
「私の負けです」
シリスは負けを認めた。
あの攻撃でこの反応なら自分ではどうしようもないと考えたからだ。
「そう?」
キラボシはここまで早く負けを認めたことを不思議に思いながら座るシリスの前に立った。
「それなら、私の使える魔術や魔法を君に見せてあげよう」
「何故?」
シリスはキラボシの唐突な言動に困惑しながらも理由を尋ねる。
「君、それに書いた技術が使えるっていうスキルを持ってるでしょ? だから出場ができない私の代わりに勝ち進んでもらわないといけないからね。それじゃあ、早速使うからちゃんと書いてね」
そうしてキラボシは様々な魔術や魔法を見せる。
ちなみにキラボシが体術を見せないのは、まず常人には視認できず、特別な魔法を使うからである。
シリスはノートに技術を書き続ける。
そのまま、模擬戦の授業は終わってしまった。




