63話 模擬戦・ガーブ
僕は、いつも通り今日の支度をする。
そして、支度が終わったら自室である寮を出て教室に向かう。
そう、これは、昨日も行ったルーティンとも呼べる僕の毎朝の行動だ。
それなのに、久しぶりに感じてしまう。
理由は、地獄での特訓だろう。
時空を操ることができれば、時間を気にすることなく暮らすことができる。
ぜひとも習得したいが、おそらく当分先のことになるだろう。
あと数十年くらいね。
僕は、教室に入るや否やシリスを見つけて、挨拶をする。
「おはよう、シリス」
「えぇ、おはようございます。カケラ君」
そして席に座る。
ちなみにダクトは、まだ来ていないようだ。
「カケラ君、昨日は、凄かったですね。どうやってあそこまで剣技を扱えるように?」
昨日? …………………………あっ、そうだ昨日だ。
どうも、時間の感覚が狂う。
「あれは、まぁ、ちょっと教わったんだよ」
僕は、ぼかして言った。
「そう言えば、シリスは、剣術得意なのか?」
「まぁ、多少できる程度ですね。カケラ君に比べればチャンバラごっこみたいだと思いますよ」
なんだか少し罪悪感が湧いてきた。
そんなやり取りをしていると、教室にダクトが入ってきた。
「あっ、おはようございます。カケラさん、シリスさん。お二人で何の話をしていたんですか?」
「昨日の模擬戦のことだよ。君も見ていただろう、あの高速の剣のぶつかり合いを」
「えぇ、あれは、迫力がありましたね。しかも安物とは言え、お互いの木刀を折りあうなんてレベルが高すぎですよ」
少しやりすぎだったのかもしれない。
話を変えないと…………
「それより、今日の授業は、何だっけ?」
「今日の授業は、確か……………………何も知らされていませんね」
「僕も心当たりは、ないですね」
「そうか、それじゃあ、予想しよう」
それから授業内容の予想大会が始まった。
最終的にシリスは、座学。
ダクトは、何故か経済学。
僕は、魔術の実技練習というように予想が固まった。
さて、正解は?
「今日は、二週間後にある闘技大会について説明する」
正解は、予想外の行事だった。
「まず知っている者もいると思うが、知らない者のために説明するぞ。今回の闘技大会は、毎年行われるこの学園の恒例行事で、学園の外から見物客がくるほどのこの国の一大イベントだ」
学園外からくるなんて相当な規模のようだ。
「競技内容は、個人戦のバトルだが、毎年一年生は、出場したとしてもほぼ初戦敗退する。そりゃあ時期も時期だししかたないだろう。だが、お前たちは、張り合えるくらいには強い。と言うわけで参加者を俺が勝手に推薦しておいた」
この教師は、何を勝手なことをやっているんだ?
「それじゃあ、一人ずつ順番に名前を呼ぶから良く聞け」
そうして名前が読み上げられる。
「ウィステリ シリス」
「ディスター ガーブ」
「フィデリス メディカ」
「フェイフォン ハウサ」
そして僕も入っていた。
「以上、5名が俺の推薦だ。他にも参加したい者がいれば各自で参加してくれ」
そしてドクタス先生が思い出したかのように付け加える。
「ただし、キラボシは、参加不可だ」
それも聞いたキラボシが不満ありげな顔で立ち上がり、抗議する。
「何故ですか! 説明を求めます!」
「いや、圧倒的に強すぎるからだ」
その理由を聞いてキラボシは、引き下がった。
そりゃあ、そう言われれば言い返すことはできないだろう。
僕は、キラボシに続いて先生に質問をする。
「先生、辞退することはできますか?」
「いや、もう無理だ」
キラボシに続き撃沈した。
「他に質問がある奴はいるか?」
教室内に手を挙げる者はいなかった。
教室が数秒間、静まり返る。
「いないのなら、今から闘技大会のための模擬戦を行う。全員、昨日と同じ訓練場まで来てくれ」
そうして移動が始まった。
「いや~、カケラさんもシリスさんも凄いですね」
ダクトが歩きながら言う。
「それにしても何で勝手に推薦するかな………………」
僕は愚痴をこぼす。
「私は出場しようと思っていたのでかまいませんが、確かに勝手に参加させるのは横暴ですね」
「しかも私は参加すらできない」
僕はキラボシと二人でため息を吐く。
「勇者様はしかたがないでしょう。参加すれば他の参加者がたまったものではありません」
なぜかいきなり会話にまざっているキラボシに、動揺などせずにシリスは諭そうとしている。
「と言うか、君でもたまったものではないのですが………………」
シリスは、僕の方を睨みながら言う。
何か文句があるのだろうか。
キラボシよりは、マシだろ。
そして到着しました訓練場。
「よし、全員集まったな。それじゃあ模擬戦の組を発表するぞ」
その言葉を聞いて僕は、かなり焦った。
横を見るとキラボシも焦っている。
今日の模擬戦も昨日と同じようにキラボシとやろうと思っていたから、僕もキラボシもただ事ではない。
そしてもちろん周りの者も焦った。
おそらく皆は今頃、キラボシに当たらないことを願っていることだろう。
「メディカは、エイダと。サーカは、ブラードと。カケラは、ガーブと。ダクトは…………………………」
そうしてそれぞれが移動する。
僕の相手は、入学式の日にキラボシに返り討ちにあった元、石田くんだ。
「よお、お前、確か剣が凄かった奴だろう? 今日は武器が配布されないが、自前で用意するのか?」
にやつきながら聞いてくる。
「ご心配なく」
僕は適当にあしらい、位置につく。
それを見てガーブは舌打ちをして、位置につく。
「それでは、始め!」
ドクタス先生が開始の合図を言った。
その合図を聞いた直後、ガーブは僕の方に向かって一直線に走ってきた。
そして僕のことを腕で掴もうとする。
僕はそれを軽く避け、ガーブの持つスキルの『解析』を始める。
~結果~
|ユニークスキル【歪曲】
|機能
|物体歪曲
これだろう。
『物体歪曲』は、自身が掴んだ物を曲げることができる機能のようだ。
だから執拗に掴みかかってくるのだろう。
避けるのも容易だ。
掴もうとしかしてこないから、動きが分かりやすい。
そろそろこちらも反撃をするべきかもしれない。
でもどうやって反撃しようか……………………
もし、強くやりすぎると、こいつの体がえぐれたり、爆散する可能性がある。
殺さない程度に反撃する方法。
う~ん、影で拘束するとか?
僕は『影の手』を出して、ガーブを拘束する。
「は? なんだよこれ!」
ガーブは『影の手』を掴む。
「クソ! 曲げられねぇ」
そりゃあ、影を実態化させてるだけで、あくまでも影、物じゃない。
ガーブは何度か試したあとに諦めて手を僕に向ける。
そして火球を飛ばす。
火球がとんでくるが、僕は『魔法誘導』で軌道をずらし、一歩も動かず回避する。
「はぁ?!」
ガーブは『影の手』の中でもがいている。
ここからどうやってとどめをさせば?
一瞬で殺す手段はいくらでもあるのに、殺さない程度のものがない。
影で串刺しにするとか、『ウィンドカッター』で切断するとか、『龍の咆哮』で消し飛ばすとか、色々あるのに丁度よくボコボコにできるものがない。
僕は手加減ができるかどうか、かなり不安だった。
いや、こういうときこそバラシャダさんの教えを思いだすのだ。
バラシャダさんは確か………………
――――とにかく火力をあげろ! 敵は一撃でやれ!
あまり参考には、なりそうにない。
このまま『影の手』でチマチマと殴るか?
絵面がヤバイことになるが、それぐらいしか彼を殺さずに戦闘不能にする方法がない。
僕は少し思いなやんだが、実行することにした。
まず、ガーブを地面に置く。
「?」
ガーブは突然『影の手』から解放されたことに理解が追いついていないようだったが、すぐに僕に反撃しようと向かってこようとする。
僕は『影の手』を再出現させ、ガーブを殴る。
「痛ッ、何なんだよ、この手」
殴り続ける。
「グッ、ガハッ、痛ッ」
殴り続けた。
数分後、ガーブは気絶した。
【衝撃耐性】を持っていたからか、少し時間がかかってしまった。
ガーブは白目を剥いて、ピクリとも動かない。
少しやり過ぎたかもしれないので、せめてもの情けとして医務室まで運んだ。
もちろん『影の手』を使った。




