57話 特別生
扉が開く。
第二屋内広場は、先程まで入学式をしていた第一屋内広場に比べて少し狭い。
その部屋に数十名の生徒が集まっているので、余計に狭く感じてしまう。
その生徒の中には、新入生代表としてスピーチをしていた真面目そうな生徒も混じっている。
そして、その狭い室内に小さいステージがあり、その上にはこの学園の学園長が立っている。
学園長が部屋に入ってきた僕達の方に気が付いたように、声をかける。
「おや、サーチェさん、遅いと思っていましたが………………そちらの方は?」
そう問うと、サーチェと呼ばれた女子生徒は事情を説明し始める。
「遅れてしまってすみません、学園長。彼は私のスキルに引っ掛かった転生者です!」
その説明を聞いて、僕は納得した。
何故、僕が転生者だと知っているのか? という問いに対しての答えが分かったからだ。
その説明を聞いて、学園長も何か納得したような顔になる。
「なるほど、それはご苦労様でした」
そう言って、僕に向きなおる。
「お久しぶりですね」
「えぇ、昨日ぶりです」
僕は学園長と、そんな挨拶を交わす。
そして学園長は本題に戻った。
「………………カケラさん、転生者と言うのは本当のことですか?」
「本当のことです」
「なるほど………………では、これから行う説明はカケラさんにも関係のあるお話です。しっかりと聞いておいてください」
そう言って今度は部屋に集まった生徒、全員に説明を始める。
「皆さん―――特別生に集まっていただいたのは、簡単な理由です。もうすでに薄々感付いている方もいるかもしれませんが、皆様には共通点があります。その共通点こそが特別生の選抜基準の一つでもあります」
学園長は尚も続ける。
「ここにいる人は性別、身分、出身国、全てがバラバラです。ですが、共通点があります」
部屋にいる者の半分がその共通点が分からず、学園長の次の言葉を待っている。
「それは全員が転生し、前世の記憶を持っていることです」
正直、知っていた。
部屋に入って一番最初の会話がそのことについてだったので、あまり驚きはしない。
半数の生徒は少し驚いているような反応をして周りの人と顔を見合わせている。
もう半分は、やはりか、という反応をしている。
そこで新入生代表の生徒が手を挙げる。
「君は確か…………ウィステリ・シリスさんですね。何か質問がありますか?」
シリスが口を開き、話し始める。
「学園長、疑問なのですがどうやって我々が転生者だと調べたのですか?」
その疑問に関してはごもっともだ。
僕はもう答えを知っているが、その推測が合っているのか答え合わせをするように聞く。
「お答えしましょう。まず鍵になるのが彼女―――マンハント・サーチェさんです」
そこまで話した所で、サーチェと呼ばれた僕を連れて来た女子生徒が話を遮る。
「学園長、私から説明してもいいですか?」
学園長は頷く。
そして、サーチェが学園長に代わり説明を始めた。
「皆さん、前世の私を覚えているでしょうか? 私の前世での名は「高索 泉子」、1年1組の高索です」
その名前に対して、多くの反応があった。
僕も高索さんについて、憶えている。
「本題ですが、皆さんを探し出せたのは、私の持っているユニークスキルの機能です。皆さんもユニークスキルをお持ちだと思いますが、私のユニークスキルは【捜索】といい、対象を探すことができるスキルです」
これはダクトも持っていた生まれつきのユニークスキルのことだろう。
僕は生まれつきでユニークスキルを持っていなかったというのに、非常に羨ましい。
「サーチェさんの言ったスキルを使い、転生者を特別生として入学させたのですよ。まぁ、一部自力で入学した方々もいましたが………………」
そう言って、視線を何人かの生徒に動かし、また視線を戻す。
「それでは、クラスに案内しますので、着いて来てくださ―――」
そこまで言ったところで、扉が不意に勢いよく開かれ、部屋にいる全員の視線が向けられる。
その視線の先には、扉を開いた張本人が立っている。
僕はその姿を見て頭が痛くなる。
「学園長~、遅くなりました!」
そこには、キラボシが立っていた。
呑気な顔で部屋へ、ズカズカと入ってくる。
「………………キラボシさん、丁度、話し終わったところです。これからクラスを案内しますので、皆さんと同様に着いて来てください」
そう言って、学園長はキラボシの横を通り、部屋から退出する。
それに続いて数名も退出する。
「あれ? タイミング間違えた?」
「あぁ、ガッツリに間違い――――――と言うか、場違いだ」
僕はキラボシに告げた。
キラボシは空気が読めないことが少しわかった。
「何で、お兄………………カケラもいるの?」
「いや、僕は何故か連れてこられただけだ」
「誰に?」
僕はサーチェの方を指す。
「へぇ、君が?」
キラボシがサーチェを見ながら言う。
サーチェは石像のように動かなかったが、やっと口を開いた。
「は、は、初めまして、勇者様。私、ファンなんです!」
サーチェは震えながら言う。
さっきまで動かなかったのが、嘘のようだ。
もしくは緊張で動けなかったのだろう。
サーチェは震える手を前に出す。
「あ、あ、あ、握手をおねがいします」
キラボシが握手をすると、昇天したような顔に変わった。
僕はそれを見て、人間はここまで緊張できるのかと感じた。




