61話 剣術の模擬戦
あの魔術の授業から数日が過ぎようとしていた。
進展はない。
他の授業は、実演がなく座学がメインだった。
座学では、前世でも学んだものと似たような学問などがあった。
例を挙げれば数学だ。
数学は、記号が少し違うものがある程度で、日本のものと大差ない。
それに僕には、ハザデスさんからもらった自動翻訳があるので、記号の意味などにも適用され、意味を簡単に理解することができる。
そして前世でも無かったような学問もある。
その学問は、歴史だ。
ただの歴史であれば前世でも学んでいたが、この世界の歴史には少し変わった部分がある。
それは、神学も少しだけ入っていることだ。
神学、その名の通り神様についての学問。
そして歴史で出てくるのは、龍神――――――先代龍神であるハザデスさんの話だ。
その話は、国を滅ぼしたとか、建国に一役買ったとかだ。
前世では、こんな非現実的なことを真面目に言われても、おとぎ話程度のものだと考え、気にも留めなかっただろうが、今世では言える。
これはマジだ。
僕は、ハザデスさんに会っている。
と言うかハザデスさんは先輩だし、今の龍神は僕だ。
いつか僕もハザデスさんのようにこの学問に載る日が来るかもしれない。
そんな日々だが、今日はいつもと少し違う。
今日は、魔術の時と同様に訓練場で行われる実習授業だ。
実習の内容は、剣術、同時に少しの体術である。
「それじゃあ、今日の授業の説明をする」
ドクタス先生は、そう言って、訓練場に集まった全員に授業の説明を始める。
「今日は、剣術の模擬戦を行う。一対一で魔法や魔術などの使用は禁止だ。剣は、この木刀を使用するように。そして相手に大きい怪我を負わせないこと。あくまでこれは模擬戦であり、実戦ではない。その事を常に念頭に置いておいてくれ」
そして先生が模擬戦のペアをつくるように言った。
周囲の同級生は、各々でペアをつくっている。
さて、誰を誘おうか。
シリスか、ダクトか、はたまた他の誰か。
僕が探そうと周囲を見ようとすると、不意にキラボシに捕まる。
「私と一緒にやろう。ね? ね?」
と迫られる。
ペアがいないのだろう。
魔王を倒した勇者の剣なんて、たとえ模擬戦であっても、木刀であっても、受けたくはないだろう。
そこで、もしやっちゃっても大丈夫そうな僕を選んだのだろう。
僕は、仕方がなく了承する。
「よし、じゃあ、早速、位置につこう!」
キラボシは、少し離れて木刀を構える。
周りからの視線が痛い。
シリスなんて、凄い心配そうな目で見てくる。
僕は、キラボシと対極になる位置まで歩き、配られた木刀を構える。
周囲の注目が集まり、緊迫した空気が流れる。
その時、ドクタス先生は、何かを察したのか、手を叩く。
パン、という袋が潰れたような音が合図となり、僕とキラボシは木刀を振るった。
僕は、この攻防の中、キラボシの木刀を受け止めるので精一杯だった。
それは、技術の差ではなく、経験の差なのだろう。
『解析』で真似た僕の張りぼて技術に対してキラボシは、長年の実戦を元にした正真正銘の剣術だ。
逆に僕がここまで耐えることが出来ている方がおかしいのだ。
僕の肉体的な高いスペックに、スキルによる技術の『解析』などのおかげだ。
それでもこの木刀を届かせることはできない。
僕がキラボシの木刀を受け止めようと木刀を動かす。
そしてキラボシの木刀と僕の木刀が衝突した瞬間、両者の木刀が砕け、折れた。
そこで僕とキラボシの動作が止まった。
それを見てドクタス先生は宣言する。
「両者、引き分け」
その言葉により僕とキラボシの模擬戦は、終わった。
僕は緊張が解けてその場に腰を下ろす。
木刀が折れた理由は分かる。
あんなに雑なつくりの木刀を普通の剣と同じように振るえば、耐えきれずに折れるに決まっている。
でも、まさか僕の木刀と同時に折れるとは、思わなかった。
どんな偶然だよ、と思う。
「先生、壊してしまってすみません」
僕はドクタス先生へ謝罪をした。
「別に安物だから大丈夫だ」
そう答えられた。
それにしても速く終わってしまった。
『思考加速』で体感では、かなり時間が経っていたが、実際では一分も経っていないだろう。
もう木刀も折れてしまったし、残りの時間は見学でもするか。
そんなことを考えていたら、ドクタス先生が僕に木刀を渡してくる。
「ほら、二本目だ」
「………………これ、予備があったんですか」
「あぁ、まだまだあるぞ。さっき言っただろう。安物だって」
何はともあれ二本目があるのは、好都合だ。
次はキラボシ以外の人と模擬戦をしよう。
そうして周囲にいる人を誘ったのだが………………
「レベルが違いすぎて無理です。勘弁してください」
だとか。
「さすがに死にたくないので、すみません」
………………という風に断られる。
キラボシの模擬戦拒否が僕にもうつってしまった。
そして僕は、諦めてキラボシの方を向き、木刀を構える。
キラボシは待ってました、と言わんばかりに木刀を構える。
第二ラウンドのスタートである。
次は僕も反撃をする。
できる限り剣技を避けて、キラボシに剣を届かせようと振るう。
ここまで避けられるようになったのもさっきの『解析』のおかげだ。
そうやって振るったとしてもキラボシには、剣が届かない。
流石プロとでも言うべきか、全ての剣技を避けられる。
そして長期戦へと発展していった。
両者がほぼ全ての攻撃を避け、剣で受けることがないので、早々に木刀が折れるなんてことがないので、一回目の模擬戦より長く続いている。
………………が、若干、僕の方が押されている。
僕は、常にキラボシの動きを『解析』して剣技を避け、自分の動きに取り入れている。
それでもキラボシの剣術は完璧に模倣することが難しい。
このままでは、一回目の引き分けより悲惨な結果になってしまう。
そんな時、キラボシは距離を取り構えを変えた。
これは何となくだが、予想がつく。
漫画とかで奥義を放つときにやる一瞬の間だ。
この技はおそらく初見で『解析』もする暇がないだろう。
僕は『思考加速』に意識を集中する。
そしてキラボシの構えから剣技が放たれる。
その奥義とも呼べる剣技は、壁に投げたスーパーボールのように空間を高速で移動し、ほぼ同時に複数の軌道から僕に向かって剣技が飛んでくる。
いや、これは無理だろう。
たとえ一度目の剣を避けたとしても、ほぼ誤差程度の時差で二度目が飛んでくる。
僕は半ば諦めて剣を受けることに決めた。
まず一つ目、次に二つ目、三つ目、四つ目、と受け止めていく。
剣のモグラ叩きだ。
そして何番目かの剣を受け止めたところで木刀が耐えきれなくなって、砕ける。
そして次の剣に叩かれ、勝負がついた。
二回目の模擬戦での勝敗は、キラボシの勝利で終わった。
二回も模擬戦をしていて今さらだが、木刀を折ったら勝ちという勝敗のつけ方は、異常に見えるだろう。
そして僕は、折れた木刀を新品に交換する。
そして僕とキラボシの第三ラウンドがスタートしたのだった。




